EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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世界敗血症啓蒙月間(Sepsis Awareness Month) (1)2020年への目標
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■「Around every 3rd heart beat someone dies of sepsis(我々の心臓の鼓動が3心拍打つたびに誰かが敗血症で命を落としている)」.この敗血症の世界的な危機的状況を改善させるため,「Stop Sepsis, Save Lives(ストップ敗血症,命を救え)」をスローガンに,非営利団体である世界敗血症同盟(GSA;Global Sepsis Alliance)設立され,敗血症患者のためにより良い管理体制を整えることを目的とし,致死性疾患である敗血症に対する認識を深めるための世界的活動の一貫として,2012年に9月13日をWorld Sepsis Day(WSD;世界敗血症デー)と定め,世界各地で各種イベントが開催され,世界敗血症宣言が発表された.また,2015年からは9月全体を敗血症啓蒙月間に定め,さまざまなキャンペーン等が行われており,今年は第一回世界敗血症会議(World Sepsis Congress)も開催される.

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The World Sepsis Declaration(世界敗血症宣言)
 敗血症は先進国,発展途上国を問わず,世界で最もよく見られる,しかしながら最も認知度が低い疾患の1つである.世界的には年間2000万~3000万の患者が敗血症に罹患しており,その中には疾患新生児・乳児600万人以上,母体10万人以上が含まれている.世界では3-4秒に1人が敗血症で命を落としている
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 先進国では敗血症の罹患率は毎年8-13%の割合で劇的に増加しており[1],大腸癌と乳癌を合わせた数よりも多くの命を奪っている.理由は様々であるが,高齢者を含む全年齢層へのハイリスクな薬剤の使用,抗菌薬への耐性化の進行,毒素の多様化などが挙げられる.発展途上国においては,栄養失調,ワクチンや適切なタイミングでの治療を受ける機会の不足は全て敗血症死に寄与している.

 その警戒すべき発生率にもかかわらず,敗血症は一般市民にはほとんど知られておらず,しばしば血液の中毒と誤解されている.感染症に対する生体反応が自己の組織や器官に傷害を与えることにより敗血症が生じる.特に早期に発見され,適切に治療されない場合,ショック状態,多臓器不全,死に至ることがある[2].ワクチン,抗菌薬,救急治療などの先進医療で進歩が見らているにもかかわらず,敗血症は感染症を原因とする死亡の主因となっており,その院内死亡率は30-60%にも達する.

 この悪化の流れをくい止め,最終的に敗血症による死亡数の増加を減少に転じるたの適切な措置を講じるため,我々 ―世界的敗血症コミュニティー― は世界的行動を広く呼びかける.

 我々は必要な事前の行動を開始し,以下に示す5つの鍵となる目標に委ねることで,政府,開発者,プロフェッショナルな組織や健康管理団体,慈善家や後援者,民間部門,あるいは全社会から資源と支持を得られるよう,すべての関連した診療関係者に働きかける.

 2020 年までにこれらの目標を周知し,全世界で達成できる,段階的な発展計画を公に行うよう,我々は各国に呼びかける.

世界的目標(Global Goals)
1.敗血症の政策の課題化を行う(Place sepsis on the development agenda).敗血症の増大する医学的・経済的負担に関する認知度を上げることによって,敗血症に与えられる政治的な優先度を高める.

2.世界的に敗血症の与える影響を予防かつ制御する戦略が最も必要とされる人々に適切に提供できるようにするため,敗血症診療関係者と連携して活動する(Mobilize stakeholders)

3.敗血症の初期認知とより効果的な治療が行われるよう改善し,世界中ですべての人々に適切な予防と治療を可能にするために,国際的な敗血症ガイドライン[4,5]の遂行を支持する(Support the implementation of international sepsis guidelines)

4.地域および国レベルで敗血症の発症率を減少させ,敗血症の予後を改善させるための戦略を計画する上で,敗血症の生存者や敗血症遺族とも連携する(Involve sepsis survivors and those bereaved by sepsis)

5.十分な治療と敗血症患者において急性期でも長期ケアでも利用可能であるリハビリテーション施設とよく訓練されたスタッフを確保する(Ensure that sufficient treatment and rehabilitation facilities and well-trained staff)

2020年までの5つの目標(Key targets to be achieved by 2020)
1.敗血症を予防する戦略により敗血症発症率を世界的に減少させる(The incidence of sepsis will decrease globally through strategies to prevent sepsis)
 手洗い,清潔操作,公衆衛生の改善,栄養と清潔な水の供給,そして資源の少ない地域でのリスクのある患者集団におけるワクチン接種プログラムなど,良好な幅広い衛生実行を促進することにより,2020年までに敗血症発症率を20%減じる

