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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

日本版敗血症診療ガイドライン完成版発表(2)

赤字は変更箇所です.

5.初期蘇生と循環作動薬
血圧の低下にこだわらず,代謝性アシドーシスの進行,血中乳酸値の上昇を認めた場合に,初期蘇生を開始する(1A).
※推奨度は1Aとされている.「血圧の低下にこだわらず」が大きなポイントで,末梢循環不全による酸素代謝障害等をショックの本態ととらえるようになった近年の流れに沿った内容となった.当院の敗血症診療ガイドラインでも血圧低下がなくても乳酸アシドーシス(特にLactate≧4mmol/L)であれば敗血症性ショックとみなすことにしている.血圧とショックについてはこちら
※本章ではこの項目に限らず解説の文末表現が所々変更になっているが,とりたてて意味が変わるわけではない.

観血的動脈圧測定を行いで血圧を連続的に監視し,動脈血ガス分析を時系列で行う(1D).
※表現が追加となったが,観血的動脈圧測定値の解釈まで踏み込んだ内容にはならなかった.Aラインは血圧よりもむしろ波形の解釈の方が重要かもしれない.
※撓骨動脈で測定している場合,敗血症性ショックのような末梢血管拡張病態では実際の血圧より低い値が表示され,自動血圧計の方が正確であることが多い.自動血圧計と動脈カテーテルで血圧に乖離がある場合は,カテーテルの入っている手を握ってやると自動血圧計表示圧と同等になることもしばしば経験される.一方,大腿動脈に動脈カテーテルを挿入した場合は比較的正確な血圧が表示されるため,小生は大腿動脈に挿入している(感染リスクを考慮し,留置期間は最大でも6日間までとしている).ただ,動脈カテーテルを挿入する意義は,血圧よりもむしろ頻回な採血(特に動脈血ガス分析)を行うことと脈波観察である.動脈カテーテルについて詳しくはこちら

輸液を中心とした初期蘇生により,中心静脈圧8-12mmHg,平均血圧>65mmHgを目標とし,尿量>0.5mL/kg/Hr,中心静脈酸素飽和度>70%が達成されるかどうかを評価する(1A).動脈血ガス分析で代謝性アシドーシスの改善と乳酸クリアランスを少なくとも6時間毎に評価する(1A).
※6時間という時間が提示されたが,EGDTを行うならばより短時間間隔でのモニタリングが必要ではないか?
心臓超音波検査などにより心機能と前負荷を評価することで輸液管理を適正化する(2D).
※まだ文献レベルでのデータ集積は少ないためエビデンスレベルは低いが,重症敗血症病態において心臓超音波検査による評価は循環動態管理に必須という認識で既に多くの施設で重要視されている.そのため推奨度も1Dとなっている.
初期蘇生はearly goal-directed therapyに準じて施行し(1A),初期輸液には,晶質液だけではなく,アルブミン液や赤血球輸血を考慮する(1B)(2B)
※アルブミン液と赤血球輸血の推奨度がダウンした.報告は徐々に蓄積されてはいるが,推奨度は下げられたのはまだリスクもあるということか.2012年9月にPark DWらからCritical Care Medicineに,低リスクの重症敗血症・敗血症性ショックに対する輸血で死亡率が50%前後低下したとする韓国22施設ICUの1450名のpropensity matching解析が報告されているが,本ガイドラインでは解説に含まれていない.
※基本的には晶質液と膠質液で臨床効果に有意差がないという意見が多く,SSCG 2008ではコスト面を考慮して晶質液が推奨しているが,一部,アルブミン製剤などで死亡率が有意に改善したとする文献もあることから本項目が付け加えられたと思われる.
※言及されていなかったHES製剤(ヘスパンダー®やサリンヘス®)は当院の敗血症診療ガイドラインでは原則使用禁忌としている.これは,HES製剤による腎傷害の報告が相次いでいるためであり,本邦で使用されているものと同等の分子製剤での検討はなされていないが,リスクが考えられるための対処である.

