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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

EGDTと昇圧剤

■敗血症発症時には,正常時と同じ体内水分量であっても,末梢血管拡張・抵抗低下によって血圧低下が起こる.よって十分な輸液を投与するだけでもある程度の昇圧は期待できる.逆に,十分な輸液負荷がない状態では,血管透過性亢進による絶対的血管内血液容量減少や血管内皮細胞の障害による微小循環不全,それによる主要臓器の機能低下などが生じる.よって,輸液負荷が十分になされていない早期からのカテコラミン投与は改善を得られない[1]どころか,低血圧や頻脈が助長されることになり,ショックバイタルや組織酸素運搬が悪化することにもなりかねない.よって,EGDTのプロトコル通り,大量輸液によりCVPがある程度安定してから,平均動脈圧(MAP)が65mmHgを保てないようであればカテコラミンを使用する
→平均動脈圧について詳しくはこちらを参照「重症敗血症における循環動態モニタリング(2)(MAP,PiCCO)

■SSCG 2008ではwarm shockにおけるカテコラミン第一選択薬をドパミン(DOA),ノルアドレナリン(NA)のいずれでもよいとしている.しかしながら,敗血症性ショック初期は末梢血管拡張を特徴としたwarm shockであり,血管トーヌスを戻す目的でのα1受容体刺激が原則とすべきであり,NAを用いることが病態生理学的に理にかなっている.DOAでα1受容体刺激を期待するためには10γを越える高用量が必要となり,β受容体という不必要な受容体刺激をしてしまうことを留意しておく必要がある.

■敗血症性ショックではβ1受容体のdown regulationが生じたり,β1シグナルが阻害されるため,DOAでは陽性変力作用が期待できないばかりか,β2受容体を介して血管拡張や頻脈が生じ,むしろ昇圧を妨げてしまう[2-5]

■細菌にもβ受容体は存在し,DOA,DOB5γ以上の投与で菌増殖やバイオフィルム形成を促進してしまう[6]

■β受容体は単球/マクロファージ,リンパ球,好酸球,肥満細胞にも発現し,単球/マクロファージやリンパ球では特にβ2受容体を介して炎症性物質の産生に関与する.結果としてDOA・DOBによるβ受容体刺激は,転写因子NF-κBを活性化させ,炎症性サイトカインや血管拡張性物質の産生を高めてしまう.また,マクロファージはβ受容体刺激により泡沫化傾向が高まり,一時的に炎症活性が高まった後に機能不全となることも確認されている[7].また,β受容体刺激でリンパ球のアポトーシスが進行したり[8],好中球の遊走能が阻害される[9]ことも報告されている.

■これらのことから,warm shockにおいてはNAを第一選択とすべきであり,DOAは推奨されない.実際に,DOAよりもNAを推奨する報告が相次いでおり[10-12],2011年4月にはNAがDOAより有意に死亡率が低いとするシステマティックレビューが報告された[13].一方,NAは循環動態改善,腹腔内臓器血流(splanchnic perfusion)も改善し,心係数も上昇させず,28日後の予後もよいとされ,輸入・輸出細動脈ともに拡張している敗血症性急性腎傷害に対してもNAは著効する[14]
【2012/2/21追加更新】2つ目のメタ解析が報告され(Crit Care Med 2012; 40: 725-30),ドパミンはノルアドレナリンよりも死亡率・不整脈発生率が高いと結論され,ノルアドレナリン第一選択を支持する内容となった.今後のEBMに組みこまれると思われる.⇒詳しくはこちら

■SSCGでは目標血圧は平均血圧≧65mmHgとしており,上限は定めていない.しかし,EGDTを行う患者の9%は,カテコラミンを注視しても血圧が高くなりすぎるケースがあり,この場合は平均血圧を90mmHg以下にしなければならない

■Warm ShockからCold Shockに転じる過程において,全ての血管が一斉に収縮に転じるわけではない.血管内皮細胞の障害度は部位によって異なり,ある部位は拡張していてもある部位は収縮しているという状態が併存する.重症病態では血液再配分機序(redistribution)が働き,脳,心臓などの重要臓器,組織へ血流がシフトし,皮膚,皮下組織,骨格筋,腸管などは真っ先に血液灌流が減少するため,部位によっては虚血の度合いが強く,早くに血管内皮細胞が傷害されてしまう.よって,血圧が回復しても臓器への血流灌流不全が続くことがあり,これをcryptic shock(神秘的ショック)と呼ぶ.血圧が維持されていても個々の臓器への血液灌流と微小循環は必ずしも保証されない.

