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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

2012年敗血症関連文献集(2) ~輸液~

2.敗血症における輸液療法
 2001年にRiversらによって提唱されたEGDTが普及し,敗血症性ショックにおける大量輸液療法がスタンダードとなったものの,輸液過剰は死亡率の上昇と関連する可能性も示唆されており,現在大量輸液の是非が議論となっており,既にFEAST trial(N Engl J Med 2011; 364: 2483-95)で小児の敗血症性ショックにおける急速輸液の有害性が示されている.同時に,輸液過剰とならないよう,適切な輸液量を推定する方法が多数報告されているが,いずれも小規模で確認されたものばかりである.ただ,主流は静的パラメータから動的パラメータにうつりつつあるようであり,その代表例が呼吸変動であり,10年以上有効性の報告が出続けている.

 EGDTに関してはHiltonらが初期大量輸液に対する批判をまとめたレビューをだしているが(Crit Care 2012; 16: 302,PMID:22277834),現時点では結論を出すのは時期尚早であり,敗血症におけるEGDTの有効性を検討している3つの研究(米国のPROCESS,オーストラリア/ニュージーランドのARISE,英国のPROMISE)が進行中であり,この結果で決着がつくものと思われる.

 輸液製剤に関しては,以前からHES(ヒドロキシエチルスターチ)製剤による腎障害などのネガティブ論文がRCT,メタ解析ででているが,2012年もそのような報告が相次ぎ,GuidetらのCRYSTMAS studyの1報を除き,ほぼHESの有害事象を示す報告ばかりとなった.ただし,ほとんどの報告が6% HES(130/0.4)であり,本邦で使用されているヘスパンダー,サリンヘスは海外の報告で使用されたものより低分子の6% HES(70/0.5)で報告もなく腎障害の有無などは不明の状態にあり,現時点では本邦では禁忌までとはいかず,慎重投与の状態にある.今後,本邦で使用されている低分子HESの安全性を検討した大規模RCTが必要である.

ショック患者における肺動脈カテーテルとPiCCOシステムは予後に有意差なし
Trof RJ, Beishuizen A, Cornet AD, et al. Volume-limited versus pressure-limited hemodynamic management in septic and nonseptic shock. Crit Care Med 2012; 40: 1177-85
PMID:22202713
ポイント:ショック患者120例(敗血症性72例,非敗血症性48例)を肺動脈カテーテル管理群60例とPiCCOシステム管理群60例で比較したRCT.人工呼吸器離脱期間,ICU滞在日数,臓器不全,28日死亡率に有意差はなかった.敗血症性ショック以外ではPiCCOで管理された方が補液量が多く,人工呼吸期間,ICU滞在日数が有意に長かった.

乳酸加リンゲル液の血管内容量増加効果は20%以下:前向き観察研究
Jacob M, Chappell D, Hofmann-Kiefer K, et al. The intravascular volume effect of Ringer's lactate is below 20%: a prospective study in humans. Crit Care 2012; 16: R86
PMID:22591647
ポイント:心肺機能が健全な成人で純粋な血管内容量不足に対して3倍量の乳酸リンゲル液による置換では血管内容量を正常に維持することはできず,維持するためには5倍量は必要.

敗血症性ショックにおける高用量輸液と低用量輸液の比較:前向きコホート研究
Smith SH, Perner A. Higher vs. lower fluid volume for septic shock: clinical characteristics and outcome in unselected patients in a prospective, multicenter cohort. Crit Care 2012; 16: R76
PMID:22568926
ポイント:敗血症性ショックにおける体液量の高値と低値の比較で,初期輸液量は死亡率に関連しなかった.3日間以上のショック患者においては晶質液,膠質液,血液製剤を含む高用量輸液が90日死亡率の減少に関連(高用量40% vs 低用量62%,p=0.03).前向き多施設共同コホートからの任意抽出.なお,2011年には小児における大量輸液負荷が死亡率を上昇させたとするFEAST trial(N Engl J Med 2011; 364: 2483-95)があり,発展途上国の小児重症敗血症への輸液負荷療法は48時間死亡率の上昇を招く(1.45倍).アルブミンボーラス群10.6%,生食ボーラス群10.5%,コントロール群7.3%であったため,3141名の解析で中止勧告が出された.