2.早期の認知システムと救命救急治療の標準化の促進,採用により,全世界で小児(新生児を含む)と成人の敗血症生存者を増加させる(Sepsis survival will increase for children (including neonates) and adults in all countries through the promotion and adoption of early recognition systems and standardised emergency treatment)
 2020年までに,宣言を支持する国の急性期保健システム,地域,プライマリーケア組織の少なくとも3分の2は,ルーチン化された敗血症スクリーニングを急性期患者のケアに盛り込む.
 2020年までに,継続可能な送達系が,全ての国で利用できる効果的な敗血症コントロールプログラムを確保した状態にする.すべての国は,敗血症患者が国際的なコンセンサス・ガイドラインに従って最も重要な基本的な医療介入,抗菌薬,静脈内輸液を受けるまでにかかる時間をモニタリングする.
 2020年までに,小児(新生児を含む)と成人の敗血症生存率を2012年よりさらに10%改善させる.これは,敗血症レジストリーの設立によりモニタリング,提示され,Surviving Sepsis CampaignとInternational Pediatric Sepsis Initiativeの始動により改善がみられたことに基づき行われる.

3.敗血症の公的かつ専門的な知識と認識を改善する(Public and professional understanding and awareness of sepsis will improve)
 2020年までに敗血症を一般的に周知された言葉とし,緊急の医療介入を要することと同義とする.後の人達は敗血症の早期警戒徴候が何であるかについて非常によく理解する.日常的に治療の遅れが疑われるように,治療が必要であろうという家族の予測をより鋭敏にする.
 2020年までにすべての加盟国は,医療専門職の間で敗血症を学習する必要性を確立し,関連するすべての大学生や大学院生のカリキュラムにおいて,敗血症を医療の緊急事態としてトレーニングされることを盛り込むことを確実なものとする.

4.適切なリハビリテーション・サービスの利用(Access to appropriate rehabilitation services)により世界中のすべての患者を改善する.
 2020年までにすべての加盟国は,敗血症罹患患者の退院後も継続したケアの供給を行うよう標準化し,資源を確保する.

5.敗血症の世界的な観測(The measurement of the global burden of sepsis)と,敗血症のコントロールと管理の影響を著明に改善させる. 
 2020年までにすべての加盟国は,国際社会のデータ条件と一致しかつ相補的である,任意もしくは指示により敗血症レジストリーを確立し,敗血症を一般の健康問題として確立するのを補助する.国際社会は,国際的な敗血症レジストリの設立へ向けて働きかける.
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■東京オリンピックが開催されるのと同じ年である2020年までの目標が提示された.そして今年2015年も9月13日にWorld Sepsis Dayのイベントが世界中で開催される.GSAの設立の基礎となっている学術集団は,世界集中治療連盟(WFSICCN;World Federation of Society of Intensive and Critical Care Medicine),世界小児集中治療連盟(WFPICCS;World Federation of Pediatric Intensive and Critical Care Medicine),世界集中治療看護師連盟(World Federation of Critical Care Nurses),国際敗血症フォーラム(International Sepsis Forum),敗血症同盟(Sepsis Alliance)の5団体である.これらの団体に加え,70カ国の団体が参加している.

■日本集中治療医学会では,2012年3月のブリュッセルにおけるGSAの準備会議に参加し,World Sepsis Dayの趣旨に賛同し,8月には日本GSA委員会(中川聡委員長)を発足させ,活動を開始した.また,GSA Japanのホームページも開設された.
SEPSIS JAPAN 敗血症プラネットhttp://sepsisjapan.com/index.html


■今年は9月8~9日に第1回世界敗血症会議(1st World Sepsis Congress)がWeb上で開催され,インターネットで無料参加可能である.敗血症の豪華な専門家陣が多数講演されるので是非参加を.
http://www.worldsepsiscongress.org
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■日本では9月5~11日の6~24時にかけて,毎日6分おきに東海道新幹線の東京駅,名古屋駅,新大阪駅の改札口付近の大型スクリーンで敗血症啓蒙のためのデジタルサイネージを流す予定である.

