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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

重症敗血症の酸素療法・呼吸管理・鎮静

■敗血症性ショック全例に酸素投与を行う理由は,諸臓器が灌流障害による酸素欠乏状態にあるからである.たとえパルスオキシメータでのSpO2やPaO2が正常値を示していても,それが体内臓器に酸素が足りている根拠にはならない.別の項でも解説するが,ScvO2が正常値であっても酸素が足りているとは限らないケースがある.

■組織の酸素需要増加に見合った酸素供給がなされていない状態では,相対的虚血により嫌気性代謝が亢進し,H+や乳酸の産生が高まり,代謝性アシドーシスが進行する.呼吸数増加はこの代償機構の現れである.呼吸代償によっても平衡が保てなくなったとき,アシデミアが出現し,酸素解離曲線が右方にシフトするため,肺におけるヘモグロビンの酸素飽和度が低下することを念頭におかなければならない.よって,PaO2 100-150mmHg程度になるような酸素投与が急性期は優先される.

■挿管適応のない敗血症性ショック全例に非侵襲的陽圧換気NPPV(主にCPAP mode)を装着開始するとよい.理由は,循環動態管理,臓器障害を防ぐためにも大量の輸液は不可避であり,それに伴う肺間質浮腫のリスクも高まるためである(敗血症性ショックではある程度うっ血をきたしてでも大量輸液が優先される).事前にNPPVを導入することで,患者の速やかなNPPV受けいれができ,さらに間質浮腫をおさえることができる.また,肺血管拡張により肺胞に隣接する血流が速まり,ガス交換効率が減少し,シャントが出現するが,CPAPをかけることで肺胞が膨張し,肺毛細血管が扁平化し,シャントが減少する.

■あくまでも増悪時は挿管人工呼吸を行うことを念頭にすべきであるが,ある程度までの呼吸不全患者に対して良好な補助換気を与え,挿管を回避できる可能性がある.

■人工呼吸器患者では現在肺保護療法が原則であり,「肺胞虚脱をつくらず,肺胞を開き続け,酸素濃度は低く保ち,過大な圧・容量負荷を避ける」に集約される.具体的な戦略としてopen lung strategy,低1回換気量換気,高二酸化炭素血症の許容(permissive hypercapnia)があり,とりわけALI/ARDSリスクが非常に高い敗血症病態においてはALI/ARDSにおける換気療法に準じた呼吸管理が必要である.

■重症敗血症において鎮静を行う理由は,酸素消費量の軽減だけではない.敗血症病態に限らず,SIRS病態では,その初期には交感神経緊張により血漿カテコラミン濃度が高まっている.実際に呼吸が促迫していることなどからも交感神経緊張度を評価できる.しかし,このような交感神経緊張度は長く持続できるものではなく,やがては内因性カテコラミンが枯渇し,ショックが具現化される.交感神経緊張状態を早期より回避し,生体のホメオスタシスをコントロールする必要があり,ここに鎮静と鎮痛の役割がある.

■近年,交感神経と副交感神経のバランスは,免疫担当細胞に影響を与えることが分子レベルでも明らかにされてきている[1-3].アドレナリン作動性β受容体は,心血管系に限らず,単球/マクロファージ,リンパ球,好酸球,肥満細胞にも発現し,単球/マクロファージやリンパ球では特にβ2受容体を介して炎症性物質の産生に関与する.結果として,β受容体刺激は,転写因子NF-κBを活性化させ,炎症性サイトカインや血管拡張作用のあるiNOS,プロスタノイドの産生を転写段階で高める.また,β受容体刺激によりマクロファージは泡沫化傾向が高まり,一時的に炎症活性が高まった後に機能不全となることも確認されている[4].このような観点からも,単球やリンパ球などの性状を維持させるために,敗血症の病態では鎮静の抗炎症作用が期待される[5]

■一方,副交感神経活性は,敗血症病態の炎症活性を抑止することや,単球/マクロファージの活性を低下させることが確認されている[6,7]

■以上の観点から,敗血症病態の交感神経緊張をまず鎮静,鎮痛により緩和し,さらに鎮静のレベルに日内変動をもたせ,交感神経と副交感神経の緊張バランスを1日の中でバランスよく変化させることにより,免疫担当細胞のホメオスタシスを維持できる.鎮静はSSCGにおいても積極推奨されている.また,同様の作用であるβ遮断薬が近年敗血症治療のひとつとしてその効果が期待されている.

[1] Kohm AP, Sanders VM. Norepinephrine and beta 2-adrenergic receptor stimulation regulate CD4+ T and B lymphocyte function in vitro and in vivo. Pharmacol Rev 2001; 53: 487-525
[2] Rough J, et al. beta2 Adrenoreceptor blockade attenuates the hyperinflammatory response induced by traumatic injury. Surgery 2009; 145: 235-42
[3] Tan KS, et al. Beta2 adrenergic receptor activation stimulates pro-inflammatory cytokine production in macrophages via PKA- and NF-kappaB-independent mechanisms. Cell Signal 2007; 19: 251-60
[4] Novotny NM, et al. beta-Blockers in sepsis: reexamining the evidence. Shock 2009; 31: 113-9
[5] Wang H, et al. Cholinergic agonists inhibit HMGB1 release and improve survival in experimental sepsis. Nat Med 2004; 10: 1216-21
[6] Wang H, et al. Nicotinic acetylcholine receptor alpha7 subunit is an essential regulator of inflammation. Nature 2003; 421: 384-8
by DrMagicianEARL | 2011-11-12 12:01 | 敗血症

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