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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

抗菌薬投与の基本的考え方(1)

2012年3月18日作成
2014年6月9日改訂


■感染症の治療において抗菌薬は根本治療の中心的役割を果たす手段であるが,実際はそう単純ではない.感染症の多くの成書において,患者,病原菌,抗菌薬の三角関係を考えて治療すべきとの理論が記されている.しかし,実際には抗菌薬以外の医療介入も多く,抗菌薬の部分を医師とした上で,お互いがどのような関係であるかを下に表した.
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病原菌が毒素などにより患者を攻撃し,ときには敗血症を引き起こす.この根本治療として抗菌薬を医師が用いる.しかし,患者側も病原菌に対して何も対処しないわけではない.免疫力によって病原体を排除し,正常細菌叢によっても病原菌の増殖は防ぎえる.また,人体最大の免疫形成システム(人体の免疫機能の約50-70%を有する)である腸管において正常細菌叢が保たれることでCross talkにより免疫力も賦活される.抗菌薬はこの正常細菌叢をも破壊しうるため,諸刃の剣であることを認識する必要がある.この正常細菌叢や免疫力を補助・維持するのが経腸栄養やprobiotics投与である.また,病原菌もただ抗菌薬にやられているわけではない.バイオフィルム形成や膿瘍形成,さらには抗菌薬曝露による適応耐性を獲得することで抗菌薬から身を守る.これに対し,外科的処置やデバイス除去などを講ずることでバイオフィルム形成や膿瘍を治療することが可能であるし,耐性化の有無にかかわらず免疫力や正常細菌叢維持は病原菌を排除することができる.これらを理解した上で抗菌薬がどのように作用しているかを考えて使用する必要がある.

■抗菌薬を選択する場合は以下のことを考慮すべきである.
① 推定あるいは同定された病原体の種類
② 薬剤感受性
③ 生体内利用率・臓器移行性
④ 細胞内移行性(細胞内増殖菌)
⑤ 患者重症度(感染症,基礎疾患)
⑥ 患者臓器障害
⑦ 既往歴(過去の培養での菌検出歴も含む),アレルギー歴
⑧ 副作用頻度
⑨ local factor,antibiogram
⑩ コスト

■以下に抗菌薬投与の基本原則をまとめる.

原則①:細菌培養は必ず抗菌薬投与前に行う

■抗菌薬投与後では培養しても菌が生えてこないことが多い.喀痰塗抹培養を抗菌薬投与後に行うと,投与後6時間未満でも感度が約20%低下,1日たってしまうと約65%低下することが知られている[1].血液培養においても血液中の菌は抗菌薬投与で速やかに死滅してしまうため,感染病巣部位からの検体が採取できないケースなどの場合は起炎菌特定が困難となり,治療が難渋した際に抗菌薬の選択が困難となる.こうなると検出菌がどれだか分からなくなり,MRSAの保菌状態を起因菌と勘違いして抗MRSA薬を投与してしまう,といったことも生じてくる.

■前医で抗菌薬を投与されていた場合の血液培養は抗菌薬吸着用の容器を使用する必要があるので,必ず抗菌薬投与の有無は確認する(点滴を施行されていることもあるので,紹介状の経口薬を見て抗菌薬なしと判断するのは要注意).

■例外的に抗菌薬が感染巣からの培養より先に投与されるケースがある.例えば,細菌性髄膜炎は直ちにempiricalな抗菌薬迅速投与が必要であり,腰椎穿刺に時間がかかるため培養を提出してからでは遅い.抗菌薬の髄液移行は時間がかかるため,髄膜炎では先に抗菌薬点滴を開始してから腰椎穿刺・髄液培養提出を行ってもよい.また,この他にも胆嚢炎や腸腰菌膿瘍など,感染巣からの検体採取までに時間を要するケースがあるが,敗血症状態であれば早期治療が優先されうるため,抗菌薬投与が遅れるようなことがあってはならず,先行投与がやむをえないこともある.

