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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

敗血症講演会概要(3)

『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(3)

5.DIC
 DIC,ARDSの治療については当院の院内ガイドライン作成において最も難渋したところである.実際,この領域においては施設毎に治療方針がかなり異なっている.

 敗血症のメディエータに関与する薬剤(いわゆる抗サイトカイン薬)の中で死亡率を改善させる薬剤は存在するのか?これに対する答えは「存在しない」である.ただし,前提として「大規模RCTにおいては」という言葉がつく.これまで数々の抗サイトカイン薬が出てきてはPhaseⅡ,PhaseⅢで姿を消しており,唯一敗血症に効果ありとされたAPC製剤も2011年10月に効果なしとして市場撤退している.薬剤が本当に有効ではなかったこともあるが,その一方で,RCTのプロトコルの甘さによって有効な治療薬が無効になっている可能性ある.多施設で行う以上,そのスタディが定めるプロトコル以外については制約がない.施設によってはあまり好ましくない治療を行っているところもある.とある薬剤においては,1例1例洗いなおしてみると,抗菌薬投与が遅れていたり蘇生バンドルが甘かったりなどして死亡率悪化の要因となっており,ずさんなプロトコルにより本来威力を発揮するはずの薬剤が無効になっている可能性がある.

 このような現状において,はたして,本当に生存率をアウトカムとしてとらえるべきであろうかという疑問がある.多施設RCTがよく,さらにその蓄積であるSystematic Reviewの結果は真に正しいのか?もしくは,1つ1つの薬剤に有意差はないが改善傾向があるのであれば,それらの積み重ねにより総合的な生存率改善に繋がる可能性はあるのではないか?その上でも,多施設ではなく,単施設,すなわち,自らの施設で,多施設RCTを上回る最も死亡率が改善する治療法こそが最大のエビデンスともいえる.そういう視点からDICやARDSの治療薬を眺め,採用ラインを決めることが重要であると考えている.

 敗血症において,凝固亢進からSAC(SIRS associated Coagulopathy),さらにDICに進行していく過程において,DIC治療とはどこからの治療なのか?急性期DIC診断基準はSAC診断をtargetにしており,そこから抗DIC治療薬投与を開始する.しかしながら,私はSACに至る前もDIC治療(というより予防やDICの軽症化)と考えており,ここの治療にあたるのが蘇生バンドルに他ならない.すなわち,適切かつ早期の末梢循環不全の解除によりDICを予防する,もしくは発症しても軽症で済ませることの方が重要であると考えており,抗DIC治療薬はあくまでもDIC(SAC)に至った場合の補助的治療と認識している.DICに対する治療は原疾患治療がしっかりなされていることが大前提である.優れた抗DIC治療薬が登場した弊害は,離脱率が高いがゆえに,DICを治療することで患者を治療したと医師側が満足しきってしまい,原疾患治療が疎かになりやすいことであろう.抗DIC治療薬はあくまでも過剰状態に対して補助的に使用する薬剤であり,原疾患治療があってこそ生きる相乗効果的治療法であることを念頭に置く必要がある.

 重症敗血症でのDIC治療薬で現在主軸となっているのはアンチトロンビン製剤(AT:ノイアート®など)とリコンビナント・トロンボモデュリン(rTM:リコモジュリン®)である.ATはKyberSept trialでは敗血症全体では死亡率改善なし,サブ解析においてヘパリン非併用群で死亡率を改善したと報告されている.一方のrTMはPhaseⅢでヘパリン群との比較において,DIC離脱率を有意に改善し,28日死亡率は改善傾向をみせたが有意差がなかった.rTM,ATいずれもDIC症例におけるプラセボ比較大規模RCTを厳格なプロトコルで行えば生存率改善の可能性ある.rTMのphaseⅢに参加した施設は多くが三次救命機関であるが,そうでない施設も含まれており,プロトコルの甘さは否定できない.加えて,たとえ三次救命病院であっても,敗血症ちりょうにおける適切な蘇生バンドルが行われたか,適切な抗菌薬が投与されたか,などには疑問が残ることが日常診療で三次機関との連携時に感じることもある.また,ヘパリン群との比較となったことも国内RCTでの限界を現しているのかもしれない.実際には大阪大学などがpre-postの比較で有意に死亡率改善を見せたなどの報告があり,現在米国で進められているrTMのPhaseⅡの結果が待たれている.ATは本邦ではエキスパートコンセンサスで第一選択となっている.一方のrTMはまだ新薬であるがゆえにエキスパートコンセンサスには掲載されていないが,次回改訂において第一選択に切り替わる可能性がある.当院においては,敗血症院内ガイドライン導入に伴い,総務部との複雑なやりとりはあったもののなんとかD-ダイマー迅速キットの院内導入が達成され,DICの即日診断が可能となった.一方で,ATⅢは外注検査であり,結果まで1日を要する.これらの事情から早期に適応がとれるrTMを当院では重症敗血症の第一選択に位置づけた.

 当院での敗血症性DICに対する治療薬選択の流れであるが,まず敗血症が重症でないならばメシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)を選択考慮としている.これは当院にヘパラン硫酸(オルガラン®)がないためであり,エビデンスは乏しいが,治療選択肢を残す上での苦肉の策である.実際には私個人は軽症であれば抗DIC治療薬投与も不要で原疾患治療のみで十分との立場をとっている.次に,重症敗血症であった場合,出血がなければrTMを第一選択とし,これにATやFFP(新鮮凍結血漿)を加える基準を定めた.すなわち,APACHEⅡ scoreが25以上,もしくはSOFA scoreが上昇傾向であれば重症DIC群,そうでなければ非重症DIC群とし,重症DIC群でATⅢ活性50-69%であればAT 1500単位/日を追加,ATⅢ活性<50%であればAT 3000単位/日+FFP投与とした.非重症DIC群であればATⅢ活性50-69%では他薬剤追加は不要,AT活性<50%ではAT 1500単位/日を投与とした.なお,CHDF使用症例であればAT投与時は全例3000単位/日を推奨した.出血例においてはrTMは使用できないため,ATを第一選択とし,FFPを投与,またGM追加も考慮としている.

