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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

Alert Cell(警笛細胞)とROS(活性酸素種)

■炎症性cytokineの代表的なものとして,TNF-α,IL-1β,IL-2,Il-6,IL-12,IL-17,IFN-γ,MIF(macrophage migration inhibitory factor)などがある.炎症性cytokineは,主要臓器局所の濃度上昇による近傍作用(パラクライン作用)に加えて,血中濃度上昇により遠隔臓器作用(エンドクライン作用)を示す.これによるSIRSが多臓器障害症候群MODSを導くことになる.

■炎症性サイトカインの受容体は白血球系細胞に限らず,肺,右心房,腎尿細管,胃腸管,血管内皮細胞などにも存在している.さらに,肝臓,下垂体,副腎,膵臓にも微量の密度で,一部の細胞に発現している.

■主要臓器細胞は,炎症性サイトカインに鋭敏な細胞もあれば,鈍感な細胞もある.主要臓器組織内では,炎症性サイトカイン受容体シグナルを発現する細胞は4-5個の細胞あたり1個レベルである.このような炎症惹起に鋭敏な主要臓器細胞を名古屋大学の松田教授らの研究グループは炎症性警笛細胞(inflammatory Alert Cell)と呼んでいる[1].細胞種としては特に,肺胞Ⅱ型上皮細胞[2],血管内皮細胞[3],心房筋細胞,尿細管円柱上皮細胞,肝類洞細胞などにこのようなAlert Cellが認められる.すなわち,炎症のトリガー機構をAlert Cellが担っている.

■Alert Cellが少ない部位においては,その部位への白血球浸潤は低下する.よって,適切な抗菌療法がなされないかぎり,外来と接する組織は細菌の巣窟となる.

■Alert Cellが組織内で増加する際には,活性酸素種(ROS;reactive oxygen species)も重要な役割を担う.Alert細胞では,炎症性受容体リガンドによる警笛によりNF-κB活性に依存して,NADPHオキシダーゼ(NOX)や,その活性修飾因子の転写が高まる.NOX1やNOX2の遺伝子プロモーター領域には,NF-κBおよびAP-1結合領域があり,sepsisの病態の主要臓器でNOX1やNOX2の転写が高められる.これにより,スーパーオキシド(O2-)やH2O2などのROSが,sepsis病態でも主要臓器内で過剰産生される[4-6]

■正常組織では,ROSは種々の抗酸化酵素によりnM程度の濃度にコントロールされている.しかし,これらの抗酸化物質の量がsepsis病態で低下すると,活性酸素種が1μM以上の局所濃度に高められる可能性があり,細胞内リン酸化酵素や,転写因子NF-κBやAP-1が活性化されやすい.

■このような状況で,Alert Cellで産生されたH2O2などのROSは,抗酸化酵素の減少した状態では傍らに存在するnon-Alert Cellに拡散し,non-Alert CellにおけるNF-κBおよびAP-1の活性を高める危険性がある.特に,主要臓器基幹細胞のnon-Alert CellにおけるAP-1活性化はnon-Alert CellをAlert Cellへと変容させ,異物との戦いの場を近傍にスライドさせる可能性をもつ.

■一方,活性酸素種は100μM以上の濃度ではcaspase3を活性化させ,直接apotosisを誘導する可能性がある.しかし,通常のsepsis病態の主要臓器組織ではROSの濃度は100μM以上のレベルに高まりにくく,ROSは,直接apotosisに作用するよりは,non-Alert CellのAlert Cell化に関与する傾向がある.しかし,ヒト気管支上皮培養細胞を用いた研究では,活性酸素種の局所濃度が10-100μMレベルでも細胞質やミトコンドリアに空胞が観察できるようになり,ROSがautophagyを誘導する危険性がある.

■Alert Cellのapotosisの速度が細胞分裂の速度を上回ると臓器構成細胞が減少し,組織は構造維持が不可能となり,多臓器不全が生じる.
Alert Cell(警笛細胞)とROS(活性酸素種)_e0255123_19201519.png

[1] 松田直之. 敗血症における遺伝子発現変化―主要臓器の警笛細胞を標的とした遺伝子治療―. 麻酔 2008; 57: 327-40
[2] Matsuda N, et al. Silencing of fas-associated death domain protects mice from septic lung inflammation and apoptosis. Am J Respir Crit Care Med 2009; 179: 806-15 Free Full Text
[3] Matsuda N, et al. Silencing of caspase-8 and caspase-3 by RNA interference prevents vascular endothelial cell injury in mice with endotoxic shock. Cardiovasc Res 2007; 76: 132-40 Free Full Text
[4] Azevedo LC, et al. Redox mechanisms of vascular cell dysfunction in sepsis. Endocr Metab Immune Disord Drug Targets 2006; 6: 159-64
[5] Peng T, et al. Pivotal role of gp91phox-containing NADH oxidase in lipopolysaccharide-induced tumor necrosis factor-alpha expression and myocardial depression. Circulation 2005; 111: 1637-44 Free Full Text
[6] Gujral JS, et al. NADPH oxidase-derived oxidant stress is critical for neutrophil cytotoxicity during endotoxemia. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2004; 287 :G243-52
by DrMagicianEARL | 2011-10-19 14:13 | 敗血症

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