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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

2012年感染防止対策文献集(1)~環境感染対策~

1.環境感染対策
 本邦の感染防止対策の歴史は非常に浅い.日本に院内感染という言葉が出てきたのは1990年の富家恵美子著書「院内感染」が出版されたのが最初と思われる.本書では,夫が食道静脈瘤手術を受け,順調に回復している最中にMRSA感染症で亡くなった.本書では感染防止対策全般の必要性を訴えていた.この当時の日本はMRSA患者隔離の概念すらなかった時代である.内視鏡はブラシを用いない簡易洗浄のみで使いまわし,洗浄・消毒は1日の終わりにのみにしかしていなかった.結核患者に対してはサージカルマスクのみで対応していた.そのような中1996年に「隔離予防策のためのCDCガイドライン」が出版され,空気感染,飛沫感染,接触感染の考え方が初めて日本にもたらされた.その後,本邦でも手探りながら感染防止対策がとられるようになる.

 2012年の診療報酬改定により感染防止対策加算が加算1で500点が算定できるようになった.院内感染対策を行うための十分な資金が診療報酬として得られる環境が整ってきている.これに伴い,日本各地で感染対策の研究会が多数開催され,感染防止対策はいまや一大ブームとなっている.

 感染防止対策は環境感染対策と抗菌薬適正使用が主要な柱となっている.環境感染対策においては,2012年の最初に医療従事者における患者接触後の手袋・ガウンの多剤耐性菌汚染の実態調査が報告され(Crit Care Med 2012; 40: 1045-51),ICUにおける院内感染のリスクを推し量るよい指標が示された.人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防は特に重要視されており,Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012でも推奨項目に組み入れられている.VAP予防手段の一つとして様々な口腔ケアが提案されるもエビデンスの進展は依然として乏しい.カテーテル関連血流感染症(CRBSI)は,近年管理技術の向上もあり,鼠径と内頚で感染率に差がなくなったという報告が増加している.また,1%クロルヘキシジンアルコール製剤が消毒薬として使用可能となり,CRBSI減少が期待されている.現在,1%クロルヘキシジンアルコール,0.5%クロルヘキシジンアルコール,ポビドンヨードの3種類の消毒薬の効果を比較する本邦の多施設共同オープンラベル無作為化比較試験JSEPTIC-CRBSI trialが行われている.

 感染防止対策のコンプライアンスについては対照的な2報がある.ICUでの感染対策において,細かく遵守項目を定めてもMRSAやVREの伝播は減少できなかった(N Engl J Med 2011; 364: 18)が,意識改革を行う手法ではMRSA感染を減少させることができた(N Engl J Med 2011; 354: 1419-30)としている.厳しく遵守を求めるのではなく,意識を向上させる方がむしろコンプライアンスが高まる可能性がある.

医療従事者における患者接触後の手袋・ガウンの多剤耐性菌汚染
Morgan DJ, Rogawski E, Thom KA, et al. Transfer of multidrug-resistant bacteria to healthcare workers' gloves and gowns after patient contact increases with environmental contamination. Crit Care Med 2012; 40: 1045-51
PMID:22202707,Free Full Text
ポイント:感染対策従事者,ICUスタッフは必読文献と思われる.6施設ICUにおける前向きコホート研究.接触感染対策を行っている患者の部屋に出入りする医療従事者の予防的衣服における多剤耐性菌のコンタミネーションの調査.ガウン2.3-12.6%,手袋10.0-29.3%で患者と同一菌を検出した.また,手袋を脱いだ手から1.7-4.2%で菌を検出した.手袋・ガウンからの菌検出リスク因子は,環境から培養陽性(OR 4.15),5分以上滞在(OR 1.99),診察した(OR 1.74),人工呼吸器に触った(OR 1.78)であった.環境のコンタミネーションは手袋やガウンを通じて容易に伝播される.汚染菌は上位からA.baumanii 32.9%,MDRP 17.4%,VRE 13.9%,MRSA 13.8%であった.独立危険因子は,環境培養陽性(OR 4.2),5分を超える在室(OR 2.0),身体診察(OR 1.7),人工呼吸器への接触(OR 1.8)であった.

手術室における細菌汚染
Loftus RW, Brown JR, Koff MD, et al. Multiple reservoirs contribute to intraoperative bacterial transmission. Anesth Analg 2012; 114: 1236-48
PMID:22467892
ポイント:米国3施設548症例の手術室における細菌汚染の検討で,三方活栓で細菌が確認されたのは23%であり,三方活栓の汚染は死亡リスクを有意に58.5倍増加させる.麻酔科医の手指よりもpop-offバルブ,気化器のダイアルなど環境汚染の関与が大きい.ICT必読文献.環境感染ラウンドの際の参考に.

