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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

■ChatGPTを開発したOpenAI社にいたエンジニアが創業したAI企業であるAnthropic社は,昨年7月11日に大規模言語モデルによる対話型AI「Claude-2」をリリースし,今回,バージョンアップされたClaude-3が2024年3月4日にリリースされた.前のモデルであるClaude-2は,大容量ファイルの読み込みや出力回答がGPT-4よりも圧倒的に速いというメリットがあり,私も重宝しているが,これがさらにバージョンアップされた形になる.医療従事者でも使い勝手はかなりいいものだと思われる.
【AI】GPT-4,Gemini Ultraに匹敵するClaude-3が登場_e0255123_16472077.png
1.変更点

■Claude-3には以下のように,公開されたSonnet,Opusと未公開のHaikuの3つのモデルがあり,日本語対応である.Haikuは近いうちに公開するとのことである.
精度:Opus>Sonnet>Haiku
応答速度:Haiku>Sonnet>Opus
【AI】GPT-4,Gemini Ultraに匹敵するClaude-3が登場_e0255123_16475577.png
■Claude-3では,扱えるプロンプトの長さはより長くなっている.Sonnetは応答速度がClaude-2の2倍,Haikuに至ってはチャートやグラフ付きの論文を3秒以内に読み取ることができる超高速モデルである.

■精度においては,ベンチマーク評価では,有料のOpusモデルは,大学レベルの知識,大学院レベルの推論,算術,数学的問題解決能力,コーディング,テキスト上の推論,知識Q&A,一般常識など多数の項目でGPT-4やGemini Ultraを上回った.無料のSonnetモデルはGPT-4とおおむね同等の成績であった.未公開のHaikuモデルは速度重視なぶん,GPT-4より成績が劣っていた.
【AI】GPT-4,Gemini Ultraに匹敵するClaude-3が登場_e0255123_16520013.png
■また,画像を読み込ませる機能も新たに追加された.一方,Webブラウジング機能は有していない.

2.実際の利用について

■Claude-3はClaude-3のページ(https://anthropic.com/claude)からユーザー登録により使用可能である(Web版に加えてAPIもある).Web版はSonnetは無料,Opusは月額$20(約3000円)となっており,また,poe.comの利用者は,Sonnetはもちろんのこと,プレミアム会員であればサブスクの新たな追加なしでそのままOpusを利用できる.Haikuはまだ利用できないが,近いうちに公開予定である.
※poe.com(https://poe.com/)は対話型AIから画像生成AI,さらには各ユーザーのオリジナルのChat botを利用あるいは作成可能なアプリで,無料でも利用可能だが,月額3000円(年契約なら年30000円)のサブスクに登録すると,Claude-2,Claude-3-Opus,GPT-4,GPT-4-turbo-32k,ChatGPT-3.5-turbo-16k,DALL-E-3といった有料のAI Chat(APIベース)がすべて利用できるようになるため,おすすめである.

■無料のSonnetモデルでも速さ・精度ともにClaude-2より断然よくなっているので,医療従事者が使用するにあたっては無料のSonnetモデルで十分と思われる.大容量のPDFファイルの扱いともなれば他のAIの追随を許さず,独壇場である.なお,Claude-2リリース初期と同じく,アクセス集中を避けるためか,一定時間あたりの使用回数制限やアップロードできるファイルサイズ制限(5Mまで)が設けられているようである.制限なしで使用したい場合は,(応答速度がClaude-2並みとなるが)Opusモデルにするか、APIでのSonnetもでるがおすすめである.

■Claude-2と比較したClaunde-3の個人的な使用感を以下に列挙する.
・Sonnetモデルがとにかく速い.医学論文1本をアップロードしてから論文の概要の解説完了まで30秒もかからない.
・回答文章がより流暢になった.不自然な単語や文章は減っている.
・画像読み込み能力はGPT-4Vと同程度.
・最新情報は2023年8月まで対応.

