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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

EGDT(Early Goal-Directed Therapy)とELGT(Early Lactate-Guided Therapy)

2011年11月21日作成
2014年6月24日改訂

Summary
・EGDTは敗血症性ショック治療の中心となる急性期循環管理プロトコルであり,6時間以内に循環動態を改善させることを目標としている.
・たとえ6時間たってEGDTが達成できていなくても,12-18時間以内であれば予後は改善しうるとする報告があり,6時間を超えてもあきらめずにEGDTは続けるべきである.
・敗血症性ショックでの急速大量輸液は必須であるが,輸液過剰となると予後を悪化させる可能性が指摘されていることは知っておく必要がある.
・過去の多くのコホート研究でEGDTが敗血症性ショックの死亡率を改善させたと報告している.
・ProCESS trialではEGDTがプロトコルを用いない治療法(通常治療群)に比して死亡率を改善させなかったが,全体の死亡率が低く,経験豊富な救急集中治療医が治療を行っていることが通常治療群の死亡率の低さを担保しており,EGDTが有用でないと判断すべきではなく,敗血症治療に慣れていない施設ではEGDTを推奨すべきである.
・ScvO2の代わりに乳酸クリアランスを評価したEGDT(ELGT)は有用であると思われる.

1.EGDTとは?

■EGDT(早期目標指向型治療;Early Goal-directed therapy)はSurviving Sepsis Campaignで推奨されている治療概念であり,抗菌薬治療とは独立した,敗血症性ショック治療の中心となる治療法である.これまで急性期循環管理にEGDTを導入したのは,1988年のShoemaker WCらの報告[1]にさかのぼり,その後の報告[2-5]によっても酸素消費量を改善するには至適な循環血流量の維持が必要であることが示されていた.

■EGDTの有用性を広く知らしめたのは2001年のRiversら[6]の報告である.この研究では,救急初療の段階で敗血症性ショックと診断された患者263例の患者をEGDT群と対照群で比較したRCTであり,カテコラミン投与に優先して十分な輸液を行い,中心静脈酸素飽和度を改善させるEGDTによって,末梢の虚血に伴う代謝性アシドーシスと乳酸産生を救急初療の段階で有意に軽減し,院内死亡率は30.5%vs46.5%(p=0.009)でEGDT群が有意に低かった.このEGDTでは,ショック初期6時間におけるScvO2≧70%達成率は94.9%vs60.2%,7-72時間後の人工呼吸器装着率は2.6%vs16.8%でいずれもEGDT群の方が低い結果となっており,敗血症性ショックに対するEGDTが有効であると結論づけている.

■このRiversらの報告では,ショックが進行性病態であり時間経過に伴い不可逆的循環不全へ移行する可能性があること,輸液の治療目標を具体的に定めるべきであること,初期の必要な輸液により院内死亡率を低下させる可能性を示したと考えられる.また,NNT 6.25と,他の敗血症治療よりもはるかに優れていることが示されている.それまで敗血症性ショックで有意な死亡率改善を示した大規模studyはほとんど存在しなかったが,本報告が与えた影響は絶大であり,その後,EGDTを導入したプロトコルで死亡率が改善したという報告が相次いでおり,SSCGにおいても初期蘇生の中心的治療と位置づけられている.

■EGDTに沿った治療法をICUに入室してから行うのは時間のロスが大きく,EGDTはERから直ちに治療を開始してICUに引継ぎ,来院から6時間継続して全身管理を完了させることが絶対目標となる.EGDTの周知徹底はICUスタッフだけでは足りない.敗血症患者に最初に接触するのはむしろERや一般病棟スタッフである.マンパワーや慣れしだいで患者予後は変わり,入室時刻や発症場所はその重要な要因となる.フィンランドのICU調査報告では,週末に入院した患者の死亡率は高く(OR 1.20),ICUにおける死亡は夜間に多かった(OR 6.89)[7].一般病棟から緊急ICU入室は,同じ重症度でも救急外来や手術室からのICU入室より死亡率が高い[8].敗血症患者はERを介して入院した方が,直接入院した場合より死亡率が低い[9].EGDTに含まれる循環作動薬については,3カ国28施設共同6514例コホート研究において,投与開始が1時間遅れるごとに死亡リスクは2%ずつ有意に増加すると報告されている[10].これらが示す通り,重要なのは初動である.敗血症は心筋梗塞などと違い突然心停止するといったことは起きないが,わずかな時間でも予後不良に直結する可能性がある.ICU以外のスタッフの初期治療とスピードは極めて重要である.

