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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

Immunoparalysis(SIRS,CARS,MARS)

■敗血症では重症例において,その臨床経過中に更なる感染症を発症し,重症化し,結局は死亡してしまうという病態が最近に注目を集めている[1,2].感染症の発症には,重症例において,炎症性サイトカインの産生により惹起された炎症反応を沈静化しようとし,いわば生体反応として引き起こされる抗炎症性サイトカインの過剰産生により発症する免疫抑制が深く関わっていることは多くが認めるところであり,かかる状態はimmunoparalysisと呼称されている[3,4]

■Immunoparalysisの発症は,免疫細胞のアポトーシスの増加[5],skin test antigenに対するdelayed-type hyepersensitivity reactionの低下,即ちanergy[6]やHLA-DRを発現している単球の割合の減少などで診断される[7,8].Immunoparalysisの発症にはさまざまな因子が関与しているが,抗炎症性サイトカインの過剰産生も重要な因子である[3]

■近年提唱されているSIRS(systemic inflammatory response syndrome;全身炎症反応症候群)は今や敗血症の病態生理において有名であるが,これはCARS(compensatory anti-inflammatory response syndrome:代償性抗炎症反応症候群)とセットで理解する必要がある.CARSはあまり認知されていないようであるが,炎症反応には必ず抗炎症反応が伴っていることを理解しておく必要がある.

■CARSは1996年にRoger Boneにより提唱された血清学的病態概念である[9].CARSは炎症性サイトカイン産生の高まるSIRSに拮抗する病態として,白血球系細胞のimmunoparalysis,すなわち,自己免疫抑制状態(autoimmunosuppression)と考えられている.

■抗炎症性サイトカインの代表的なものとしては,TGF-β(transforming growth factor-β) super family,IL-4,IL-6,IL-10,IL-11,IL-13やα-MSH(α-melanocyte stimulating hormone)などがある.抗炎症性サイトカインが活性化されるCARSの病態では,①皮膚アレルギー所見の出現,②単球やリンパ球の活性低下,③炎症性サイトカインの産生抑制,④TGF-βを介した組織線維化や組織増殖などが特徴となる.免疫抑制状態における集中治療を考える際にもCARSの概念は応用できる.

■SIRS患者の血液解析では,SIRSと共にCARSが発症してくることが確認できるが,CARSの免疫抑制状態が遷延すると,新たに感染症に罹患しやすくなる.これが1st SIRSの後に現れる2nd SIRSの原因となる.このような2nd SIRSの際にはMODSがlate MODSとしてショックや多臓器不全が強く現れることがあり,これが感染性2nd attackもしくは2nd hitとよばれる病態である.外傷,急性膵炎,熱傷などのSIRSを導く基礎病態においても感染性2nd attackとして敗血症を合併しやすい.

■CARSで主に取り上げられるIL-10はSIRSの転写因子の主体であるNF-κBやAP-1,そしてカテコラミンによるcAMP response elementに依存して,転写が高まる.このため,炎症性サイトカインと同様の機序として,早い時期よりTh1細胞,B細胞,マクロファージや樹状細胞などでIL-10産生が上昇する.一方,このIL-10が作用するIL-10受容体は,血管内皮細胞,Ⅱ型肺胞上皮細胞,心房筋障害などの主要臓器細胞にはほとんど検出できない.IL-10受容体の発現は白血球系細胞に限られるので,IL-10を介したCARSは白血球機能の抑制にのみ作用する.これにより細菌,真菌を含めた異物の生体内侵入が容易となり,感染性2nd attackが生じやすくなる.