# by DrMagicianEARL | 2024-03-05 16:56 | 医学・医療とAI
【AI】GPT-4の有力対抗馬,Google最新かつ最強のAIサービスGemini Advancedが登場_e0255123_18030691.png
■2024年2月8日にリリースされた,Google最強のAIであるGemini Ultraを搭載したGemini AdvancedがBardと入れ替わる形で利用可能となった.今回はそのGeminiおよびGemini Advancedについて解説する.

1.BardからGeminiへ

■2023年12月7日にGoogle最新のAIであるGeminiがリリースされた.Googleの対話型AIであるBardはこれまでPaLM 2モデルを使用してきたが,Geminiの登場により,PaLM 2からGeminiにモデルが置き換わった.PaLM 2はユニモーダルモデルで,テキストデータのみを処理するが,Geminiはテキストのみならず,画像や音声など異なる種類のデータを処理することができるマルチモーダルモデルである.このGeminiは,3つの異なるパラメータ数と処理能力を有するUltra,Pro,Nanoがある.

■パラメータ数,処理能力はUltra>Pro>Nanoとなっており,Nanoは軽量で高速な動作が可能なため,スマートフォンに搭載可能であり,GoogleスマートフォンのGoogle Pixel 8 Proに搭載された.Ultraは最もパラメータ数が大きく処理能力も高いことから,複雑なタスクや大量のデータ処理が可能で,GPT-4の有力な対抗馬とされている.ProはUltraとNanoの中間で,多くのタスクをこなすことができ,コストパフォーマンスにも優れる.2023年12月7日からGoogleで無料提供されている対話型AIはGemini Proであり,2024年2月8日にはついにUltraが使用可能なGemini Advancedが有料会員限定でリリースされた.使用料金は月額2900円のサブスクであるが,最初の2ヵ月間は無料で試用できる.また,このアップデートに伴い,BardはGeminiと名称変更された.

2.Gemini Advancedの特徴

■以下は,公開情報や私個人の使用感を踏まえてGemini Advancedを解説する.

(1)Gemini Advancedの始め方
■Gemini Advancedは,Googleが提供するストレージ(容量)を増やす有料サービスGoogle One(https://one.google.com/about?hl=ja)にアクセスして,AI Premiumプランに登録することで利用可能となる.
【AI】GPT-4の有力対抗馬,Google最新かつ最強のAIサービスGemini Advancedが登場_e0255123_17203998.png
■料金は月額$20(2900円)であり,GPT-4が利用できるChatGPT Plus会員とほぼ同額であるが,Gemini Advanced利用を含めたGoogle Oneのサービス(クラウドサービスGoogle drive,メールサービスGmail,画像保存サービスGoogle Photoなど)を保存容量を2TBまで大幅に増やして利用できるようになる他,利用者専用の特典を受けられるため,ChatGPT Plusよりお得といえる.また,最初の2ヵ月間は試用期間として無料で利用できる.

(2)Gemini Advancedの特徴

(a)モデルの自動切り替え
■Gemini Advancedは,前述の通り最もハイスペックなGemini Ultraが使用できるが,必ずしもGemini Ultraで回答されるわけではなく,無料のGemini Proとの違いが分からない,GPT-4より見劣りする,といった声が聞かれる.理由は2つあり,1つ目は,Ultraが日本語対応していないため,Googleアカウントの言語設定を英語に設定した上で英語で質問する必要があること(これをやらない限りはGemini Proが回答する),2つ目は,英語で質問したとしても,Gemini Advancedでは,Gemini負荷を軽減するため,質問内容に応じてProとUltraを自動的に切り替えて回答してくるためである.このため,もし英語で使用するのが億劫であったり,高度な回答を要求するような質問を行わないのであれば,Gemini Advancedを使用するメリットは乏しいだろう(無料のGeminiで十分).
Googleアカウントの言語設定を英語にする手順

