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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【症例】後天性免疫不全症候群の発症によりニューモシスチス肺炎をきたした1例

■HIV感染によるニューモシスチス肺炎(旧カリニ肺炎)は有名であるが,実際のHIV患者の診療経験がなければ見逃してしまうことがほとんどである.地域にある当院においてもHIV感染によるニューモシスチス肺炎は年に1-2例あり,多くが多数の開業医や当院外来医師の診察・治療を経ても改善が得られず,呼吸器内科に紹介されてAIDSと診断されるパターンとなる.本邦は先進国の中でも唯一のHIV/AIDS患者が増加している国であり,日和見感染症を発症してはじめて発見されるAIDS患者「いきなりエイズ」が増加していることから,HIVにみられる真菌症を診療する機会も増加している.日常診療において遭遇する可能性は年々高まってきており,見逃しによる重症化はなるべく避けたいものである.

■以下の症例は小生が研修医1年目のときに経験し,院内学会で報告した非常に懐かしい肺炎症例である.考察内容は当時のままにしてあるため,若干内容が古いので注意されたい.小生が夜間当直の際に救急搬送され,そのまま担当医となり,診断・治療に至った.AIDS/ニューモシスチス肺炎の典型的パターンであり,珍しくもなんともないが,このケースがHIV感染者で発見される最も多いパターンであるにもかかわらず,多くの医師にいまだに見逃され,診断が遅れてしまう現状がある.

■HIV感染間もない時期に急性症状を発症することがあるが,多くは感冒とみなされ,自然寛解してしまうため,HIV感染が見逃されている.この時点での診断は困難かもしれないが,せめてAIDS発症によるPCPはきっちりと疑い診断すべきであろう.

46歳男性

【主 訴】呼吸困難

【現病歴】2009年8月から徐々に羸痩を自覚していた.同年9月15日より発熱あり,近医Aでの胸部レントゲン写真にてインフルエンザと肺炎の合併と診断され(インフルエンザチェック未施行),毎日点滴加療を受けていた.9月20日よりクラリスロマイシン内服にて経過を診ていたが,呼吸困難感は増悪.9月23日・24日に当院総合内科外来を受診され,セフォチアム塩酸塩の点滴を受け,クラリスロマイシン400mgを処方される.しかし,近医BでSpO2 87%と著明な低酸素血症を認めたため,当院に救急搬送され,呼吸不全で緊急入院となった.

【既往歴】1999年 A型肝炎

【生活社会歴】喫煙歴,飲酒歴はない.職業は寿司屋職人であり,アスベスト等粉塵曝露歴はない.ペットも飼っていない.妻,息子3人と同居している.アレルギー歴なし.

【家族歴】特記なし

【主な入院時現症】身長 169cm,体重 68kg.体温 38.3℃呼吸数 22/分脈拍 117/分,整.血圧 105/62 mmHg.SpO2(自発呼吸,room air)87%.眼瞼結膜に貧血はなく,眼球結膜に黄染もない.口唇チアノーゼ認めず.表在リンパ節を触知せず,皮疹も認めない.頚静脈の怒張を認めない.頚部血管性雑音聴取せず.甲状腺腫大を認めない.呼吸音は清明でラ音を聴取しない.心音に異常はない.腹部は平坦,軟で圧痛はない.腸蠕動音は正常.肝・脾を触知しない.神経学的異常は認めない.

【主要な検査所見】
尿所見:比重 1.020,蛋白(+),糖(-),潜血(-).
血液所見:赤血球 376万/μl,Hb 11.1 g/dl,白血球 6900/μl(好中球83.0%,好酸球0%,好塩基球0%,単球5.0%,リンパ球12.0%),血小板 17.8万/μl,PT INR 1.51,APTT 33.0秒,血漿フィブリノゲン 553.1mg/dl.
血液生化学所見:空腹時血糖 109 mg/dl,総蛋白 8.6 g/dl,アルブミン 3.1 g/dl,尿素窒素 23.7 mg/dl,クレアチニン 0.8 mg/dl,総ビリルビン 0.5 mg/dl,AST 40 IU/l,ALT 8 IU/l,LDH 330 IU/l,ALP 145 IU/l,γ-GTP 22 IU/l,CK 56 IU/l,Na 138 mEq/l,K 4.4 mEq/l,Cl 101 mEq/l,Ca 8.3 mg/d.
免疫学所見:CRP 17.1 mg/dl,CEA 0.71 ng/ml,CA19-9 1.00 U/ml,尿中肺炎球菌抗原(-).
動脈血ガス分析:pH 7.457,PaCO2 40.9,PaO2 57.3,HCO3 28.2,BE 4.0.
心電図:正常洞調律.
胸部X線写真:下肺野優位にびまん性浸潤陰影を認める.両側胸郭横隔膜角は鋭角.心拡大認めず.
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胸部CT:全肺野にびまん性の間質性浸潤陰影を認める.右下肺野に胸郭に平行な索状陰影を認める.胸水貯留なし.
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喀痰好酸球試験:陰性.

【経過】
CT画像から間質性肺炎と診断.比較的若年の間質性肺炎であることから,好酸球性肺炎,過敏性肺臓炎,特発性間質性肺炎,真菌性肺炎,膠原病等を鑑別にあげた.A型肝炎の既往があるため,性行為感染症のリスクと考え,過去の性交歴を聴取したところ,同性愛者ではないが,不特定多数の女性との性交歴があった.このことから,HIV感染によるニューモシスチス肺炎(以下PCP)を疑い,HIVスクリーニングを施行したところ,陽性であったため,引き続きWestern-Brot法による検査を施行した.
※当時,小生は既に関西HIV臨床カンファレンスに参加しており,A型肝炎既往を見てHIV感染を疑うこと知っていたため,救急搬送時の段階で性交歴を聴取した.逆に,もし当時同カンファレンスに参加していなければ,HIVを疑うのは第3病日以降になっただろう.