原則②:本当に細菌感染症か,本当に抗菌薬が必要かを考える

熱や白血球数,CRPだけで細菌感染症と判断しないことである.感染があるなら必ず感染部位があり,そこに臓器特異性の症状があるはずである.それを確認せずに安易に抗菌薬を投与するのは無駄となる可能性が高くなるばかりか副作用や耐性化を生み出すだけである.

ほとんどの風邪症候群(感冒,咽頭炎,副鼻腔炎,気管支炎)はウイルス性であると考えられている.また,実際に細菌感染による風邪症候群(肺炎でない急性呼吸器感染症)であったとしても抗菌薬投与なしに軽快することがほとんどで,抗菌薬投与有無で罹患期間に有意差はないとする報告がほとんどである.最近行われた急性呼吸器感染症1531019例のコホート研究[2]では,肺炎入院は抗菌薬投与群で18例/100000回受診,非投与群で22例/100000回受診であり,1人の入院を予防するために12255人に抗菌薬を投与する必要があるとの結果であった.なお,A群溶連菌による咽頭炎においてはリウマチ熱,急性糸球体腎炎を続発することがあるため,抗菌薬投与を検討すべきである(AMPCが第一選択).

細菌感染症だからといって抗菌薬が必要であるわけではない.これは多くの医師が忘れている事実である.急性副鼻腔炎,風邪症候群,マイコプラズマ気管支炎,単純性膀胱炎,感染性胃腸炎などは必ずしも抗菌薬が必要となるわけではなく,むしろ抗菌薬投与により再発率が高まることもある.感染性胃腸炎においては出血性病原性大腸菌においてはまだ議論されてはいるが,基本的には多くの感染性胃腸炎では細菌性も含めて抗菌薬は不要である.ただし,海外渡航者の下痢では抗菌薬投与を検討する必要がある.

不明熱の鑑別を考える.膠原病,悪性腫瘍,感染性心内膜炎,骨髄炎などが挙げられる.感染部位・起炎菌が不明で,感染症でない可能性すらあるのであれば,敗血症でない限り抗菌薬投与は待機すべきである.あまり認識されていないことであるが,抗菌薬によって感染症が引き起こされることもしばしば経験される.

複数の抗菌薬を投与され,主要な菌はほぼカバーされているのに奏功していないケース.抗菌薬変更の前になぜ奏功していないかをまず考えるべきである.投与回数不足,用量不足,膿瘍形成,バイオフィルム形成,外科的処置の必要性,デバイスの除去,重複感染の可能性,適応耐性化など,抗菌薬が奏功しない,もしくは奏功していたのに途中から奏功しなくなるケースはしばしば経験される.その際に抗菌薬を何の考えもなしに変更したり継続したりするのは全くの無駄である.

感染臓器もはっきりしないが抗菌薬治療を開始しなければならないケース.敗血症は言わずもがなであるが,それ以外に,粟粒結核,リケッチア症,ヒストプラズマ,カラアザール,バルトネラ症,エールリキア症(アナプラズマ症),熱帯熱マラリアなどの播種性感染症では診断が困難であるが,治療可能でかつ治療を急ぐ必要がある[3]

プロカルシトニンの活用.プロカルシトニンは細菌感染症に特異的なマーカーであり,ステロイド投与下でも上昇するため有用とされる.しかしながら,その扱いには注意が必要である.精度はCRPと比較してそこまで優れているわけではなく,偽陽性,偽陰性も存在する.また,局所の感染においては上昇しにくい.このため,敗血症を初めとする重症感染症でなければ信頼性は乏しいと考えるべきである
プロカルシトニンの詳細についてはこちら

原則③:感染部位を特定する

■当然のことではあるが,感染部位の特定は必須である.とりわけ,重症敗血症病態では遅くとも6時間以内に感染巣を特定する必要があり,場合によっては手術やドレナージなどの外科的処置が早急に必要となる場合がある.単純X線,エコーだけではなく,状態が悪く急変の恐れがあってもCTを撮影するなど画像検査をフルに活用して原因特定することが優先され,場合によってはMRIを施行することも辞さない心構えが必要となる.