1.Googleアカウント(https://myaccount.google.com/)にログインする.
2.左側の[個人情報]をクリックする.
3.[ウェブ向け全般設定]で[言語]編集アイコンをクリックする.
4.使用する言語で英語を選択し,[選択]をクリックする.
(b)回答速度
■Gemini Advancedの回答速度はGPT-4よりもかなり速い

(c)回答内容
■簡単な質問であれば日本語で十分であるが,そうでない限りは日本語での質問では回答できなかったり,ハルシネーションを起こすことがしばしばあるため,英語で質問することが前提となる点においては日本人は使いづらい.その上で,英語で質問した場合の回答の質についてはGPT-4と比較してどうなのかはまだなんとも分からないところであるが,ユーザーインターフェースはGPT-4よりも見やすく,ソースもデフォルトでつけてくれる仕組みになっている.

(d)情報検索精度
■ベースの検索エンジンはGoogleであり,やはりGPT-4の検索エンジンであるBingよりは高精度である.検索速度も速い.

(e)他機能との連携
■現在数は限られるもののGoogleが提供している他のサービスとの連携も可能で,今後のアップデートとともにさらに多くのGoogleの機能と連携できるようにする予定だとのことである.なお,プロンプトに「@」マークを入力すると,連携できる機能が選択できるBoxが現れ,その機能を呼び出せる.現在@マークで利用できるのは,Google Flights,Google Hotels,Google Maps,YouTubeの4つであり,Gmail,Google Docs,Google Driveは表示されるものの,2024年2月13日時点では「Disabled」にカテゴライズされており,まだ利用できない.
【AI】GPT-4の有力対抗馬,Google最新かつ最強のAIサービスGemini Advancedが登場_e0255123_17293840.png
■この他,Google Scholarや医療情報のAIモデルであるMed-PaLM 2は,プロンプトで使用を指示すれば使用可能である.エビデンスとして医学論文の提示を日本語で求めると,かなりの確率でハルシネーションを起こし,架空の論文を提示してしまうが,英語で質問し,かつ「Use Med-PaLM 2」と入力すれば正確な論文を提示してくる.
Med-PaLM 2についてはこちら
Singhal K, Tu T, Gottweis J, et al. Towards Expert-Level Medical Question Answering with Large Language Models. arXiv 2023 May.16
https://arxiv.org/abs/2305.09617
■GPT-4ではGPTsやPlug-inモードでサードパーティーとの連携が可能であり,連携機能の多様さではGPT-4に軍配があがるが,使い勝手は個人の使用目的次第であろう.

(f)ファイル読み込み
■画像や動画以外のファイル(PDFやWord,Excelなど)を読み込ませるためには,2024年2月13日時点では別の有料サービスであるGoogle Workspaceに登録するか,Gemini AdvancedのAPIを利用するしかなく,これらのサービスの新たな登録による追加料金は高額となるため,個人使用ではあまり現実的な選択ではないかもしれない.いずれGoogle Driveとの連携が予定されているとのことなので,新たに有料サービスを使用せずとも読み込みが可能になると思われる.

(g)記憶・学習機能
■Gemini Advancedはどうやら過去の会話スレッドを記憶・学習して回答を調節することができるかもしれない(未確定).これはGPT-4にはない機能である.実際,過去に間違えた問題に正解できるようになる,過去の会話を踏まえたユーザーに合わせた会話を行うようになるなどの現象が見られており,使えば使うほどより賢くなり,かつパーソナライズされていくようである

3.Geminiに関する論文
ジェミニ:高い能力を持つマルチモーダルモデルファミリー
Gemini Team Google: Rohan Anil, Sebastian Borgeaud, Yonghui Wu, et al. Gemini: A Family of Highly Capable Multimodal Models. arXiv 2023 Dec.19
https://arxiv.org/abs/2312.11805
■この論文は,GoogleチームがGeminiについて述べたものである.以下,本ブログ記事前半と重複するが,論文の概要.