[1] Vincent JL, Sakr Y, Sprung CL, et al. Sepsis in European intensive care units: results of the SOAP study. Crit Care Med 2006; 34: 344-53
[2] Kumar A, Roberts D, Wood KE, et al. Duration of hypotension before initiation of effective antimicrobial therapy is the critical determinant of survival in human septic shock. Crit Care Med 2006; 34: 1589-96
[3] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; and the Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock: 2012. Critical Care Medicine 2013; 41: 580-637
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# by DrMagicianEARL | 2016-09-01 01:43 | 敗血症 | Trackback | Comments(0)
■非心臓手術後のICU患者において,DEX(デクスメデトミジン,商品名プレセデックス®)がせん妄を予防するというRCTがLancetにonline publishされました.これまで,せん妄そのものにはDEXでは対処しきれないもののせん妄予防効果はさまざまな研究があるため,今回は予想された結果ではありますが,データを見ても,NNPは7.1と,予防的治療としてはなかなかすごい数値です.レジメンは,DEXを0.1μg/kg/hrで翌朝8時まで持続投与なので,実臨床でも無理のないやり方ですね.
非心臓手術後の高齢患者におけるせん妄予防としてのデクスメデトミジン:無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験
Su X, Meng ZT, Wu XH, et al. Dexmedetomidine for prevention of delirium in elderly patients after non-cardiac surgery: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2016 Aug 16 [Epub ahead of print]
PMID: 27542303

Abstract
【背 景】
65歳以上の患者において,せん妄は頻回に生じる手術後の合併症であり,有害なアウトカムと予測される.我々はα2アドレナリン受容体高選択性アゴニストである低用量デクスメデトミジンの予防的投与が非心臓手術後の高齢患者においてせん妄発生を安全に減じることができるかについて検討した.

【方 法】
我々は中国北京の2つの三次医療病院において,無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を行った.インフォームドコンセントを得た,非心臓手術後に集中治療室に入室した65歳以上の患者を登録した.コンピューターで集約化した連続的な無作為化(1:1割り付け)を用いて,デクスメデトミジン静脈内投与(手術した日の集中治療室入室時から術後1日目の午前8時まで0.1μg/kg/hr)またはプラセボ(標準的生理食塩水静脈内投与)に無作為に割り付けた.参加者,治療にあたる医療従事者,研究者は,群割り付けをすべてマスクされた.主要評価項目は,手術後7日間で毎日2回ずつのConfusion Assessment Method for intensive care units(CAM-ICU)により評価されたせん妄発生とした.解析は,intention-to-treatと安全性評価の集団で行った.本研究はChinese Clinical Trial Registry, www.chictr.org.cn, number ChiCTR-TRC-10000802に登録された.

【結 果】
2011年8月17日から2013年11月20日までで,2016年に評価された700例が,プラセボ群(350例)またはデクスメデトミジン群(350例)に無作為に割り付けられた.術後せん妄の発生率はプラセボ群(350例中79例[23%])よりもデクスメデトミジン群(350例中32例[9%])の方が有意に低かった(OR 0.35, 95%CI 0.22-0.54; p<0.0001).安全性に関しては,高血圧の発生はデクスメデトミジン群(350例中34例[10%])よりもプラセボ群(350例中62例[18%])の方が有意に高かった(OR 0.50, 95%CI 0.32-0.78; p=0.002).頻脈もデクスメデトミジン群(350例中23例[7%])よりもプラセボ群(350例中48例[14%])の方が有意に高かった(OR 0.44; 95%CI 0.26-0.75; p=0.002).低血圧および徐脈の発生は両群間で差は見られなかった.

【結 論】
非心臓手術後に集中治療室に入室した65歳以上の患者において,予防的な低用量デクスメデトミジンは,手術後7日間のせん妄発生を有意に減少させた.その治療は安全であった.

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# by DrMagicianEARL | 2016-08-29 21:12 | 文献 | Trackback | Comments(0)
更新履歴
2016年8月26日「第8回J感染制御ネットワークフォーラム(8月27日仙台)」更新
2016年8月26日「第5回宮城Sepsisセミナー(9月3日仙台)」追加
2016年8月26日「第4回さいたまクリティカルケアネットワークミーティング(9月28日埼玉県大宮)」更新


研究会,講演会,学会日程
※学会総会に加え,主に敗血症,救急集中治療,感染症の研究会,講演会を適宜掲載していきます(本記事を更新していきます).あくまでも私の知る範囲でのものだけです.これまで研究会については関西圏ばかりでしたが,2016年4月以降私が関西を離れますので,開催地制限ははずします.私自身は東北に移るためそちらの案内が増えるかもしれません.

