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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

敗血症とSurviving Sepsis Campaign Guidelines (SSCG)

2011年11月1日作成
2013年8月6日改訂

Summary
・SSCG(Surviving Sepsis Campaign Gidelines)は敗血症の認知と予後改善を目的とした国際ガイドラインである.
・これまでSSCG遵守によって死亡率の改善が多数報告されている.
・癌患者の敗血症の治療成績もSSCGにより大きく改善してきており,今後は癌救急(Oncologic Emergency)分野の発展とともにさらなる改善が期待される.
・SSCGではカバーできていない敗血症予防,長期予後改善,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)予防について今後の改善が期待される.
Key Word:
・SSC:Surviving Sepsis Campaign
・SSCG:Surviving Sepsis Campaign Guidelines
・Oncologic Emergency:癌救急
・敗血症予防,ワクチン
・リハビリテーション
・PICS:Post-Intensive Care Syndrome

1.敗血症の国際ガイドラインSSCGの歩み
■1991年に米国集中治療学会(SCCM)と米国胸部外科学会(ACCP)合同による敗血症とそれに基づく多臓器不全の定義に関するカンファレンスが開催され,ここで初めて明確な敗血症の定義付けがなされ,敗血症診療の根幹が誕生した[1].しかしながら,529名の集中治療医を含む1058名の医師に対するSCCMと欧州集中治療医学会(ESICM)の調査では,依然として67%の医師が敗血症の定義を認知しておらず,また正しい知識を持ち合わせていないために83%の医師が敗血症を誤診するという事態が発生していた[2].こうした医師への認知度の低さを受けて,2001年にはSCCM,ESICM,ACCP,米国胸部学会(ATS),外科感染症学会(SIS)が敗血症の定義をより明確化し,正確な認知のもと正しい敗血症診療を励行するためにカンファレンスを開催した[3].同時期に米国では敗血症患者の診断と治療に関する正しい知識の普及の促進を目的にNISE(The National Initiative in Sepsis Education)が設立された.

■この流れの中で2002年にSCCM,ESICM,国際敗血症フォーラム(ISF)の合同カンファレンスがスペインのバルセロナで開催され,5年間で重症敗血症患者の死亡率を25%減らすという目標をかかげた国際的なキャンペーンであるSSC(Surviving Sepsis Campaign)が合意,開始された[4].そして,2004年には2つ目の目標である敗血症治療のためのガイドラインの作成・実行のため,世界初の敗血症管理指針を示したガイドラインの発表を行った.このガイドラインがSSCG 2004であり,SCCM,ESICM,ISFが筆頭となり,欧米豪などの全11学会による合同のステートメントという形をとっている.SSCGを発表した意図は,①より多くの臨床医や患者が重症敗血症,敗血症性ショックを正しく認知できるようにすること,②診断基準を確立することで,より早期の認知を可能にすること,③エビデンスに準拠した敗血症治療に関するガイドラインを作成すること,④ガイドラインに準拠したバンドルを作成し,すべての治療者に治療の優先順位を認識させること,⑤現場において職種を超えた敗血症治療に関する共通認識を持たせること,などとされる.

■SSCG 2004[5]はその後SSCG 2008[6],SSCG 2012[7]へと2度の改訂を経ている.
 SSCG 2004:16ページ,引用文献数135,11学会
 SSCG 2008:33ページ,引用文献数341,16学会
 SSCG 2012:58ページ,引用文献数636,30学会
SSCG 2004は実際の臨床診療に即した形で19の項目に分類されて記載されている.さらにこれらをup-deteし,欧米のみならず日本集中治療医学会(JSICM),日本救急医学会(JAAM)やインド,ラテンアメリカなどの国や地域を含めた全部で16もの学会や組織が参加し,SSCG 2008が発表され,Crit Care Med誌とIntensive Care Med誌に発表された.しかし,このときは米国胸部疾患学会ATSや豪州ニュージーランド集中治療医学会ANZICSが支持団体から離脱するということも生じていた.しかし,SSCG 2012ではANZICS,ATSからの支持が復活し,計30の学会に支持されるに至る.同時にSSCは第3の目標としてインターネットツールを利用した敗血症のデータ収集と教育をかかげた.