■Geminiは,テキスト,画像,音声,動画などの異なるモダリティに対して強力な理解力と推論力を持っているのが特徴である.Geminiには,Ultra,Pro,Nanoの3つのサイズがあり,それぞれ複雑な推論タスクから制約のあるオンデバイスへの利用までさまざまな用途に対応している.これらの評価の結果,最も高性能なGemini Ultraは,テキスト,画像,音声,動画などの32のベンチマークのうち30で従来のモデルを上回ることが確認されている.

■Gemini Ultraは知識と推論力を測る包括的な試験のベンチマークであるMMLUにおいて,人間の専門家レベルを上回る90%の正解率を達成し,初めて人間を超える性能を示した.また,画像に関する質問で大学レベルの知識と複雑な推論が必要なMMMUベンチマークでも従来のモデルを5ポイント上回る成績を収めている.

■質的な評価では,Gemini Ultraが画像,音声,テキストを織り交ぜた入力をネイティブに理解し,推論できることが確認されている.このマルチモーダルな能力は,教育,日常の問題解決,多言語コミュニケーションなど,幅広い分野での新たな応用を可能にすると期待されている.

■一方で,Geminiも言語モデル特有のハルシネーションの問題は残っており,出力の信頼性と検証可能性の向上が課題として挙げられている.Geminiの開発チームは責任あるデプロイメントのための評価と改善も繰り返し行っており,有害な影響を最小限に抑えるための取り組みを続けている.

■GeminiはマルチモーダルAI分野における大きな進歩であり,その能力と限界を理解しつつ,研究とイノベーションに新たな時代を切り開く可能性を秘めている,と論文は結論づけている.
# by DrMagicianEARL | 2024-02-13 18:03 | 医学・医療とAI
■東北大学の出澤真理教授が発見した幹細胞であるMuse細胞を用いて,亜急性期の脳梗塞患者への治療を検討した第Ⅱ相治験RCTがpublishされたので紹介する.本研究はMuse細胞ベースの同種製品CL2020を脳梗塞発症後2~4週目に単回静脈内投与したところ,プラセボと比較して有意に高い奏効率を示した(40.0% vs 10.0%).
【RCT】脳梗塞亜急性期のMuse細胞投与は神経学的予後を改善する_e0255123_11274452.png
■ただし,小規模RCTであるがゆえのベースラインの偏りもあり(ベースラインのNIHSSスコアは,CL2020群が9.8±3.5,プラセボ群が14.1±6.2点で,有意差はないがプラセボ群の方が高い),また,リハビリ効果と非麻痺側からの補償もあり,あらゆる評価項目が一律に改善したわけではない.サンプルサイズの問題もあることから,今後計画されている第Ⅲ相治験に期待したい.Abstractの下にはMuse細胞についての短い解説もつけた.
亜急性虚血性脳卒中を対象とした同種Muse細胞由来製品CL2020の無作為化プラセボ対照比較試験
Randomized placebo-controlled trial of CL2020, an allogenic muse cell-based product, in subacute ischemic stroke. J Cereb Blood Flow Metab 2023 Sep.27[Online ahead of print]
PMID: 37756573
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37756573/

Abstract

【背景】急性期以降の脳卒中に対する有効な治療法はいまだに見つかっていない.Muse細胞は,内因性の多能性幹細胞であり,静脈注射後,損傷した組織に選択的にホーミングし,分化によって損傷/消失した細胞を置換することができる,免疫に特化した幹細胞である.

【目的】この無作為二重盲検プラセボ対照試験は,修正ランキンスケール(mRS)3以上の脳梗塞患者を登録した.無作為に割り付けられた患者は,脳卒中発症後14~28日目に,免疫抑制剤を使用せずにMuse細胞ベースの同種製品CL2020(n=25)またはプラセボ(n=10)を単回静脈内注射された.安全性(主要評価項目:12週目)と有効性(mRS,その他の脳卒中特異的指標)は52週目まで評価された.有効性の主要評価項目は奏効率(12週目にmRS≦2となった患者の割合)であった.

