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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

日本版敗血症診療ガイドライン完成版発表(1)

■2012年11月12日に日本集中治療医学会より日本版敗血症診療ガイドラインが発表された.このガイドラインは第39回日本集中治療医学会学術集会において,第3日目の3月1日にSepsis Registry委員会からの企画として日本版敗血症診療ガイドライン(案)がドラフトから発表され,5月に1ヶ月間の記名式パブリックコメントを募集し,作成し直したものである.当初は8月11日発表される予定であったが,膨大なパブリックコメントが寄せられたためまとめ切れず,完成が大幅に遅れた.

委員長
織田 成人 (千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学)

オブザーバー
平澤 博之 (千葉大学名誉教授)

委員
相引 眞幸 (愛媛大学救急侵襲制御医学)
志馬 伸朗 (京都府立医科大学附属病院集中治療部)
松田 直之 (名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野)
池田 寿昭 (東京医科大学八王子医療センター特定集中治療部)
今泉 均  (札幌医科大学救急・集中治療医学)
落合 亮一 (東邦大学医療センター大森病院麻酔科)
小谷 穣治 (兵庫医科大学救急・災害医学講座)
西田 修  (藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座)
遠藤 重厚 (岩手医科大学救急医学講座)
野口 隆之 (大分大学医学部麻酔科学講座)

ガイドライン作成ワーキンググループ
秋富 慎司 (岩手医科大学部救急)
安宅 一晃 (大阪市立総合医療センター集中治部)
井上 茂亮 (東海大学医部外科系救命急)
氏家 良人 (岡山大学院医歯薬総合研究科救急)
江木 盛時 (岡山大学病院集中治療部)
垣花 泰之 (鹿児島大学院医歯総合研究科救急・集中治療分野 )
後藤 孝治 (大分学医部麻酔科講座・集中療)
坂本 照夫 (久留米大学医部救急)
佐々木 淳一(慶応義塾大学医部救急)
貞広 智仁 (千葉大学院医研究救急集中治療)
佐藤 挌夫 (京都大学医学部初期診療・救急医)
柴田 純平 (藤保健衛生大学医部麻酔・侵襲制御)
鈴木 泰  (岩手医科大学部救急)
巽 博臣  (札幌医科大学部救急・集中治療講座)
中永 士師明(秋田大学医部救急)
中村 智之 (藤田保健衛生大学医部麻酔・侵襲制御)
仲村 将高 (千葉大学院医研究救急集中治療)
布宮 伸  (自治医科大学院研究集中療)
長谷川 隆一(公立陶生病院救急部)
林 淑朗  (Royal Brisbane and Women's Hospital, Royal Brisbane and Women's Hospital, Department of Intensive Care Medicine The University of Queensland, UQ Centre for Clinical Research )
藤島 清太郎(慶應義塾大学医部救急)
升田 好樹 (札幌医科大学部救急・集中治療講座)

■EBMの概念を中核とし,項目ごとにSepsis Registry委員会の委員を中心にガイドラインを作成しており,項目毎に担当委員が決められている.PubMed,Medline,Chochrane Databaseで検索した各種エビデンスに加え,2007年と2010年に行われたSepsis Registry調査結果を反映し,SSCG 2008と同様にGRADEシステムと2段階の推奨度を項目毎に定めた.その上でClinical Questionとそれ対するAnswerをまとめたものである.なお,各委員のCOI開示ではすべて「無」となっている.

■未完成版のガイドライン(案)では全委員での総合的な吟味がなされていない印象があり,このため,各項目内容と担当委員を加味してこのガイドラインを読む必要があった.項目によっては非常によく考察がなされており適切と思われる内容になっているものもあれば,別の項目では極めて不可解なエビデンスレベルがつけられていたりと非常に信頼性がマチマチで,担当した委員によってはCOIが本当に全部「無」なのか疑われても仕方がない内容であった.予想通り非難が集中したのか,膨大なパブリックコメントが寄せられ,委員会でまとめることが困難であっったことが推察される.完成版では多数の項目で推奨度・文献レベルが案のときより下げられている.

