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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

敗血症講演会概要(4)

『当院での重症敗血症への取り組み』内容の要約・抜粋(4)

質疑応答


Q1「DICの治療開始ラインはどこからなのか?についてのスライドですが,急性期DIC診断基準をまだ満たしていなくてもその徴候があれば抗DIC治療薬を開始するということでしょうか?」

A「急性期DIC診断基準を満たしていなくても早期から抗DIC治療薬を投与していく,という意味ではありません.抗DIC治療薬はあくまでも凝固過剰状態の際に使用すべきもので,局所封鎖という生態防御反応の一面も有する以上,凝固に対する安易な抗DIC治療薬投与はすべきでないと考えています.凝固の過剰となるのを防止,あるいは緩めるという意味で,急性期DIC診断基準を満たしていない段階では,末梢循環不全の解除,すなわち蘇生バンドルの100%達成が重要であるということです.」


Q2「ARDSに対してrTMを使用する呼吸器内科医の医師もおられますが,このあたりはどうお考えですか?」

A「難しいところではあります.機序的にはrTMはARDSに対しても有効と考えていますが,臨床的にはまだ有効と言えるような大規模studyがないのが現状です.症例集積による報告はありますが,実際,ARDSにおいてはrTMをどの段階で開始するか,どれぐらいの投与量が必要なのかが全く分かっていませんし,やはり出血という副作用も考慮しなければなりません.一度出血するとrTMの場合は半減期が長いため非常に難渋することもあって,私自身一度痛い目にあっています.現時点では適切な使用法が不明な以上,私はrTMをARDSに使用したことはありません.ただ,機序的にはいいと思いますので,使用法によって臨床現場での経験・データの蓄積で有用であると,改善率が上昇したというのであればその施設においては選択肢にいれるのもありかもしれません.」


Q3「抗DIC治療薬を終了する目安はありますか?」

A「抗DIC治療薬を終了する基準は特にコンセンサスが得られておらず,施設ごとに,医師ごとに異なると思います.DICが改善したらやめるのか,PLTが正常化したらやめるのか,DICが改善傾向を示した時点でやめるのか,TATが正常化したらやめるのか,など様々で,目安については当院ガイドラインでも触れてはいません.一般的には急性期DIC診断基準が3点以下になったらやめる施設が多いようです.私の場合は,急性期DIC診断基準の点数そのものよりも点数の動きを指標にします.すなわち,①急性期DIC診断基準の点数が減少傾向に転じた,②APACHEⅡ,SOFA scoreが減少傾向,③末梢循環不全が解除された(バイタルサイン,ScvO2,乳酸など),の3つを総合的に判断して投与を終了しています.これにより早期終了が可能ですし,再発もほとんどなく,投与終了時の急性期DIC診断基準がまだ4点以上であっても軽快しています.原疾患治療が奏功していれば,抗DIC治療薬の投与日数は非常に少なくて済むはずです.」


Q4「重症敗血症は28日死亡率ではなく90日死亡率で評価すべきとおっしゃっておられましたが,それは先生の御経験からでしょうか?」

A「ひとつは,他の主治医が蘇生バンドルを遵守しなかった場合において,なんとか急性期は生き抜いたけど,臓器不全が残ったり二次感染が起こったりというケースの場合,たいていは28日くらいは生きています.ですが,状況は二転三転と繰り返されつつ悪化していき,より長期で見れば亡くなってしまう,これが90日というスパンで見ると明確になります.このようなケースを当院ICUに入室した重症敗血症患者で見てきた経験があります.もうひとつは,某大学の教授からデータを見せてもらったことです.5つの大学病院における重症敗血症の死亡率比較で,28日死亡率はほとんど差がない.ところが90日死亡率では明らかに死亡率がばらついており,大学病院によってはほとんど助かっていません.これらのことから,重症敗血症,特に敗血症性ショックの死亡率は90日で見るべきだという考えに至りました.」


Q5「DIC治療を行わない施設においてDIC治療を推奨する場合はどのようにした方がいいでしょうか?」

A「これは非常に難しいと思います.原疾患治療をしっかりやればDICを併発しても治るケースもあるし,大規模RCTで死亡率を有意に改善した抗DIC治療薬がないのも現実である以上,強く推奨する根拠が乏しいのも現実であり,そのこともあって,抗DIC治療薬投与日数を極力短期間に済まそうと私も先述の投与終了の目安を決めています.ただ,抗DIC治療薬のメリットもあり,死亡率以外のアウトカム,たとえばDIC離脱までの早さが早いほど,血小板が回復して後期での出血リスクを軽減できますし,ICU入室日数短縮によって医療コスト軽減がrTMのコストを上回る可能性もあります.また,抗生剤治療が必要な敗血症において,DICによる微小血栓が病巣への抗生剤到達を阻害しているケースもあり,抗DIC治療薬によって抗生剤との相乗効果が得られるというメリットもあります.また,先ほどの,各試験のプロトコルの甘さなども考慮して推奨するとよいかもしれません.」
by DrMagicianEARL | 2012-01-31 09:46 | 敗血症

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