【結果】12週目までの有害事象発生率は,プラセボ群ではそれぞれ100%,10%であったのに対し,CL2020群では96%,28%に副作用(グレード4のてんかん重積状態1例を含む)が認められた.奏効率はCL2020群で40.0%(95%CI 21.1-61.3),プラセボ群で10.0%(0.3-44.5)であり,CL2020群のCIが低いほど,あらかじめ設定された有効性の閾値(レジストリデータから8.7%)を超えていた.

【結論】このプラセボ対照無作為化試験により,CL2020は亜急性虚血性脳卒中に対する有効な治療薬である可能性が示された: JAPIC臨床試験情報サイト(JapicCTI-184103, URL: https://www.clinicaltrials.jp/cti-user/trial/ShowDirect.jsp?japicId=JapicCTI-184103/a>)
1.Muse細胞の発見

■Muse細胞の発見はミスと偶然の産物であった.発見者の東北大学の出澤真理教授は,2010年に骨髄間葉系幹細胞から骨格筋誘導の実験を行っていた時に,他のスタッフから「早く呑み会に来い」と言われ,実験が杜撰になってしまった.そして翌日に実験室に行くと,分化培地の骨格筋細胞がほぼいなくなっていた.実は呑み会に急ぐあまり,分化培地と間違えて消化酵素トリプシンを入れていたため,ほとんどの細胞は死滅していた.しかし,わずかながら浮遊していた生き残りの細胞があった.この浮遊していた細胞は消化酵素に耐えていた細胞であり,これがMuse細胞の発見であった[1]

2.Muse細胞とは?

■Muse細胞のMuseはMultilineage-differentiating stress enduringの略であり,骨髄,皮膚,脂肪といった間葉系組織だけではなく,種々の臓器の結合組織中や末梢血にも存在する自然の多能性幹細胞であり[1],以下のような特徴を持つ.
1.生体内にもとからある細胞のため,iPS細胞のような腫瘍性の心配がない.
2.ストレス耐性,DNA損傷の修復が迅速.他の幹細胞よりも修復能が強い.
3.傷害組織からS1Pシグナルを検知し,傷害部位に自動的に遊走・生着し,組織修復できる.このため静脈内投与が可能である.
4.他の幹細胞のような遺伝子導入を必要とせず,生着後「場の理論」に従った分化をする.
5.血管に分化して組織修復を強化する.
6.胎児が母体から免疫攻撃を回避する機構の一部を有するため,HLAマッチング等なしにドナーからの他家移植が可能
■Muse細胞は結合組織中や接着培養などの接着性環境では間葉系幹細胞として振る舞うが,血中や浮遊培養などの懸濁状態とすると多能性を発現するという二重性を有する.細胞懸濁液においてMuse細胞は増殖を開始し,懸濁状態でES細胞が形成する胚様体に酷似した集塊を単独の細胞から形成できる.Muse細胞は胚葉を超えて分化することができるため,神経細胞にも分化可能である[2].脊髄損傷モデルマウスへのMuse細胞の静脈内投与で,Muse細胞が脊髄損傷部位に集積し,自発的に神経細胞に分化したことが確認されている[3]

[1] Kuroda Y, Kitada M, Wakao S, et al. Unique multipotent cells in adult human mesenchymal cell populations. Proc Natl Acad Sci U S A 2010; 107: 8639-43(PMID: 20421459)
[2] Wakao S, Kitada M, Kuroda Y, et al. Multilineage-differentiating stress-enduring (Muse) cells are a primary source of induced pluripotent stem cells in human fibroblasts. Proc Natl Acad Sci U S A 2011; 108: 9875-80(PMID: 21628574)
[3] Wakao S, Kuroda Y, Ogura F, et al. Regenerative Effects of Mesenchymal Stem Cells: Contribution of Muse Cells, a Novel Pluripotent Stem Cell Type that Resides in Mesenchymal Cells. Cells 2012; 1: 1045-60
# by DrMagicianEARL | 2023-11-15 11:28 | 文献
■ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルの性能は目まぐるしく向上しており,世界各国の医師国家試験に合格するレベルに達している.一方で,専門医試験合格レベルにはまだ達していないのが現状である.日本において感染症専門医の数は非常に限られており,そのような中で感染症管理についてChatGPTが相談に応じられるようになれば感染症診療は抗菌薬適正使用も含めて飛躍的に向上すると思われるが,そう簡単にはいかないようである.

