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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

SSCG 2012(Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012)(1)

Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; and the Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup
Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock: 2012
Critical Care Medicine 2013; 41: 580-637

■国際敗血症ガイドラインSSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)の改訂版であるSSCG 2012がCritical Care Medicineにpublishされた.分量,引用文献数,参加学会数の比較は以下の通り.
 SSCG 2004:16ページ,135文献,11学会
 SSCG 2008:33ページ,341文献,16学会
 SSCG 2012:58ページ,636文献,26学会
日本からは2008年版から日本集中治療医学会と日本救急医学会が参加している.また,2008年に離脱していたANZICSも2012年版では参加している.文献検索方法,GRADEシステムに大きな変更はない.

■成人敗血症管理におけるSSCG改訂での主な変更点を以下に示す.
①敗血症の定義は2001年のSCCM/ESICM/ACCP/ATS/SISの定義とする(SIRS基準は記載されず).
②乳酸値正常化を目指すことが明記.
③昇圧薬はノルアドレナリンが第一選択となり,ドパミンの推奨度はダウン.
④活性化プロテインC製剤の推奨削除.
⑤目標血糖値は180以下.
⑥人工呼吸器関連肺炎の予防を明記.
⑦ストレス潰瘍予防はH2受容体拮抗薬よりもプロトンポンプ阻害薬を優先する.
⑧免疫グロブリン製剤は使用しない.
⑨栄養管理追加.

なお,播種性血管内凝固(DIC),エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP),リハビリテーションに関しては今回の改訂では触れられていない.全体として改善されたという印象がある.2012年の日本版敗血症診療ガイドラインに比してニュートラルな見解となっており,とりわけ免疫グロブリン製剤の評価が真逆であることは注目すべき点であろう.

■以下に成人敗血症におけるSSCG 2012の推奨項目と小生の個人的見解を示す.
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
推奨グレード(Grading of Recommendations)
エビデンスの質の定義
A:高い/無作為化比較試験
B:中等度/低い質の無作為化比較試験,または高い質の観察研究
C:低い/十分に検討された観察研究
D:非常に低い/質の低い症例集積研究またはエビデンスに基づいた専門家の意見
UG(Ungraded):エビデンスはなくグレード分類できないが推奨されうる
推奨度
1:強い推奨/"We recommend"(推奨する,すべきである)
 転帰や負担,コストなどにおいて利益が不利益を明らかに上回っており,多くの臨床現場で採用されているもの
2:弱い推奨/"We suggest"(提案する,してもよい)
 利益が不利益を上回ることは予想されるが,十分な根拠に乏しいもの

敗血症の定義
敗血症は感染による全身症状を伴った感染症による症候であり,重症敗血症は敗血症に加えて敗血症に起因した臓器機能障害または組織低灌流と定義される.

●敗血症の診断基準
感染症の存在が確定もしくは疑いであり,かつ下記のいくつかを満たす(項目数規定なし)
(1) 全身所見
・発熱:深部体温>38.3℃
・低体温:深部体温<36℃
・頻脈:心拍数>90回/分,もしくは>年齢平均の2SD
・頻呼吸
・精神状態の変化
・明らかな浮腫または体液過剰:24時間以内でのプラスバランス20mL/kg
・高血糖:糖尿病の既往が無い症例で血糖値>120mg/dL
(2) 炎症所見
・白血球上昇>12000/μL
・白血球低下<4000/μL
・白血球正常で>10%の幼若白血球を認める
・CRP>基準値の2SD
・プロカルシトニン>基準値の2SD
(3) 循環所見
・血圧低下:収縮期血圧<90mmHg,平均血圧<70mmHg,もしくは成人で正常値より>40mmHgの低下,小児で正常値より>2SDの低下
・混合静脈血酸素飽和度(SvO2)<70%
・心係数(CI)>3.5L/min/m^2
(4) 臓器障害所見
・低酸素血症:P/F(PaO2/FiO2)<300
・急性の乏尿:尿量<0.5mL/kg/hrが少なくとも2時間持続
・クレアチニンの増加:>0.5mg/dL
・凝固異常:PT-INR>1.5,もしくはAPTT>60秒
・イレウス:腸蠕動音の消失
・血小板減少<10万/μL
・総ビリルビン上昇>4mg/dL
(5) 組織灌流所見
・高乳酸血症>1mmol/L
・毛細血管の再灌流減少,もしくはmottled skin(斑状皮膚)

●重症敗血症の定義
以下のいずれかが該当
(1) 敗血症に起因する低血圧
(2) 乳酸レベル高値
(3) 2時間以上の適切な輸液蘇生を行っても尿量が0.5 mL/kg/hr未満
(4) 感染巣が肺炎でない場合のPaO2/FiO2<250の急性肺傷害
(5) 感染巣が肺炎である場合のPaO2/FiO2<200の急性肺傷害
(6) クレアチニン>2.0 mg/dL
(7) ビリルビン>2 mg/dL
(8) 血小板数<100000 /μL
(9) 凝固障害(PT INR>1.5)
※敗血症に起因する低血圧は以下のように定義
「収縮期血圧<90 mmHg」または「平均動脈圧<70 mmHg」または「収縮期血圧の40 mmHgを越える低下」または「他の低血圧要因がなく,その年齢における血圧より2SD以上の低下」