入院後は新たに抗生物質は投与せず,入院前に処方されたクラリスロマイシンは中止とし,酸素療法,プレドニゾロン40mg/日投与にてまずは経過観察とした.酸素は6Lマスクで95%以上をキープし,労作時呼吸困難は改善傾向となったが,38-39℃の発熱が持続していた.

第3病日にKL-6 1251 U/ml,β-D-グルカン 272.3 pg/mlと判明し,ニューモシスチス肺炎の可能性が高いと判断し,体重を考慮し,ST合剤12錠/日(スルファメトキサゾール4800mg,トリメトプリム960mg)投与を開始した.後日判明した喀痰中PCRにてPneumocystis jiroveci陽性,サイトメガロウイルスC7-HRP陰性であり,ニューモシスチス肺炎と確定診断した.
HIVに関しては,Western-Blot法にて再検し,陽性であったため,HIV感染による後天性免疫不全症候群と診断した.第5病日の採血にてCD4 9.3%,CD8 45.6%,CD4/CD8 0.20(転院先の検査ではCD4 47/μl)であった.

なお,抗核抗体,マイコプラズマ抗体,p-ANCA,c-ANCA,CH-50,免疫複合体Clq,クラミジア抗体,IgE RIST,SP-D,SP-Aは全て正常範囲であり,他の鑑別疾患は否定的であった.

ST合剤とプレドニゾロン投与により第3病日より36℃台に解熱し,呼吸困難感も改善し,SpO2は経鼻酸素2Lで95%前後で安定した.今後は専門施設による治療の必要があると考え,第7病日に他院に転院の運びとなった.転院先で肺炎治療が終了し,現在は外来通院で抗HIV療法を施行されている.

【考察】
ヒト免疫不全ウイルス感染後,無症候キャリア期を経て,CD4リンパ球の減少によって後天性免疫不全症候群を発症し,ニューモシスチス肺炎に至った症例である.

PCPの原因はPneumocystis jiroveciによって引き起こされ,AIDS,悪性腫瘍,白血病,膠原病,臓器移植などの基礎疾患を有し,抗癌剤,免疫抑制薬,副腎皮質ステロイドなどを投与された免疫不全宿主や未熟児(新生児間質性肺炎)に発生する,日和見感染症である.AIDSに伴うPCPは,しばしば前兆として,感冒症状を数週間にわたって示し,その後感染が顕在化することが多い.呼吸困難,空咳などが比較的頻度の高い臨床症状であるが,理学所見に乏しく,酸素療法に抵抗性のある低酸素血症があったことも本症例は矛盾しない.治療には第一選択薬としてST合剤(トリメトプリムを5mg/kg×3/day)があり,代替薬としてペンタミジンが治療に用いられるが,自然寛解はほとんどなく,1ヶ月生存率85%の予後不良疾患である.

HIVに感染するとCD4リンパ球が減少し,200/μL以下に減少すると高率にAIDSを発症するとされている.本症例では47/μLであり,AIDS発症には十分であった.

PCPの治療は,ST合剤(S:スルファメトキザゾール,T:トリメトプリム)を用い,トリメトプリム投与量5mg/kg×3/day×14-21daysとする.代替薬はペンタミジンを用いる.AIDSを合併し,かつPaO2 70mmHg以下の症例についてはステロイド(プレドニゾロン40mg/day)の投与が推奨されている.

HIV感染症に見られる真菌症として最も重要な疾患はPCPである.AIDS動向委員会報告では35.7%と最も高頻度であり,びまん性スリガラス陰影,β-D-glucan高値を見た場合はPCPを考慮し,HIV感染症の可能性を想起する必要があり,過去の性交歴,覚醒剤等注射歴など詳細な問診が重要となる.

AIDS動向委員会の報告を見ると,新規HIV,AIDS感染者は年々増加傾向にあり,本邦では1日あたり4人が,大阪では2日に1-2人がHIV/AIDSと診断されている計算となる.累積HIV感染者数は1万人を越えており,男女比は圧倒的に男性が多い.これは男性の同性愛者による感染が多いことが関係している.

【結語】
後天性免疫不全症候群の発症によりニューモシスチス肺炎をきたした1例を経験した.

HIVと診断された患者の多くがほぼ同時に日和見感染症を発症している.以前のHIVによる日和見感染症は同一患者で繰り返し発症するものであり,多くの場合はHIV感染が明らかになっており,治療を行うのはHIV診療に慣れている医療施設が多かった.ところが近年,AIDS患者はあらゆる医療施設で診療されることになり,またHIV感染が判明しないままに診断・治療が開始される場合が多く,必ずしも最善の治療とはならない可能性がある.

これまでは厚生労働省のHIV予防啓発が主体であったが,HIV/AIDS患者増加に伴い,これからは診断・治療も一般医師は知識として有する必要がある.専門施設に関係なく,あらゆる医療従事者がAIDS発症者の診断・治療に携わり得る時期に来ている.発症の背景が明らかでない日和見感染症をみた場合,詳しい患者の社会的背景の問診は勿論のこと,HIV抗体検査をルーティンにとり入れるべきである.
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by DrMagicianEARL | 2012-04-01 12:42 | 肺炎 | Comments(0)

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