敗血症や重症感染症によるショックの小児に対する急速輸液後の死亡率:システマティックレビュー&メタ解析
Ford N, Hargreaves S, Shanks L. Mortality after fluid bolus in children with shock due to sepsis or severe infection: a systematic review and meta-analysis. PLoS One 2012; 7: e43953
PMID:22952819,Free Full Text
ポイント:13報メタ解析.小児敗血症性ショックにおいて,急速輸液を受けていない群は受けた群に比して48時間死亡リスクが31%減少した.晶質液と膠質液で死亡率に有意差は認められなかった.データサイズが大きいFEAST trial(N Engl J Med 2011; 364: 2483-95)の影響が強い.

ICUの敗血症患者の初期輸液においてSSCGと経食道心臓超音波検査(TEE)ガイド下で比較したpilot study
Bouferrache K, Amiel JB, Chimot L, et al. Initial resuscitation guided by the Surviving Sepsis Campaign recommendations and early echocardiographic assessment of hemodynamics in intensive care unit septic patients: a pilot study. Crit Care Med 2012; 40: 2821-7
PMID:22878678
ポイント:2施設ICUの敗血症患者46例に対し,経食道心臓超音波検査(TEE)を行い,その結果に基づいて蘇生を行うプロトコルとSSCGプロトコルを比較した研究.TEE群では上大静脈の呼吸性変動が大きかったら補液,心機能が悪かったらinotrope,いずれも問題ないのに血圧が低かったらノルアドレナリンを使用するとした.TEE群で補液の適応と判断されたのは8例のみであり,その全例がCVP<12cmH2Oであった.一方でTEE群で補液不要と判断されたがCVP<12cmH2Oであったのは14例であった.11例がTEE群ではinotropeの適応があり,SSCGでは適応がなかった.SSCGに比してTEEを用いて蘇生を行うと,補液量が減少し,inotropeの使用が増加した.補液もinotropeもいずれも予後を悪化させる素因も示唆されており,現時点でSSCGとTEEのいずれがよいのかは結論がでない.

中心静脈圧とショック指数は敗血症性ショックにおける容量負荷に対する反応の欠如を予測する
Lanspa MJ, Brown SM, Hirshberg EL, et al. Central venous pressure and shock index predict lack of hemodynamic response to volume expansion in septic shock: A prospective, observational study. J Crit Care 2012; 27: 609-15
PMID:23084132
ポイント:敗血症性ショック25例の前向き観察研究.中心静脈圧>8mmHgやショック・インデックス<1bpm/mmHgである敗血症性ショック早期の患者は容量負荷による心係数増加は期待しにくい.高いCVPと低いショック指数を組み合わせると陰性予測率は93%であった.

下大静脈径を用いた輸液反応性
Muller L, Bobbia X, Toumi M, et al.; the AzuRea group. Respiratory variations of inferior vena cava diameter to predict fluid responsiveness in spontaneously breathing patients with acute circulatory failure: need for a cautious use. Crit Care 2012; 16: R188
PMID:23043910
ポイント:自発呼吸をしている40例(敗血症24例,出血11例,脱水5例)の循環不全症例に対し,HES 130/0.4を500mL投与し,その前後で心臓超音波検査を施行し,下大静脈径を測定し,cIVC=(最大径-最小径)/最大径を算出し,補液に対する反応性を大動脈の流速(subaortic velocity time index)の15%以上の増加で定義して反応群と非反応群を比較した研究.反応群は20例であった.cIVC,E/A比のAUROCはそれぞれ0.77,0.76であった.cIVCのカットオフ値を0.40としたとき精度は最も高くなり,感度80%,特異度70%,陽性予測率72%,陰性予測率83%となった.

敗血症患者における血漿タンパクレベルによる輸液負荷後肺水腫の予測
Zhang Z, Lu B, Ni H, et al. Prediction of pulmonary edema by plasma protein levels in patients with sepsis. J Crit Care 2012; 27: 623-9
PMID:23089680
ポイント:62例の観察研究.敗血症性ショックで血漿トランスフェリンとアルブミン濃度は,輸液負荷後の肺血管外水分量インデックス(ΔEVLWI)≧10% と関連していた.両マーカーの感度は高く(AUC 0.68 and 0.72),正常値の患者では輸液負荷後に肺水腫を発症しにくい.トランスフェリンのカットオフ値を87.9mg/dLとすると,ΔEVLWI≧10%の予測感度は91%であった.