敗血症初期の末梢が温暖なwarm shockでは,血管作動薬としてノルアドレナリン(0.05μg/kg/min~)(1A)か,少量ノルアドレナリン(0.05μg/kg/min~)+バソプレシン(0.03単位/kg/hr~)(1B)を第1選択とする.敗血症初期の末梢が温暖なwarm shockでは,血管作動薬としてノルアドレナリン(0.05μg/kg/min~)を第1選択とする(1A).ノルアドレナリンへの反応性が低下している場合にはノルアドレナリン(0.05μg/kg/min~)に加えてバソプレシン(0.03単位/kg/hr~)の併用を考慮する(2B).
※ノルアドレナリン単剤のみが第1選択に変更となり,バソプレシン併用は1Bから2Bに下げられた.GRADEレベルが違う2つの治療法をまとめて第1選択とすると混乱が生じることからバソプレシン併用の推奨度を下げたものと思われる.
※敗血症性ショックにおいてノルアドレナリンがドパミンより優れていることは既に多くの研究で確認されており,メタ解析でも死亡率に有意差がついている.この発表ではドパミンの名前すらだしていない.なお,今年発表されるSSCG 2012ではドパミンの記載は残るものの推奨度は下げられるとのことである.敗血症性ショックにおける昇圧剤についてのまとめはこちらを参照
※近年ではドパミンのようなβ刺激よりむしろβ受容体遮断薬(エスモロールなど)を投与する方が予後がよいとする報告がでてきている.

心機能が低下した場合には,ホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害薬やカルシウム感受性増強薬の併用を考慮する(2D).完全削除
※松田直之教授ならではとまではいかないが,独特の追加項目だったが削除されている.ただし,解説では本剤に言及しており,「考慮するとよい」としている.
※SSCGではこの2剤については触れられてもいないし,一般臨床医の敗血症治療においてはあまり馴染みがないかもしれない.実際,この2剤は病態薬理学的に理にかなっており,cold shockにおいても有用の可能性があるものの,これを明確にする臨床研究がまだ存在しない(そのため推奨度は2Dであった).

※本ガイドラインではパブリックコメント前後のいずれにおいてもドブタミンは推奨されていない.これは解説にある通り,β1シグナルが敗血症病態では伝達されにくいことも反映されていると推察される.SSCGでのEGDTではドブタミンが推奨されているものの,実は根拠がない.実際,ドブタミンの効果が疑問視されていることも事実であり,細胞内情報伝達メカニズムを考慮した治療薬選択が望ましいかもしれない.Enrico Eらが2012年10月にJ Crit Careに敗血症性ショックにおけるドブタミンの効果について検討しており,ドブタミンは心拍数,心係数,1回心拍出量を増加させるが,平均血圧は不変であり,全身血管抵抗は減少したと報告している.この報告では,微小循環傷害は投与前に高度な変化がある場合でのみ改善したとされている.

※解説に変更があり,アドレナリン持続投与については本ガイドラインでは推奨しない方針とした,と述べている.これはCAT研究から,アドレナリンとノルアドレナリンを比較して,血圧上昇時間に有意差はないが,アドレナリン群で有意に乳酸上昇と頻脈が認められ,ガイドラインでは乳酸クリアランスを目標とするためアドレナリンでは混乱をきたすとの判断.

平均血圧>65mmHg,尿量>0.5mL/kg/hr,中心静脈酸素飽和度(ScvO2)>70%,血中乳酸値低下,代謝性アシドーシスの少なくとも6時間以内の改善を目標とする.
※EGDTに則り,Golden Timeの6時間が追記された.施設によっては,3時間,4時間といったより短期での目標を掲げているところもある.

5.呼吸管理
※推奨項目の前に「はじめに」という前置きが追加された.これによると,ALI/ARDSの過去の報告を検討する際,敗血症以外の原因のものも含まれるが,ALI/ARDSの約90%は敗血症によるものとされる報告もあることから,本ガイドラインではALI/ARDSの過去の報告を反映させることは妥当としている.また,ARDS定義改訂となったBerlin Definitionにも言及している.

プラトー圧を30cmH2O以上としない条件で1回換気量は6mL/kg(予測標準体重)前後を目標とする(1A).
※プラトー圧に関する条件が追記された.解説ではARDS Networkによる報告(N Engl J Med 2000; 342: 1301-8)に言及しているのは同じだが,このプラトー圧上限を世界におけるコンセンサスというフレーズが削除されており,代わりに推奨項目内に組み入れられた形となった.
人工呼吸中の吸気プラトー圧が高くなるほど予後は悪化するが,至適値を設定することは困難である(1B).