■小生がパブリックコメントで指摘した部分もいくつか修正がなされている.とはいえ,全体としてそこまで変わったという印象はない.推奨項目の文章はもう少し変えらるべきではないか?

■以下に推奨項目,(案)から完成版でどのように変わったか(赤字は変更箇所),および小生の見解を示す.

■論文ランク付けはエビデンスレベルをA,B,C,Dの4段階に分けている.
 レベルA:RCT
 レベルB:質の低いRCTまたは質の高い観察研究,コホート研究
 レベルC:対照と比較した観察研究,コホート研究
 レベルD:症例集積研究または専門家の意見
このレベルから以下の4段階のGRADEを決定(GRADEは推奨する事項の質の高さを表すもので,).
 GRADE A:高いエビデンスのあるもの.複数のレベルAの研究があるもの
 GRADE B:中等度のエビデンスのあるもの.1つのレベルAの研究があるもの
 GRADE C:弱いエビデンスのあるもの.レベルBの研究しかないもの
 GRADE D:非常に低いエビデンスしかないもの.レベルC以下の研究しかないもの
推奨度は,エビデンスの質,アウトカムの相対的重要性,アウトカムのべースラインリスク,相対危険度の大きさの4つの因子を検討し,委員会の専門家の意見を加えて検討した.
 推奨度1(強い推奨):推奨に従った場合の望ましい効果(転帰,負担,コスト)が不利益を明らかに上回る.
 推奨度2(弱い推奨):推奨に従った場合の望ましい効果が不利益を上回ることが予想されるが,十分な根拠が不足しているか,確実性が不足している.

1.敗血症の定義と診断
敗血症=sepsisとし,その定義は感染によって発発症した全身性炎症反応症候群(SIRS),すなわちinfection-induced SIRSとする(1B).
※本項目に変更はない.
※敗血症(非重症),重症敗血症,敗血症性ショックの中で初期蘇生の対象となるのは重症敗血症と敗血症性ショックの2つである.このため,Sepsisの区分を変えるべきだとの意見が出始めている.すなわち,Infection induced SIRSの中でSepsisを重症敗血症と敗血症性ショックとする考え方である.欧州集中治療医学会では既にARDSの診断基準,重症度分類が変更となり,ALIの名称が姿を消したという流れもあり,Sepsisの定義も再編される可能性がある.

感染の存在は,通常無菌的な組織や体液または体腔に病原性をもつ,またはその可能性のある微生物やその毒素が証明されれば確実であるが,無菌的部位に病原微生物が証明されなくても,感染に対する全身反応としての敗血症が強く疑われる場合は感染として扱う.表(略)に示す補助的指標を参考にする(1C).
※感染症の診断基準を明確に定めることは困難であるが,補助的診断項目としてSCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference(Crit Care Med 2003; 31: 1250-6)におけるsepsis診断基準の項目を一部改変して提示している.
血液培養で病原微生物が検出される(菌血症),あるいは血液中に病原微生物の毒素が検出される(エンドトキシン血症など)必要はない(1B)(1C)
※GRADEダウンした.
※菌血症が敗血症の根拠でないことを明記するのは非常に有意義である.いまだに勘違いされていることが多々あるが,菌血症であることは敗血症について必要条件でもなければ十分条件でもない.血液培養陰性は敗血症を否定する根拠には全くならない.
※エンドトキシン活性を図る意義がどこまであるかは不明である.エンドトキシン以外にも多くの毒素が存在すること,Ⅲ型毒素分泌を行うグラム陰性桿菌が多数発見されていることから,エンドトキシン計測が敗血症治療においてどこまで意義をもっているかは不明である.エンドトキシンについてのまとめはこちら

敗血症の重症度分類として,重症敗血症(severe sepsis),敗血症性ショック(septic shock)を用いる(1B)(1C)
※GRADEダウンした.
重症敗血症は敗血症の中で,臓器障害や臓器灌流低下または低血圧を呈する状態であり,臓器灌流低下または灌流異常には,乳酸アシドーシス,乏尿,意識障害などが含まれる.臓器障害の判断にはMODSスコアやSOFAスコアに用いられている臓器障害の指標を用いる(1B)(1C)
※GRADEダウンした.
※一般的にはSOFAスコアが用いられることが多い.敗血症の重症度評価についてはこちらも参照.なお,PIRO scoreが最近注目されているが,エビデンスの蓄積はこれからである.