※ここに掲載されていない研究会・講演会で掲載希望等あればコメント欄に記入するか,以下までメールで御連絡下さい.開催場所に制限はありませんが,内容は本ブログの内容の関係上,敗血症,感染症,救急/集中治療に関連するものに限ります.日時,演題名,会の主な対象や主旨等を記載して下さい.
⇒メールはこちらcum_earl@yahoo.co.jp
第8回J感染制御ネットワークフォーラム
2016年8月27日(土) 9:30~17:30
仙台国際センター
参加費:
●メディカルスタッフ・企業関係者 :3,000円
(医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師・滅菌技士・栄養士・その他医療従事者・医療関連企業関係者・一般)
●介護職・ケアスタッフ :1,000円

一般ポスター演題:19演題

ワークショップ:3セッション
トピックスレクチャー:1セッション
教育セミナー:10セッション
シンポジウム:2セッション
ベーシックセミナー:1セッション

14:00-15:15
教育講演7(スイーツセミナー)
座長:井上茂亮先生(東海大学医学部付属八王子病院救急センター救急センター長/准教授)

講演1:「敗血症の新定義・診断基準」
DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)

講演2:「看護師のための敗血症早期認知~介入」
藤原満里子先生(千葉大学医学部附属病院感染管理認定看護師)

詳細ホームページ:http://www.tohoku-icnet.ac/network_forum/8th/about.html
 東北で毎年開催されている感染制御系の学会で,私も今年初参加で,教育セミナーで敗血症の新定義・診断基準について,そのメリットや問題点も含めて講演させていただきます.
第5回宮城Sepsisセミナー
2016年9月2日(金)18:20-20:00
江陽グランドホテル3階「白鳥の間」

18:20-18:35
情報提供:塩野義製薬株式会社

18:35-18:50
座長:山内 聡先生(大崎市民病院救命救急センター長)
一般演題:「敗血症に関する症例報告(仮)」
大杉 真也先生(大崎市民病院臨床研修医)

18:50-20:00
座長:久志本 成樹先生(東北大学大学院医学系研究科救急医学分野教授)
特別講演①:「敗血症における抗菌薬治療の理論と臨床エビデンスの狭間」
DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)
特別講演②:「敗血症の初期蘇生」
松嶋 麻子先生(名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学教授)

主催:塩野義製薬株式会社
 今回初参加の研究会で,久志本先生の御指名により,敗血症における抗菌薬治療について講演させていただきます.
第4回埼玉Critical Care Network Meeting
2016年9月28日(水)
パレスホテル大宮
埼玉県さいたま市大宮

18:30-18:45
製品紹介:「α2作動性鎮静剤プレセデックス」

18:45-19:45
座長:古厩 智美先生(さいたま赤十字病院救命救急センター急性・重症患者看護専門看護師)
基調講演:「集中治療から地域へ~鎮静・リハビリテーション・栄養はセットで考えよう~」
DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)

20:00-20:30
ディスカッション:「看護師が取り組んでいること・困っていること」
座長:浅香えみ子先生(独協医科大学越谷病院副看護部長)
実践報告①:新山 和也先生(埼玉医科大学国際医療センター救命救急センターICU急性・重症患者看護専門看護師)
実践報告②:吉田 順子先生(さいたま赤十字病院CCU集中ケア認定看護師)

後援:Pfizer株式会社
第44回日本救急医学会総会・学術集会
2016年11月17日(木)~19日(土)
グランドプリンスホテル新高輪(東京)
会長:横田 裕行先生(日本医科大学大学院医学研究科救急医学分野)

詳細ホームページ:http://www2.convention.co.jp/44jaam/index.html

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# by DrMagicianEARL | 2016-08-26 12:07 | 研究会・講演会・学会 | Trackback | Comments(8)
■現在,敗血症性ショックにおける昇圧薬としてはノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が第一選択であり,cold shockでなければバソプレシン追加が考慮されうる(もっとも本邦ではステロイドの方が好まれ,バソプレシンは四肢末梢虚血の経験が原因で敬遠されがちではある).しかし,ノルアドレナリンはドパミンほどではないものの炎症増加作用を有するカテコラミンであり,バソプレシンの方が24時間後のサイトカイン濃度が低かったとする394例の研究がある(Am J Respir Crit Care Med 2013;188:356-64)