■黄色ブドウ球菌やカンジダなどは播種性病変を形成することがしばしばある.この場合は初期感染巣とは別の部位にも感染巣を形成するため注意が必要である.特に心内膜炎,骨髄炎,関節炎は発見が遅れやすい.カンジダ菌血症では2-40%の頻度で眼内炎をきたし,場合によっては失明に陥るため,眼科コンサルトは必須となる.また,CTでは写らないほどの微小膿瘍を形成することもあるため,考慮が必要である.

原則④:初期は適切な(広域)抗菌薬を投与する(empiric therapy)

■抗菌薬投与治療の原則は大きくわけて4つあり,経験的治療(empiric therapy),原因限定治療(definitive therapy),予防的抗菌薬投与(prophylactic therapy),先制攻撃的投与(preemptive therapy)である.経験的治療は,感染症の初期治療に用いられる概念で,診断の時点で起炎菌が判明していない場合,起炎菌の可能性がある微生物全てに対して効果が期待できる広域抗菌薬を用いる.この治療の目的は原因微生物を同定するまでの間に,いち早く効果的な抗菌薬投与を行うことにある.患者の症状,既往,グラム染色結果などを総合して抗菌薬を選択する必要がある.

■経験的治療ではどこまで広域にするかであるが,例えば,腎盂腎炎による重症敗血症を例にとると,カルバペネム系を投与する医師が非常に多いが,はたしてカルバペネム系が必要か?耐性菌をカバーする必要性があるか?この患者が80歳代女性,糖尿病,抗癌剤治療中,最近の抗生剤使用歴あり,といった既往であればカルバペネム系はよい適応かもしれない.しかし,何ら既往のない20歳代女性であれば,第2-3世代セファロスポリン系でも十分なことがある(もっとも,重症敗血症ほどの重症病態では耐性菌リスクが低いからと狭域にするような“冒険”はすべきではないという意見もある).

■「初期は広域」といっても,ある程度重症度を見てどこまで広域にするかを判断すべきである.初期の広域カバーは副作用や常在細菌叢の破綻により予後を悪化させる可能性があり,この場合,原因菌判明後に狭域抗菌薬に変更するde-escalationは安全の保障とはならない可能性が示唆されている(理由は後述).あとで狭域に変更するのだから最初はどれだけ広域でもかまわない,という考え方は逆に予後を悪化させる可能性が指摘されているので注意が必要である.

■グラム染色を見るだけでもエンピリックに用いる抗菌薬はより狭域に絞りこめるはずである.肺炎球菌(S. pneumoniae),インフルエンザ菌(H. influenzae),モラキセラ菌(M. catarrhalis),腸球菌(E. faecalisE. faecium),ブドウ球菌(S. aureus),アシネトバクター(Acinetobacter spp.)はグラム染色を見て分かるようになっておきたいところである.

■このように,ただ広域を選べばよいわけでもなく,耐性菌予防のためにも感染巣や起炎菌を推定し,また,疾患で考えるだけでなく個々の患者に合わせた経験的治療を心がけるべきであり,
広域ではあるがある程度狭域の抗菌薬を選ぶ必要がある.「SANFORD GUIDE(熱病)®」は感染症治療を行う多くの医師に使用されており,米国ではほとんどのレジデントがポケットに本書を携帯しているが,グラム染色が考慮されないなど,初期からこういった狭域抗菌薬を選択する努力をしなくなってしまう弊害がある.