■敗血症性ショックは重症敗血症の中で,十分な輸液負荷を行っても低血圧が持続するものとする.ただし,循環作動薬が投与されている場合は,低血圧でなくてもよい(1B)(1C)
※GRADEダウンした.
※小生は低血圧が持続していなくても乳酸値が4mmol/L以上であれば敗血症性ショックとみなすべきと考えている.現在ショックの定義は第3世代に移行してきており,血圧や血液灌流が維持されていても,末梢組織,細胞での酸素利用障害などを含む酸素代謝異常があればショックと定義されている.実際,末梢循環不全による乳酸値4mmol/L以上の上昇があれば,血圧が正常でもいずれは血圧が低下してくることをしばしば経験する.

■CRP,プロカルシトニン(PCT)はある程度有用だが,現時点では敗血症を確実に診断できるバイオマーカーはない(1C).
※PCTもグラム陽性菌感染症においては感度が落ちることが最近いくつか報告されてきており注意が必要である.
※第39回日本集中治療医学会では,岩手医大の遠藤教授が作成したバイオマーカーであるプレセプシンが別のセッションで発表されており,敗血症のマーカーとして非常に有用であると報告している.実際の効果については市場での大規模な調査報告が必要であろう.


2.感染症の診断
全ての症例において,抗菌薬投与前に血液培養を行う(1D).同時に推定感染部位からの検体を無菌的に採取し,塗沫検査と培養同定・感受性検査を行う(1D).
※解説文献としてJAMA 1995; 273: 117-23が追加.
血液培養検体採取時は,穿刺部の皮膚を,アルコール含有クロルヘキシジン,アルコール含有10%ポビドンヨード,あるいはアルコール前清拭後水溶性10%ポビドンヨードで消毒した後,消毒する(1B).血管経皮穿刺により,1セットあたり20mLを2セット以上(感染性心内膜炎を疑う場合には3セット)採取する(1C).
※消毒のところがGRADEアップした.
※おそらく実戦的なのは速乾性・速効性のあるアルコール含有クロルヘキシジンであろう.現在本邦では1%濃度製剤(ヘキザック®)が発売されている.本製品の欠点はポビドンヨードのような色がないため消毒範囲が分からなくなる可能性があることだろう.今後色付けした製品を発売予定とのこと.

敗血症の原因となる感染部位は腹腔内,呼吸器,血流(カテーテル関連を含む),皮膚・軟部組織,尿路などが多い.原因菌としては黄色ブドウ球菌(MRSA,MSSA),大腸菌,肺炎桿菌,緑膿菌,エンテロバクター属などが多い(1C).

3.抗菌薬治療
敗血症診断後,1時間以内に経験的抗菌薬投与を開始する(1C).
※1時間という時間自体のエビデンスは後向きの観察研究・コホート研究ばかりのため,実はそれほど根拠があるわけではない.
経験的治療(empiric therapy)では,原因感染症を推定し,その感染症で疫学的に頻度の高い原因菌を十分カバーできる広域抗菌薬の投与を行う(1D)(1C)
※GRADEがアップしている.
※本発表者の志馬先生より「できればICUのantibiogramが望ましい」とのこと.また,empiricな抗菌薬については完成版では表がついている.
※解説に敗血症初期経験的治療の観察研究70報のメタ解析Antimicrob Agents Chemother 2010; 54: 4851-63が追加されている.
※解説に併用療法の文献が追加された.MFLX+MEPM併用群とMEPM単剤群で有意差がなかった報告(JAMA 2012; 307: 2390-9)であり,別項目の解説でも触れられている.ただ,そのような併用をするケースがそれほどあるのか,特定抗菌薬での比較研究を併用療法一般のガイドラインに引用する必要はあるのだろうか?
※解説に経験的抗菌薬併用療法はグラム陽性桿菌敗血症のアウトカムを改善したとする報告(Antimicrob Agents Chemother 2010; 54: 1742-8)が追加.
※解説に「日本には独立した感染症科,あるいは感染症専門医が不足しており,施設によっては直接的かつ迅速なコンサルテーションが難しい場合も考えられるが,この場合,地域の感染対策ネットワークやメーリングリスト等電子媒体を用いたコミュニケーションも活用する」と追記されている.IDATENやJSEPTICのメーリングリストも入るということか.

