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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献】COPDにおけるチオトロピウム(スピリーバ®)レスピマット吸入と死亡リスク,TIOSPIR trial

■COPD治療薬の1つ,長時間作用型抗コリン薬スピリーバ®レスピマット製剤で死亡リスク増加の報告が3年連続ででていた[1-3]中,大規模安全性試験TIOSPIR trialの結果がNew England Journal of Medicineに報告された.現時点ではabstractしか閲覧できないため,詳細については後日,本記事改訂で検証するが,ClinicalTrials.govを見る限り,ハイリスク集団を除外した研究デザインであり,安全性の担保とはならないため,私はまだ処方しない方針は変えない予定である.なお,本試験結果は欧州呼吸器学会(ERS)でも報告される模様である.
COPDにおけるチオトロピウム(スピリーバ®)レスピマット吸入と死亡リスク,TIOSPIR trial
Robert WA, Antonio A, Daniel C, et al; the TIOSPIR Investigatros. Tiotropium Respimat Inhaler and the Risk of Death in COPD. N Engl J Med 2013 Aug.31
Epub ahead of print

Abstract
【背 景】
 COPD患者のプラセボ対照比較試験において,チオトロピウムレスピマット吸入での5μg用量は,チオトロピウムハンディヘラー18μgと効果は同等であった.プラセボに比して,ハンディヘラーは死亡率減少に関連していたが,レスピマットでは死亡率増加が報告されていた.

【方 法】
 COPD患者17135例(40歳以上)を登録したこの1191施設共同無作為化二重盲検ダブルダミー並行群間試験において,我々はチオトロピウムレスピマット2.5μg/日,5μg/日の安全性および有効性をチオトロピウムハンディヘラー18μg/日と比較した.一次評価項目は死亡リスク(非劣勢試験,レスピマット2.5μgまたは5μg用量 vs ハンディヘラー)と初回のCOPD急性増悪リスク(優越性試験,レスピマット5μg vs ハンディヘラー)とした.また,心疾患が安定している患者の安全性を含む心血管安全性も評価した.

【結 果】
 平均観察期間2.3年で,レスピマットはハンディへラーに比して死亡リスクは非劣性でり(レスピマット5μg vs ハンディヘラー:HR 0.96, 95%CI 0.84-1.09;レスピマット2.5μg vs ハンディヘラー:HR 1.00, 95%CI 0.87-1.14),初回増悪リスクは非優越性であった(レスピマット5μg vs ハンディヘラー:HR 0.98, 95%CI 0.93-1.03).死亡原因や主要な心血管有害事象発生は3群間で同等であった.

【結 論】
 COPD患者において,チオトロピウムレスピマット5μgと2.5μgは,ハンディヘラーと比較して安全性,有効性で同等であった(Boeringer Ingelheim社より基金を受けた;TIOSPIR ClinicalTrials.gov number, NCT01126437).
■2011年6月,British Medical Journalに,スピリーバ・レスピマットにより死亡率が52%増加したという衝撃の報告がなされた[1].5報のRCTのメタ解析で,レスピマット群vsプラセボ群の死亡率は90/3686 vs 47/2836であり,相対リスク1.52,95%信頼区間1.06-2.16 (p=0.02)という結果であった.それまでのUPLIFT試験や他のメタ解析を見ても,ハンディへラー製剤で死亡率が増加したという報告はなく,レスピマット製剤そのものによる死亡率増加と考えられた.この報告において,Singhらは,スピリーバ・レスピマットによってtiotropiumが予期せぬ血中濃度に達する可能性を指摘している.実際,スピリーバ・レスピマットで吸入されたtiotropiumの約3割が血中に移行するとされており,この血中移行性が死亡率に関与している可能性もある.ただし,このメタ解析は,患者が重複している問題点も指摘されている.