●敗血症性ショックの定義
敗血症性ショックは,敗血症に起因する低血圧が適切な初期輸液蘇生を行っても持続する状態と定義する.
 1991年のACCP/SCCMによるSIRS基準が姿を消す形となった.これは,SIRS基準が特異度が低いと言われてきたことに起因するものと思われる.2001年のSCCM/ACCP/ESICM/ATS/SISによる定義がメインとなったが,22項目にわたる基準と「下記のいくつかを満たす」という曖昧な基準は変わっておらず,臨床現場で使用するには煩雑であり,かなり主観的な診断となってしまう可能性がある.とりわけ,集中治療医以外が敗血症診療にあたるであろう二次救急病院においてはこの定義を現場で用いるのは非現実的であると思われる.

 Weiss らはこの新旧2つの診断基準を用いて同一の患者群を比較した結果を報告しているが,敗血症全体では罹患率,死亡率に差を認めていない(BMC Med Inform Decis Mak 2009; 9: 25).また,ICU患者960名の観察研究であるZhaoらの報告では,1991年診断基準(SIRS基準)の精度は感度94.6%,特異度61.0%,2001年診断基準の精度は感度96.9%,特異度58.3%であり,AUCはそれぞれ0.778,0.776と有意差がなかった(Crit Care Med 2012; 40: 1700-6)

 SIRS基準は敗血症患者に対する治療などの研究を行いやすくするためのentry criteriaとして作られたものである.しかし実際には,簡便かつ高い感度をもって敗血症をスクリーニングできるSIRS基準は現在でも使用されており,本邦の急性期DIC診断基準にも組み込まれており,Weissら,Zhaoらの報告を見ても,実臨床において有用かつ実践的であることが分かる.

A.初期蘇生(Initial Resuscitation)
1.敗血症性組織低灌流(初期輸液チャレンジ後も持続する低血圧,または血清乳酸値≧4mmo/L)の患者のプロトコル化された定量的蘇生を推奨する.このプロトコルは組織低灌流が認識された時点で直ちに開始されるべきであり,ICU入室まで治療を遅らせてはならない.最初の6時間の蘇生の間,敗血症性組織低灌流の初期蘇生の目標は治療プロトコルの以下の全項目を含む(Grade 1C)
a) 中心静脈圧(CVP) 8-12 mmHg(人工呼吸器管理下や心室コンプライアンス低下例では12-15 mmHg)
b) 平均動脈圧(MAP)≧65 mmHg
c) 尿量≧0.5 mL/kg/hr
d) 中心静脈血(上大静脈血)酸素飽和度(ScvO2)≧70%または混合静脈血酸素飽和度(SvO2)≧65%
 EGDT(Early Goal-Directed Therapy)の目標として掲げられる項目であるが,この項目に大きな変更はない.EGDTの根拠として,新たに中国からの報告(Zhongguo Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue 2010; 6: 331-4),Levyらの報告(Crit Care Med 2010; 38: 367-74)が提示された.

 根拠では触れられていないが,乳酸値2-4mmol/Lおよび<2mmol/Lの患者のリスクも注意が必要である.Songらは,中等度(2-4mmol/L)乳酸レベルの成人敗血症患者474名の後顧的多変量解析を行い,SOFA score≧5においては敗血症性ショック予測率は38.9%であったと報告している(Shock 2012; 38: 249-54).また,WacharasintらによるVASSTの665例とSPHの469例のコホート研究では,敗血症性ショックにおいて正常範囲内の乳酸濃度は予後指標としてAPACHE-Ⅱscoreと同等に有用であるとしている(Shock 2012; 38: 4-10).この報告では,乳酸値1.4-2.3mmol/Lの患者は≦1.4mmol/Lの患者より有意に死亡率,臓器不全が増加しており,1.4-2.3mmol/L群は2.3-4.4mmol/L群と予後は同等であった.

 CVPとScvO2はいずれも近年有用性が疑問視されてきているが,SSCG 2012ではこれらの使用を「まだプラクティスデータで確認された標準ケアではないが」とlimitationを述べつつも強く推奨している.CVPを有効に使用する上で,その数値のみならず,呼吸変動を取り入れた評価が精度を挙げることを利用することも有用であり,小規模ながら多数の報告がある.ScvO2は,低値は緊急性を示唆するが,正常値や高値であっても末梢循環不全を解除したことにはならないということに注意が必要である.
2.組織低灌流のマーカーとしての乳酸値上昇を伴う患者では乳酸値を正常化させることを目標とした蘇生を提案する(Grade 2C)
 近年乳酸クリアランスに関する報告も増加していることから組み込まれたものと思われ,実際に2つの多施設RCTをエビデンスとして提示しており(JAMA 2010; 303: 739-46,Am J Respir Crit Care Med 2010; 182: 752-61),特に後者の報告では死亡リスクを39%有意に減じている.この報告LACTATE studyで用いられたEGDTはELGT(Early Lactate-Guided Therapy)とも呼ばれる.