■このSSCGを受けて,世界クリティカルケア看護師連盟(World Federation of Critical Care Nurses:WFCCN)[8]は2011年に,63項目の看護ケア推奨項目からなる看護師版SSCGをCritical Care Medicine誌に発表している[9]

■SSCG 2008ではGRADE systemが採用されている.すなわち,従来のエビデンスの質に応じたAからDまでの方法論に加え,推奨の強さが1,2の数字で付記された.このシステムはSSCG 2012でも同様であるが,SSCG 2012ではエビデンスレベルにUngradedも追加された.
エビデンスレベル
A:無作為化比較試験
B:質の低い無作為化比較試験,もしくは質の高い観察研究
C:十分に検討された観察研究
D:症例報告もしくは専門家の意見
UG:Ungraded.エビデンスはなくグレード分類できないが推奨されうる

推奨度
1(強い推奨度;recommend):転帰や負担,コストなどにおいて利益が不利益を明らかに上回っており,多くの臨床現場で採用されているもの.もしくは構成委員の投票が70%以上のもの.
2(弱い推奨度;suggest):利益が不利益を上回ることは予想されるが十分な根拠に乏しいもの.もしくは構成委員の投票が70%未満のもの.

これにより,エビデンスレベル偏重ではなく,文献的根拠が乏しくても臨床上当然施行すべき治療内容にも十分な評価が与えられており,より実践的な書になっているといえる.

■SSCGは以下のウェブサイトで閲覧可能である.
http://ssc.sccm.org/Pages/default.aspx
また,本ブログにおいても以下で解説をしている(腎代替療法以降がまだですが・・・).
http://drmagician.exblog.jp/19671598/

■SSCでは敗血症診療における重要なツールとして重症敗血症バンドルを制定している.バンドルを用いることで複雑な敗血症の治療過程をわかりやすいものにするとしている.バンドルとは,「重要な推奨項目を個別にそれぞれ実践するのではなく,それらを一纏めにして包括的にした方がさらに高い治療効果が得られる」という目的から,「1つに束ねたもの(バンドル)」となっている.SSCのサイトにはバンドルの一例が紹介されているが,バンドルはそれぞれの施設が各々の実情に合わせて改変するものとしている.近年なされた研究で,SSCの敗血症診療に対する教育的介入後もバンドルの遵守率が極めて低いことが懸念されている.各々の施設において,治療者の誰もが理解し,定められた時間内で実践しやすく,全項目を漏れなく遵守できることがバンドルの理想型である.

2.SSCGの成果,癌患者の敗血症治療成績
■LevyらはSSCGの評価として米国・欧州・南米の多施設研究を行い,SSCG遵守率上昇とともに死亡率が有意に低下したことを報告した[10].また,Kumarらは2000年から2007年までの敗血症の調査を行った[11].この調査では,敗血症患者は増加し,障害臓器数でみた重症度も重症化傾向となってきているにもかかわらず,平均入院期間,死亡率は改善傾向にあり,SSCGの効果が示されている.スペインでもバンドル遵守の教育を行うことで重症敗血症の死亡率が減少したと報告している[12].中国からもSSCG遵守による大幅な死亡率改善が報告されており[13],日本でも2007年に日本集中治療医学会で行われた第1回Sepsis Registry調査結果[14]では院内死亡率が37.6%であったが,2010年末に行われた第2回調査では20%台後半まで改善しているとのことである.Barochiaらは,8報の臨床研究の解析を行い,バンドル遵守によって生存率が向上することを示した[15]