適切なPEEPレベルを用いることで肺損傷が防止でき,生命予後が改善する可能性がある.しかし,画一的な至適PEEP圧を設定することは困難である.
※高いPEEP圧が低いPEEP圧よりもARDSにおいて有意に予後を改善するというデータはあるが,その差は実は非常に小さい.
※解説では,PEEPとFiO2ではPEEPを優先した方が予後がよいとするメタ解析(Crit Care Med 2011; 39: 2025-30)に言及する一方で,圧情報については肺メカニクスに依存するため,画一的な答えは望めないとしている.

重症低酸素血症(P/F ratio<100)においては,腹臥位療法を考慮する(2B)(2C)
※GRADEがダウンした.腹臥位療法が行われている施設は多いものの,実際にはSud Sらのメタ解析(Intensive Care Med 2010; 36: 585-99)のサブ解析において重症例でのみ死亡率が16%有意に減少したというエビデンスしかない.現在,重症例に絞った前向き試験であるProseva trialが進行中である.
※腹臥位療法はカテーテル類事故抜去,顔面褥瘡・潰瘍形成などの合併症に留意すべきであり,マンパワーも必要とされることが解説で追加された.また,血圧低下も合併症として覚えておく必要がある.これらを解決するひとつの案として前傾臥位療法が提唱されているが(人工呼吸 2009; 26: 210-7),エビデンスはまだ乏しい.


6.血糖コントロール
180mg/dL以上の高血糖を有する重症敗血症患者に対し,血糖値を減少させるために経静脈的インスリン持続投与を行う(1A).血糖値のコントロールを行う際には,目標血糖値は144-180mg/dLとし(2A),血糖値を80-110mg/dLに維持する強化インスリン療法は行わない(1A).
※NICE-SUGAR trialを反映した内容である.SSCG 2008では150mg/dLとなっていたが,SSCG 2012でも144-180に変更される予定である.
経静脈的インスリン療法を受けているすべての患者は血糖値とインスリン投与量が安定するまで1-2時間毎に,安定した後は4時間毎に,血糖値をモニターする(1C).毛細血管血を使用した簡易血糖測定法は測定誤差が大きく,正確性に欠けるため推奨しない(1B).敗血症患者では動脈血・静脈血を用いた簡易血糖測定法あるいは血液ガス分析器による迅速血糖測定を使用する.その際,適宜中央検査室での血糖測定を行い,その正確性を確認する(1B).
※簡易血糖測定器は血糖値が低くでることがよくある.

