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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

肺炎重症度

■肺炎の重症度分類には以下のものがある.
PSI(=PORT study):the pneumonia severity index
CURB65:the modified British Thoracic Society severity score
A-DROP:Japan Respiratory Society community associated pneumonia severity index
I-ROAD:Japan Respiratory Society hospital community associated pneumonia severity index
rATS:the revised American Thoracic Society score

1.A-DROP
■A-DROPは日本呼吸器学会(JRS)が2005年に定めた重症度分類であり,非常に簡便である.内容は従来から使用されているCURB65(BTS Pneumonia Guidelines Committee 2004)[1]に非常によく似ており,日本人向けのよい指標である.ただし,A-DROPを定めているJRS市中肺炎ガイドラインには参考文献の記載がない.参考までにCURB-65を以下に示す.
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■CURB-65の死亡率をアウトカムとした感度は92.8%,特異度は49.2%であった.JRSが定めたA-DROPは参考文献の記載がないものの,CURB-65を日本人向けにアレンジしたものである.ただし,死亡率などの大規模研究はまだこれからであり,また,高齢化社会がすすんでいる本邦において,高齢者市中肺炎でのA-DROPは重症度判定には不十分であるとの指摘もある(CURB-65でも同様の問題をかかえている).

■A-DROPでは呼吸評価をSpO2,PaO2で規定している.しかしながら,SpO2,PaO2は呼吸回数で容易に代償されてしまう.実際にはSpO2,PaO2よりも呼吸回数が呼吸能評価・重症度評価に鋭敏であるとする報告は多く,その点を加味し,改変したA-DROP(改)を以下に示す.
肺炎重症度_e0255123_1428415.jpg

■厳密な重症度判定を行うならば後述のPSIが最適であるが,非常に項目が多く,利便性に欠ける.記憶しやすく,ERで即座に判定できるA-DROPは非常に有用であり,推奨される.胸部X線で肺炎像を見ただけで入院させようとする医師はまだ多いが,これを見るだけでも,外来治療が可能な患者が多く存在することは一目瞭然である.注意すべきは,この基準はあくまでも目安であり,最終的には診察医による総合判断が望まれることである.

2.PSI
■PSIは患者を年齢,既往歴,身体所見の異常,検査所見の以上などの20因子による総スコアで5つのクラスに分けており,最も正確に重症度を判定できる[2].しかし,当然ながらこの膨大な基準を記憶することは不可能であり,ERで施行するのは難しい.時間的余裕があれば推奨される.また,A-DROPを使用する際も外来・入院での適応判断に悩む場合などはこのPSIを参考にするとよい.たとえスコアリングせずとも,表を見るだけでおおまかな重症度を推測することはできる.
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■PSIは死亡率を予測して便利であり,各感染症学会に多大な影響を与える素晴らしいstudyである.しかし,これだけ詳細に及ぶといえども万能ではなく,実際にはPSIはあくまでも低死亡率の予測であって本来のトリアージツールではないことに注意.PSIで反映されなかった入院条件もあり(後述),また,カナダのstudyではclassⅠ,Ⅱの低リスクであっても,19.1%が実際には入院しており,そのうち48.4%は5日以上入院することになった.19%は合併症も併発しており,単純にclassⅠ,Ⅱであったからと安心できるわけではなく,患者個々人の臨床像を把握して判断しなければならないと警鐘を鳴らしている[3]

3.rATS
■肺炎患者のICU入室は実際にはなかなか判断が難しい.そこでICU入室判断のために使用が推奨されるのがrATSである.rATSは改定され,2007年にIDSA/ATSより市中肺炎(CAP:community associated pneumonia)ガイドラインが発表され,ICU入室のcriteriaが掲載された.
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■この基準を用いて判断した重症CAPは早期に認識されるべきであり,救急部での積極的マネジメントと直接ICU入室をすることで予後が改善するとされている[4]

4.その他入院基準PSIでもカバーしきれない入院基準を以下に示す.
①低酸素
 SpO2<90%(room air)
 来院時挿管
②経口不可能
 頻回嘔吐
③継続加療困難例
 アルコール/薬物中毒
 精神科疾患
 ホームレス
 介護人なし,一人暮らし
 認知症
④その他

5.I-ROAD
■JRSではHAP(院内肺炎)に対しても重症度分類を定めているが,軽症と中等症をCRPで判断しているなど,信頼性がやや乏しい.参考程度に留めておくのがよいかもしれない.
肺炎重症度_e0255123_14303088.jpg


[1] Lim WS, et al. Defining community acquired pneumonia severity on presentation to hospital: an international derivation and validation study. Thorax 2003; 58: 377-382 Free PMC Article
[2] Fine MJ, et al. A prediction rule to identify low-risk patients with community-acquired pneumonia. N Engl J Med 1997; 336: 243-50 Free Full Text
[3] Marrie TJ, Huang JQ. Low-risk patients admitted with community-acquired pneumonia. Am J Med 2005; 118: 1357-63
[4] Phua J, et al. The impact of a delay in intensive care unit admission for community-acquired pneumonia. Eur Respir J 2010; 36: 826-33
by DrMagicianEARL | 2011-10-25 14:32 | 肺炎

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