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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

日本版敗血症診療ガイドライン完成版発表(3)

赤字は改訂箇所です

9.DIC対策
敗血症におけるDICは,臓器不全発症の一因であり治療の対象となりうる(1C).
※DICは原疾患治療のみで,DICに対する治療は行わないとする欧米の考え方と真っ向から対立する内容といえ,DICそのものを積極的に治療する方針を打ち出している.確かに,敗血症にDICを合併すると予後が悪化することはKyberSeptでもPROWESSでも示されている通りである.しかしながら,DIC治療で予後が改善したというRCTは現時点では存在しないことを考えれば,推奨度は2Dとなるはずである.
急性期DIC診断基準は最も感度が高く,敗血症に伴うDICの早期診断に推奨される(1B).急性期DIC診断基準でDICと診断された時点でDICの治療を開始することが望ましい(1C)(2C)
※DIC治療開始のタイミングについて推奨度がダウンした.しかし,解説には変更がなく,ダウンの理由までは分からない.もし敗血症性DIC治療による予後改善エビデンスがまだないことを考慮しているのであれば,冒頭の「敗血症におけるDICは,臓器不全発症の一因であり治療の対象となりうる」も推奨度を2に下げるべきであろう.
各DIC治療薬の推奨度:未分画ヘパリン(2D),低分子ヘパリン(2C),ヘパラン硫酸(ダナパロイド)(2B)(2D),アンチトロンビン(2A)(2C),リコンビナント・トロンボモデュリン(2B)(2C)
※ダナパロイド,アンチトロンビン,リコンビナント・トロンボモデュリンでGRADEがダウンした.おそらくパブリックコメントで最も批判が出た項目の1つと推察される.
※パブリックコメント募集前は極めて不可解なエビデンスレベルであった.アンチトロンビンはKyberSept trialにおいてはあくまでもサブ解析で生存率改善が示されたに過ぎず,しかも日本とは違い非常に高用量でのtrialであることを考えれば,エビデンスレベルをAとするのはありえない話である(実際に担当委員はKyberSept trialを根拠に述べており,統計学を無視しているかのうようなAのつけ方である).また,新たに登場したトロンボモデュリンもPhaseⅢと市販後調査しかデータがないにもかかわらずエビデンスレベルがBであることも理解しがたいものであった.
※解説では,人工呼吸器装着の敗血症性DIC患者に対するリコンビナント・トロンボモデュリン投与が,歴史的対照群と比較して28日死亡率が有意に改善した山川らの報告(Crit Care 2011; 15: R123)が追加されている.

メシル酸ガベキサート(GM)やメシル酸ナファモスタット(NM)などの合成プロテアーゼ阻害薬(Synthesized Protase Inhibitor:SPI)は,未分画ヘパリンと同等の有用性が証明されており(2B)(2D),特に活動性の出血や出血性合併症が危惧される場合に使用する(2D).
※未分画へパリン程度と同等の有用性でなぜGRADEが2Bなのか,それほどエビデンスもないのに疑問がもたれていた部分であったが,当然ながらGRADEはダウンした.なお,小生はもはや敗血症性DICでは使用していない.敗血症では線溶抑制系DICのため,NMは推奨しにくいと思われるが・・・
敗血症性DICに対する輸血は,通常,推奨されない.ただし,それぞれの血液成分の減少などによって出血傾向がある場合は,抗凝固剤の投与下に使用する(1D).
※DICではADAMTS13が減少していることがあり,血栓性血小板減少症に類似した病態となっていることがあり,血小板輸血がリスクとなる可能性がある.このため,ADAMTS13輸注という観点から新鮮凍結血漿投与が優先されるべきかもしれない.

10.急性血液浄化法
BUN,Crなどの腎機能を指標としたRRTの開始時期に明確な基準はない(1B)(2C)しかしながら,初期蘇生を行っても尿量が得られない重症敗血症,敗血症性ショックでは早期開始を推奨する考慮してもよい(1B)⇒(1C)
※おおむね推奨度・GRADEがダウンした.解説では新たにPayen Dらの報告(Crit Care 2008; 12: R74)が追加されていた.
※SSCG 2012改訂ではRRT推奨は見送られた.

