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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

重症敗血症における循環動態モニタリング(2)(MAP,PiCCO)

4.動脈カテーテルと平均血圧(MAP)
■動脈カテーテル(AC)挿入については敗血症性ショックでは極力施行すべきかもしれないが,ショックでなければ挿入は不要と考えられる.理由としては,敗血症性ショック病態では後述の通りACの計測圧が正確でなく,カテーテル感染のリスクも中心静脈カテーテルより高いからである.

■圧波形がどのような管の中を伝わろうが,主に管の物理的特性により共振と減衰は避けられない.心臓から血管内を伝わる血圧波形も例外でない.大動脈内では末梢血管と違い,血管収縮の影響は少ないとされているが,大動脈弁部,弓部,横隔膜部,分岐部の心臓カテーテルで計測した圧波形を見ても,共振の影響で遠位になるほど波形が尖鋭化する[1].さらに末梢に伝わると,正常時は共振と減衰,反射の影響を受け,波形はさらに尖った波形となる,すなわち撓骨動脈では収縮期血圧は高く表示される.

■心臓近くの血圧波形は末梢からの反射の影響はないが,末梢の動脈圧は末梢からの反射の影響を大きく受ける.基本的に心臓からの圧に末梢からの反射波が少し遅れて加わるため波形の幅は広くなる.逆に反射の影響が少ないと細い波形になりやすい.末梢血管が拡張していると反射の影響が少なくなり,静脈圧に近くなり,末梢動脈での血圧上昇は抑えられる.敗血症性ショックなどで末梢血管抵抗が極端に低い場合は動脈カテーテルでの圧がむしろ異常に低くなることがあるので注意が必要である.実際,敗血症性ショック患者の撓骨動脈にカテーテルが挿入されている状態で手を握ることで末梢血管抵抗を高めると血圧は10mmHg程度容易に高く表示される.

■このように,動脈カテーテル圧は共振だけでなく末梢血管抵抗にも左右されるが,非観血的血圧(NIBP)は末梢血管抵抗の影響をほとんど受けず,上腕よりも心臓側の圧をよく反映しているので,NIBPは末梢血管抵抗の変化や圧測定回路による圧変化に左右される撓骨動脈カテーテル圧よりも信頼度は高い.一方で,中心部の大動脈圧をより正確に反映するのは鼠径動脈であると報告されており[2],血圧の正確さで見れば撓骨動脈よりも鼠径から動脈カテーテルを挿入する方がよい.ただし,感染リスク上昇を加味する必要がある.先述の内頸と大腿での静脈カテーテルでの感染率に有意差がないという報告[3]は動脈カテーテルでそのままあてはまるわけではない.実際に中心静脈カテーテルでの感染確率は一定である[4]のに対し,動脈カテーテルの感染確率は留置日数に比例すると報告されている[5].短期で抜去できる見込みがあるのであれば大腿動脈が推奨されるが,最終的には主治医の判断ということになる.

■一方で,NIBP(非観血的血圧:自動血圧計による測定値)にも測定機器の違い,カフ選択,カフ装着部位,不整脈,体動など様々な誤差要因が存在する.また,NIBP測定器は本来は高血圧の検知を目的にしているよう精度が設計されており,それゆえに特に低血圧時には正確性に欠けると指摘する論文がいくつかある[6,7].しかし,平均動脈圧<65mmHgの患者群に対してNIBPと動脈カテーテル圧を比較した報告では,NIBPが十分な代用となる可能性が示されている[8].加えて,先の撓骨動脈カテーテル圧の誤差要因を考慮すれば,敗血症性ショックにおいてはNIBPの方が正確と言える.それでも動脈カテーテル挿入が必要な理由は,頻回の採血が必要であることに加え,血圧のみならず連続的な血圧変化がとらえられ,呼吸性変動などの波形変化から得られる情報も非常に有用であるからである.

■なお,ゼロ点は心臓の高さに合わせるのが基本である.しかし,動脈カテーテル圧と異なる場合は,便宜的にNIBPの平均血圧に合わせて圧トランスデューサの高さを変えることがよく行われているが(1cmあたり0.736mmHg変化する),先述の通り,末梢血管抵抗が急性期に大きく変化する敗血症性ショック病態においてはこの方法は行うべきではない.