■死亡率評価では,現時点ではどちらが予後良好という明確なものはなく,7報RCT(2323例)メタ解析では死亡リスクのみならず心拍数,平均動脈圧,心係数,全身血管抵抗係数,DO2,VO2に有意差はみられていない(Mil Med Res 2014; 1: 6)

■敗血症性ショックに対するノルアドレナリンとバソプレシンVASST studyの二次解析においては,ステロイド非使用下ではノルアドレナリンの方が予後良好だが,ステロイド使用下ではバソプレシンの方が予後良好という結果が得られおり(Crit Care Med 2009; 37: 811-8),他にもステロイドとバソプレシンの併用が予後良好に関連したとする報告(Intensive Care Med 2011; 37: 1432-7)はあるが,近年Gordonらが報告した二重盲検RCT(61例のpilot study)では,バソプレシンに対するステロイド併用はバソプレシンの投与量・投与期間を減少させるものの,死亡率や臓器不全については有意差がみられなかった(Crit Care Med 2014;42:1325-33)

■今回紹介するVANISH trialは,敗血症性ショックに対するノルエピネフリンvsバソプレシン,およびステロイド併用有無での腎不全を同時に評価した2x2機能RCTであり,前述のpilot studyを報告したGordonらが検討している.今回はステロイドに関しては報告はなく,結果は,バソプレシンの方がやや好ましい傾向がみられるも有意差はなし,腎代替療法導入はバソプレシンの方が有意に少ないという結果であった.
敗血症性ショック患者の腎不全における早期のバソプレシンvsノルエピネフリン:VANISH trial
Gordon AC, Mason AJ, Thirunavukkarasu N, et al; VANISH Investigators. Effect of Early Vasopressin vs Norepinephrine on Kidney Failure in Patients With Septic Shock: The VANISH Randomized Clinical Trial. JAMA 2016 Aug 2; 316(5): 509-18
PMID:27483065

Abstract
【背 景】
ノルエピネフリンは敗血症性ショックにおいて,循環作動薬の第一選択として近年推奨されているが,早期のバソプレシン使用が代替として提案されている.

【目 的】
敗血症性ショック患者の腎不全における早期のバソプレシンとノルエピネフリンの効果を比較する.

【方 法】
本研究は,2013年2月から2015年5月に英国の18の成人ICUで行われた,ショック発症後最大6時間以内に輸液蘇生を行っても循環作動薬を要する敗血症性ショックの成人患者を登録した,二重盲検無作為化機能(2x2)試験である.患者は無作為に,バソプレシン(0.06 U/分まで漸増)とヒドロコルチゾン併用群(101例),バソプレシンとプラセボ併用群(104例),ノルエピネフリンとヒドロコルチゾン併用群(101例),ノルエピネフリンとプラセボ併用群(103例)に割り付けられた.主要評価項目は,(1)腎不全に全く進展しなかった患者の比率,(2)腎不全を発症または死亡した患者の生存中に腎不全のなかった日数の中央値として計測された,無作為化から28日までの期間で腎不全がない日数とした.腎代替療法,死亡,重篤な有害事象の頻度を副次評価項目とした.

【結 果】
計409例の患者(年齢中央値66歳,男性58.2%)が本研究に登録され,試験薬の投与時間中央値はショック診断後から3.5時間であった.腎不全に全く進展しなかった生存者数は,バソプレシン投与群で165例中94例(57.0%),ノルエピネフリン群で157例中93例(59.2%)であった(絶対差 -2.3% [95%CI -13.0% to 8.5%]).腎不全を発症または死亡した患者の腎不全のない日数の中央値は,バソプレシン投与群で9日間(四分位範囲[IQR], 1 to -25),ノルエピネフリン投与群で13日間(IQR 1 to -25)であった(絶対差 -4日 [95%CI -11 to 5]).バソプレシン投与群はノルエピネフリン投与群に比して腎代替療法の施行が少なかった(25.4% vs 35.3%; 絶対差 -9.9% [95%CI -19.3% to -0.6%]).死亡率は両群間で有意差は見られなかった.バソプレシン投与群では205例中22例の患者(10.7%),エピネフリン投与群では204例中17例の患者(8.3%)に重篤な有害事象があった(絶対差 2.5% [95%CI -3.3% to 8.2%]).

【結 論】
敗血症性ショックの成人において,バソプレシンの早期使用はノルエピネフリンと比して腎不全のない日数を改善しなかった.これらの知見は,本シチュエーションにおける初期治療として,ノルエピネフリンの代替としてのバソプレシンの使用を支持するものではないが,信頼区間は潜在的にバソプレシンの臨床的に重要な益を含んでおり,さらなる評価のため,大規模試験が必要である可能性がある.