原因菌が確定したら,感受性結果を評価し,標的治療(target therapy)薬に抗菌薬を変更する(1D).標的治療は単剤を基本とする(2B).黄色ブドウ球菌やカンジダ属が血液培養から検出された場合には感染症専門医へのコンサルトが望ましい(2D).高度薬剤耐性菌や多剤耐性菌の治療と管理では,高度な専門知識が要求されるので,感染症専門医へのコンサルトが望ましい(2D).
※単剤治療推奨文が追加となった.
※ここの解説でもMFLX+MEPM併用群とMEPM単剤群で有意差がなかった報告(JAMA 2012; 307: 2390-9)が触れられている.「本研究結果を全ての治療に一般化することは困難であるが,少なくとも標的治療薬は単剤を基本とする方向性を支持する一傍証としてとらえることが可能である.」と述べている.
※カンジダ菌血症による敗血症では,非好中球減少患者であればACTIONs BUNDLEをもとに治療をすすめていくことが推奨される.これは,カンジダ感染症の診断・治療に関する日本独自の診療バンドルを定め,その治療成績を集計,324施設1050例の大規模studyとなり,2012年ICAACで兵庫医大の竹末教授が発表している.この発表では,ACTIONs BUNDLEの遵守率と治療奏功率の間に明らかな相関が得られていた.この結果がある以上,本バンドルは使わざるをえないのではないかと考える.

抗菌薬投与はPK/PD理論を考慮して行う.βラクタム系薬剤はTime above MIC(TAM)を高く保ち,アミノグリコシド,キノロン,グリコペプチド系薬剤は最高血中濃度(Cmax)や濃度下面積(AUC/MIC)を高く保つ(1B)(1C)
※GRADEダウンした.
原因菌が同定され,初期治療の反応が良好であれば,可及的狭域の薬剤を用いた標的治療へ変更する(de-escalation).細菌感染症でないと判断した場合,直ちに抗菌薬を中止する(1C).
※de-escalationの考え方でつい忘れられがちなことがきっちり書かれている.培養された菌を初期投与した広域抗菌薬がカバーしているにもかかわらず治療奏功・臨床症状改善がなければempiric治療の再考と感染巣・原因菌再検索が必要であり,この場合は最初に培養された菌に対するde-escalationは行ってはならない.
抗菌薬中止の判断は,バイタルサインの安定化や感染を起こした臓器機能の改善などを考慮し,臨床的な総合判断で行う(1D).代表的な感染症では標準的治療期間を参考に治療期間を決定する(1C).抗菌薬中止にはプロカルシトニンを考慮してもよい(2A).

4.画像診断
感染巣のコントロールと治療方針の早期決定のため,感染巣の同定は初期蘇生後速やかに行うべきである(1C).

ベッドサイドで施行が可能な単純X線写真や超音波検査に加えて,感染巣の特定が困難な場合,広範なスクリーニングが可能なCTが有用である(1D).
※CT撮影に条件がついた.安易なCT撮影は被曝,コスト,CT室での急変リスクを考慮して,ということか.
造影CTで感染巣の確定に至らない場合,MRI検査や核医学検査を検討する.検査施行前に放射線科専門医へのコンサルトが望ましい(2D).


日本版敗血症診療ガイドライン完成版発表(2)はこちら
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by DrMagicianEARL | 2012-11-13 01:01 | 敗血症 | Comments(1)
Commented by racid at 2012-11-13 09:14 x
http://www.ninjal.ac.jp/byoin/teian/ruikeibetu/teiango/teiango-ruikei-b/haiketusyo.html
これの敗血症の説明文、なんだかもやっとします。

by DrMagicianEARL