■今回紹介するClinical Infectious Diseaseにpublishされた研究は,血流感染症の管理をChatGPT-4に相談した場合の精度について検討しており,経験的抗菌薬の適切性は64%,限定的抗菌薬に至っては36%しかなかった.全体として,管理計画が最適であったのは44例中たったの1例のみであり,39%では満足できるものであったが,16%では有害であった.これらの結果から,現時点で血流感染症の管理についてChatGPT-4に相談するのは危険であると結論づけている.
チャットボット人工知能は,血流感染症管理において感染症専門医の代替となるか?
Maillard A, Micheli G, Lefevre L, et al. Can Chatbot artificial intelligence replace infectious disease physicians in the management of bloodstream infections? A prospective cohort study. Clin Infect Dis 2023 Oct 12[Online ahead of print]
PMID: 37823416
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37823416/

Abstract

【背景】チャットボット人工知能(AI)の開発により,医療における使用について大きな疑問が投げかけられている.我々は,血液培養陽性患者に対する実際の診療においてChatGPT-4が提案する管理の質と安全性を評価した.

【方法】三次医療機関における4週間の連続した感染症(ID)診察のうち,初回血液培養陽性患者のデータを前向きにChatGPT-4に提供した.ChatGPT-4は,包括的な管理計画(疑い/確定診断,ワークアップ,抗菌薬療法,感染源対策,フォローアップ)を提案するよう求められた.ChatGPT-4が提案した管理プランと,IDコンサルタントが文献やガイドラインに基づいて提案したプランを比較した.比較は患者管理に関与していない2名のID医師が行った.

【結果】初回血液培養陽性の44症例を対象とした.ChatGPT-4はすべての症例で詳細かつ明瞭な回答を提供した.AIの診断は26例(59%)でコンサルタントと同じであった.提案された診断検査は35例(80%)で満足のいくものであり(すなわち,重要な診断検査の欠落はなかった),経験的抗菌薬療法は28例(64%)で適切であり,1例(2%)で有害であった.感染源対策が不十分であった症例は4例(9%)であった.限定的抗菌薬療法は16例(36%)で最適であり,2例(5%)で有害であった.全体として,管理計画が最適であったのは1例のみであり,17例(39%)では満足できるものであり,7例(16%)では有害であった.

【結論】2023年に専門医の助言を求める場合,特に重症感染症については,コンサルタントの意見を聞かないChatGPT-4の使用は依然として危険である.

# by DrMagicianEARL | 2023-11-07 11:10 | 医学・医療とAI
■今回紹介するのは,外来での急性気道感染症に対する抗菌薬の即時投与,遅延投与,無投与を比較した,2023年10月にpublishとなったコクランレビューである.本レビューは2017年にpublishされたコクランのシステマティックレビュー[PMID: 28881007]のアップデートである.1研究のみが追加となり,ほとんどのアウトカムで差はみられていない.咽頭痛や急性中耳炎では即時投与の方がやや優れている可能性があるが,これは溶連菌による急性扁桃炎などの影響であろう.レビューの結論をまとめると,「遅延処方が,安全かつ患者満足度も高く,抗菌薬使用量も減らせて一番無難かもしれない」とのことである.