■EGDTは3段階のGoal方式であり,各段階のGoalを達成すれば次の段階の治療に移るというものである.
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■Sohnら[11]は敗血症性ショック患者332例の前向き観察研究を行い,蘇生バンドル達成までの時間が6時間以下,6-12時間,12時間超の3群の28日死亡率はそれぞれ13.3%,13.6%,29.5%であり,6時間を超えても,12時間までなら予後を改善しうることを示した.同様に,Cobaら[12]も,498例の前向きコホート研究において,蘇生バンドル達成までの時間について18時間でカットオフとすると,死亡率は18時間以内の方が有意に低いと報告している.このことから,たとえ6時間を超えてしまってもEGDTは継続すべきである.

■一方で,EGDTに対する批判もある.CVPから推測される血管内容量の信頼性は実際には低いとの指摘も多く,CVPのみに依拠した輸液管理には危険がある.また,敗血症では組織の酸素代謝障害をきたしやすく,ScvO2は組織酸素摂取率(O2ER)が決定因子であり,酸素代謝異常が存在する敗血症患者で低O2ERが著明になれば,組織酸素欠乏状態にも関わらずScvO2は高値を示してしまう.それゆえ,ScvO2が敗血症患者の循環管理指標として不適切という指摘も多い.

■なお,本記事では詳細は扱わないが,EGDTにおいて輸液過剰が生じることが近年問題視されていることは知っておく必要がある[13].More is not always betterの原則の通り,輸液が過剰となると逆に予後が悪化する可能性も指摘されており[14],敗血症性ショック病態において急速輸液は必須であるものの,どこまで投与するか,何をモニタリングするのがベストであるかの検証が今後の課題である.

2.RiversらのEGDTプロトコルの検証 ~ProCESS trial~

■画期的と言われたRiversらの研究は,その後CVPやScvO2の有用性が疑問視されても[15]なおSSCGにおいて蘇生プロトコルに最重要な治療戦略として組み込まれて続けている.この10年以上も前の古いプロトコルが推奨され続けてきた背景には,EGDTそのものの有効性を非EGDTと比較して評価したRCTが実はRiversらの報告以降1報もなかったという事情もある(個々の指標を評価したRCTはある).いかなるエビデンスもといえどもその妥当性はTPO(Time Place Occasion)の影響を免れない.質の高いシステマティックレビューによるエビデンスでも賞味期限1年以内が15%,2年以内が23%,賞味期限の平均期間はわずか5.5年(95%CI 4.6-7.6)しかなく[16],RiversらのEGDTプロトコルが再検証されるのは必然の流れであった.

■このような流れの中で3つの大規模多施設共同RCTであるProCESS,ARISE,ProMISeが進められた[17].この3つのRCTはデータを統合して解析可能であることも報告されており[18],最終的に3つの結果すべてが出揃えば精密なメタ解析がなされるものと思われる.

■そして,これらの3つのRCTのうちの1つ,ProCESS trialの結果[19]が2014年3月にthe New England Journal of Medicineにonline publishされ大きな話題となった.本研究は米国31施設のERで行われ,敗血症性ショック患者を6時間の蘇生において,EGDTプロトコル(Riversのプロトコル+尿量モニタリング)群,収縮期血圧(100mmHgでカットオフ),ショック指数(0.8でカットオフ),尿量を指標に輸液負荷,循環作動薬を投与した標準治療プロトコル群,プロトコルを用いない通常治療群の3群に割り付けた1341例の大規模RCTである.60日死亡率はEGDTプロトコル群21.0%,標準治療群18.2%,通常治療群18.9%(プロトコルvs通常治療 RR 1.04; 95%CI 0.82-1.31; p=0.83 / EGDTプロトコル vs 標準治療プロトコル RR 1.15; 95%CI 0.88-1.51; p=0.31)であり,有意差はみらず,また,90日死亡率,1年死亡率,臓器支持療法の必要性についても有意差はみられなかったことから,「ERで診断された敗血症性ショック患者へのプロトコルに基づいた蘇生は予後を改善させなかった」と結論づけている.

■Riversら研究の時とProCESS trialでは支持療法が異なる.とりわけ,敗血症の早期認知,早期の抗菌薬治療開始,NICE-SUGAR studyで示された中等度レベルでの血糖管理,低1回換気戦略といった部分で予後が当時よりさらに改善しており,死亡率が20%前後というのは歴代の敗血症性ショック患者を対象とした大規模RCTの中でも最もよい治療成績である(平均APACHEⅡスコアは20.7).これは研究前の予想死亡率,APACHEⅡスコアからの予測死亡率よりも低い.このような背景から死亡率に差がつかなかった可能性もある.

