EGDTと昇圧剤
→平均動脈圧について詳しくはこちらを参照「重症敗血症における循環動態モニタリング(2)(MAP,PiCCO)」
■SSCG 2008ではwarm shockにおけるカテコラミン第一選択薬をドパミン(DOA),ノルアドレナリン(NA)のいずれでもよいとしている.しかしながら,敗血症性ショック初期は末梢血管拡張を特徴としたwarm shockであり,血管トーヌスを戻す目的でのα1受容体刺激が原則とすべきであり,NAを用いることが病態生理学的に理にかなっている.DOAでα1受容体刺激を期待するためには10γを越える高用量が必要となり,β受容体という不必要な受容体刺激をしてしまうことを留意しておく必要がある.
■敗血症性ショックではβ1受容体のdown regulationが生じたり,β1シグナルが阻害されるため,DOAでは陽性変力作用が期待できないばかりか,β2受容体を介して血管拡張や頻脈が生じ,むしろ昇圧を妨げてしまう[2-5].
■細菌にもβ受容体は存在し,DOA,DOB5γ以上の投与で菌増殖やバイオフィルム形成を促進してしまう[6].
■β受容体は単球/マクロファージ,リンパ球,好酸球,肥満細胞にも発現し,単球/マクロファージやリンパ球では特にβ2受容体を介して炎症性物質の産生に関与する.結果としてDOA・DOBによるβ受容体刺激は,転写因子NF-κBを活性化させ,炎症性サイトカインや血管拡張性物質の産生を高めてしまう.また,マクロファージはβ受容体刺激により泡沫化傾向が高まり,一時的に炎症活性が高まった後に機能不全となることも確認されている[7].また,β受容体刺激でリンパ球のアポトーシスが進行したり[8],好中球の遊走能が阻害される[9]ことも報告されている.
■これらのことから,warm shockにおいてはNAを第一選択とすべきであり,DOAは推奨されない.実際に,DOAよりもNAを推奨する報告が相次いでおり[10-12],2011年4月にはNAがDOAより有意に死亡率が低いとするシステマティックレビューが報告された[13].一方,NAは循環動態改善,腹腔内臓器血流(splanchnic perfusion)も改善し,心係数も上昇させず,28日後の予後もよいとされ,輸入・輸出細動脈ともに拡張している敗血症性急性腎傷害に対してもNAは著効する[14].
【2012/2/21追加更新】2つ目のメタ解析が報告され(Crit Care Med 2012; 40: 725-30),ドパミンはノルアドレナリンよりも死亡率・不整脈発生率が高いと結論され,ノルアドレナリン第一選択を支持する内容となった.今後のEBMに組みこまれると思われる.⇒詳しくはこちら
■SSCGでは目標血圧は平均血圧≧65mmHgとしており,上限は定めていない.しかし,EGDTを行う患者の9%は,カテコラミンを注視しても血圧が高くなりすぎるケースがあり,この場合は平均血圧を90mmHg以下にしなければならない.
■Warm ShockからCold Shockに転じる過程において,全ての血管が一斉に収縮に転じるわけではない.血管内皮細胞の障害度は部位によって異なり,ある部位は拡張していてもある部位は収縮しているという状態が併存する.重症病態では血液再配分機序(redistribution)が働き,脳,心臓などの重要臓器,組織へ血流がシフトし,皮膚,皮下組織,骨格筋,腸管などは真っ先に血液灌流が減少するため,部位によっては虚血の度合いが強く,早くに血管内皮細胞が傷害されてしまう.よって,血圧が回復しても臓器への血流灌流不全が続くことがあり,これをcryptic shock(神秘的ショック)と呼ぶ.血圧が維持されていても個々の臓器への血液灌流と微小循環は必ずしも保証されない.
■平均血圧が90mmHg以上に上昇したのは末梢血管が収縮に転じて後負荷が増大した可能性があるからである.心収縮力低下が軽度で済んでいる場合などではこのような血圧上昇現象が起こりえるため注意が必要である.この場合,末梢の微小循環が虚血状態に陥っている可能性があり,硝酸薬による末梢血管の拡張を行うべきである.
■warm shockの中にはNAに反応しないケースがある.乳酸蓄積によりATP依存性Kチャネルが開放し,Caが細胞内に流入できず,NOによる血管拡張の働きのみが残ることがあり,この状態はカテコラミン不応性である.このような病態においてはバソプレシンが有効とされている.バソプレシンは血管平滑筋を収縮させ,カテコラミンに対する反応性を改善し,血圧上昇に働く.本来は血圧が下がるとバソプレシンの血液中濃度は上昇する.
■実際に,敗血症罹患初期は血中バソプレシン濃度は一過性に上昇し,その後徐々に低下することが知られている[15].一般病棟ではこの低下の時期に敗血症が診断される場合も多い.NAとバソプレシンを比較したVASST study[16]では,28日死亡率に有意差がでなかったが,サブセット解析で低用量ステロイド療法を施行しなければならないような難治性warm shockにおいては,バソプレシンはNAより28日死亡率を有意に低下させたと報告している[17].実際,カテコラミン抵抗性の患者にNA単独とNA+バソプレシン併用を施行・比較検討したところ,併用した方が頻脈は減少し,平均動脈圧や心拍出量が増加,腸管血流が維持できたと報告している[18].また,バソプレシンには尿量とクレアチニンクリアランスを増加させることが報告されている[19].以上より,NAでも改善が得られないwarm shockに対してバソプレシン少量投与追加を推奨される.
■低用量ステロイド療法については賛否両論がある.この効果の是非については別の項目で述べるが,近年,バソプレシンとステロイドの相乗効果が注目されており,ノルアドレナリン+ステロイド併用群よりもバソプレシン+ステロイド併用群の方が反応がみられるとの報告が2篇あり[18,20],バソプレシン使用中で反応が乏しい場合にヒドロコルチゾンによる低用量ステロイド療法の併用を考慮する.
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