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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

敗血症と発熱,解熱処置

■発熱は集中治療を要する重症患者に頻繁に生じる症状の1つであり[1],全身状態を把握する上で重要な指標となる.集中治療患者の20-70%に発熱が生じることが知られている[2-4].発熱を契機に新たな診察,検査,治療が開始されることは稀ではない[5].また,発熱は,手術[6-9],輸血[10],薬剤投与[11,12],急性拒絶[13]など感染症以外の要因でも生じる.

■SIRSにおける体温上昇は,脳血液関門(BBB)がない視床下部に炎症性メディエータ受容体が発現しており,SIRS状態ではAlert Cellとして働き,誘導型シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の転写段階からの産生亢進によるプロスタグランディンE2(PGE2)の産生により発熱反応が誘導される[14]

■発熱は,患者不快感,呼吸需要および心筋酸素需要の増大[15],中枢神経障害[16,17]などを生じるため,これらの改善を期待して,外表冷却や解熱薬による解熱処置が行われる[18]

■感染症による体温上昇は,抗体産生の増加,T細胞の活性化,サイトカインの合成,好中球およびマクロファージの活性化を惹起させる自己防衛反応であり[19-21],解熱処置によりこれらの防衛反応が抑制される可能性もある.また,解熱薬には胃腸障害,肝障害,腎障害などの副作用もある[22]

■中枢神経障害を有する患者においては,発熱が生命および神経学的予後を悪化させ[16,17],特に心停止後患者では軽度低体温が患者予後を改善させる[23,24].しかし,中枢神経障害を有さない重症患者において,どのように発熱をコントロールし,解熱処置を行うべきかについては,明確な指針が存在しない[3,25,26]

■解熱処置は頻繁に行われており,そのコストは18床のICUで年間100-300万円のコストがかかるとされる[27]

■発熱と患者死亡の関係を観察した研究は24研究あるが,この中に解熱処置を含めての研究はない.また,解熱治療の有効性を評価したRCTは2つ[28,29]あるが,いずれも小規模に留まる.1つはクーリングの効果をみており[28],死亡率は積極的解熱群が11%,非解熱群が15%であり,有意差はないもののクーリング施行群が死亡率が低い傾向であった.もう1つはアセトアミノフェン+クーリング評価をみたもので[29],死亡率は積極的解熱群16%,非解熱群2.6%と有意に積極的解熱群の死亡率が高かった.この2つのRCTをfixed-effect modelで解析すると,解熱処置を行うことで,有意ではないが患者死亡率が60%増加することが示唆された[30].どの解熱処置が患者予後改善に有利に働くか,解熱処置を行う基準となる体温は存在するかについて報告した文献はない.

■発熱が患者死亡率の30%増加と関連することがメタ解析で示唆されている[30].また,重症度など患者情報を調整した多変量解析を行った上で,発熱と患者死亡率増加との関連性を示した報告も存在する[1,31].しかし,これらの結果は全て発熱と患者死亡率との関係を調査した観察研究から得られたものであり,その因果関係を結論付けることはできない.

■そこで行われたのが日韓共同のFACE study(Fever and Antipyretic in Critical ill Evaluation study)である[32].本研究の目的は,①ICU患者の発熱発生頻度・解熱処置の施行頻度とそれに伴うコスト,②ICU患者の発熱が患者予後に与える影響,③ICU患者に対する解熱処置が患者予後に与える影響,を調べることである.対象患者は2009年9月1日から11月30日までに登録された25施設の48時間以上ICUに滞在する脳損傷の疑いのない成人患者1425人である.これによると,基礎疾患が敗血症の場合,発熱自体は予後に影響しないが,解熱剤(NSAIDsおよびアセトアミノフェン)の投与は28日死亡率悪化の独立因子であった(NSAIds補正odds rate 2.61, p=0.028,アセトアミノフェン補正odds rate 2.05, p=0.01).なお,敗血症でない場合は発熱は予後が悪化する.現在,この関連性を実証するためにFACE II studyが進行中である.FACE studyにおいてクーリング処置は施行されていない.

■では小規模RCTで有意ではないが死亡率低下傾向がみられたクーリングはどうか.これについての報告がFACE studyのすぐ後にSepsiscool studyが報告された[33].本研究は敗血症性ショックの患者さんに外部からのクーリングによる体温低下が及ぼす影響を検討している.7つのICUで行われたRCTで,敗血症性ショックで昇圧剤(ノルアドレナリンorアドレナリン)を必要とし,鎮静剤使用,人工呼吸器を装着されていて,鎮静剤が投与されていて,体温が38.3度を超えた患者200名を無作為に割り付け,外部からのクーリングで体温を37度以下に下げる積極的解熱群とプラセボ群を比較している.48時間後に昇圧剤の投与量が半分以下になる頻度をプライマリアウトカムとした.結果は,昇圧剤の投与量がプラセボ群で多く,クーリング群では2時間で体温が1度下がり,12時間で37度以下に低下している.12時間後に昇圧剤の投与量が半分以下になる頻度は,クーリング群で55%,プラセボ群で20%であり,その差は48時間後では消失(73% vs 61%)している.14日死亡率は19% vs 34%で有意にクーリング群が低かった.病院死亡率は43% vs 48%で有意差は見られなかった.この結果から,外部からのクーリングを用いた体温コントロールは安全で,昇圧剤使用量と14日死亡率を低下させる意味で敗血症性ショックに適している可能性が示唆された.

■以上から,敗血症においては解熱薬は推奨されないが,クーリングは推奨されうると考えられるが,因果関係を含め,今後の追試が必要であろう.

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by DrMagicianEARL | 2012-05-25 08:54 | 敗血症 | Comments(0)

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