■このProCESS trialの結果から,「EGDTプロトコルは無効だった」という解釈をしている人が続出したが,これについては注意が必要である.このProCESS trialの結果はRiversらの功績を否定するものではない.事実,EGDTによって死亡率が低下したとするコホート研究の報告は数多く存在する.Wiraら[20]はこれらの25報3566例のメタ解析を行い,EGDTプロトコルによって死亡率が有意に改善した(25.8% vs 41.6%, p<0.0001)と報告している.敗血症治療の基礎が定まっていなかった時代,あるいは敗血症治療の知識・経験が乏しい施設においてはEGDTが救命に大きく寄与してきたことは事実である.さらに,EGDTの普及を通して敗血症の循環動態を,治療概念を多くの医師に認知させることによりさらなる救命率の向上と研究を発展させた功績は大きい.Riversらが研究を行った時代は7割の医師が敗血症の定義を認知しておらず,また正しい知識を持ち合わせていないために8割の医師が敗血症を誤診するという事態が発生していたのである[21].こういった時代背景の違いもアウトカムの違いに影響がでたものと思われる.

■よって,敗血症治療成績がまだ芳しくない不慣れな施設においては,まずはガイドライン(SSCGや日本版敗血症診療ガイドライン)に沿ったEGDTの推奨によって治療水準を標準レベルまで上げるべきである.少なくとも今回のProCESS trialはEGDTが通常治療と比較して死亡率を改善させなかったというものであり,EGDTが予後を悪化させたわけではない.また,対照群とされた通常治療群の治療の質は経験豊富な三次救急施設の救急集中治療医によって担保されており,そうでないならばEGDTプロトコルに従っておく方がbetterであろう.

3.乳酸値を指標としたEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)

■現在の臨床現場においてはこのRiversらのプロトコルをそのまま用いている施設はむしろ少ないのではないかと思われる.各施設でカスタマイズされたEGDTプロトコルを施行していることが予想され,このProCESS trialの結果を受けて現在の敗血症性ショックの診療スタイルを変える医師はそれほどいないのではないだろうか?現在では乳酸値を指標としたEGDTを行っている施設は多いだろう.実際,乳酸値がScvO2より重要と考えている救急集中治療医は多いことが報告されている[22]

■EGDTがガイドラインで推奨されていた中,敗血症治療における乳酸クリアランスに関する研究報告がだされ,それらの結果をもとに2010年にJansenらが敗血症のみならず高乳酸血症をきたしたICU患者において,EGDT群と,乳酸値を指標にしたprotocolを作成してEGDTに組み込んだEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)治療群のRCTであるLACTATE studyを行った結果が発表された[23].それによると,乳酸濃度,昇圧薬使用期間,腎代替療法使用率では有意差がなく,ELGT群では輸液量,血管拡張薬の使用頻度が有意に増加したが,最終的にICU入室期間を減少させ,SOFA score,死亡率を有意に改善させた(43.5%vs33.9%).サブ解析では死亡率改善は特に敗血症患者において顕著であった.このELGTにおいては,乳酸値を2時間ごとに8時間計測し,前値より20%低下させることを目標においている.これにより,輸液量は増加するものの死亡率の改善が示されている.また,高乳酸血症是正のために血管拡張薬を用いている.

■さらに同年,Jonesら[24]が重症敗血症,敗血症性ショックの患者300例を対象として,EGDTでの初期蘇生目標をScvO2≧70%とする群と乳酸クリアランス≧10%/2hrを目標にする群で比較したRCTを報告しており,院内死亡率は23% vs 17%で統計学的有意差はみられなかった.

■また,Nguyenら[25]は,重症敗血症の蘇生バンドルに乳酸クリアランスを導入することが予後を改善するかを検討した,アジアの8つの3次救急施設における556例前向きコホート研究を2011年に報告しており,乳酸クリアランスのバンドル項目は有意な予後関連独立因子であり,乳酸クリアランスが高い方が死亡率が改善していた.

■これらの結果から,SSCG 2012では乳酸値を正常化させることを目標とした蘇生が推奨されるようになっている.

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by DrMagicianEARL | 2014-06-24 00:00 | 敗血症 | Comments(0)

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