 合成プロテアーゼ阻害薬についてであるが,DICに対する治療効果は経験的評価によるものであり,エビデンス自体は乏しく,実際の効果の程は疑問である.使用するのであれば,メシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)となる.メシル酸ナファモスタット(NM:フサン®)は凝固のみならず線溶系も抑制してしまうため,線溶系抑制型DICとなる敗血症病態では不利に働きうるため推奨されない.ヘパリン製剤(未分画ヘパリン,低分子ヘパリン)については,rTMがある以上は選択肢から除外とした.血液製剤では難治性遷延性のDICでは血小板輸血は慎重とすべきであり,むしろFFPの輸注(ADAMTS13補充)を推奨した.

6.ARDS
 ARDSであるが,当院では従来のALI/ARDSの診断基準を治療上の基準としては用いず,昨年10月に行われたヨーロッパ集中治療学会で改訂となったARDS診断基準を用いることにした.これは,軽症・中等症・重症と3区分あり,以前よりも治療方針が明確にたてやすくなったからである.なお,これによりヨーロッパでは今後はALIという病名は消えていくかもしれない.

 ARDSの治療は原則として原疾患治療と呼吸管理に尽きる.当院で採用しているARDS治療薬剤はステロイド(メチルプレドニゾロンmPSL:ソルメドロール®)と好中球エラスターゼ阻害薬(シベレスタット:エラスポール®)である.ステロイド療法は賛否両論ある治療法である.大量ステロイドパルス療法は効果が否定的であり,推奨はしていない.一方,低用量に関しては推奨しており,発症早期(72時間以内)からmPSL少量投与を考慮するとした.

 問題となるのはシベレスタット製剤(エラスポール®)の扱いである.本薬剤は国内PhaseⅢで死亡率を有意に改善したとしている.しかしながら,コントロール群がプラセボでない,解析方法がper-protocol,片側検定,解析が製薬会社で行っているなど多くの問題をかかえた試験である.特に片側検定という統計学的手技を用いたことにはおおいに疑問があり,両側検定が今や当たり前となっている現在において驚愕すべきものである.実際,両側検定を行うと有意差が消失する項目が複数存在することから,製薬メーカーが恣意的にこのような解析を行ったとしか考えられない.また,市販後比較試験でも死亡率を有意に改善という結果がでているが,投与群と対照群の患者背景に有意差どころかかなりの相違があり,施設ごとに使用不使用の割付がなされているという奇妙な比較であること,解析が製薬会社で行っていることなど以前としてエビデンスと呼ぶにはあまりにも質が悪い試験である.

 一方,海外ではどうか.海外ではSTRIVE studyというものが行わ,結果は真逆で,シベレスタットは死亡率を有意に悪化させた.本試験は400例以上の多施設大規模プラセボ対照RCTであり,投与群とコントロール群で患者背景に有意差なし,180日死亡率が投与群で悪化したというものである.これに対してメーカー側は以下のように反論している.まず「重症例が多かった」.これについては,コントロール群の死亡率はPhaseⅢと比較して特に大きな差はなく,本当に重症例が多かったのかはおおいに疑問が残るところではある.次に,「PhaseⅢと同じプロトコルの症例を抽出したサブ解析では死亡率が改善した」と反論している.しかし,サブ解析には追試が必須であり,また,全体として死亡率が悪化した以上,死亡率が改善したサブグループ以外のグループでは死亡率が増加することは数学的に自明である.先述の通り,プロトコルの甘さでRCTにおいて効果があるのに死亡率に有意差がでないという可能性はあるが,死亡率がさらに有意に悪化するのはプロトコルの甘さでは説明できない.

 以上から言える結論であるが,①死亡率が有意に改善した2つの試験はいずれも奇異な統計処理によってエビデンスを作った可能性がある,②SIRS由来の軽症ARDSに対する早期使用では予後を改善する可能性がある,③ARDS全体では予後を悪化させる傾向がある,特にSIRS由来以外の症例や重症例では逆に予後を悪くしうる,ということである.こうなると死亡率改善と悪化が患者の重症度と原疾患次第で決まるわけで,その境界ラインの判断は非常に曖昧となる以上,本薬剤の使用は極めてリスキーなものであり,私個人は一切使用していない.

 しかしながら,SIRS由来・軽症・早期に対する適応がある以上,治療選択肢を残すという意味で当院ガイドラインでは,診療マニュアルでの表記において「軽症のARDSと診断した早期(72時間以内)に限り投与を考慮してもよいかもしれない(極めて弱い推奨).ただし,肺炎など,肺の直接侵襲が原因のARDSが疑われる場合は投与すべきではない.」とした.また,院内ガイドライン診療概要での表記では 「本製剤をARDSに使用することは推奨し難いが,治療選択肢を残すという意味でその使用を極めて弱い推奨で残した.「本製剤を使用する医師は無効どころか逆効果となる可能性もあることを肝に銘じるべきであり,安易な使用は患者死亡につながりうることを認識する必要がある. 」と記載し警告している.

 繰り返しになるが,最後にもう一度強調する.DIC,ARDS,AKIなどの敗血症合併疾患の最も有効な治療法は何か?原疾患治療・蘇生バンドルこそがDIC・ARDS・AKIにおける最大の予防法かつ治療法である.
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by DrMagicianEARL | 2012-01-30 14:45 | 敗血症 | Comments(0)

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