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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

敗血症講演会概要(2)

『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(2)

3.蘇生バンドル ~SSCGとの違い~
  蘇生バンドルは重症敗血症/敗血症性ショックに適応し,敗血症発症後(もしくは来院後)6時間以内に全項目を100%実践する.できる限り全例ICUに搬送して治療するが,急変場所はICU以外がほとんどである.この場合,ICUに搬送してからの治療開始では遅く,ER・一般病棟から施行開始する.

 流れとしては,まず重症敗血症と診断し,血液・尿・画像検査を行う. 検査において当院とSSCGと異なる点は,まず心臓超音波検査の重要性を強調している点である.敗血症病態では収縮能低下がしばしば生じ,輸液管理が重要なる異常,最低限度の簡単なものでよいので評価はしておくべきであるとした.また,エンドトキシンは計測すべきでないとした.これは,当院ではエンドトキシン計測が外注であり,結果が返ってくるのに数日を要するため,治療経過に影響を与えないこと,病原体由来因子PAMPsがエンドトキシン以外にも多数あることが分かってきていることなどが理由である.また,血液ガス分析の重要性強調し,乳酸値評価を重要視している.さらに,感染巣を特定し,細菌検査(各種培養検査)を行い,1時間以内に適切な抗菌薬投与を開始する.そして全例とも酸素療法を開始する.これはSSCGとは異なるが, 呼吸正常の患者も含め全例で酸素投与し,PaO2 100-150mmHgを目標とし,挿管不要であれば全例NPPV装着することを当院では推奨している.さらに,中心静脈カテーテル,動脈カテーテルを挿入し,適度な鎮静を行い,Early Goal-Directed Therapyへと治療を移していく.

 酸素療法についてであるが,敗血症では重症であるほど,末梢循環不全が生じ,組織での酸素利用障害が生じやすい.こうなると酸素が末梢組織で利用されずに通過し,静脈に帰ってきてしまい,SpO2やPaO2が正常値であっても末梢組織では酸素が不足するという自体に陥り,ScvO2は正常値よりむしろ高くなることもある.実際にScvO2が85%を越えてくると,何らかの酸素利用障害が生じていると考えるべきであり,その指標となるのが乳酸値である.よって,末梢組織でできる限り酸素供給量を増やすためにも酸素分圧を上げて100-150mmHg程度にコントロールすべきである.また,挿管不要患者で全例ともNPPVを装着する理由は,呼吸状態悪化時の迅速対応が可能であること,ARDSの予防(PEEPによる抗炎症効果),EGDTでの大量輸液による肺うっ血予防,酸素化効率の上昇が挙げられる.

 循環動態管理であるが,Early Goal-Directed Therapy(EGDT)が現在スタンダードとなっている.EGDTで最も有名な論文は2001年のNew England Journal of Medicineに掲載されたRivers.Eらのものであり,EGDTを施行することで,従来の治療法より16%という劇的な生存率改善が得られた治療法である.重症敗血症に対して有効な治療法があまり確立されていなかった当時においてこの16%という数字は驚異的である.この論文においては初期の大量輸液とScvO2モニタリングによる管理が死亡率を低下させる
ことが強調されている.

 そして,2010年のAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌でEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)が報告された.これはEGDTに乳酸値を下げることを目標にしたプロトコルを加えた治療法であり,EGDT群より9.6%の生存率改善が得られている.このstudyの対象は重症患者であるが,敗血症患者でのサブ解析ではさらに生存率が上昇している.単純計算ではあるが,EGDTによる16%の生存率改善効果とELGTによる9.6%の改善効果を合わせれば,SSCが目標とする25%の死亡率改善を達成しうるものであり,当院ではELGTを採用した.

 EGDT Goal.1は血管内用量確保であり,初期大量輸液(晶質液)により中心静脈圧(CVP)を8-12mmHgにコントロールする.急性腎傷害の有無にかかわらず躊躇せず大量投与し,目標値を達成すればTKO(to keep open)で20-40mL/hrで投与し,血圧低下や乳酸高値などで必要であればその都度ボーラス投与を行う.ヘスパンダー®,サリンヘス®などのHES製剤は腎障害リスクを2倍にし,線溶系にも影響を与えてしまうため,禁忌とした.近年,CVPがモニター管理として不向きであるという論文が多く見られるが,有用であるとされるPiCCOシステムが当院にはなく,12時間以内であればCVPは有用であるという報告もあることから,当院では原則CVP管理を行い,CVPが不正確であれば,呼吸変動幅>1mmHgもしくは>5%が輸液反応群であることを参考にすることを推奨している.なお,カテコラミンを使用せずとも,輸液だけで血圧は回復することが多い.