■Singhらの報告から送れること1ヶ月,Boeringer Ingelheim社とPfizer社はSinghらの報告に対する見解を発表.この2社の見解は以下の通り.
(1) Singhらの報告とは見解を異にしている.
(2) Singhらの報告の結論は新しい臨床的エビデンスに基づいたものではない.このメタ解析に使用された5つの臨床試験データはスピリーバ・レスピマットの添付文書にも反映されており,Boeringer Ingelheim社とPfizer社は臨床データを分析する際はSinghらと違い,詳細な患者データを使用して行っている.この解析結果では,スピリーバの致死的事象のリスクは数字上では不均衡だが有意差はなかった.
(3) 5つの臨床試験において見られた死亡率は,他の大規模なCOPDに関する試験と同様の範囲内であった.
この見解における(2)の2社による解析結果は明示されておらず,安全性への説明があいまいと言わざるを得ない.一方の日本呼吸器学会も何ら見解を示さなかった.

■さらに,2012年10月,今度はThorax誌から42のRCT,52516名のメタ解析でスピリーバ・レスピマットによる死亡率増加がDongらより報告された[2].この報告によると,スピリーバ・レスピマットは,死亡リスクがプラセボ群と比較して1.51倍(95%CI 1.06-2.19),スピリーバ・ハンディヘラー群と比較して1.65倍(95%CI 1.13-2.43),長時間作用型β2刺激薬群と比較して1.63倍(95%CI 1.10-2.44),長時間作用型β2刺激薬+吸入ステロイド群と比較して1.90倍(95%CI 1.28-2.86)有意に増加していた.

■そして2013年に入って,レスピマットとハンディヘラーの有害事象に関する初めてのhead-to-headの比較試験が報告された[3].本試験はオランダのコホートデータから40歳以上で少なくとも1年間情報を得られる患者を登録し,死亡リスクをCox比例ハザード回帰分析で算出した.共変量として喫煙歴,基礎疾患(気管支喘息,狭心症,虚血性心疾患,末梢動脈疾患,心筋梗塞,脳卒中あるいは一過性脳虚血発作,心不全,心室性不整脈,高血圧,脂質異常症,癌,肺炎,パーキンソン症候群,抑うつ,認知症,糖尿病,腎不全),併用薬剤を想定した.11287例が23422のチオトロピウム使用エピソードを有していた.496例がチオトロピウム使用中に死亡した.レスピマットはハンディヘラーと比較して死亡リスクは1.27倍(95%CI 1.03-1.57)有意に増加した.死因としては,心血管系・脳血管系の死亡リスクが最も高かった(HR 1.56, 95%CI 1.08-2.25).心血管系疾患を有する患者では死亡リスクは1.36倍(95%CI 1.07-1.73)有意に増加した.心血管系疾患を有さない患者では死亡リスクの増加は認められなかった(HR 1.02, 95%CI 0.61-1.71).

■これらの経緯があり,チオトロピウムレスピマット製剤の使用をストップさせた医師も多い.その中で今回のTIOSPIR trialをどうとらえるかが問題となる.
(1) 本試験は安全性を一次評価項目とした大規模二重盲検RCTであり,エビデンスレベルは高い.
(2) 製造・販売メーカーであるベーリンガー社とのCOIがある(というよりメーカー主導の試験である).
(3) 6ヶ月以内に心筋梗塞の既往がある患者,不安定または致死的不整脈を有し,治療介入・変更が必要な患者,心不全(NYHA ⅢorⅣ)入院既往のある患者は除外されている
(4) レスピマットとハンディヘラーの安全性に有意差はないが,この試験の一次評価項目・二次評価項目では心血管リスクを有する患者での安全性は不明である.心血管リスクがこれまで危惧されてきたこと,Verhammeらの報告[3]で心血管リスク患者において特にリスクが高まることが示されていることから,TIOSPIR trialのデータでの心血管リスク患者に限定したサブ解析は行われるべきであろう.
■以上から,レスピマットは吸入力が弱い高齢者ではハンディヘラーより有利かもしれないが,心血管リスク患者ではやはり使用は回避すべきというsuggestionは変えるべきではないであろう.有効性はレスピマットもハンディヘラーも同等であり,COPDでは心疾患合併率もそれなりに高いことから,あえてレスピマットを選択するメリットは乏しいと思われる.