■造血器腫瘍,固形癌などの悪性新生物を有する患者の敗血症の予後は悪いと昔からされてきた[16].しかしながら抗菌薬の進歩とその適正使用がすすめられ,1990年台から2000年台前半にかけての10年で死亡率は大きく改善してきている[17].それでもSSCG 2004発表直前までの報告ではおおむね28日死亡率は60%前後であった[17-20].SSCG導入後の報告ではSchnellらによるICUに入室した敗血症性ショック患者147例(癌治療済み群82例,未治療担癌群20例,悪性腫瘍なし群45例)の後向き解析がある[21].この報告ではノルアドレナリン最大投与量・投与期間,人工呼吸,腎代替療法,28日死亡率が3群間で有意差がなかった(43%vs50%vs49%)と報告している.

■癌患者の敗血症治療では,ときに非侵襲的医療介入のみで治療してほしいという家族からの希望がでることもある.Hanzelkaら[22]は癌患者の敗血症性ショックにおいて,SSCGの中でも特に予後に直結する蘇生バンドルのEGDT(Early Goal Directed Therapy)を非侵襲的要素のみで組んだ治療アルゴリズムを導入し,導入前後で比較を行ったところ,28日死亡率は20%vs38%で,導入後に有意に改善したと報告している.このように,癌患者で非侵襲的治療に限定した難しいケースであっても,SSCGにできる限り準じた治療を行うことで非担癌患者と同等レベルの治療成績をだせることが示されてきており,癌を有するからといって敗血症治療を簡単にあきらめるような時代ではなくなってきている.近年,癌救急(Oncologic Emergency)[23-25]が日本でも国立癌センターから導入が始まっており,癌患者におけるさらなる敗血症治療成績の向上が望まれる.
※癌治療で有名なMDアンダーソン病院では44床の癌救急病床を有するとのことである.

3.SSCGと今後の敗血症治療の展望
■SSCGは急性期の敗血症診療のみにスポットをあてている.しかし,実際には敗血症に至る過程においては感染症が先行して存在しており,根本は感染症発症予防である.敗血症死亡者数はいまだに多く,毎日1万人以上が敗血症で死亡している.また,退院後もQOLの障害は続いており,これが長期予後に影響を与えている可能性がある.実際に,敗血症症例が重症病態から脱し,一般病棟へ,あるいはほかの医療機関に転出した後にも死亡例が多いことが注目されている[26,27]

■世界敗血症同盟(World Sepsis Alliance)は2012年9月13日の世界敗血症デー(World Sepsis Day)のステートメントで,2020年までに達成すべき5つの目標の中に,「敗血症を予防する戦略(ワクチン等)により敗血症発症率を世界的に20%減少させること」,「適切なリハビリテーション・サービスの利用」を掲げている.また,時を同じくして,長期予後への影響に対する対策を練る必要があるとようやく認識され,米国集中治療医学会コンセンサス会議において,PICS(Post-Intensive Care Syndrome:集中治療後症候群)の概念が提唱された[28].PICSはICUで集中治療を受けた生存患者のみならず家族をも巻き込んでしまうこと,呼吸障害やICUAW(ICU-Acquired Weakness)をはじめとする神経筋障害などの身体的障害や認知機能障害のみならず精神的障害も生じうることを重要視している.救命のために不可避な治療行為の侵襲性は想像している以上に患者の長期予後に大きな影響を与えており,救命という短期予後改善の引き換えに医原性の長期予後悪化を伴うというジレンマが生じている.

■SSCGの次回の改訂(おそらく2016年)においてこの敗血症予防と長期予後改善・PICSの改善が盛り込まれるかどうかは不明である.この敗血症急性期の前後の目標に関しては三次救急医療施設のみならず,開業医,二次施設,リハビリテーション施設までをも巻き込んだエビデンスが必要となる.しかしながら,SSCGの認知度は三次救急医療施設以外ではまだまだ低い.

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by DrMagicianEARL | 2013-08-06 14:19 | 敗血症 | Comments(0)

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