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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(1) ~エンドトキシン計測は重要か?~

2011年10月25日作成
2013年9月2日改訂

1.エンドトキシン計測は重要か?
Summary
・エンドトキシンはグラム陰性菌外膜に存在し,TLR4に認識され,細胞内シグナル伝達を介して炎症性サイトカインを誘導する.
・本邦ではエンドトキシン計測はリムルス反応を用いた比濁時間分析法が用いられるが,その数値の意義は明らかではなく,偽陽性・偽陰性に注意が必要である.
・EAA法が比濁時間分析法より優れたエンドトキシンマーカーとして開発されたが,重症度や死亡率予測には有用であるが,エンドトキシンに対する特異度は低い.
・エンドトキシンはPAMPsの1つであり,これのみをターゲットとした治療が予後を改善しうるかについては不明確である.

■エンドトキシンはグラム陰性菌の外膜に存在する物質である.グラム陰性菌の外膜はコアとなる糖鎖に長鎖の脂肪酸アンカー(lipid A)が結合したリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)の構造をもつ.エンドトキシンの生物活性は主にlipid Aの部分にある.lipid Aの構造・活性は菌種によって異なる.血中に入ったLPSはLPS結合蛋白と結合し,その複合体が単球/マクロファージ表面のmCD14(membrane CD14)受容体と結合する.その結果,LPSはTLR4(Toll-Like receptor)を介して細胞内へのシグナル伝達が行われ,炎症反応が発生する.血管内皮細胞はCD14を持たないが,LPSが血液中の可溶性sCD14(soluble-CD14)蛋白と結合することにより膜上のTLR4に認識される.

■本邦のエンドトキシン測定法は,現在は比濁時間分析法[1]がまだ主流を占めている状態にある.この分析法は,検体溶液のゲル化反応(リムルス反応)を透過する光量値を計測し,エンドトキシン濃度を測定するものである.3.5-5pg/mLをカットオフ値とすると,グラム陰性菌が血液から検出された菌血症の患者を診断において感度50%未満である[2].そこで,感度を改良するため,60分だった測定時間を200分にまで延長させると感度が改善し,カットオフ値を1.1pg/mLまで下げることが可能であった.このときのグラム陰性菌感染症診断での感度は81.3%,特異度は86.1%となったとしている[2].ただし,この検査法は,あくまでもエンドトキシン濃度を直接計測しているのではなく,カブトガニの血球抽出液を用いたリムルス活性をみたものであるため,リムルス活性が血中に見られなかったからといってエンドトキシン濃度が高くないと断定することはできないこと,真菌のβ-D-グルカンに対しても反応して偽陽性となることに注意が必要である.

■その後登場したのがEAA(Endotoxin Activity Assay)である.血中のエンドトキシンと試薬中のマウス抗エンドトキシンモノクロナール抗体(IgM)が免疫複合体を形成し,ここに補体が結合してオプソニン化され,好中球の補体レセプター(CR1,CR3)を介して好中球に貪食されることで好中球はプライミングを受ける[3].このプライミングにより好中球が活性酸素を産生が生じる.この活性酸素がルミノール試薬を発光させるため,この化学発光濃度をルミノメーターで計測するという原理である.なお,試薬に含まれるザイモザンも好中球に取り込まれ,活性酸素の産生を増強する.

■EAAでのエンドトキシンレベル算出は3種類の検体から得られたデータにより算出される.
(1) Tube 1:コントロール
検体中の好中球のみで抗エンドトキシン抗体なし.
ベースライン.

(2) Tube 2:検体
検体中の好中球+抗エンドトキシン抗体.
検体中のエンドトキシン活性を計測する.

(3) Tube 3:マックスキャリブレーター
検体中の好中球+抗エンドトキシン抗体+過剰のエンドトキシン(大腸菌O-55:B5)
被験者の好中球が示す最大活性酸素産生反応を測定する.

