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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

当医療圏における感染防止対策ネットワーク

■2012年4月より開始となった感染防止対策加算において,当院を含む二次医療圏全体で感染防止対策ネットワークが作られ,2回目の合同カンファレンス(本格的なネットワーク始動としては1回目)が7月上旬に行われた.5月時よりさらに加算2が5病院増え,加算1が6病院,加算2が16病院の計22病院という,国内最大規模ネットワークでの始動となった.

■合同カンファレンスは総勢100名以上となり,ネットワーク代表の大学病院の大講堂で開催された.大学病院感染制御の教授の進行で開始され,感染対策ネットワークの会則(案)を全開一致で採択.その後,年間予定,加算要件の再確認,加算1-1施設ラウンド報告が行われた.

■加算1-1ラウンドの報告はPowerPointを使い,写真を提示して発表された.全部のチェック項目をラウンドしてチェックするのは時間的にも不可能なため,自施設でA評価の項目はある程度省略してラウンドを行っている.具体的な改善点の指摘としては,植木鉢の配置(水や土を含むため,倒れたときのことも考え,置く場所や撤去も考慮),手術室廊下のゴミ箱,ゴム手袋箱の向き(取り出し口が上向きでは駄目),消毒薬の配置・向き,マスク着用などであった.

■その後,各専門職別カンファレンスが開かれ,医師・看護師・事務職部会と薬剤師部会と検査技師部会の3つに分かれて会議が行われた.病院によって感染防止対策のレベルは大きく異なり,加算2の病院においては,感染防止対策の経験がほとんどない病院ばかりであり,ラウンドやサーベランスなどもほぼ行われていない状況にある.このため,当面はこれらの病院の底上げ期間が必要になってくる.なお,検査技師部会では「耐性菌とは」という,基礎の基礎の勉強会から始まったとのことであった.

■次に行われたのは各1-2連携カンファレンス.当院を含む連携は加算1の大学病院と加算2の6病院.アンケート結果で各施設の感染対策状況がその場で公表されたが,当院以外の病院は明らかに感染防止対策に慣れておらず,これまで特になされていなかったようである.とりわけラウンドもサーベランスも行われていない病院も複数あるため,その病院への指導が行われた.実際,7病院中長年のサーベランスデータを持っているのは当院のみであった(大学病院はつい最近).まずは各病院での耐性菌の全数把握を行うところから始まることになった.
※竹末教授のいる兵庫医大は加算2の15病院と連携しているとのことだが,15病院ともかなりの感染防止対策レベルを有しているとのことである.さすがというところか.

■細菌検査室がない病院も多く,これは加算1の病院でもみられたことである.このような病院では,外注先からの報告を紙ベースではなく,Excel化してもらい,データ集積を行うことが提言された.まずは後向きにデータ解析が行える環境を全病院が整えることから開始となった.
※某教授との話ででてきたが,加算2病院の想定以上の増加があることから,医療費削減のために加算2の病院の厳格基準による切り落としと,加算報酬点数の減点が行われる可能性がありうると予想されている.また,加算1だが細菌検査室を持っていない病院は200点になるのではないかと予想された.

■アウトブレイク時の対応についてはマニュアル化する予定ではあるものの,まだまだ調整が必要そうである.MRSAとESBLに関しては「1ヶ月に1つの病棟で同一菌による感染症が4例以上」の時点でネットワークに報告,となっているが,この基準についてはまだまだ議論が必要である(より緩和すべき?).MDRP,MBL産生菌,VRSA,VRE,MDRABなどは「1例でも出た時点でネットワークへ報告対処」とする案になっていて,MDRPやMBL産生菌をはずそう,VISAは入れない,という大学病院の意見があった.小生はこの意見には反対している(local factorなども考慮するとはずすべきではないと考える).このあたりは疫学認識の違いであろう.

■ネットワークとしては,最終的に以下の内容のデータを揃えることでまとまり,閉会となった.
①各施設のカルバペネム系・抗MRSA薬使用量の提示
②各施設の耐性菌全数データの提示
③手指消毒薬使用量データの提示

■手指消毒薬使用量データに関しては,アルコール消毒薬(ヒビスコール®)の使用量で評価することになった.具体的には,1回あたりの使用量が3cc(ヒビスコール®では1プッシュ1.5ccで1回あたり2プッシュ必要)として,全使用量を患者数×期間で割った「1人の患者につき1日に使用される量」を算出する.15cc/患者人/日が標準ラインとされている.ただし,病室に入るときと出るときの最低2回を考えても,15cc/患者人/日だと消毒回数5回,すなわち2.5回しか病室に出入りがない計算になるため,これでも少ない.ところが実際の病院内のアルコール消毒薬使用回数はおそらく15ccをはるかに下回ることが予想される.実際,大学病院は3cc/患者人/日しか使用されていなかった,つまり病室に0.5人/日しか出入りがなかった計算になる.当院では2011年の使用量から2cc/患者人/日以下であることが分かり,現在使用推進中である.2012年4-5月の集計では2011年使用量より倍化してはいるものの,まだまだ足りていない状況にある.

※手指衛生に必要な場面は5つある.これはWHOが“Clean care is safer care”をスローガンに手指衛生の実施率改善に努めているものである.従来の一処置一手洗いは時に不必要な手洗いを含み,手荒れなどの弊害もでてきる.手洗いの目標は「病原体を持ち込まない,持ち出さない,移動させない」ことである.患者と患者に属する器具・器材および環境を「患者周囲環境(患者域)」とし,それ以外(診療域)と区別する.すなわち,患者ベッド,床頭台,輸液ポンプ,人工呼吸器などを患者域とし,手指衛生に必要な5つの場面を提示している.
①患者域に入る前
②無菌操作前
③血液・体液に触れた後,あるいは触れた可能性があった場合
④患者域から出た後
⑤患者域に属する器材などに触れた後
なお,手袋の着用は手洗いの代用ではなく,手袋の着用が手洗い不要の理由とはならない.手袋には微小孔(ピンホール)が医療従事者が考えているよりはるかに多く存在し,実際に手袋を脱いだ手から患者と同一菌が1.7-4.2%の割合で検出されている(CCM 2012; 40: 1045-51).手術時の滅菌グローブであっても少なくとも1.5%にピンホールが空いている(日本グローブ工業会website).

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by DrMagicianEARL | 2012-07-17 00:59 | 感染対策 | Comments(0)

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