■平均血圧が90mmHg以上に上昇したのは末梢血管が収縮に転じて後負荷が増大した可能性があるからである.心収縮力低下が軽度で済んでいる場合などではこのような血圧上昇現象が起こりえるため注意が必要である.この場合,末梢の微小循環が虚血状態に陥っている可能性があり,硝酸薬による末梢血管の拡張を行うべきである.

■warm shockの中にはNAに反応しないケースがある.乳酸蓄積によりATP依存性Kチャネルが開放し,Caが細胞内に流入できず,NOによる血管拡張の働きのみが残ることがあり,この状態はカテコラミン不応性である.このような病態においてはバソプレシンが有効とされている.バソプレシンは血管平滑筋を収縮させ,カテコラミンに対する反応性を改善し,血圧上昇に働く.本来は血圧が下がるとバソプレシンの血液中濃度は上昇する.

■実際に,敗血症罹患初期は血中バソプレシン濃度は一過性に上昇し,その後徐々に低下することが知られている[15].一般病棟ではこの低下の時期に敗血症が診断される場合も多い.NAとバソプレシンを比較したVASST study[16]では,28日死亡率に有意差がでなかったが,サブセット解析で低用量ステロイド療法を施行しなければならないような難治性warm shockにおいては,バソプレシンはNAより28日死亡率を有意に低下させたと報告している[17].実際,カテコラミン抵抗性の患者にNA単独とNA+バソプレシン併用を施行・比較検討したところ,併用した方が頻脈は減少し,平均動脈圧や心拍出量が増加,腸管血流が維持できたと報告している[18].また,バソプレシンには尿量とクレアチニンクリアランスを増加させることが報告されている[19].以上より,NAでも改善が得られないwarm shockに対してバソプレシン少量投与追加を推奨される

■低用量ステロイド療法については賛否両論がある.この効果の是非については別の項目で述べるが,近年,バソプレシンとステロイドの相乗効果が注目されており,ノルアドレナリン+ステロイド併用群よりもバソプレシン+ステロイド併用群の方が反応がみられるとの報告が2篇あり[18,20],バソプレシン使用中で反応が乏しい場合にヒドロコルチゾンによる低用量ステロイド療法の併用を考慮する.