EA値=(T2-T1)/(T3-T1) (0-1.0)
low EAAレベル:0.00-0.39
mid EAAレベル:0.40-0.59
high EAAレベル:0.60-1.00

1検体をn=2で測定し,その平均値を採用.n=2の測定に対する変動係数(CV値)はEA値が0.0-0.2では30%以下,0.21-1.0では15%以下である必要がある.
■Marchallらは重症患者74例でEAAと比濁時間分析法を施行し,EAAが優れていることを報告している[4].さらにMarchallらは,857例のICU入室患者を対象にEAAの測定を行った(MEDIC study)[5]ところ,ICU入室患者の57.2%がmid-high EAAレベルであり,グラム陰性菌感染はlow EAAレベル患者の1.4%,mid EAAレベル患者の4.9%,high EAAレベル患者の6.9%であり,グラム陰性菌感染の感度85.3%,特異度44.0%と報告された.また,重症敗血症への危険性について検討した結果では,low EAAレベル患者で4.9%,mid EAA患者で9.2%,high EAA患者で13.4%であった.このように,EAAは重症度や死亡率予測には有用であるが,エンドトキシンに対する特異度は低いといわざるを得ない.本邦ではMaruyamaらがICU患者40例においてコントロール群,SIRS群,sepsis群,severe sepsis群,septic shock群に分けてEAAを施行しており,EAAレベルが増加すると重症度も高まる傾向がみられた[6].また,グラム陽性菌とグラム陰性菌の感染を比較して,グラム陰性菌の感染の方が高サイトカイン血症の程度が高いことも報告されている[7]

■エンドトキシン吸着カラムを利用したPMX-DHPの使用で敗血症改善の報告論文も散見していることからも,エンドトキシンがグラム陰性菌敗血症病態において重要であるという推論は成り立ち,これまで敗血症における主流の考えであった.しかしながら,近年,様々なPAMPs(Pathogen Associated Molcular Patterns)[8]が発見され,エンドトキシンがPAMPsの1つに過ぎないことから,敗血症増悪の要因にはなっても,どこまで重要であるかはまだ明らかではない.

■PAMPsにはエンドトキシンの他に,Lipoteichoic acid,Triacyl lipopeptide,Peptideglycan,Lipoprotein,dsRNA,Flagellin,Diacyl lipopeptide,ssRNA,Unmethylated CpG DNA,Uropathogenic E.coliなどがある.また,宿主側の因子としてNecrotic tissue, Heat Shockl Proteins,Fibrinogen,Surfactant protein A,HMGB-1,Neutrophil elastase,S100s,IL-1a,Uric acid,Annexins,FibronectinなどのAlarmins[8,9]も病態を悪化させるメディエーターであり,PAMPsのみならずAlarminsまで加えたDAMPs(damage-associated molecular patterns)[8,10]を敗血症本態ととらえる必要がある.

■最近エンドトキシンがTLR-4に結合するのを阻害する新薬としてのEritoran(E5564;synthetic toll-like receptor 4 antagonist)がPhaseⅡ[11]で良好な成績をおさめ,敗血症治療でおおいに期待されたが,PhaseⅢ(ACCESS study)では28日死亡率を改善させるにはいたらず[12],この結果はPAMPsの概念から考えると十分納得できるものである.

※実はPhaseⅢについてはプロトコルがかなり甘く,1例1例詳細を調べていくと,抗菌薬治療がかなり遅れるなど原疾患治療が不十分だった症例が多かったことを指摘する声もあり,研究デザインに問題があった可能性がある[13].実際にtrialに参加した施設の医師に聞くと,明らかな手ごたえはあったとのことである.現在,Eritoranは敗血症領域ではPhaseⅢをクリアできなかったが,インフルエンザに対する研究を開始しており,すでに致死的インフルエンザ感染マウスモデル研究でポジティブな結果がでている[14]

■DIC治療薬であるrecombinant thrombomodulineは,レクチン様ドメインがエンドトキシンを吸着することが知られている[15]

■エンドトキシン血中濃度とサイトカイン血中濃度が相関していないことも報告されている[7].また,Kiguchiらの報告でも,敗血症患者の生存群と死亡群でEA値に有意差はみられなかったとしている[16]

■以上から,エンドトキシンは敗血症病態においてそれなりに関与はしているが,それ単体が重要な意味合いをもつわけではない可能性もあり,エンドトキシンを中心とする治療戦略は再考すべき時期にきているかもしれない.最近感染による生体反応の程度は種々の因子により決定されるものであり,エンドトキシン以外のものも含めたPAMPsを検討する必要がある.

