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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

敗血症とステロイド

■敗血症に対するステロイドパルス療法はすでに否定されている[1,2].そもそも合成グルココルチコイドは一部の細胞には確かに抗炎症作用を導くものの,敗血症病態においては効力を示さない.この理由として,合成グルココルチコイドは,
①グルココルチコイド受容体を発現させる細胞にのみ作用が限定されること
②細胞選択性がないこと
③Alert Cellは必ずしもグルココルチコイド受容体を発現していないこと
④敗血症進行の過程でグルココルチコイド受容体は発現量を減少させること
が挙げられる.

■ステロイド投与量を増加したとしても,グルココルチコイド受容体が存在しない以上,Alert細胞機能を抑制することはできず,結果的にはグルココルチコイド受容体の発現する白血球系細胞にアポトーシスを誘導し,感染症を増悪させてしまう[3]

■しかしながら敗血症においては副腎機能低下が進行し,ショック形成に関与していることを留意する必要があり[4,5],ステロイドカバーの役割を担う可能性がある.

■外傷や全身性炎症の急性期管理に用いられる薬物の中には,副腎機能を低下させる可能性のある薬物がある.ベンゾジアゼピン系鎮静薬やオピオイドはACTHの放出を抑制し,副腎皮質からのコルチゾル分泌を抑制する可能性がある.また,抗真菌薬であるケトコナゾールやフルコナゾール,シクロスポリン,フェニトイン]などはコルチゾル分解を促進させる.また,コルチゾル担体であるコルチコステロイド結合グロブリンは好中球エラスターゼの基質であり,好中球エラスターゼによりコルチコステロイド結合グロブリンが切断されるため,フリー体のコーチゾルの遊離が高まる.このため,局所炎症では好中球の浸潤によりコーチゾルレベルが高まり,細胞保護が合理的に行われているが,侵襲的手術や敗血症のように好中球エラスターゼレベルが血中で上昇する病態では,炎症部位へのコーチゾル運搬が障害される.敗血症性ショックや多発外傷ではアルブミンのみならずコルチコステロイド結合グロブリンが低下し,コルチゾルの血漿消失半減期が短縮することも知られている.

■ステロイドカバー目的で少量ステロイド長期間投与の有効性が報告されている.RCTにおいて,特に注目を集めたのがhydrocortisone 50mg×4/day+fludrocortisone 50mcg×1/dayを5日間投与するか否かで無作為化したもので[6],ステロイド投与の有無による全体での有意差はないものの,ACTH刺激試験への反応によってステロイドの効果が異なること,つまりACTH非反応群(副腎不全群,229例)では,ステロイドによって28日死亡率が63%から58%に有意に減少したことを報告した.2004年のmeta-analysisでは,ステロイドによって28日死亡率,ICU死亡率,入院死亡率が有意に減少し,消化管出血,高血糖,続発性感染などの合併症の増加を認めず,ステロイド使用によりショックの離脱率が高く,昇圧薬の使用期間が短くなることが報告された[7].このことから,SSCG 2004では低用量ステロイド長期間投与が推奨されるに至る.

■一方で,2008年のCORTICUS studyは症例数が500例と大規模であり,hydrocortisone 50mg×4/dayの5日間投与の有無による二重盲検化多施設RCTであった[8].これによると,28日死亡率は全体でもsub-set analysis(ACTH非反応群のみでの解析,ACTH反応群のみでの解析)でもステロイド投与によって変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc analysisでは,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.この報告を受けて,SSCG 2008では少量ステロイド療法の推奨度がやや後退することとなる.しかしながら,CORTICUS studyには①ベースの患者の重症度が低い,②ステロイド投与開始までの時間が長い(=すでに敗血症が軽快している可能性),③有意差を出すためにサンプルサイズを800人に設定していたが,期間内に症例を集めることができず500人で終了している,などの問題点が挙げられている.

■一方,2004年のmeta-analysisが2009年にup-dateされ,少量ステロイド長期投与による死亡率の軽減は,CORTICUS studyを加えてもなんとか維持されていた[9].また,ステロイド非投与群での死亡率からみた敗血症の重症度とステロイドの効果についても言及し,低用量ステロイドは死亡率が高いと予測される患者(重症患者)では有効となり,死亡率が低いと予測される患者(軽症患者)では害となりうることを示した.さらに,ACTH刺激試験の反応性に関わらず,ステロイドの効果は同様で,ステロイドによってショックから有意により多く回復することを報告した.すなわち,患者の重症度に応じてステロイドを使い分ける必要があり,重症度を想定していないSSCG 2004を遵守した場合は,死亡率に有意差はでていない[10]

■ACTH刺激試験において計測されるコルチゾルは総コルチゾルであり,フリーコルチゾルではない.血中のコルチゾルは通常90%が蛋白結合型の不活性型で,活性を持つのは残りの10%のフリーコルチゾルである.敗血症などの重症疾患では先述の通りフリーコルチゾルの割合が50%にまで増加する.しかし,特にアルブミン低下が著明な(<2.5 g/dL)重症患者では,フリーコルチゾルが正常または増加しているにもかかわらず,総コルチゾルは低く測定されてしまう.以上から,総コルチゾール測定では副腎機能低下を判定することは不正確であり,フリーコルチゾルの測定結果もすぐに得られない上に重症患者での基準値が明確でないという問題点から,ACTH刺激試験を行う意義は乏しいと考えられる.

■このような現状を踏まえ,敗血症などにおけるステロイド使用に関するsystematic reviewを行い,重症患者における副腎不全の定義と対処法に関するステイトメントが出された[11].これによれば,重症患者の中に副腎不全患者が存在し,敗血症性ショックやARDSの患者ではACTH刺激試験を行わず,グルココルチコイドを投与する.敗血症性ショック,特に輸液や昇圧薬に反応しない敗血症患者では,低用量のグルココルチコイドの使用を考慮すべきであるとしている.

■近年,バソプレシンとステロイドの相乗効果が注目されており,ノルアドレナリン+ステロイド併用群よりもバソプレシン+ステロイド併用群の方が反応がみられるとの報告が2篇あり[12,13],バソプレシン使用中で反応が乏しい場合にヒドロコルチゾンによる低用量ステロイド療法の併用を考慮する.


[1] N Engl J Med 1987; 317: 653-8
[2] N Engl J Med 1987; 317: 659-65
[3] Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2008; 295: 998-1006
[4] JAMA 2002; 288: 862-71
[5] Am Surg 2006; 72: 552-4
[6] JAMA 2002; 288: 862-71
[7] BMJ 2004; 329: 480-84
[8] N Engl J Med 2008; 358: 111-24
[9] Clin Microbiol Infect 2009; 12: 308-18
[10] Intensive Care Med 2010; 36: 222-31
[11] Crit Care Med 2008; 36: 1937-49
[12] Circulation 2003; 107: 2313-9
[13] Intensive Care Med 2011; 37: 1432-7
by DrMagicianEARL | 2011-12-07 11:28 | 敗血症

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