 EGDT Goal.2は灌流圧確保であり,カテコラミンで平均血圧を65-90mmHgにコントロールする.これは十分な輸液負荷が行われたことが最低条件であり,そうでなければカテコラミン投与は奏功しないどころか逆効果になる危険性すらあり,敗血症で血圧が低下したのを見ていきなりドパミン投与は最悪の選択肢といえる.カテコラミン投与はGoal.1が達成された上で行うべきである.使用するカテコラミンはSSCGではノルアドレナリン,ドパミンいずれでもよいとしているが,当院ではノルアドレナリンを第一選択とし,ドパミンは推奨していない.これは,重症敗血症病態ではサイトカインによりアドレナリンβ1シグナルが阻害されており,ドパミンでは昇圧効果が得られにくいこと,β2作用が働くと血管拡張と頻脈を招き,血圧がむしろ低下するリスクがあること,細菌にβ受容体があり,増殖とバイオフィルム形成を促進してしまうこと,白血球にβ受容体があり,機能不全を招きうることが挙げられ,なにより,末梢血管拡張による血流分布異常が主体の敗血症性ショックではアドレナリンα受容体刺激薬を投与する方が病態生理的にも理にかなっている.実際にドパミンよりノルアドレナリンの方が死亡率が低いとする報告も複数ある.カテコラミン不応性の患者にはwarm shockであることを確認して,バソプレシン少量持続投与(4時間まで)することが推奨される.さらに,バソプレシンでも反応しない重症例においては低用量ステロイド療法を考慮するとした.

 EGDT Goal.2のもうひとつの目標として尿量確保(≧0.5mL/kg/hr)がある.敗血症性の急性腎傷害は他の急性腎傷害とは異なる病態と捉えるべきであり,輸出細動脈が高度に拡張することによる灌流圧低下が本態であると考えられており,灌流圧を上昇させる上でも輸液負荷とノルアドレナリンが奏功する.一昔前にドパミン神話ともいうべき低用量ドパミン療法が流行していたが,現在では2000年のLancetに掲載されたANZICS trialをはじめ多数のstudyでその効果は否定されており,SSCGでも推奨されていない.また,組成バンドル期での利尿剤投与は当然ながら禁忌である.

 EGDT Goal.3は組織酸素供給改善であり,ScvO2≧70%の確保と,乳酸値の改善である.SSCGではHt 30%を目標にした輸血とドブタミン投与が推奨されているが,確たる根拠があるわけではなく,当院では「考慮する」程度に留め,酸素療法,鎮静により酸素需給バランスを整えつつ,早期のCHDF(グラム陰性桿菌関与が強く疑われるならPMX併用を考慮)を推奨している.また,乳酸値改善目的で,輸液負荷の下で血管拡張薬を投与する.

 早期CHDFは炎症性メディエータの除去が目的であり,除水は不要,蘇生期の最初からの使用でもよい.この使用法はNon-renal Indication(腎障害有無に関係なく施行)と言われる.得られる効果としては,β1シグナル阻害因子除去による心収縮力改善,血管拡張物質の除去により糸球体濾過率の上昇,Death受容体family除去による血管内皮細胞保護などが挙げられる.カラムに関しては現時点でどれがよいかのエビデンスは現在のところ存在せず,一部で強く推奨されているPMMA膜はクリアランス値で有用性に疑問がある(RCTも特になし).

 エンドトキシン吸着カラムPMX-DHPについては現在賛否両論の状態にある.PMXはエンドトキシンのみならず,ANAや2-AGなどの内因性大麻を吸着する.エンドトキシン濃度が敗血症患者の重症度・死亡率に相関するという報告を見ると有用な可能性がある.一方,エンドトキシンは病原体毒素PAMPsの1つに過ぎないことが判明しており,エンドトキシンとサイトカインの濃度に相関ないこと,高エンドトキシン血症ではなくPAMPEMIA概念が提唱されてきており,生体側要因Alamin除去がむしろ必要との意見もあり,有効性については意見が分かれる.エビデンスにおいては,PMX-DHPの早期施行が28日死亡率,MAP,昇圧薬使用量,臓器不全の改善に対して有意に効果的であったとしたEUPHAS studyがあるが,このstudy自体に問題が多数あり,報告者自身も不完全なstudyであったことを認めている.これらの問題を解決すべく,現在イタリアでEUPHAS2 Project,フランスでABDO-MIX,アメリカでEUPHRATES trialが進行中であり,この結果が待たれる.症例集積ではどの報告においても早期の使用でなければ効果を示さないことから,グラム陰性桿菌感染が強く疑われるケースではできるだけ早くに施行することを検討する.