CRRT(持続的腎代替療法)はIRRT(間歇的腎代替療法)に比較して予後を改善するというエビデンスは得られていない(2A).しかし,循環動態が不十分ならば,IRRTではなくCRRTまたはSLED(低効率血液濾過透析)を推奨する(1C).

予後改善という観点からの至適血液浄化療法については結論を出すにはエビデンスが不十分である(2B).

急性腎不全のない敗血症ではサイトカイン等のメディエータを除去するには,吸着特性を有する膜の選択,大孔径膜の選択,あるいは血液浄化量を増やすことにより,サイトカイン等のメディエータは除去されうるなどの方法が必要である(1C)(2C).これにより循環動態の改善を図ることができる可能性が高い(1B)(2C).しかしながら,生命予後を改善するというエビデンスはない(2B)(2C)
※解説は大幅に変更されており,エビデンスがほとんどないことから,推奨度もGRADEものきなみダウンしている.
※解説でPMMA膜について言及しているが,実際には症例集積レベルのエビデンスしかない.

エンドトキシン吸着カラム(PMX-DHP)は腹部緊急手術を要する敗血症性ショックに対しては循環動態改善効果,呼吸機能改善効果が示されている(1B)(2C).予後を改善するかどうかの結論をだすには根拠が不十分である(1C)(2C)
※PMX-DHPについても推奨度やGRADEがダウンとなったが,これもこれまでの研究結果を見れば当然の流れといえる.パブコメ募集前はおそらくEUPHAS trialをやや過大評価しすぎたものと推察される.PMX-DHPを正確に評価する上でも大規模RCTが必要であり,現在,イタリアでEUPHAS 2 projectがフランスでABDO-MIXが,アメリカでEUPHRATES trialが行われており,その結果を待つことになる.PMX-DHPについてはこちらを参照.

11.ガンマグロブリン製剤
成人敗血症へのガンマグロブリン製剤(IVIG)投与による予後改善効果は,現時点では根拠不十分である(2B).しかし,人工呼吸器離脱率,ICU生存率改善の報告もあり,使用を考慮してもよい(2B).敗血症発症の早期にIVIGの投与を考慮してもよい(2B)(2C)
※日本での投与量は海外と違い非常に少なく,その量に明確な根拠がない.担当委員は解説でSepsis Registry調査結果を示した.内容は観察研究で,IVIG投与群131例と非投与群135例を比較したもので,IVIG投与群が有意に死亡率が高いという結果であった.ただし,APACHE-Ⅱスコアなどで患者背景が異なり,IVIG投与群が重症の傾向にあったため,Propensity Scoreを用いたmatchingを行って調整した結果,ICU死亡率,院内死亡率,28日死亡率がIVIGで有意に改善したというデータを参考として示した.しかしながら,海外と投与量が異なる現時点のエビデンスの蓄積状況では日本での前向きのRCTが必要であり,GRADEがBであることには疑問を感じざるを得ない.
IVIGの総投与量は0.2g/kg以上,投与期間は3日間以上投与する(2B)(2C).完全分子型製剤を使用する(2B)(2C)
※当然ながら0.2g/kgという量は海外の報告で使用された量と比較してはるかに少ない.解説では「できれば1g/kg以上」と推奨しているものの,保険適応外であり,膨大なコスト増となる.エビデンスも考慮すればそこまでのコストパフォーマンスがあるのかは疑問である.