■なお,まだ結果未掲載であるが,二次評価項目は以下の通りである.
・120週でのFEV1
・COPD急性増悪による初回入院までの期間
・COPD急性増悪による入院回数
・最初の心血管有害事象までの期間
・COPD急性増悪回数
・中等症から重症のCOPD急性増悪までの期間
・主要な心血管有害事象による死亡までの期間

■長時間作用型抗コリン薬のtiotropium(商品名:スピリーバ®)はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)においてガイドラインでは第一選択薬に位置づけられている.

■抗コリン薬がCOPD患者にもたらす最も重要な作用は,ムスカリン受容体でのアセチルコリン阻害作用と考えられている.短時間作用型抗コリン薬はM2受容体とM3受容体を阻害し,節前神経終末における情報伝達を社団するが,この作用はCOPD患者では重要でないと考えられている[4].長時間作用型抗コリン薬は,薬物動態的にM1受容体とM3受容体に選択的に作用し[5],その作用持続時間は24時間以上である[6]

■tiotropiumはCOPD増悪および関連する入院を抑制させ,症状および健康状態を改善し[7],呼吸リハビリテーション効果を向上させる[8].COPD患者を対象とした大規模な長期臨床試験では,その他の標準的治療にtiotropiumを追加しても肺機能低下率に対して効果はなく,心血管系リスクに関するエビデンスも認められなかった[9].他の大規模試験では増悪の抑制に関して差は小さいもののtiotropiumの方がsalmeterolに比べて優れていたと報告されている[10]

■tiotropiumはBoeringer Ingelheim社でスピリーバ®として発売されており,Pfizer社が販売提携をしている.デバイスは当初ハンディへラーのみであったが,さらに効果を上げるべく,噴射ガスを使わずに細かい霧状に噴霧する新世代のソフトミスト吸入器であるレスピマットを開発し,販売開始となった.このレスピマットにより,より肺全体にtiotropiumが行き渡るようになり,さらなる治療効果が期待された.現在,米国を除く55カ国で使用されるに至る.

■抗コリン薬は吸収性が低く,アトロピンにみられるような全身性の副作用は少ない[11].主な副作用は口渇である.前立腺症状については報告例があるものの,因果関係を証明するデータは報告されていない.一方で,短時間作用型抗コリン薬ipratropiumを連用しているCOPD患者において,心血管疾患が若干増加するという予期されていなかった副作用が報告されている[12,13]

[1] Singh S, loke YK, et al. Mortality associated with tiotropium mist inhaler in patients with chronic obstructive pulmonary disease: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 2011; 342: d3215
[2] Dong YH, Lin HH, Shau WY, et al. Comparative safety of inhaled medications in patients with chronic obstructive pulmonary disease: systematic review and mixed treatment comparison meta-analysis of randomised controlled trials. Thorax 2013; 68: 48-56
[3] Verhamme KM, Afonso A, Romio S, et al. Use of tiotropium Respimat(R) SMI vs. tiotropium Handihaler(R) and mortality in patients with COPD. Eur Respir J. 2013 Mar 21
[4] Barnes PJ. Bronchodilators : basic pharmacology. In: Calverley PMA, Pride NB, eds. Chronic obstructivepulmonary isease. London: Chapman and Hall; 1995: 391-417
[5] Disse B, Speck GA, et al. Tiotropium (Spiriva) : mechanistical sonsiderations and clinical profile in obstructive lung disease. Life Sci 1999; 64: 457-64
[6] van Noord JA, bantje TA, et al. A randomised controlled comparison of tiotropium and ipratropium in the treatment of chronic obstructive pulmonary diseae. The Dutch Tiotropium Study Group. Thorax 2000l; 55: 289-94
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[10] Kesten S, Casaburi R, et al. Improvement in self-reported exercise participation with the combination of tiotropium and rehabilitative exercise training in COPD patients. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2008; 3: 127-36
[11] Tashkin DP, Celli B, Senn S, et al. A 4-year trial of tiotropium in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med 2008; 359: 1543-54
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[13] Anthonisen NR, Connett JE, et al. Hospitalizations and mortality in the Lung Health Study. Am J Respir Crit Care Med 2002; 166: 333-9
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by DrMagicianEARL | 2013-09-03 12:00 | 文献 | Comments(0)

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