B.敗血症のスクリーニングとパフォーマンス向上(Screening for Sepsis and Performance Improvement)
1.敗血症の早期発見を増やし,敗血症治療の早期実行を遂行するため,潜在的な感染をきたした重症疾患患者において重症敗血症のルーティンのスクリーニングを推奨する(Grade 1C)
 これは2012年のWrold Sepsis Dayの世界敗血症宣言においても強調されていたことであり,できる限り早期に敗血症を認識し,治療を行うことは当然の流れであり,それにより死亡率が減少することもLevyらの報告(Crit Care Med 2010; 38: 367-74)で示されている.
2.重症敗血症におけるパフォーマンス改善の努力は患者の予後改善のために行われるべきである(Ungraded)
 パフォーマンス改善の努力と患者の予後改善に関連があることは多くの報告で示されている.具体的には他職種で構成されるチームによる集学的治療,各専門科の協力,プロトコル見直し,現場からのフィードバック,教育などである.

C.診断(Diagnosis)
1.抗菌薬の投与開始が45分を越えて有意に遅延するようなことがなければ,抗菌薬投与前に適切な培養検体採取を推奨する(Grade 1C).原因病原体を適切に同定するため,少なくとも2セット(好気性・嫌気性ボトル両方)の血液培養検体を採取する.少なくとも1セットは経皮的に,もう1セットは挿入後48時間未満であれば血管内カテーテルから採取してもよい.これらの血液培養検体は,異なる箇所から採取しているならば,同時に注入する.感染巣が疑われる尿,髄液,創部,気道分泌物,その他体液といった他部位の培養(必要に応じて定量的が望ましい)も,抗菌薬投与開始の有意な遅延がなければ,抗菌薬投与前に採取すべきである(Grade 1C)
 この推奨項目に大きな変更はない.VAPにおいては喀痰の定量(または半定量)培養がしばしば推奨されているが,診断価値は不明なまま(J Crit Care 2008; 23: 138-47)と述べている.また,推奨項目に記載はないものの,根拠にはグラム染色の重要性も強調されている.そのコミュニティーで流行しているならばインフルエンザ迅速検査を行うことが推奨される.プロカルシトニンやCRPなどのマーカーを重症感染症と他の急性炎症性疾患の鑑別に用いることは推奨しない.
2.感染症の鑑別として侵襲性カンジダ症を考慮する場合は,1,3 β-D-グルカン(Grade 2B)とマンナン抗原およびマンナン抗体を測定してもよい(Grade 2C)
 真菌感染症はついつい見逃されがちであるが,カンジダ血症の予後の悪さは無視できない.Wisplinghoffらの報告(Clin Infect Dis 2004; 39: 309-17)では,血流感染症ではCNS,黄色ブドウ球菌,腸球菌に次いでカンジダは4番目の頻度であり,死亡率は全体・ICUのみのいずれにおいてもカンジダが最も高かった(全体39.2%,ICU 47.1%).

 β-D-グルカンは日本で開発されたマーカーで,近年になってようやく海外でもその有用性が認められるようになり,治療有効性指標としても注目されている.推奨項目では2Bでの推奨となっているが,根拠ではβ-D-グルカンに関する報告がどういうわけか引用されていない.

補足しておくと,β-D-グルカンの有用性を示す代表的な文献は2012年だけでも多数報告がある(Clin Infect Dis 2012; 55: 521-6,Pulmonary Review 2012; 17: 15,Clin Microbiol Infect 2012; 18: E122-7,Clin Infect Dis 2012; 54: 1240-8).カンジダだけでなく,ニューモシスチス肺炎でもβ-D-グルカンは非常に有用である.アスペルギルスでは感度がかなり落ち,ガラクトマンナン抗原の方が優れているとの報告もある(J Clin Microbiol 2004; 42: 2733-41).なお,クリプトコッカスはβ-D-グルカンが1,3でないため検出はほとんどできない.本邦ではβ-D-グルカン計測はワコー法とMK法があり,院内で計測できるタイプのものはほとんどがワコー法であるが,MK法に比して感度が落ちることに注意が必要である.また,抗菌薬TAZ/PIPC,CVA/AMPC使用でβ-D-グルカンが上昇することが報告されているが,本邦での検査キットではその心配はほとんどないとのことである.
3.潜在的な感染源の検索のため,画像検査を迅速に行うことを推奨する.潜在的感染巣検索は,移送や侵襲的手法の患者リスクを考慮(例えば,CTガイド下針生検のための移送の決定したのであれば,注意深い調整と積極的モニタリングを行う)の上で行なわれるべきである.超音波検査のようなベッドサイドの検査は患者移送を回避できるかもしれない(Ungraded)
 特に推奨根拠となる論文は示されておらず,Ungradedとなっているが,日常診療上で言うまでもなく行うべきことである.

→SSCG 2012(2)はこちら
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by DrMagicianEARL | 2013-01-30 00:00 | 敗血症 | Comments(1)
Commented by 通りすがり at 2013-01-30 09:43 x
勉強になります。いつもありがとうございます。

by DrMagicianEARL