■なお,このPICOにおけるコクランレビューに含まれたRCTは異質性が高く,患者のサブグループ解析や合併症を調べるのに十分な検出力が得られにくいことが以前から指摘されており,2021年に患者個人レベルのデータ統合を行ったメタ解析がBMJに報告されたが[PMID: 33910882],結果は同様で,抗菌薬遅延戦略は高リスクのサブグループを含むほとんどの患者にとって安全で効果的な戦略であり,抗菌薬をすぐに処方した場合よりも症状のコントロールが悪化する可能性は低いと考えらるとしている.
気道感染症における抗菌薬の即時投与 vs 遅延投与 vs 無投与
Spurling GK, Dooley L, Clark J, et al. Immediate versus delayed versus no antibiotics for respiratory infections. Cochrane Database Syst Rev 2023; 10: CD004417
PMID: 37791590
https://doi.org/10.1002/14651858.cd004417.pub6

Abstract

【背景】気道感染症(RTI)に対する抗菌薬の処方には,副作用,コスト,薬剤耐性などの懸念がある.抗菌薬の処方を減らすための戦略の1つとして,処方箋は出すが,まず症状が治まることを期待して抗菌薬の使用を遅らせるよう助言することが提案されている.これは2007年に発表され,2010年,2013年,2017年に更新されたコクラン・レビューの更新である.

【目的】気道感染症において抗菌薬の処方遅延を推奨することが,臨床転帰(疼痛,倦怠感,発熱,咳嗽,鼻出血)の期間および/または重症度,抗菌薬の使用,薬剤耐性,および患者の満足度に及ぼす影響を評価する.

【検索方法】2017年5月から2022年8月20日まで,Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL),MEDLINE,Embase,CINAHL,Web of Scienceを毎月検索し,リアルタイムのシステマティックレビューとした。また,WHO International Clinical Trials Registry Platform(ICTRP)とClinicalTrials.govも2022年8月20日に検索した.レビューの主要な所見を支持するエビデンスが豊富になったため,2022年8月21日をもってリアルタイムシステマティックレビューではなくなった.

【選択基準】すべての年齢層のRTI患者を対象とした無作為化比較試験で,抗菌薬処方遅延戦略が即時または無投与と比較された研究.抗菌薬処方遅延戦略とは,抗菌薬の処方を48時間以上遅らせるよう助言されたものと定義した.抗菌薬の推奨の有無にかかわらず,すべてのRTIを対象とした.

【データ収集と解析】標準的なコクラン方法論的手順を用いた.

【結果】今回の2022年の更新では,合併症のない急性RTIの小児448人(436人が解析対象)を登録した新たな試験を1件追加した.全体として,このレビューには12件の試験が含まれ,合計3968人が参加し,そのうち3750人のデータが解析可能であった.これら12件の研究は,急性中耳炎(3件),溶連菌性咽頭炎(3件),咳(2件),咽頭炎(1件),感冒(1件),様々なRTI(2件)を含む急性RTIを対象としている.6件の研究は小児のみ,2件の研究は成人,4件の研究は成人と小児の両方を対象としていた.6件の研究はプライマリケアで,4件の研究は小児科クリニックで,2件の研究は救急部で実施された.研究は十分に報告されており,中等度の信頼性のエビデンスを提供していると思われた.無作為化については,2件の試験で十分に説明されていなかった.アウトカム評価者を盲検化した試験は4件,参加者と医師の盲検化を行った試験は3件であった.疼痛,倦怠感,発熱,副作用,抗菌薬の使用,患者満足度についてメタ解析を行った.
咳嗽(4件の研究):4件の研究のいずれにおいても,臨床転帰について抗菌薬の遅延処方,即時処方,無処方による差は認められなかった.
咽頭痛(6件の研究):咽頭痛を伴う発熱のアウトカムについては,6件の研究のうち4件が抗菌薬の即時投与を支持し,2件は差がないとした.咽頭痛に関連する疼痛のアウトカムについては,2件の研究では抗菌薬の即時投与が好まれ,4件の研究では差は認められなかった.咽頭痛に対する抗菌薬の投与について,2件の研究では遅延処方の抗菌薬と無処方を比較し,臨床アウトカムに差はみられなかった.
急性中耳炎(4試験):2研究で抗菌薬の即時投与と遅延投与が比較され,1研究では発熱について差は認められず,もう1研究では3日目の疼痛と倦怠感の重症度について即時投与が支持された.2件の研究では抗菌薬の遅延投与と無投与を比較した.1件では3日目の疼痛と発熱の程度に差はみられず,もう1件では3日目に発熱した小児の数に差はみられなかった.
感冒(2試験):いずれの試験でも,抗菌薬の遅延投与群と即時投与群の臨床アウトカムに差はみられなかった.1件の研究では,疼痛,発熱,咳の持続時間については,抗菌薬を投与しない群よりも遅発性抗生物質を投与する群の方がおそらく有利であった(中等度の確実性のエビデンス).

