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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

第39回日本集中治療医学会学術集会,敗血症関連ポスター演題ピックアップ

 平成24年2月28日~3月1日の3日間,千葉にある幕張メッセで第39回日本集中治療医学会学術集会が開催され,小生も2日目と3日目に参加してきた.
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医療機器の展示場.奥にはドクターヘリもあり,一番奥にポスター展示あり.某E社のカテーテルモニターは相変わらずすごい.当院にも是非とも欲しいが,おそらくは総務の壁にぶちあたる.
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ケベック生まれの最新ドクターヘリBell477
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今回参加した最大の目的は日本版敗血症ガイドラインの概要発表.これについては後日アップする.

今日は敗血症関連の一般演題ポスターの中から気になったものをピックアップ.

デクスメデトミジン投与により血圧上昇をきたした糖尿病の1症例
浜松医科大学医学部附属病院集中治療部 小林充先生,他 
 重症敗血症治療で鎮静の重要性は既にSSCGで提示されており,呼吸抑制の少ないデクスメデトミジンもよい適応となり得る.

 副作用としては低血圧が生じるが,この演題症例では逆に血圧上昇という現象が起きている.中枢性交感神経抑制作用のα2A受容体と末梢血管収縮作用のα2B受容体があり,臨床使用量ではα2A作用が働くため,低血圧が生じる.しかしながら,血中濃度が高まるとα2B作用が働きやすく,また,他の鎮静剤併用や糖尿病による末梢神経障害の関与などによりα2B作用がでたと考察されている.α2B作用が働く場合,α2Aより速く作用が出現すると言われている.

エンドトキシン吸着療法を用いない腹腔内感染症による敗血症性ショック患者の治療成績
岡山赤十字病院麻酔科 川上直哉先生,他
 敗血症性ショックでは輸液療法が初期蘇生の中核となるため,心機能評価が重要であることはSSCGに記載がなくとも近年集中治療領域では既に多くの医師が感じていることであり,敗血症そのものによる心筋障害が生じることも加味すると心臓超音波検査が必要となることは容易に理解可能といえる.小生の病院の敗血症診療ガイドラインでも既に心臓超音波検査を組み込んでいるし,今回発表となった日本版敗血症性ガイドライン概要でも心臓超音波検査が組み込まれている.なお,PMX-DHPについてのまとめはこちら

 このポスター演題では岡山赤十字病院独自の重症敗血症治療の蘇生バンドルが提示されていた.SSCGとの違いは,頻回の心臓超音波検査で前負荷と左心機能評価を行い,平均血圧を80以上にコントロール,カテコラミンはドパミンかノルアドレナリンかバソプレシンを用い,尿量は1mL/kg/Hを目標に,フロセミド静注or 10mg/hの持続静注,もしくはカルペリチド≦0.017μg/kg/minで投与するとしている.これによりPMX-DHPを使用せずに腹腔内感染症による敗血症性ショックの治療成績は死亡率16.7%となっている(予測死亡率は61.4%).心機能評価下での循環動態の厳重把握管理の重要性が予後に直結することがよく分かる演題である.

当院におけるプロカルシトニン半定量法の有効性についての検討
岐阜大学医学部附属病院高度救命救急センター 谷崎隆太郎先生,他
 小生の病院はプロカルシトニンを採用しておらず,使用経験がないためあまりプロカルシトニン関連の文献は読みきれていないが,このポスター演題が示すのはプロカルシトニンの過信はよくないということであろう.なお,本演題とは別の演題『プロカルシトニン異常高値を示した症例の検討(横浜労災病院中央集中治療部 青木真理子先生,他)』では感染症以外でもSIRSやショックでもプロカルシトニンが異常高値をとったと報告されている.

 プロカルシトニン半定量では尿路感染症,腹部感染症ではそれぞれ91.7%,100%と陽性率が高く,肺炎80%,BSI 73.8%,CRBSI 81.1%とまずまずであるものの,皮膚軟部組織感染症は59.4%と非常に低い.また,血液培養陽性例でも24%はプロカルシトニン陰性であった.グラム陰性菌では陽性率91.7%だが,グラム陽性菌では陽性率53.0%であった.グラム陽性球菌感染症や皮膚軟部組織感染症でプロカルシトニンを過信すると感染症を見落とす可能性がある.