腎代替療法を受ける重症患者において輸液過剰は90日死亡リスク増加と関連
Vaara ST, Korhonen AM, Kaukonen KM, et al; The FINNAKI study group. Fluid overload is associated with an increased risk for 90-day mortality in critically ill patients with renal replacement therapy: data from the prospective FINNAKI study. Crit Care 2012; 16: R197
PMID:23075459
ポイント:腎代替療法(RRT)を受ける重症患者296例の解析.輸液過剰であった患者は非過剰患者に比して死亡率が約2倍(59.2%vs31.4%,p<0.001)であった.重症度,RRT開始時間・手法,敗血症で調整すると,輸液過剰は90日死亡リスクが2.6倍有意に増加した.

重症敗血症においてHESはリンゲル液に比して死亡リスク,腎代替療法必要度が有意に高い
Perner A, Haase N, Guttormsen AB, et al; 6S Trial Group; Scandinavian Critical Care Trials Group. Hydroxyethyl starch 130/0.42 versus Ringer's acetate in severe sepsis.
PMID:22738085
ポイント:重症敗血症患者798名の初期蘇生輸液で6% HES 130/0.42群とリンゲル液群を比較した多施設共同二重盲検無作為化並行群間試験.90日死亡率は51% vs 43%で,HES群が17%死亡リスクが高かった.腎代替療法を要した患者は22% vs 16%で,HES群が35%リスクが高かった.重度の出血に関しては10% vs 6%で有意差なし.

集中治療における蘇生輸液でのHESと生理食塩水
Myburgh JA, Finfer S, Bellomo R, et al; Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group. Hydroxyethyl starch or saline for fluid resuscitation in intensive care. N Engl J Med 2012; 367: 1901-11
PMID:23075127
ポイント:ICUに入室した患者7000名で,6% HES 130/0.4群と0.9%生理食塩水を比較したRCT.死亡率は18% vs 17%で有意差なく,サブグループ解析でも有意差はみられなかった.腎代替療法を使用した患者の割合は7.0% vs 5.8%であり,HES群が21%多かった.HESは生理食塩水より有意に有害事象と関連(5.3% vs 2.8%).

重症敗血症患者における膠質液または晶質液の蘇生輸液の効果と水分バランス,予後
Bayer O, Reinhart K, Kohl M, et al. Effects of fluid resuscitation with synthetic colloids or crystalloids alone on shock reversal, fluid balance, and patient outcomes in patients with severe sepsis: a prospective sequential analysis. Crit Care Med 2012; 40: 2543-51
PMID:22903091
ポイント:敗血症性ショックからの回復は合成膠質液でも晶質液でも同様に早く達成できる.膠質液の使用は必要とする蘇生輸液量がわずかに少ない.低分子HES130/0.4(OR 2.55)とゼラチン(OR 1.85)は急性腎傷害の独立危険因子であった.

重症敗血症における6% HES(130/0.4)と0.9%生理食塩水の血行動態への効果と安全性の評価:CRYSTMAS study
Guidet B, Martinet O, Boulain T, et al. Assessment of hemodynamic efficacy and safety of 6% hydroxyethylstarch 130/0.4 vs. 0.9% NaCl fluid replacement in patients with severe sepsis: The CRYSTMAS study. Crit Care 2012; 16: R94
PMID:22624531
ポイント:本報告はHES製剤のネガティブ論文が多い近年で数少ない有効性を示したRCT.重症敗血症患者174名に対する6% HES(130/0.4)投与群と0.9%生理食塩水(NS)投与群を比較した二重盲検RCT.血行動態安定化までの投与量はHES群1379±886mL vs NS群1709±1164mLで,HES群が有意に少なかった(p=0.0185).血行動態安定化までの時間はHES群11.8±10.1時間 vs NS群14.3±11.1時間であった.急性腎不全発症率はHES群24.5% vs NS群20.0%で有意差はなかった(p=0.454).

敗血症性ショックにおいて高分子量のヒドロキシエチルスターチ(HES)は低分子量より効果が強くはならない
Simon TP, Schuerholz T, Haugvik SP, et al. High molecular hydroxyethyl starch solutions are not more effective than a low molecular hydroxyethylstarch solution in a porcine model of septic shock. Minerva Anestesiol 2012 Oct.22
PMID:23090105,Free Full Text
ポイント:腹膜炎による敗血症性ショックの豚モデルで分子量300と700のHES製剤を用いたRCT.効果は同等であった.
by DrMagicianEARL | 2013-01-16 12:48 | 敗血症

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