■おおまかな目安としてグラム染色でグラム陽性球菌が見えたら,原則ペニシリン系でのエンピリック治療が第一選択であり,ブドウ球菌の印象があるのであればCEZや抗MRSA薬を選択する.グラム陰性桿菌であれば第2-3世代セファロスポリン系が第一選択となり,緑膿菌リスクを加味した上で,抗緑膿菌活性抗菌薬を使用もしくは併用することも考える.

■抗嫌気性菌活性をもつ抗菌薬にはβラクタマーゼ阻害薬配合剤(SBTPC,SBT/ABPC,SBT/CPZ,CVA/AMPC,TAZ/PIPC),カルバペネム系,オキサセフェム系(FMOX),セファマイシン系(CMZ),CLDM,MNZ,AZM,第4世代キノロン(GRNX,MFLX,STFX)などがある.腸管内の嫌気性菌は大腸菌の1000倍,腸球菌の10000倍存在することを考慮すれば,抗嫌気性菌活性のある抗菌薬を使用すると腸内細菌叢がいかに破壊されやすいかがよく分かる(特にTAZ/PIPC,CLDM,SBTPCで顕著である).これらの抗菌薬を使用する際はできる限りprobiotics製剤の併用が望ましい.なお,よく勘違いされるが,セファロスポリン系抗菌薬は原則として抗嫌気性菌活性はほとんど持たない.

■TFLX以外のキノロン系抗菌薬は結核菌に対する抗菌活性を有し,肺結核ではキノロン投与により3日前後で65.8-83%[4,5]で臨床症状が軽快してしまい,その後耐性化して再増悪する.結核診断前のキノロン暴露では上記一時的症状改善のみならず喀痰中結核検査の陽性率が73%低下する[6]などで診断が遅れ,最終的に結核治療開始は入院から21-34日後[4,7]まで遅れる(キノロン非曝露群では入院から平均で5日後に治療が開始される).結核菌の分裂増殖は遅く,最適環境下でも10-15時間に1回程度である.しかし,この速度で増殖しても19日後には10^9個という致死的菌量に達しうる.治療開始がもし21-34日間遅れればどうなるかは想像するにたやすく,実際に結核診断前のキノロン曝露により死亡リスクは1.8-6.9倍に増加すると報告されている[4,8].結核は胸部X線,ときにはCT撮影であっても除外できない.「上肺野の空洞陰影を伴う肺炎像」という教科書的な典型的像をとらないこともしばしばあるからであり,呼吸器内科医といえども画像だけでは判断に迷うことも多い.肺結核において上肺野に病変を認めるのは,免疫正常者では68.1%であり,免疫不全者に至っては38.4%に過ぎない[9].また,抗MRSA薬であるLZD(ザイボックス®)も抗結核菌活性を有することが分かっており,注意が必要である[10]

■キノロン系薬剤の経口投与は,カルシウム,アルミニウム,マグネシウム(下剤に注意),鉄剤の併用で著しく吸収が低下してしまうため,同時摂取を避けるなど工夫が必要である.

原則⑤:抗菌薬の移行性を考慮する

■各種の抗菌薬が特に得意とする臓器は決まっている.日本感染症学会抗菌薬使用ガイドライン2005では以下の表が掲載されている.各臓器で記載されていない抗菌薬がその臓器に移行しないわけではないが,抗菌薬が奏功しにくい場合や重症病態では特に考慮して選択する必要が出てくる.

肺:マクロライド,ケトライド,ニューキノロン,リンコマイシン,オキサゾリジノン
胆道:PIPC,CPZ,CTRX,CBPZ,マクロライド,ケトライド,ニューキノロン,リンコマイシン,テトラサイクリン
腎・尿路:ペニシリン,セファロスポリン,モノバクタム,カルバペネム,アミノグリコシド,ニューキノロン,グリコペプチド
髄液:ペニシリン,CTRX,CTX,CAZ,LMOX,カルバペネム,ニューキノロン

■マクロライド,ニューキノロン,テトラサイクリン,CLDM,RFP,CPは細胞内や組織内の濃度が血中濃度より高濃度になる.また,マクロライド系は炎症部位や貪食細胞内への移行性がよいことが知られている.