敗血症に関する認知度
自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座麻酔科学部門 篠原貴子先生,他
 敗血症の定義や死亡率について,卒後5年以内の医師,看護師,医学生,看護学生,一般市民でどれだけの認知度があるかを調べた演題である.敗血症という名前については医師・看護師は100%であるのに対し,一般市民は50%弱.敗血症の定義については医師70%,看護師60%弱であった.重症敗血症の死亡率については医師の認知度は60%弱であった.

 この演題を見た印象は,「医師の認知度がよすぎる」である.実際,小生の病院では院内敗血症診療ガイドラインを発表するまで敗血症の定義を言える医師はほとんどいなかったし,SIRSやSSCGの名前すら知らない医師がほとんどであり,知っている医師は卒後間もない研修医だった.一方,年配の医師ほど知らない.これは他の医師も感じていたことで,とある先生が演題発表の際に「医師を卒後5年以内としているが,もっと上の医師でアンケートをとるべき」と指摘していた.

 なお,今後,sepsisの定義が変わる可能性がある.実際に初期蘇生を必要とするのはsevere sepsis,septic shockであり,そうでないsepsisに関してはsepsisから切り離すべきとする意見が海外でも出始めている.ヨーロッパ集中治療医学会でもARDSの診断基準や重症度が変わり,ALIの名称が消えたという流れから,今後sepsisについても名称や定義の変更が進んでいくのかもしれない.

■■トロンボモデュリンアルファ投与による活性型プロテインCの変化
日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野 千葉宣孝先生,他
 APCを測定してrTMの効果を見たもので,rTM投与群が有意にAPC濃度が増加していた.ただ,小生としてはむしろ別のところが気になった.rTM投与群に比して非投与群はAPACHE-Ⅱスコアが高く,重症例が多い.rTM投与前のAPC濃度を見ると,非投与群の方が明らかに高いのである.研究目的が違うため当然ではあるが考察でこのことには触れられていなかった.重症例ほどAPCは通常減少するものと思っていたが,この結果は何を意味するのかまだ不明である.単に少数解析であったからというだけかもしれないが,検証にはより多くのデータが必要であろう.

Circulating Endothelial Cell解析の確立と発展
名古屋大学大学院医学研究科救急・集中治療医学分野 杤久保順平先生,他
 健常人においてCirculating Endothelial Cell(CEC)を計測した演題.CECはAMI,心不全などの様々な心血管疾患,2型糖尿病,血管炎疾患群,リケッチア感染症,サイトメガロウイルス感染症,敗血症性ショック,癌,リンパ腫,腎移植,TTPなど多くの疾患で増加が報告されている.本研究ではCECがSIRS-associated Coagulopathy(SAC)における重症度評価や治療効果のマーカーになる可能性を示唆していると報告している.さらに,敗血症によるSACモデル動物および敗血症患者におけるCECの解析を開始する予定とのことである.

Septic Shockに対する新しい重症度クライテリアと初期輸液療法の検討
藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座 原嘉孝先生,他
 SIRSや血小板低下の両方が含まれている急性期DICスコアを「持続する炎症」の程度の指標として注目したとする興味深い内容.昨今の凝固と炎症のCross-talkの概念に非常にマッチした内容であり,さらに症例を増やした今後の報告におおいに期待したい.なお,凝固と炎症のCross-talkについてはこちら

 本演題では血中乳酸値とDICスコアからSeptic Shockの病態を4象限に分類することでSeptic Shockに特異的な重症度を容易に予測できる可能性が示唆されたとしている(後ろ向き研究).APACHEⅡスコア,SOFAスコアとの比較では,28日死亡率でこの分類方法が有意差がでており,APACHEⅡやSOFAよりもより正確にsevere sepsis,septic shockの病態を表す分類であることを示唆していると考えられた.また,この分類により軽症なクラスではEGDT達成率が最低であるにもかかわらず28日生存率が100%であり,EGDTによる管理が不要の可能性がある.輸液過剰による弊害も報告されていることから,単純に乳酸値に頼った輸液療法,EGDTのみに頼った輸液療法を行うのでなく,ICU入室時にどの象限に属するかを判断し,病態に応じた輸液療法を心がける必要があるとしている.

