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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

重症敗血症と血糖コントロール

■敗血症患者では,インスリン抵抗性の増大により急性高血糖が頻繁に生じる[1].また,ブドウ糖輸液,ステロイド療法およびカテコラミン投与がインスリン抵抗性をさらに増悪させ,急性高血糖を増強させる.高血糖が発生あるいは継続することにより,多核白血球の粘着能・走化能・貪食能・殺菌能が低下し,感染防御能が低下する.このため,敗血症患者における血糖降下療法は重要と考えられてきた.しかし,その目標血糖値や管理法に関しては近年まで不明確なままであった.

■2001年と2006年に1施設無作為化比較試験であるLoeuven studyⅠ・Ⅱが行われ,これのmeta analysisによると,80-110mg/dLの血糖管理(IIT:強化インスリン療法)では,死亡率・有病率が減少するが,低血糖発生率が有意に上昇し,110-150mg/dLを目標とするならば,死亡率が軽減し,低血糖発生率は増加しないが有病率は減少しないと報告された[2].この結果をもとにSSCG 2008では,敗血症患者で推奨される目標血糖値を150mg/dL以下としている.しかしながら,Leuven studiesには統計法,研究法,IITそのものに問題点を抱えていた.このため,他の研究で血糖降下療法の効果の是非を再確認する必要があった.

■2008年に敗血症患者を対象としたIITの効果を検証した最初のRCTであるVISEP trial[3]では,IIT群による28日死亡率の低下は1.3%と軽微で,統計学的有意差はなかった.また,90日死亡率の検討では,IITは有意でないが4.3%死亡率を増加させた.さらに,IITは赤血球輸血率を有意に9.4%増加させ,透析必要率を有意でないが5%増加させた.低血糖(40mg/dL以下)の発生率は,コントロール群の4.1%と比較して,IIT群では17.0%と有意に増加した.又、低血糖の発生は敗血症患者の90日死亡の増加に関わると報告された.

■2009年に報告されたNICE-SUGAR trial[4]はICU患者を対象にIITに有効性を検討した最大のRCTで,IITの90日死亡に対する効果を通常血糖管理群(目標血糖値144-180mg/dL)と比較した研究であり,IITの検討に関して最も信頼に足るRCTであると評価を得ている.これによると,IITは28日死亡を有意でないが1.5%上昇させ,90日死亡を2.6%有意に上昇させた(IIT vs 従来型:27.5% vs 24.9%).また,血液培養陽性率は両群間で有意差はなかった.重症敗血症患者を対象としたsub-set analysisでも,IITは90日死亡を有意でないが2.5%上昇させていた.これにより,敗血症患者に対するIITの有害性が報告された.なお,本trialはIIT群で高度低血糖がみられたために早期に中止されている.

■現在までに報告されたすべてのエビデンスを統合すると,敗血症患者に対し強化インスリン療法を施行することは推奨することができない.このため,敗血症患者ではやや高めの血糖帯である144-180mg/dLを目標としてコントロールし,高血糖と低血糖の発生を防ぐのが最も妥当な方法であり,この血糖管理が敗血症患者の標準治療となると思われる.

■近年,DDP-4阻害薬の登場により,血糖値自体よりも血糖値変動(glucose variability)を抑制することの意義が注目されてきている.重症患者での血糖値変動増加と死亡率が相関していることが報告されており[5],さらに,重症疾患でのIITを提唱したLeuven studyの解析で,血糖の変動が大きい症例ほど予後不良であったとも報告されている[6].また,血糖値低下幅が大きいほど酸化ストレス増大,臓器障害,血管内皮細胞障害増大,アポトーシス促進が生じることが報告されている[7-11].以上より,速効型インスリン皮下注によるスライディングスケールでのジェットコースター型の血糖コントロールは行うべきではなく,血糖の変動幅をできるだけ抑えるためのインスリン持続静注によるアルゴリズムが必要となる.

■アルゴリズムは各病院での設定になるが,血糖幅を30mg/dL前後とする細かいインスリン静注速度変更のスケールを使用し,血糖測定を初期は1時間毎,安定すれば4時間毎に行うことが推奨される.

[1] South Med 2007; 100: 252-6
[2] Diabetes 2006; 55: 3151-9
[3] N Engl J Med 2008; 358: 125-139
[4] N Engl J Med 2009; 360: 1283-97
[5] Crit Care Med 2010; 38: 838-42
[6] Crit Care Med 2010; 38: 1021-9
[7] JAMA 2006; 295: 1681-7
[8] Diabetes 2003; 52: 2795-804
[9] Nature 2001; 414: 813-20
[10] Diabetes 2005; 52: 1615-25
[11] Am J Physiol Endocrinol Metab 2001; 281: E924-30
by DrMagicianEARL | 2011-12-08 11:15 | 敗血症

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