■血圧には,収縮期血圧SBP,拡張期血圧DBP,平均血圧MAPの3つの数字がある.重症管理患者におけるそれぞれの臨床的な意義は,
SBP:左室後負荷と動脈性出血リスクに関与
DBP:冠血流の決定因子
MAP:心臓以外の臓器灌流の決定因子
となる.血圧が低いことが問題になるのは臓器血流量が減少するからであり,それを決定するのは冠血流を除いてはMAPである.よって,集中治療においてはMAPが最も重視されるべき項目である[9].NIBPの場合はMAPを以下の式から推測する.

MAP=DBP+(SBP-DBP)/3=SBP/3 + DBP×2/3

つまり,MAPを推測する場合,DBPがSBPの2倍重要であることを意味しており,敗血症性ショックにおいてはSBPの価値は高くない.実際に敗血症においてはMAPが60mmHgと28日死亡率の関連が強く,SBPと死亡率の関連閾値は見出せなかったと報告されている[10]

■血圧89/68と102/50では,昔のショックの定義であれば前者がショックで後者が正常である.しかし,MAPを見ると前者は75,後者は59であり,後者の方が臓器灌流障害が生じている可能性がある.このように,SBPを当たり前のように臨床で使用しているとショックを見逃す可能性があること肝に銘じる必要がある.

5.肺経由動脈熱希釈法(PiCCOシステム)
■CVP,PAWPについては,近年その信頼性におおいに疑問を持たれている[11,12].所有施設は限られるが,近年,CVPやPAWPに代わる指標として,肺経由動脈熱希釈法(PiCCOシステム)による計測値が研究されている.

■PiCCOの測定原理は,①脈圧波形解析(CO, ABP, HR, SV, SVR),②熱希釈法(CO, GEDV, ITBV, EVLW)である.PiCCOにより計測される心拡張末期容量global enddiastolic volume(GEDV)と胸腔内血液容量Intrathoracic blood volume(ITBV)が血管内容量の信頼性のある指標として報告された[12,13]

■また,肺血管外水分量としてEVLWが,肺血管の透過性指数としてPI(permeability index : PI=EVLW/ITBV)が注目されている.EVLWについては,2004年に動物実験モデルを用いて,PiCCOで計測されるEVLW値が,肺血管外水分量測定のgold standardである重量計測法による測定値とよく相関することが示されている[14]

[1] Watanabe H, et al. The discrepancy between invasive and noninvasive blood pressure. Sapp Med J 1990; 59: 111-7
[2] Dorman T, et al. Radial artery pressure monitoring underestimates central arterial pressure during vasopressor therapy in critically ill surgical patients. Crit Care Med 1998; 26: 1646-9
[3] Parienti JJ, et al. Femoral vs jugular venous catheterization and risk of nosocomial events in adults requiring acute renal replacement therapy: a randomized controlled trial. JAMA 2008; 299: 2413-22
[4] Infect Cont Hosp Epidemiol 2000; 21: 371-4
[5] Lucet JC, et al. Infectious risk associated with arterial catheters compared with center venous catheters. Crit Care Med 2010; 38: 1030-5
[6] Dellinger RP, et al. Surviving Sepsis Campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2008. Intensive Care Med 2008; 34: 17-60
[7] Antonelli M, et al. Hemodynamic monitoring in shock and implications for management. International Consensus Conference, Paris, France, 27-28 April 2006. Intensive Care Med 2007; 33: 575-90
[8] Lakhal K, et al. Tracking hypotension and dynamic changes in arterial blood pressure with brachial cuff measurements. Anesth Analg 2009; 109: 494-501
[9] Lamia B, et al. Clinical review: interpretation of arterial pressure wave in shock states. Crit Care 2005; 9: 601-6
[10] Dunser MW, et al. Arterial blood pressure during early sepsis and outcome. Intensive Care Med 2009; 35: 1225-33
[11] Marik P. Handbook of evidence-based critical care. New York : Springer-Verlag, 2001
[12] Lichtwarck-Aschoff M, et al. Intrathoracic blood volume accurately reflects circulatory volume status in critically ill patients with mechanical ventilation. Intensive Care Med 1992; 18: 142-7
[13] Sakka SG, et al. Assessment of cardiac preload and extravascular lung water by single transpulmonary thermodilution. Intensive Care Med 2000; 26: 180-7
[14] Katzenelson R, et al. Accuracy of transpulmonary thermodilution versus gravimetric measurement of extravascular lung water. Crit Care Med 2004; 32: 1550-4
by DrMagicianEARL | 2011-11-19 16:24 | 敗血症

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