【有害事象】有害作用については差がなかったか,または合併症発生率に有意差はなく,即時抗菌薬投与よりも遅延投与の方が有利な結果であった可能性がある(低い確実性のエビデンス).
抗菌薬の使用:抗菌薬遅延投与は,即時投与と比較して,おそらく抗菌薬の使用を減少させた(OR 0.03, 95%CI 0.01~0.07;8件の研究,2257例の患者;中等度の確実性のエビデンス).しかしながら,抗菌薬の使用が報告される可能性は,抗菌薬の使用が報告されない場合よりも高いであろう(OR 2.52, 95%CI 1.69~3.75;5研究,1529例;中等度の確実性のエビデンス).
患者満足度:患者満足度は,おそらく抗菌薬無投与よりも遅延投与の方が高かった(OR 1.45, 1.08~1.96; 5研究,1523例; 中等度の確実性のエビデンス).抗菌薬の遅延投与と即時投与では,患者満足度におそらく差はなかった(OR 0.77, 95%CI 0.45~1.29; 7件の研究,1927例の参加者; 中等度の確実性のエビデンス).
薬剤耐性:評価した研究はなかった.
再診率および代替薬の使用率:遅延投与,即投与,無投与の戦略で同様であった.代替薬の使用を報告した4件の研究のうち1件では,遅延投与群と比較して即時投与群ではパラセタモール使用量が少なかった.

【結論】多くの臨床アウトカムにおいて処方戦略間に差はなかった.急性中耳炎と咽頭痛の症状は,抗菌薬遅延投与と比較して,即時投与の方がやや改善した.合併症の発生率に差はなかった.抗菌薬の処方を遅らせても,直ちに抗菌薬を投与した場合と比較して,患者の満足度に有意差は認められなかった(86% vs 91%; 中等度の確実性のエビデンス).しかし,抗菌薬を投与しない場合(87% vs 82%)と比較すると,遅らせる方が好まれた.抗菌薬の遅延投与は,即時投与と比較して,抗菌薬の使用率を低下させた(30% vs 93%).抗菌薬無投与の戦略は,抗菌薬の処方を遅らせる戦略と比較して,抗菌薬の使用をさらに減少させた(13% vs 27%).急性呼吸器感染症患者に対する抗菌薬の遅延投与は,抗菌薬の即時投与と比較して使用を減少させたが,症状コントロールや疾患合併症の点では,無投与と異なることは示されなかった.臨床医が急性呼吸器感染症患者に抗菌薬をすぐに処方しない方が安全であると考える場合,抗菌薬を投与せず,症状が改善しない場合は再投与するようアドバイスすることが,遅延抗菌薬投与と同様の患者満足度と臨床アウトカムを維持しながら,抗菌薬の使用量を最も少なくする可能性が高い.臨床医が抗菌薬を処方しないことに自信がない場合,直ちに抗菌薬を処方する代わりに遅れて抗菌薬を処方することは不必要な抗菌薬の使用を大幅に減らすための妥協案として受け入れられるかもしれない.RTIに対する抗菌薬投与戦略のさらなる研究は,疾患合併症のリスクが高い患者グループの特定,満足度を維持するための医師と患者のコミュニケーションの強化,RTIに抗菌薬を処方しないという医師の自信を高める方法,RTIに対する不必要な抗菌薬処方を減らすための政策措置に焦点を当てるのが最善であろう.

# by DrMagicianEARL | 2023-11-06 11:39 | 抗菌薬

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