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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

敗血症におけるWarm ShockとCold Shock

■敗血症性ショックはWarm ShockとCold Shockという,相反した2つの病態をもち,治療においてはその病態の理解が必須である.

■感染が起こると,PAMPsがTLRに結合し,様々な経路を経て炎症性サイトカインが生じ,生体防御に働く.これが過剰状態になると敗血症に至る.これらのサイトカインが血管内皮細胞に働き,NOやプロスタノイドなどの各種血管拡張物質が産生されて血管が過剰に拡張することで血圧が低下し,敗血症性ショックとなる[1].同時にアドレナリンβ1受容体を介した陽性変力作用が阻害され,心収縮力低下が生じるが,末梢血管拡張により後負荷が減少するため見かけ上の心拍出量は保たれる.このとき,四肢末梢は温暖であるため,Warm Shockと称される.

■L型Ca2+チャネルについては消化管平滑筋において炎症によりマクロファージや好中球から過剰産生されたNOがペルオキシナイトライト(ONOO-)を形成し,C末端のチロシン残基とC-Srcの結合を阻害し,チャネル機能を抑制するという報告があり[2],心筋においても同様の機序によるCa2+チャネル機能が抑制され,β受容体はrun-downにより効果を発揮できなくなってしまう状態に陥り,カテコラミンにも反応しなくなる.

■注意すべきは血圧が低下していなくてもWarm Shockに陥っている可能性があることである.ショックの定義を血圧低下とするのは古い考え方であり,この固定観念は捨てるべきである.現在は第2,第3世代のショックの定義がある.すなわち,「血圧に関係なく,末梢組織,細胞での酸素利用障害などを含む酸素代謝異常,もしくは灌流障害が存在する状態」が現在のショックの考え方である.となれば,血圧低下はショックの原因の1つに過ぎないことは一目瞭然であり,血圧至上主義に対して警鐘を鳴らすべきである.

■敗血症において血圧が下がるか否かは血管拡張性物質の産生量次第であり,血管拡張性物質の産生が少量であっても,炎症性メディエータによる血管内皮細胞傷害による酸素利用障害,灌流障害が生じていればこれもまたWarm Shockの状態である.血圧が低下していないからという理由でショックに対する治療を行わなければわずか数時間でCold Shockへの進展を許し,予後不良に至ることになる.それを防ぐためにも,重症敗血症の時点で乳酸,中心静脈酸素飽和度を把握し,末梢循環障害,酸素代謝異常を早期に診断する必要がある.

■Warm Shockの状態において血管内皮細胞傷害が進行していくと,血管内皮細胞の弾性板からの脱落やアポトーシスが観察できる[3].また,敗血症が持続した病態では,血中に遊離する血管内皮細胞としてCEC(circulatory endothelial cell)を確認できる.白血球減少時においても敗血症が進行する一因として,このCECがマクロファージ様に作用することが考えられる.このような状態で,血管内皮細胞が脱落すると,細動脈,細静脈,毛細血管などの血管内皮依存性の拡張性が障害される.動脈系では,エンドセリン,プロスタグランディン,ヒスタミンなどの血管内皮細胞のNO放出に依存した血管拡張性物質は,血管内皮細胞の脱落した血管平滑筋への直接作用を高め,血管拡張作用から血管収縮作用に転じ始める[4-6].このため後負荷が増大し,心収縮力低下が具現化する.このとき四肢末梢は冷たくなり,Cold Shockと呼ばれる病態となる.

■敗血症性ショックに至ってWarm ShockからCold shockに移行するのは約6~10時間後と言われている.この移行過程において血管内皮細胞障害に起因する播種性血管内凝固(DIC),急性肺傷害/急性呼吸捉迫症候群(ALI/ARDS)さらには多臓器機能障害症候群(MODS)を発症する.さらに,進行すると,腸管のBacterial Translocation(BT),抗炎症反応による免疫力低下から2nd attackをきたし,日和見感染を含む二次感染とも戦わなくてはならない.Warm Shockにはある程度エビデンスが確立された治療法があるが,Cold Shockにはエビデンスがある治療法は存在しない.よって,血管内皮細胞障害が進行してしまうまでに,すなわち6時間以内に速やかに適切な治療を行って全身状態安定化を終了することが必要であり,それによりDICやARDSなどを防ぐことに繋がる.逆に,DICなどを発症しはじめるということは血管内皮細胞がかなり進行していることを表し,病態がCold Shockに転じ始めていることを認識しておく必要がある.

[1] Rudiger A, Singer M. Mechanisms of sepsis-induced cardiac dysfunction. Crit Care Med 2007; 35: 1599-608
[2] Matsuda N, et al. Silencing of caspase-8 and caspase-3 by RNA interference prevents vascular endothelial cell injury in mice with endotoxic shock. Cardiovasc Res 2007; 76: 132-40
[3] Bian K, Murad F. Nitric Oxide(NO)-- biogeneration, regulation, and relevance to human diseases. Front Biosci 2003; 8: d264-78
[4] Matsuda N, et al. Contractions to histamine in pulmonary and mesenteric arteries from endotoxemic rabbits : modulation by vascular expressions of inducible nitric-oxide synthase and histamine H1-receptors. J Pharmacol Exp Ther 2003; 307: 175-81
[5] Matsuda N, et al. Phosphorylation of endothelial nitric-oxide synthase is diminished in mesenteric arteries from septic rabbits depending on the altered phosphatidylinostiol 3-kinase/Akt pathway : reversal effect of fluvastatin therapy. J Pharmacol Exp ther 2006; 319: 1348-54 Free PMC Article
[6] Matsuda N, Hattori Y. Vascular biology in sepsis: pathophysiological and therapeutic significance of vascular dysfunction. J Smooth Muscle Res 2007; 43: 117-37 Free Full Text
by DrMagicianEARL | 2011-10-30 12:01 | 敗血症

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