7.栄養管理
静脈栄養より経腸栄養を優先的に行うべきである(1B).
※解説に明らかな間違いがあったため,完成版では訂正されている.パブコメ募集前はSimpsonらのメタ解析(Intensive Care Med 2005; 31: 12-23)で経腸栄養を優先的に行うことで「死亡率が低下した」と記載されていた.これが「死亡率の低下は示されていない」と訂正された.
目標カロリーは,簡便な体重換算式(25kcal/kg/day),消費カロリー予測式,あるいは間接熱量計による計測を使用して行う(2D).肥満患者(BMI>30)では,間接熱量計による計測あるいは,理想体重を利用した計算を行うべきである(2D).
※消費カロリー予測式はHarris-Benedictの式が頻用されているが,この計算方法にエビデンスはない(医のあゆみ 2004; 209: 573-9/静脈経腸栄養 2010; 25: 573-9).また,重症患者においてBEEにストレス係数を乗じてエネルギー必要量を算定する方法は短絡的,不正確であり,ovefeedingの危険性を増加させる可能性があることも指摘されている(Pediatr Clin North Am 2009; 56: 1143-60).
経腸栄養は可能な限り入室後24時間以内に開始すべきである(1B).最初から全必要カロリー量投与は推奨しない(1B).循環作動薬は使用されていることは早期経腸栄養の禁忌とはならないが,血行動態の不安定な患者では慎重に開始する(1C).
※重症患者においては経腸栄養における小腸虚血合併の可能性は1%以下であるとされる(Nutr Clin Pract 2003; 18: 284)昇圧剤を高用量もしくは急激に上げていかなければならないときは慎重とすべきだが,それ以外ではそう簡単には虚血状態とはならない.ときに急性偽性結腸閉塞症をきたすことがあるが,prokineticsを使用することで解決することが多い.
重症化以前に栄養失調がない限り,敗血症発症後7日間は経腸栄養によるカロリー投与を中心に行い,目標総投与カロリーを達成するための積極的な補足的経静脈栄養を行わない(1B).
※EPaNIC trialを根拠にした内容.同trialでは経腸栄養が可能である場合,早期からの経静脈栄養は一利なしという結果が出た.当院の敗血症ガイドラインでも早期経静脈栄養は推奨していない.また,226施設ICUの人工呼吸器患者における早期EN単独群,早期EN+早期PN群,早期EN+晩期PN群での転帰を比較した観察研究(Crit Care Med 2011; 39: 2691-9)では,PNを併用した2群ではカロリーやタンパク量は充足されたが,EN単独群と比較して臨床的利益は得られなかったと報告されており,経静脈栄養の必要性は思った以上にないのかもしれない.なお,「重症化以前に栄養失調がない限り」は重要で,EPaNIC trialでもBMI<17の症例は除外されている.このような栄養失調患者のケースにおいては経静脈栄養の併用も検討する必要があるかもしれない.早期経腸栄養についてはこちらを参照
グルタミンの経腸的補充投与を推奨する十分なデータはない(2B).重症敗血症にはアルギニンを含んだ栄養剤の投与は推奨しない.EPA,DHA,γリノレイン酸,抗酸化物質を強化した栄養剤の使用を考慮してもよい(2B).
※脂肪乳剤への言及がないが,理論上は重症敗血症病態に脂肪乳剤は投与しない方がよいとされる.これは,本邦の脂肪乳剤が全て大豆油によるものであり,これはプロポフォールでも例外ではない.
集中治療を要する患者で選択的消化管除菌(SDD)と選択的口腔咽頭除菌(SOD)の施行により死亡率の低下が報告されている.しかし,耐性菌保菌者での有効性が不確定であり,耐性菌出現率が増加する可能性があるため,積極的には行わない(2B).

8.ステロイド療法
初期輸液と循環作動薬に反応しない成人敗血症性ショック患者の,ショックからの早期離脱目的にステロイドを投与する(2B).ステロイド投与の適応決定にACTH刺激試験は不要である(2B).副作用として,高Na 血症,高血糖のほか新たな敗血症,敗血症性ショックなどの重症感染症の発生率が有意に高いことに注意する(2B).
※新たにステロイドの副作用を項目に入れている.解説でも副作用についてCORTICUS study(N Engl J Med 2008; 358: 111-24)を引用して注意を促している他,筋力低下についてもやや強調した表現になっている.
ステロイドはショック発生早期に投与する(2C).
※演者より「72時間以内が推奨されるかも」とのこと.
ステロイドは,ハイドロコルチゾンで300mg/day以下,5日以上の少量長期投与が推奨される(1A).ハイドロコルチゾン換算量で200mg/dayを4分割,または100mgボーラス投与後に10mg/hr(240mg/day)の持続投与を行う(2B).
※この項目に変更はなかった.1Aほどの推奨レベルがあるのかおおいに疑問である.
敗血症性ショック患者に対してはハイドロコルチゾンを使用する(1A).代替としてメチルプレドニゾロンも使用できる(2C).なお,デキサメサゾンやフルドロコルチゾンは投与すべきではない(2B).
※会場から「メチルプレドニゾロンは言及されていないがどうなのか?臨床的にはメチルプレドニゾロンも使用されているが」という質問がでたが,ARDSにおいては使用されると回答はあったものの,敗血症全般における明確な回答はされなかった.ただ,敗血症全般に対するメチルプレドニゾロンに関するRCTは小生の調べた限りでは1976年から1988年にかけてSchumerら,Thompsonら,Sprungら,Boneらなど,6つのtrialがあるようである.これらのメタ解析やメチルプレドニゾロンとヒドロコルチゾンを比較したtrialは見つからなかった.ただ,内因性ステロイドという意味でヒドロコルチゾンがショック病態に適しているという意見がある.
ステロイドは循環作動薬投与が必要なくなれば徐々に中止する(2D).


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by DrMagicianEARL | 2012-11-14 00:01 | 敗血症

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