■一方,CARSの別の主役であるIL-4やIL-13は転写因子NF-κBではなく,主に転写因子NFAT(nuclear factor of activated T-cell)で転写調節される[10].SIRSにおいて,NFATはNF-κBより遅れて活性を上昇させる傾向があるため,IL-4やIL-13は炎症性サイトカインより遅れて産生されてくる.これがSIRSとCARSが必ずしも並行ではない機序の一つである.IL-4,IL-13の受容体は白血球系の細胞に加えて,血管内皮細胞にも存在する.IL-4,IL-13は白血球系細胞では炎症性サイトカインの産生を抑制するが,血管内皮細胞では炎症性サイトカインの産生を高めるという逆作用をもつこと,血管内皮細胞にアポトーシスを誘導し,血管の線維化にも関与することが示唆されている[11,12]

■IL-6は,IL-1βにより刺激された単球/マクロファージ,血管内皮細胞,線維芽細胞,ケラチノサイトなどから産生される.B cellや形質細胞を増殖させ,IgG,IgM,IgAを産生させる,T細胞の分化や活性化にも関与する.また,肝細胞に作用し,CRP,ハプトグロビンなどの急性期蛋白を誘導する.これらの作用から,IL-6はこれまで炎症性サイトカインと考えられてきたが,近年,抗炎症性サイトカインとしての役割が注目されている.IL-6受容体は,白血球系細胞以外にも,血管内皮細胞や主要臓器細胞にも存在し,NF-κB活性を下げ,炎症性サイトカインシグナルを負に調節している.すなわち,IL-6はCARSに関与しているサイトカインである.

■このように,CARSは白血球細胞の活性を低下させる一方で,血管内皮細胞などの炎症を独自に進行させ,SIRSにおける血管拡張病態を血管収縮状態にシフトさせるように作用する.

■以上のように,CARSが持続している病態では,①白血球系細胞の機能低下により易感染性となること,②感染性2nd attackによりSIRS再燃の可能性があること,③血管内皮細胞障害進展の可能性があることに留意する.

■SIRSは症候学的定義により,評価しやすい病態である.しかし,CARSは症候学的定義がなく,あくまでも血清学的病態に過ぎず,抗炎症性cytokineを測定しない限り明確に評価できない.実際の臨床では,SIRSとCARSがともに生じていると考え,MARS(mixed antagonistic response syndrome;混合性拮抗反応症候群)として対応している[13]

[1] Kimura F, et al. Immuonosuppression following surgical and traumatic injury. Surg Today 2010; 40: 793-808
[2] Schefold JC, et al. Sepsis: time has come to focus on the later stage. Med Hypotheses 2008; 71: 203-8
[3] Hotchkiss RS, et al. The sepsis seesaw: tilting toward immunosuppression. Nat Med 2009; 15: 496-7
[4] Frazier WK, Hall MW. Immunoparalysis and adverse outcomes from critical illness. Pediatr Clin North Am 2008; 55: 647-68 Free PMC Article
[5] Hotchkiss RS, et al. Apoptotic cell death in patients with sepsis, shock, and multiple organ dysfunction. Crit Care Med 1999; 27: 1230-51
[6] Venet F, et al. Increased circulating regulatory T cells (CD4 (+) CD25 (+) CD127 (-)) contribute to lymphocyte anergy in septic shock patients. Intensive Care Med 2009; 35: 678-86 Free PMC Article
[7] Gogos C, et al. Early alterations of the innate and adaptive immune statuses in sepsis according to the type of underlying infection. Crit Care 2010; 14: R96
[8] Monneret G, et al. Assessment of monocytic HLA-DR expression in ICU patients: analytical issues for multicentric flow cytometry studies. Crit Care 2010; 14: 432 Free PMC Article
[9] Bone RC. Sir Isaac Newton, sepsis, SIRS, and CARS. Crit Care Med 1996; 24: 1125-8
[10] Palanki MS. Inhibitors of AP-1 and NF-kappa B mediated transcriptional activation: therapeutic potential in autoimmune diseases and structural diversity. Curr Med Chem 2002; 9: 219-27
[11] Lee YW, Hirani AA. Role of interleukin-4 in atherosclerosis. Arch Pharm Res 2006; 29: 1-15
[12] Nishimura Y, et al. STAT6 mediates apoptosis of human coronary arterial endothelial cells by interleukin-13. Hypertens Res 2008; 31: 535-41
[13] Ostanin AA, et al. Inflammatory Syndromes (SIRS, MARS, CARS) in Patients with Surgical Infection. J Immunol 2000; 5: 289-300
by DrMagicianEARL | 2011-10-27 12:16 | 敗血症

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