[1] Oishi H, Takaoka A, Hatayama Y, et al. Automated limulus amebocyte lysate (LAL) test for endotoxin analysis using a new Toxinometer ET-201. J Parenter Sci Technol 1985; 39: 194-9
[2] 八重樫泰法,稲田捷也,佐藤信博,他.血漿高感度エンドトキシン測定法について.エンドトキシン救命治療研究会誌 2003; 7:25-8
[3] Romaschin AD, Harris DM, Ribeiro MB, et al. A rapid assay of endotoxin in whole blood using autologous neutrophil dependent chemiluminescence. J Immunol Method 1998; 212: 169-85
[4] Marshall JC, Walker PM, Foster DM, et al. Measurement of endotoxin activity in critically ill patients using whole blood neutrophil dependent chemiluminescence.
Crit Care 2002; 6: 342-8
[5] Marshall JC, Foster D, Vincent JL, et al. Diagnostic and prognostic implications of endotoxemia in critical illness: results of the MEDIC study. J Infect Dis 2004; 190: 527-34
[6] Maruyama H, Kakihana Y, Oryoji T, et al. Newly developed endotoxin measurement method (endotoxin activity assay) may reflect the severity of sepsis. Crit Care 2009; 13(suppl1): S155
[7] Abe R, Oda S, Sadahiro T, et al. Gram-negative bacteremia induces greater magnitude of inflammatory response than Gram-positive bacteremia. Crit Care 2010; 14: R27
[8] Harris HE, Raucci A. Alarmin(g) news about danger: workshop on innate danger signals and HMGB1. EMBO Rep 2006; 7: 774-8
[9] Oppenheim JJ, Yang D. Alermins: chemotactic activators of immune responses. Curr Opin Immunol 2005; 17: 359-65
[10] Rittirsch D, et al. Harmful molecular mechanisms in sepsis. Nat Rev Immunol 2008; 8: 776-8
[11] Tidswell M, Tillis W, Larosa SP, et al. Phase 2 trial of eritoran tetrasodium (E5564), a toll-like receptor 4 antagonist, in patients with severe sepsis. Crit Care Med 2010; 38: 72-83
[12] Opal SM, Laterre PF, Francois B, et al; ACCESS Study Group. Effect of eritoran, an antagonist of MD2-TLR4, on mortality in patients with severe sepsis: the ACCESS randomized trial. JAMA 2013; 309: 1154-62
[13] Tse MT. Trial watch: Sepsis study failure highlights need for trial design rethink. Nat Rev Drug Discov 2013; 12: 334
[14] Shirey KA, Lai W, Scott AJ, et al. The TLR4 antagonist Eritoran protects mice from lethal influenza infection. Nature 2013; 497: 498-502
[15] Shi CS, Shi GY, Hsiao HM, et al. Lectin-like domain of thrombomodulin binds to its specific ligand Lewis Y antigen and neutralizes lipopolysaccharide-induced inflammatory response. Blood 2008; 112: 3661-70
[16] Kiguchi T, Nakamori Y, Yamakawa K, et al. Maximal chemiluminescent intensity in response to lipopolysaccharide assessed by endotoxin activity assay on admission day predicts mortality in patients with sepsis. Crit Care Med 2013; 41: 1443-9

→敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(2) ~PMX-DHPは敗血症の予後を改善しうるか?~
by DrMagicianEARL | 2013-09-02 00:00 | 敗血症

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