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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

EGDTと大量輸液

■EGDTではショック出現後6時間までの輸液を重視している.これは単に血圧低下に対応しているだけではない(もっとも輸液のみで血圧が改善するケースも多いが).病態生理学的には敗血症性ショックに限ったものではなく,Alert細胞を活性化させるリガンドを希釈し,尿中排泄させる利点があるからであり,SIRS病態を抑える第一選択である[1,2].平均的には初期の6時間で晶質液を6-10L投与することが多い.

■敗血症における急性腎傷害(AKI)は,以前は他のAKIと同じく,高度の腎灌流の減少に伴う急性尿細管壊死(ATN)と考えられていた.しかしながら,実際にはヒトの敗血症性AKIの病理所見では尿細管の壊死所見がみられたのは25%未満と報告されている[3].Bellomoらの報告[4]では,敗血症においては腎灌流は減少しているどころか,逆にhyperdynamic stateのために増加していた.よって,現在では敗血症性AKIは輸出細動脈が高度に拡張し,糸球体内圧の低下が生じているために糸球体濾過率が減少していると考えられている.よって糸球体内圧を上昇させる輸液負荷,ノルアドレナリンによる血管収縮が有効である.

■2つのメタ解析で晶質液と膠質液では予後に有意差はないと報告されており[5,6],SSCG 2008ではこの2つの報告とコスト面から晶質液を用いることを推奨している.SAFE studyのサブ解析[7]においては重症敗血症への輸液負荷時は生理食塩水と比較してアルブミン投与が腎障害やその他臓器障害を起こさず死亡率を減らす可能性が示唆されたが,あくまでもサブ解析であり,新たな大規模RCTが必要である.アルブミンなどの膠質液は血管内ボリュームの早期改善とその効果の持続性がメリットではあるが,晶質液も十分量を投与すれば膠質液と同等の効果が得られる.また,どの種の輸液製剤が敗血症において優れているかというエビデンスはないが,そもそも研究した大規模スタディが少ない.

■生理食塩水は最も安価という利点がある一方で,大量急速投与で血中の重炭酸イオン濃度を希釈し,希釈性代謝性アシドーシスを起こしうる.また,高クロール血症も伴うと,重炭酸イオンはさらに減少し,代謝性アシドーシスが持続することがある.

■乳酸加リンゲルは,臨床的に乳酸が蓄積するような敗血症病態であっても,末梢組織の酸素代謝が改善して血中乳酸値が低下することから,ショック時でも頻用されている.その理由として,乳酸イオンそのものが生理的な物質であること,乳酸イオンも重炭酸イオンと同じくアルカリ化剤であること,他のリンゲル液に比して安価(118円)であることが挙げられる.一方で,乳酸代謝半減期は30分であるが,生体の代謝速度を上回る量が投与された場合は乳酸加リンゲル液投与による高乳酸血症を起こすことであり,特に肝不全や敗血症性ショックでは注意が必要である.また,乳酸加リンゲル大量輸液により,乳酸イオンの過剰負荷によるアルカリ化作用でショック回復後2-3日して高度の代謝性アルカローシスを起こすことがある.

■乳酸加リンゲルの問題点を解決したのが酢酸加リンゲルである(175円).さらに,細胞外補充液の中で最も生理的である重炭酸加リンゲルがあるが,高価(269円)であるのが難点である.

■以上の3種の細胞外補充液は,高価なものほどショック病態に向いてはいるが,実際の臨床的有意差は明らかではない.

■中心静脈圧(CVP)は前負荷(血管内容量)の指標として用いられ,これが低下することはすなわち心拍出量の低下につながり,組織酸素代謝に影響を与える.EGDTではCVPの目標値を8-12mmHgに設定している.しかしながら,近年,CVPは血管内容量の指標となりえない,CVPが輸液蘇生の指標としては不適切であるとの報告もあることを留意する必要がある.一方,CVPの呼吸性変動が1mmHg以上,あるいは5%以上あると輸液負荷により心拍出量が増加する反応群である,とも報告されており,CVPが正確に計測できない症例においてはこの指標を用いてもよいかもしれない.
→詳しくはこちら「重症敗血症における循環動態モニタリング(1)(ScvO2,CVP,PAC)

■ヒドロキシエチルスターチ(HES;ヘスパンダー®,サリンヘス®)は晶質液に比して凝固線溶障害を助長したり,急性腎傷害リスクが2倍になるなどリスクが指摘されてきており,実際に多くの研究報告で敗血症に対するHESによる有害事象が報告されている[8-11].重症患者の敗血症頻度や特徴を調査した多施設前向き観察研究であるSOAP研究[12]でもHES群は非HES群に比べ,敗血症発症率,死亡率が優位に高く,ICU入室期間,入院期間も有意に長かった.

■一方,Sakrらは2002年に行われたSOAP研究のデータベースから,HES投与の腎機能に及ぼす影響を抽出して検討したところ,HESは腎障害をきたす危険因子になりえないと結論づけており[13],SSCG 2008ではこれらの研究結果から「敗血症患者ではHESの投与によって急性腎不全のリスクが増大しうるが,多くの研究結果によりある種の輸液を限定的に推奨することはない」と控えめな見解で終わっている.

■しかしながら,Sakrの解析したSOAP研究ではHES投与は500-1000mL程度であり,腎に及ぼす影響を検討するには無理がある.そして,2008年に発表されたVISEP study[9]では輸液蘇生においてHESと乳酸リンゲル液のいずれかに無作為に割り付けて比較したが,途中段階でHES群で有害事象が有意に多いという理由で早期に中断された.最終的に評価可能であった患者537人において,28日死亡率は両群間で有意差がなかったものの,HES群では乳酸リンゲル液群よりも急性腎不全の頻度(34.9%vs22.8%)および腎代替療法の割合(31.0%vs22.8%)が有意に高かった.また,HESの累積投与量の増加とともに腎代替療法の頻度および90日死亡率が有意に上昇した.HESの腎障害については,膠質液の特徴である高浸透圧が関与している可能性がある[14].CRYCO研究グループの発表では,高浸透圧である膠質液を輸液蘇生に使用すると腎障害を発症する危険性が高まる(OR 2.48)という結果が報告されている[15].以上から,敗血症病態における初期蘇生でのHES製剤は用いるべきでない

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by DrMagicianEARL | 2011-11-22 11:56 | 敗血症

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