[1] 日本薬理学会誌2008; 131: 96-100
[2] Rudiger A, Singer M. Mechanisms of sepsis-induced cardiac dysfunction. Crit Care Med 2007; 35: 1599-608
[3] Kang M, Akbarali HI. Denitration of L-type calcium channel. FEBS Lett 2008; 582: 3033-6
[4] Cariou A, et al. Is myocardial adrenergic responsiveness depressed in human septic shock? Intensive Care Med 2008; 34: 917-22
[5] Hunter JD, Doddi M. Sepsis and the heart. Br J Anaesth 2010; 104: 3-11
[6] Lyte M, et al. Stimulation of Staphylococcus epidermidis growth and biofilm formation by catecholamine inotropes. Lancet 2003; 361: 130-5
[7] Tan KS, et al. Beta2 adrenergic receptor activation stimulates pro-inflammatory cytokine production in macrophages via PKA- and NF-kappaB-independent mechanisms. Cell Signal 2007; 19: 251-60
[8] Khan MM, et al. Beta-adrenergic receptors on human suppressor, helper, and cytolytic lymphocytes. Biochem Pharmacol 1986; 35: 1137-42
[9] Cioca DP, et al. Apoptosis of peripheral blood lymphocytes is induced by catecholamines. Jpn Heart J 2000; 41: 385-98
[10] Annane D, et al. Norepinephrine plus dobutamine versus epinephrine alone for management of septic shock: a randomised trial. Lancet 2007; 370: 676-84
[11] Asfer P, et al. Catecholamines and vasopressin during critical illness. Crit Care Clin 2006; 22: 131-49
[12] Guérin JP, et al. Effects of dopamine and norepinephrine on systemic and hepatosplanchnic hemodynamics, oxygen exchange, and energy balance in vasoplegic septic patients. Shock 2005; 23: 18-24
[13] Vasu TS, et al. Norephinephrine or Dopamine for Septic Shock: A Systematic Review of Randomized Clinical Trials. J Intensive Care Med online March 24. 2011
[14] Bellomo R ,et al. Vasoactive drugs and acute kidney injury. Crit Care Med 2008; 36: 179-86
[15] Barrett LK, et al. Vasopressin: mechanisms of action on the vasculature in health and in septic shock. Crit Care Med 2007; 35: 33-40
[16] Wiedemann HP, et al. Comparison of two fluid-management strategies in acute lung injury. N Engl J Med 2006; 354: 2564-75
[17] Russel JA, et al. Interaction of vasopressin infusion, corticosteroid treatment, and mortality of septic shock. Crit Care Med 2009; 37: 811-8
[18] Dünser MW, et al. Arginine vasopressin in advanced vasodilatory shock: a prospective, randomized, controlled study. Circulation 2003; 107: 2313-9
[19] Patel BM, et al. Beneficial effects of short-term vasopressin infusion during severe septic shock. Anesthesiology 2002; 96: 576-82
[20] Torgersen C, et al. Concomitant arginine-vasopressin and hydrocortisone therapy in severe septic shock: association with mortality. Intensive Care Med 2011; 37: 1432-7
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by DrMagicianEARL | 2011-11-23 11:38 | 敗血症 | Comments(3)
Commented by ノルアドン at 2014-07-30 08:57 x
大変勉強になります。
ご意見を伺いたいのですが、消化管穿孔からの敗血症性ショックでノルアドレナリンを使用して血圧維持していると、消化器外科医から腸管虚血するから止めて欲しい言われるのですが、ノルアドレナリンと腸管虚血に関していかが思われますか?
Commented by DrMagicianEARL at 2014-07-30 11:32
コメントありがとうございます.

確かに敗血症性ショック時は血流再分配機構により消化管虚血が起こりやすい状態になります.ただし,血圧が維持されている状態であればノルアドレナリンによって腸管虚血が生じたケースは私自身は見たことがありません(ただし,ノルアドレナリンが高容量or増量していくときやまだ大量輸液が必要な状態のときは注意が必要です).初期蘇生での急速輸液による血管内用量充填と(人工肛門を作っている場合は)経腸栄養により腸循環を回復させることで腸管虚血は防ぎえるものと思われます.実際,敗血症患者での経腸栄養における腸管虚血の可能性は1%以下です(Nutr Clin Pract 2003; 18: 279-84).

ノルアドレナリンをやめてほしいとなった場合,ドパミンを使用することになりますが,結局は臓器灌流を維持するためにはα刺激作用を要する10γ以上が必要となるケースが多く,ノルアドレナリンよりも腸管虚血リスクが低いかについては疑問ですし,メタ解析で示された通り,死亡率や不整脈リスクが増加してしまう以上,ノルアドレナリン以外を使用するメリットは乏しいと思われます.
Commented by ノルアドン at 2014-07-30 16:21 x
早速のお返事ありがとうございます。

私も同意見です。血管内volumeが充足している分には0%とは言いませんが、ノルアドレナリンによる腸管虚血は極めて低いと考えています。ガイドラインで推奨されているのも事実ですし。これからは注意が必要なときを意識しつつ、自信を持って使用できそうです。ありがとうございました。

by DrMagicianEARL