テイコプラニンの先発品と後発品の比較検討
関西医科大学附属枚方病院 山崎悦子先生,他
 これは小生にとって衝撃的結果である.2011年の今日の治療薬®ではTEICの後発品は10社が発売しており,小生の病院でも後発品を採用している.

 TEICの先発品と後発品では6種類の主成分の含有量が異なるとされ,これが薬物動態,臨床効果に大きな影響を与えている可能性がある.本研究では,MICに有意差はなかった.しかし,トラフ値が後発品の方が有意に高いにもかかわらず,臨床効果は先発品が有意に高かった.MRSAにおける臨床効果では先発品100%に対し後発品は60%である.TEICのTDMキットは後発品の血中濃度を正確に反映していない可能性がある.

Septic Shockの初期蘇生に中心静脈カテーテルは必須か
信州大学医学部附属病院高度救命救急センター 望月勝徳先生,他
 SSCGでは中心静脈カテーテル(CVC)が必要であるとしており,小生の病院でも必要としている.ただ,小生もCVCなしで敗血症性ショックを治療した経験はある.CVCを使用していない場合の弊害はScvO2やCVPが計測できないこと,薬剤投与経路が少なくなることであろう.CVPに関しては心臓超音波検査での代用できる可能性もあり,あとは乳酸値を重要視すればCVCなしでも治療できる可能性はある.また,CDCによると,カテーテル関連血流感染症(CRBSI)の合併は治療中の原疾患に対する死亡率を35%程度上昇させる可能性があるとする報告もある.信州大学救命救急センターでは敗血症性ショックでのCVCはルーチン化せず,他の手段で循環動態を評価している.なお,敗血症におけるCVCを用いたScvO2,CVPのモニタリングについてのまとめはこちら

 本演題の報告では,CVCを使用せずに治療した敗血症性ショック患者の死亡率は5.9%であった.原因疾患や重症度の違いから,他の文献報告での敗血症性ショック死亡率と単純比較はできないが,治療成績としては遜色がない.ただし,考察でも述べられていたが,これは優秀な集中治療医の他手段による観察評価があってこその管理治療であり,集中治療部がない病院などではCVCなしでの敗血症性ショック治療は推奨されないものと小生は考える.

敗血症急性期における心収縮能低下時の拡張末期心臓血液容量による前負荷の評価には注意が必要である
東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野 久志本成樹先生
 十分なfluid resuscitationを施行した敗血症症例において,左室EF,左室拡張末期容量の増加が臨床的に証明されている.敗血症性ショックにおいてはEFは可逆的に低下するが,stroke volumeは維持され,心係数は低下しない.一方,左室拡張末期容積をみると,左室収縮不全合併症例において,可逆的な左室拡張が生じる.また,拡張障害合併例で有意に予後不良であること,拡張障害の存在は重症敗血症・敗血症性ショックにおける独立した予後不良の予測因子と報告されている.敗血症急性期には20%以上の症例において可逆的心収縮能低下が生じ,左室拡張末期容量の増加を合併しうるため,至適前負荷が症例,経過により異なる可能性がある.なお,敗血症による心筋障害に関するまとめはこちら

 本演題では敗血症急性期においてPiCCOによる拡張末期心臓血液容量(GEDI)による前負荷評価の妥当性を検討することを目的としている.敗血症によるALI/ARDSと判断された74例を対象として,EF<50%と>50%の2群に分けて比較.敗血症急性期の左室収縮能低下状態においては,左室拡張末期容量増加を合併しうることから,前負荷の指標としての至適GEDIが変動する可能性を報告している.
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by DrMagicianEARL | 2012-03-01 21:45 | 敗血症 | Comments(0)

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