■敗血症性ショックにおいては臓器移行性が損なわれていることが多く,通常の10-20%程度にまで移行性が低下することもある.

■菌がバイオフィルムを形成すると抗菌薬が効きにくくなる.ときにはバイオフィルムごと菌が播種されることもある.バイオフィルム形成を阻害もしくは透過性を亢進させるものにはマクロライド系,テトラサイクリン系,TGC,DAP,RFP,キャンディン系,L-AMPなどがある.

原則⑥:殺菌性か静菌性かの考慮

■一般的に抗菌薬の殺菌性bacteriocidalと静菌性bacteriostaticの違いは多くの場合考慮する必要がないとされる.これは,免疫力が著しく低下していないのであれば,静菌薬であっても免疫力によって病原菌が排除されるからである.

■菌発育の最小阻止濃度MIC(minimum inhibitory concentration)は静菌作用を見ている.殺菌作用をみるためには最小殺菌濃度MBC(minimum bactericidal concentration)が用いられ,99.9%以上の菌を18-24時間以内に殺菌できる抗菌薬濃度と定義されている.つまり,MBCを越えるか越えないかで殺菌・静菌作用は異なってくる.

■実際にはMICとMBCはそれほど大きな差はないとも言われており,静菌性抗菌薬と言われているCLDMやマクロライド系は実はMIC≒MBCだと主張する専門家もいる.このMBCは細菌検査室ではルーティンで行われることはない.これは先述の通り,臨床上あまり意味をなさないことが多いからである.

■MICとMBCが大きく乖離するケースがあり,MICに対してMBCが32倍以上の値を示すときはtolerance(寛性)と呼ばれる状態にある[11].黄色ブドウ球菌などに対してβラクタム系抗菌薬を投与した場合に特に認められる.MICだけを参考にして治療した場合,特に感染性心内膜炎などの疾患では,治療失敗や再発を起こす例がある.これはtoleranceによる可能性があり,この場合,SBT(serum bactericidal titer)を用いてMBCを測定する必要がある.

■免疫力が重度に低下している患者や,敗血症,菌血症,髄膜炎,感染性心内膜炎,重症ブドウ球菌感染症,重症グラム陰性桿菌感染症,好中球減少症においては殺菌性抗菌薬が必要である.一般的に殺菌性と言われている抗菌薬はペニシリン系,セファロスポリン系,カルバペネム系,VCM,アミノグリコシド系,キノロン系,DPTである.
※MRSA菌血症では静菌性のLZDは用いるべきではないと思われる.VCMよりも治療成績が劣るという報告が散見されており,実際に私もLZDが奏功せずTEICが奏功した症例を複数経験している.LZDの使用は菌血症が解除されてからとすべきであろう.

■ただし,殺菌性と静菌性はあくまでも便宜上の分類であり,はっきりと区別できるわけではない.たとえばABPCは一般的に殺菌性であるが,腸球菌には静菌的である(このためアミノグリコシド系の併用が必要となる).AZMは静菌性であるが,肺炎球菌に対しては殺菌作用を発揮する.CPは静菌性であるが,肺炎球菌,髄膜炎菌,インフルエンザ桿菌には殺菌作用を発揮する.このように,ターゲットとする菌によっては殺菌性や静菌性は異なることもある.