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# by DrMagicianEARL | 2016-08-17 12:12 | 敗血症性AKI | Trackback | Comments(0)
■最近の集中治療領域のリハビリテーションはなかなかいい結果がでませんね.今回はJAMA誌にpublishされたRCTですが,標準的リハビリテーション(毎日)は通常ケア(臨床チームが要請した場合のみ平日に理学療法)に比して入院期間,ICU在室日数,人工呼吸期間,その他多くのPICS関連項目に有意差はないという結果でした.ただし,PICS関連項目の結果の95%CIを見るに,標準的リハビリテーションの方がよい傾向はみられており,検出力が300例では足りなかった可能性も否定できません(とはいってもこれらは主要評価項目ではありませんが・・・).
急性呼吸不全患者における標準的リハビリテーションと入院期間:無作為化比較試験
Morris PE, Berry MJ, Files DC, et al. Standardized Rehabilitation and Hospital Length of Stay Among Patients With Acute Respiratory Failure: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Jun 28; 315(24): 2694-702
PMID: 27367766

Abstract
【背 景】
集中治療室(ICU)におけるリハビリテーションは急性呼吸不全患者のアウトカムを改善させる可能性がある.

【目 的】
急性呼吸不全において,標準的リハビリテーション(SRT)と通常ICUケアを比較する.

【方 法】
本研究はノースカロライナ州のウェイクフォレスト・バプティスト医療センターにおける単施設無作為化比較試験である.2009年10月から2014年5月までで人工呼吸器を要する急性呼吸不全でICUに入室した成人患者(平均年齢58歳;女性55%)をSRT群(n=150)と通常ケア群(n=150)に無作為化し,6ヶ月間追跡した.SRT群の患者は退院まで,受動的可動域訓練,理学療法,漸増抵抗運動を含む毎日のリハビリテーションを受けた.通常ケア群は,臨床チームから要請があったときにのみ平日に理学療法を受けた.SRT群では,リハビリテーションの中央日数(四分位範囲[IQR])は,受動的可動域訓練が8.0日(5.0-14.0),理学療法が5.0日(3.0-8.0),漸減抵抗運動が3.0日(1.0-5.0)であった.通常ケア群の理学療法の中央日数は1.0日(0.0-8.0)であった.両群とも,ICU退室時,退院時,2ヶ月,4ヶ月,6ヶ月時点で解析者盲検で解析を行った.主要評価項目は入院期間(LOS)とした.副次評価項目は人工呼吸日数,ICU在室日数,簡易身体能力バッテリー(Short Physical Performance Battery;SPPB),メンタルヘルスと身体機能スケールスコアにおける36項目Short-Form Health Surveys(SF-36),Functional Performance Inventory (FPI)スコア,Mini-Mental State Examination(MMSE)スコア,握力,ハンドヘルドダイナモメーターによる筋力とした.

【結 果】
300例の患者が無作為化され,LOSはSRT群で10日間(IQR 6-17),通常ケア群で10日間(IQR 7-16)であった(中央値差 0日[95%CI -1.5 to 3], p=0.41).人工呼吸期間,ICUケア期間に差は見られなかった.6ヶ月時点での握力(差 2.0kg[95%CI -1.3 to 5.4], p=0.23),ハンドヘルドダイナモメーターによる筋力(差 0.4lb[95%CI -2.9 to 3.7], p=0.05),SF-36身体健康スコア(差 3.4[95%CI -0.02 to 7.0], p=0.05),SF-36メンタルヘルススコア(差 2.4[95%CI -1.2 to 6.0], p=0.19),MMSEスコア(差 0.6[95%CI -0.2 to 1.4], p=0.17)に効果はなかった.6ヶ月時点でのSPPBスコア(差 1.1[95%CI 0.04 to 2.1], p=0.04),SF-36身体機能スケールスコア(差 12.2[95%CI 3.8 to 20.7], p=0.001),FPIスコア(差 0.2[95%CI 0.04 to 0.4], p=0.02)はSRT群でより高いスコアがみられた.

【結 論】
急性呼吸不全で入院した患者において通常ケアと比較してSRTは入院期間を短縮させなかった.

試験登録:clinicaltrials.gov Identifier: NCT00976833.

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# by DrMagicianEARL | 2016-07-07 09:34 | 文献 | Trackback | Comments(0)

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