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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

敗血症性肺塞栓症

■敗血症性肺塞栓症(Septic Pulmonary Embolization;以下SPEと略す)は発熱や呼吸器症状で発症する稀な疾患であり,その臨床像や画像的特徴は非特異的で診断が遅れることが多い[1]

■SPEは血栓の一部が細菌あるいは真菌, 寄生虫などの生物体を含んでいる場合に発生し,肺のみならず関節,骨,髄膜,肝にも認める[2].この塞栓子が肺に塞栓を起こせばSPEとなる.

■SPEは従来は麻薬常習者(三尖弁位感染性心内膜炎の原因となる),骨盤内血栓性静脈炎,頭頸部領域の化膿性疾患が原因として指摘されてきた[3,4]

■疫学的には感染性心内膜炎[5]と感染性(敗血症性)静脈炎[6]が2大原因[6]とされ,さらに咽頭炎や扁桃炎[6],外科的処置後[7]や悪性腫瘍[8]に発生する.これらの原因菌は黄色ブドウ球菌や溶連菌によるものが多い.

■近年,静脈カテーテルやペースメーカーなどの使用頻度の増加に伴いデバイスに関連する感染例は増加しており[9-12],SPEの原因に占める割合も増加している.過去の報告から,人工デバイスによるSPEは免疫不全状態が関与している可能性が示唆されている[13]

■敗血症性肺塞栓症による呼吸障害は重大で,ときに集中治療管理や人工呼吸器による補助換気が必要になる[14].臨床兆候として胸痛,呼吸困難等の呼吸障害,喀血,胸水,膿胸がみられるとされる[14].頸部痛および下顎角あるいは胸鎖乳突筋前縁に沿う腫脹を認め, 敗血症や肺感染巣を伴う場合,感染が原因としての本疾患を疑うべきである[15].しかし,中心静脈カテーテルが誘因となった症例の多くは不完全閉塞で,無症候である[16,17]

■SPEの診断では,臨床症状や胸部レントゲン像は非特異的でCTが有用であるとの報告が多い[1,18].胸部レントゲン像では末梢に,円形結節や,楔状または辺縁膨隆状の結節性の散布陰影として現われ,これらが早期に薄壁空洞を形成する[6].胸部CT画像の特徴としては,①両側肺末梢優位の0.5-3cm大の多発性結節影,②壊死による空洞形成(target sign),③肺末梢病変への栄養血管(feeding vessel sign),④胸水貯留,が指摘されており[19-21],菌塊を含む血栓による梗塞と膿瘍形成を示していると考えられる.

■進行すれば病巣の融合により大きな肺膿瘍となり,さらに進展して胸膜に波及し,肺瘻をきたし,気胸や膿胸を合併するようになる[6,22].肺塞栓性結節像が空洞化する率はかなり高率で剖検の約7%にみられると報告されている[23].空洞化する原因は第一に塞栓による血流の途絶からくる無菌性壊死,第二には塞栓組織への二次感染によるものといわれている[23].SPEではこれら2つの条件が重なり早期に空洞化することとなる.

■胸部X線写真上で空洞を有する孤立性陰影は臨床的によくみられるが多発性の空洞性結節陰影は比較的少なく,結核,真菌症,敗血症性肺膿瘍,転移性肺腫瘍,悪性リンパ腫,リウマチ結節,Wegener肉芽腫症,結節性動脈周囲炎,サルコイドーシスなどが挙げられる.これらの陰影を呈する疾患との鑑別診断が必要である.

■稀ではあるが気胸を合併するケースも報告されている[24]

■SPEの予後は最近では改善傾向にある[11,12]

■抗凝固剤の使用については賛否両論がある. 感染性の内頸静脈血栓症に対して抗生剤単独および切開排膿の併用のみでの治療が奏功した例も散見されるが[14,25],抗凝固剤の使用が血栓のさらなる増大を防ぎ,肺塞栓症や敗血症性塞栓症の発症の危険性を低下させるという意見も多い[26,27].すなわち抗凝固剤は血栓増大の進行を抑え,肺塞栓症を予防する意味で使用されている.血栓性静脈炎や敗血症性塞栓症に対して抗凝固剤の有効性を調査した対象研究はなされていないが[28,29],Joseyら[30]は骨盤の敗血症性血栓性静脈炎症例に対してヘパリンを使用し,早期の回復を認めたことを報告し,Leeら[29]は禁忌がない限りヘパリンの使用を考慮するべきであると考察している.Cohenら[16]は1週間のヘパリン静脈注射に続きワーファリン内服を行い,抗凝固療法は3ヵ月継続することを推奨している.ウロキナーゼやt-PA(tissue plasminogen activator)製剤などの血栓溶解剤は,発症4日以上経過し器質化し始めている血栓に効果は期待できず[31],また溶解剤使用時に合併症としての出血や遊離血栓による肺塞栓症誘発という危険性もあり[32],適応は限られる.抗血小板剤の使用に関してはいまだ議論されている状態にあり,今後の課題である[31]

■Pradeepらは抗凝固療法を適応基準として,①抗菌薬治療にもかかわらず内頸静脈の血栓が消失しないこと,②遺伝性血栓性素因があることを挙げている[33]

■遺伝的素因に関しては,1983年以降,多くの感染症が抗リン脂質抗体陽性と関連することが見出されている[34].感染症に伴う抗リン脂質抗体の上昇は,一般的には一過性の現象ととらえられ,凝固亢進を示す抗リン脂質抗体症候群の臨床所見とは相関しない[35].また,感染症により抗リン脂質抗体上昇を引き起こす因子はまだ解明されていない.

■手術療法として血栓静脈の近位側結紮や切除という方法も存在するが,手術操作により血栓が移動し,医原性の肺塞栓を起こす危険性もあり[31,36], 安易に行うべきではなく,抗生剤や抗凝固剤による保存的治療に抵抗性で,反復性の肺塞栓症を認めた場合に適応となる[2].

■膿胸を合併し胸腔鏡下手術を施行した報告は過去15年間の本邦における文献検索をした限りでは1例のみ[37]

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[37] 感染症学雑誌 2008; 82: 461
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by DrMagicianEARL | 2012-06-12 14:32 | 敗血症 | Comments(0)

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