4.管理バンドルの重要項目
 敗血症病態では炎症性サイトカインによるインスリン抵抗性増大,輸液,ステロイド,カテコラミンなどの投与による高血糖状態にあり,この状態が持続すると,多核白血球の機能が低下し,ミトコンドリア障害による酸化ストレス増大と細胞障害,炎症反応増幅が生じるため,血糖コントロールが必要である.SSCG 2008では血糖値150mg/dL以下とされているが,2009年のNew England Journal of Medicineに掲載されたNICE SUGAR trialでは,インスリン強化療法群と144-180のコントロール群との比較で後者の方が90日死亡率が有意に低いと報告されている.このstudyは大規模かつ極めて質が高く,低血糖リスクもふまえればこの144-180(数値上分かりやすいように当院では140-180に設定)にコントロールするのが現状では最良であると考えられ,次回SSCG改訂でもこの数値に変更されるようである.

 また,近年,血糖値自体よりも血糖値の変動を抑制することの意義が注目されてきている.重症患者では血糖値変動(glucose variability)と死亡率に相関関係あり,血糖変動が大きい症例ほど予後不良であると報告されている.加えて,インスリン皮下注によるジェットコースター型の血糖降下がしばしば行われているが,血糖値低下幅が大きいほど酸化ストレス増大,臓器障害,血管内皮細胞障害増大,アポトーシス促進が生じることが分かっている.以上から,血糖変動幅を抑えるアルゴリズムを用いた血糖4時間毎計測下でのインスリン持続静注を当院では推奨している.

 敗血症と腸管の関係であるが,腸内細菌叢,腸管細胞,免疫系は互いにCross-talkの関係にある.ここに重症敗血症が関与すると,免疫系においてはCARS状態に加え,IgA分泌が低下,蛋白異化亢進による免疫細胞のautophagyが生じ,全身の免疫力低下をきたす.また,腸内細菌叢においては抗菌薬・胃酸抑制薬投与や腸管蠕動低下による腸内細菌叢変化からの二次感染,いわゆるBacterial Translocationが生じる.さらに,腸管細胞においては腸管浮腫や腸管細胞apoptosisによる腸管機能不全をきたす.これらにより,急性期を過ぎると腸管からの全身悪化リスクが高まることになる.これを予防する上で早期経腸栄養は非常に重要である.

 早期経腸栄養の推奨については世界的にコンセンサスが得られており,ヨーロッパのESPEN,北米のASPEN/SCCMでともに24時間(~48時間)以内に開始し,72時間以内に目標量に向かって増量開始することが推奨されている.開始栄養剤については当院ではペプタメンAF®を推奨している.一方,早期経腸栄養開始の目安についてはESPEN,ASPEN/SCCMともに定めているわけではなく,施設によって基準は,身体所見やカテコラミン量評価から少量のガストロフィンを投与し,腹部レントゲン評価まで様々である.当院では開始の目安として,Shock Vitalでないこと,カテコラミン投与量が少量であること,カテコラミンを開始または増量しようとしていないことを基準としている.なお,蠕動音,排便排ガスを開始基準に用いてはならない.この方法で当院では経腸栄養を10-20mL/hrの速度で開始しているが,トラブルになったことは現時点では経験していない.なお,開始初期は経腸栄養で投与できる栄養量は少ないため,これに経静脈栄養加えるかがESPENとASPEN/SCCMで意見が分かれていた.すなわち,早期から経静脈栄養を行っていくESPENに対し,ASPEN/SCCMはpermissive underfeecingの観点から,早期経腸栄養が不可能でない限りは7日以内の経静脈栄養は行うべきでないとしている.この論争に終止符を打ったのが2011年にNew England Journal of Medicineに報告されたEPaNIC trialであり,死亡率に有意差はでなかったものの,平均ICU滞在日数,感染症発症率,腎補助療法施行率,人工呼吸器使用率,医療費においてASPEN/SCCMの方が有意に優れており,ESPENの早期経静脈栄養に一利なしと結論づけられた.これにより,輸液による急性期のカロリー補充は推奨されないとした.
 
by DrMagicianEARL | 2012-01-26 12:35 | 敗血症

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