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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

院内抗菌薬適正使用ガイドライン「初期抗菌薬の選択(2)」

当院の抗菌薬適正使用ガイドライン(2012年5月発表)
各項目についてのガイドラインに記載した解説文はこのブログでは省略(抗菌薬の基本原則にだいたいの内容は記載している).ここではなぜこの項目にしたのかについてのみ下に記載した.
5.腎機能・肝機能の考慮
5-1.腎排泄系,肝排泄系の抗菌薬では,それぞれの臓器機能障害に合わせて投与量の減量を考慮する.

5-2.透析によって除去を受ける抗菌薬では投与量,投与設計の変更を検討する.
 解説では腎障害・肝障害時の各抗菌薬の使用法について提示している.腎機能障害に関しては,安全・中等度注意・高度注意の3群に分類した.

6.抗菌薬併用療法の検討
6-1.細菌性感染症の場合,通常は単剤投与で治療するのが原則である.

6-2.抗菌薬併用による効果は,薬剤耐性化の抑制,スペクトラムの拡大,相乗効果が期待できるが,薬剤耐性化,相乗効果については不確定であり,推奨する根拠に乏しく,医療コスト増大,副作用リスク増大というデメリットも存在するため,安易に併用の選択は行うべきではない.

6-3.骨髄炎や心内膜炎などの慢性感染症に対し,長期的な抗菌薬投与が必要な場合は,原因となる細菌によっては併用が薦められる場合もある.
 抗菌薬併用療法は,経験的治療(empiric therapy)においては,推定される病原菌を,ときには薬剤耐性菌を含めてカバーする目的で行われる.原因微生物が判明している場合においては,①単剤に比べて良い効果を期待して併用する,すなわち相乗効果(synergy effect)を狙う,②治療する上で原因菌の耐性化を防止する,③その他抗菌活性以外の特殊な効果を期待して,などの目的で行われるが,そのエビデンスの蓄積は十分でなく,一部のケースにおいて推奨されているに留まる.このようにエビデンスは少ないが,臨床現場では抗菌薬併用療法は頻繁に施行されており,EBMとの乖離があることは否めない.解説ではスペクトラム,耐性菌防止,相乗効果,特殊な効果を期待しての使用,の4つの観点でそれぞれのエビデンスの有無などを記載した.
7.薬物血中濃度モニタリング
7-1.以下の薬剤は薬物血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)に基づき,投与量,投与間隔を設定する.
グリコペプチド系:VCM(バンコマイシン®),TEIC(タゴシッド®)
アミノグリコシド系:GM(ゲンタシン®),AMK(アミカシン®),ABK(ハベカシン®)

7-2.各抗菌薬の目標とするピーク値,トラフ値を以下に示す.
VCM:トラフ値 15-20μg/mL
TEIC:トラフ値 ≧17μg/mL
GM(1日1回投与法):ピーク値 16-24μg/mL,トラフ値 <1μg/mL
AMK(1日1回投与法):ピーク値 56-64μg/mL,トラフ値 <1μg./mL
ABK(1日1回30分投与法):ピーク値 8-12μg/mL,トラフ値 <2μg/mL

7-3.目標ピーク値,トラフ値を達成するためにも,薬剤課に血中濃度シミュレーションの依頼を検討する.

7-4.TDMを必要とする抗菌薬では,オーダー時に抗菌薬投与時刻指定を必ず行う.
 日本TDM学会ガイドライン正式発表前であり,この院内ガイドライン発表時はTSM学会ガイドラインは未考慮の状態である.このため,今後改訂する可能性はある.VCM,TEICについてはhigh targetを標準とした.
8.小児への抗菌薬投与
8-1.小児では薬剤ごとに吸収に差があるため注意が必要である.

8-2.乳幼児では主要血漿タンパクのアルブミンが低値であるため,薬剤が遊離型の状態で存在しやすく,効果が強く出やすいため注意が必要である.

8-3.小児は成人と比べ肝機能や腎機能が未熟であるため注意が必要である.
 解説では小児で特に注意すべき抗菌薬副作用について解説した.
9.妊婦への抗菌薬投与
9-1.妊婦感染症に比較的安全に投与しうる薬剤として,使用経験が豊富で胎児への有害作用がみられないペニシリン系,セフェム系,マクロライド系が挙げられる.その他,CLDM(ダラシン®),FOM(ホスミシン®)も安全性が高い.

9-2.テトラサイクリン系,アミノグリコシド系,ニューキノロン系,ST(バクタ®)は胎児への影響を考慮し,使用すべきではない.
 妊娠中は,腎クリアランスが高まり,分布容積が増加し,タンパク結合率が低下する薬物があるので,難治性感染症の治療では体内動態の変化を考慮する.
10.高齢者への抗菌薬投与
10-1.加齢に伴う薬物動態の変化を考慮して投与量,投与方法を選択する必要がある.

10-2.高齢者においては合併症のために多種の薬剤を併用されていることが多く,薬物間相互作用についての十分な注意も必要となる.
 高齢者での抗菌薬投与については下記文献参照.
Crossley KB, Peterson PK. Infections in the elderly. Principles and practice of infectious disease, 6th ed. Mandell GL, Bennett JE, Dolin R, eds. New York: Elsevier Churchill Livingstone 2004; 3164-9
 解説には記載しなかったが,高齢者の耐性菌リスクの考慮をどこまで行うかは今後議論の余地がある.とりわけ肺炎においては耐性菌リスクはあくまでも検出菌による疫学データからだされたものであり,真の起因菌での疫学データではない.このため,耐性菌リスクを考慮した抗菌薬治療が過剰なスペクトラムカバーとなり,さらなる耐性菌誘発を助長させる懸念もある.

■本章での引用文献数は26

院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第3章.初期抗菌薬の選択(1)
→院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第4章.抗菌薬の継続・変更・中止」

by DrMagicianEARL | 2012-07-16 14:22 | 感染対策

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