原則⑦:local factorとantibiogramを考慮する

■感染症の成書を読んで抗菌薬を投与する際に考慮されないことが多いのがlocal factor/antibiogramである.同じ感染症であっても,起炎菌の頻度や薬剤感受性は施設ごとに異なる.また,地域特有の感染症を考慮しなければならない場合もある.この「各施設間での差」のことをlocal factorと呼ぶ.そのため,ある施設では第一選択として使用される抗菌薬が,他の施設では使用できないこともある.事前に感受性パターンを知ることで,経験的治療を適切に行うことができる.実際には,抗菌薬の感受性率は,時と場所(国,地域,施設,病棟)によって変化することが報告されている[12,13]

■antibiogramとは,検出される微生物の薬剤感受性を各施設ごとにまとめたものである.これは院内サーベイランスの一環としての役割と,エンピリックな抗菌薬使用の判断材料としての役割をもつ.antibiogramを使用することにより,その施設の耐性菌の頻度や効果の期待できる抗菌薬を知ることができる.また,そういった資料の充実は,耐性菌の発生や感染管理においても,重要な役割をもつ.

■antibiogramを正しく解釈するには,感染症診療の知識が必要である.ESBL産生菌のように,検査データ上は感受性があるようにみえる細菌が,実際の臨床現場では効果がないことがしばしばある.複数の抗菌薬の感受性がよいことが期待される場合,どの抗菌薬を使用するかは悩ましい.そのような場合には,同様の状況で効果が確認されている抗菌薬を優先する.

抗菌薬投与の基本的考え方(2)はこちら

[1] Musher DM, Montoya R, Wanahita A. Diagnostic value of microscopic examination of Gram-stained sputum and sputum cultures in patients with bacteremic pneumococcal pneumonia. Clin Infect Dis 2004; 39: 165-9
[2] Meropol SB, Localio AR, Metlay JP. Risks and benefits associated with antibiotic use for acute respiratory infections: a cohort study. Ann Fam Med 2013; 11: 165-72
[3] Arnow PM, Flaherty JP. Fever of unknown origin. Lancet 1997; 350: 575-80
[4] Wang JY, Hsueh PR, Jan IS, et al. Empirical treatment with a fluoroquinolone delays the treatment for tuberculosis and is associated with a poor prognosis in endemic areas. Thorax 2006; 61: 903-8
[5] Dooley KE, Golub J, Goes FS, et al. Empiric treatment of community-acquired pneumonia with fluoroquinolones, and delays in the treatment of tuberculosis. Clin Infect Dis 2002; 34: 1607-12
[6] Jeon CY, Calver AD, Victor TC, et al. Use of fluoroquinolone antibiotics leads to tuberculosis treatment delay in a South African gold mining community. Int J Tuberc Lung Dis 2011; 15: 77-83
[7] Yoon YS, Lee HJ, Yoon HI, et al. Impact of fluoroquinolones on the diagnosis of pulmonary tuberculosis initially treated as bacterial pneumonia. Int J Tuberc Lung Dis 2005; 9: 1215-9
[8] van der Heijden YF, Maruri F, Blackman A, et al. Fluoroquinolone exposure prior to tuberculosis diagnosis is associated with an increased risk of death. Int J Tuberc Lund Dis 2012; 16: 1162-7
[9] Kobayashi Y, et al. Clinical features of immunocompromised and nonimunonocopromised patients with pulmonary tuberculosis. J Infect Chemother 2007; 13: 405-10
[10] Sotgiu G, Centis R, D'Ambrosio L, et al. Efficacy, safety and tolerability of linezolid containing regimens in treating MDR-TB and XDR-TB: systematic review and meta-analysis. Eur Respir J 2012; 40: 1430-42
[11] Tuomanen E, Durack DT, Tomasz A. Antibiotic tolerance among clinical isolates of bacteria. Antimicrob Agents Chemother 1986; 30: 521-7
[12] Souli M, Galani I, Giamarellou H. Emergence of extensively drug-resistant and pandrug-resistant Gram-negative bacilli in Europe. Euro Surveill 2008; 13(47)
[13] Rhomberg PR, Jones RN. Summary trends for the Meropenem Yearly Susceptibility Test Information Collection Program: a 10-year experience in the United States (1999-2008). Diagn Microbiol Infect Dis 2009; 65: 414-26

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by DrMagicianEARL | 2014-06-09 00:00 | 抗菌薬

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