12.蛋白分解酵素阻害薬
プロテアーゼの異常な活性化は敗血症を増悪させ,合併するショック,DIC,急性肺損傷などの一因となることから,臓器障害の予防あるいは治療目的で投与する(2C).完全削除
※GRADEはD未満としか言いようがなく,削除は当然と思われる.
敗血症に対するウリナスタチン(2C)(2D)敗血症性DICに対するメシル酸ガベキサート/ナファモスタット(2B)完全削除,ARDSに対するシベレスタットナトリウム(2B)(2C)
※ここの担当は岩手医科大学の遠藤教授である.DICに対するGM/NMについてはDICの章との整合性がなくなってしまうため,削除は妥当といえる.その他2薬剤についてもGRADEはダウンしているが,そもそも敗血症診療において必要性すら怪しい薬剤である.当院の敗血症診療ガイドラインでは2薬剤とも使用を推奨していない.
※シベレスタットについては主要な報告として国内PhaseⅢ,相川らの報告(Pulm Pharmacol Ther 2011; 24: 549-54),海外STRIVE study(Crit Care Med 2004; 32: 1695-702),岩田らのメタ解析(Intern Med 2010; 49: 2423-32)の4つがある.
※国内PhaseⅢはプラセボ対照ではなく,解析方法はper protocolであり,しかも片側検定という考えられない統計手法を用いて有効性を示している(両側検定にするといくつかのアウトカムに有意差がなくなる).
※また,どういうわけか解説ではシベレスタットの有効性が見出せなかった岩田らのメタ解析に一言も触れられていない.
※加えて,死亡率が低下したSTRIVE studyを「投与のタイミングが遅れたことで効果が薄れたことも否定できない」としているが,そのようなlimitationがあったとしても背景に有意差のないシベレスタット群とプラセボ群を比較した検討で有意差がでないどころかプラセボ群より死亡率が高まるのは異常であり,「投与が遅れた」ということは理由になるのか甚だ疑問である.シベレスタットによる有害性は否定できていないのが現状であり,安全性を再度評価すべきと思われる.
※相川らの報告もlimitationだらけで,その結果をエビデンスとして反映することは慎重とすべきである.この報告はRCTではあるものの,患者ごとではなくに施設ごとに割付がなされており,背景に有意差がある項目が多数見られた(調整は行われている).さらに,比較的予後の悪いdirect ARDSがプラセボ群の方に多くみられているにも関わらず,この点については調整が行われていない.
※東京慈恵医大より日集中医誌 2012; 19: 609-15に,シベレスタットの使用を原則中止しても敗血症性肺傷害の予後は悪化しなかったとのbefore-after研究の報告がなされた.実際には悪化しなかったというより,使用中止後は人工呼吸器期間が有意に短く,院内死亡率は73.1%有意に減少していた.
※以上から,シベレスタットをARDSに使用可能かどうかは安全性という最も最初に評価されるべき段階までさかのぼり,いまだに議論の範疇を出ていない.せめて本ガイドラインでのこの項目には「安全性は明らかでない」との一文をつけてしかるべきである.


【その他ガイドラインに記載されていないことについて】
 そろそろ医療業界は医師だけでガイドラインを作る悪い癖をそろそろやめるべきである.このガイドラインはおおよそ『集学的治療』の指針とは言い難い.
 また,看護師領域においては海外ではWFCCNより看護師版SSCGが発表されている(Crit Care Med 2011; 39: 1800-18).ここにはVAP対策や口腔ケアなども含まれる.これらの感染対策は特に重要とすべきであり,初期の適切な抗菌約を受けた敗血症性ショック患者で,ICUでの感染獲得は院内死亡の決定因子と報告されている(Crit Care Med 2012; 40: 2016-21).
 ICU-acquired weakness(ICUAW)も敗血症が頻度が高く,人工呼吸器患者で約半数が発症しうるとする報告もあることから,認知度の低い日本でも認知を広める上で記載されてしかるべきではないか(ICUAWについては詳しくはこちらを参照)
 早期社会復帰を目指す上でもICUAWを予防する上でもリハビリテーションは重要であり,World Sepsis Dayでの世界敗血症宣言でも5つの目標の1つとして触れられていた.しかし,本ガイドラインには一言も触れられていない.
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by DrMagicianEARL | 2012-11-15 19:03 | 敗血症 | Comments(0)

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