米国ICUにおける耐性菌のサーベランス
Eagye KJ, Banevicius MA, Nicolau DP. Pseudomonas aeruginosa is not just in the intensive care unit any more: implications for empirical therapy. Crit Care Med 2012; 40: 1329-32
PMID:22425824
ポイント:米国13施設における前向き多施設サーベイランス研究で,ICUは非ICU病棟より多剤耐性検出率(12% vs 5%),カルバペネム非感受性緑膿菌検出率(35% vs 27%)が有意に高い.病棟別アンチバイオグラムは経験的治療方針決定に役立つ可能性がある.

多剤耐性菌の定義
Magiorakos AP, Srinivasan A, Carey RB, et al. Multidrug-resistant, extensively drug-resistant and pandrug-resistant bacteria: an international expert proposal for interim standard definitions for acquired resistance. Clin Microbiol Infect 2012; 18: 268-81
PMID:21793988
ポイント:多剤耐性菌(MDR,XDR,PDR)の定義.多剤耐性菌がからんだ論文or発表を行う場合のMDR,XDR,PDRの定義確認にオススメの文献.

多剤耐性結核菌感染患者にサージカルマスクを装着させたときの効果
Dharmadhikari AS, Mphahlele M, Stoltz A, et al. Surgical face masks worn by patients with multidrug-resistant tuberculosis: impact on infectivity of air on a hospital ward. Am J Respir Crit Care Med 2012; 185: 1104-9
PMID:22323300
ポイント:サージカルフェイスマスクは多剤耐性結核患者に装着させることで結核菌伝播を有意に減らすことができる(リスク56%減少).結核患者では慣習的に行われていることであるが,意外にもこれまでほとんど研究報告がなかった.

手指衛生改善戦略のシステマティック・レビュー
Huis A, van Achterberg T, de Bruin M, et al. A systematic review of hand hygiene improvement strategies: a behavioural approach. Implement Sci 2012; 7: 92
PMID:22978722,Free Full Text
ポイント:手指衛生の向上戦略を報告した41報のシステマティックレビュー.知識・認識・行動制御・促進といった因子だけでは手指衛生の改善には十分ではない.行動の変化の決定要素に焦点をあてることでより有効な手指衛生の改善がはかれる.

環境清掃のための不織布への細菌汚染
Oie S, Arakawa J, Furukawa H, et al. Microbial contamination of a disinfectant-soaked unwoven cleaning cloth. J Hosp Infect 2012: 82; 61-3
PMID:22854353
ポイント:山口大学からの報告.ICUの調査で環境清掃に使用されている0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩溶液含浸レーヨン不織布の開封済みパックがBurkholderia cepacia,緑膿菌などに汚染されていた.未開封パック42サンプル中5サンプルからもBurkholderia cepaciaが検出された.

ナーシングホームにおける経腸栄養の細菌汚染における感染制御プログラムの効果
Ho SS, Tse MM, Boost MV. Effect of an infection control programme on bacterial contamination of enteral feed in nursing homes. J Hosp Infect 2012; 82: 49-55
PMID:22765960
ポイント:効果的な感染制御プログラムにより経腸栄養の細菌汚染を大幅に減少させることが可能である.ナーシングホームに感染制御プログラムを導入することが強く推奨される.汚染と手指衛生の不足は有意な関連性がみられた.

ノロウイルスアウトブレイク時の病棟区画化による有症状患者のコホーティング
Haill CF, Newell P, Ford C, et al. Compartmentalization of wards to cohort symptomatic patients at the beginning and end of norovirus outbreaks. J Hosp Infect 2012; 82: 30-5
PMID:22770470
ポイント:ノロウイルスアウトブレイクの開始時および終了時に,病棟を区画化して有症状患者をコホーティングすることによりアウトブレイク管理の効率が改善し業務の途絶が減少した.病棟全体閉鎖よりも区画化の方が日数が短縮した.

2病院における多剤耐性緑膿菌のアウトブレイク:病院の排水システムと汚染の関連
Breathnach AS, Cubbon MD, Karunaharan RN, et al. Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa outbreaks in two hospitals: association with contaminated hospital waste-water systems. J Hosp Infect 2012; 82: 19-24
PMID:22841682
ポイント:英国2病院でのMDRPアウトブレイク調査.排水システムがMDRPやその他の院内病原体のリザーバとなる可能性があることが示された.流し・シャワー・トイレの設計不良,汚物洗浄処理室付近での清潔な物品の保管,排水管の頻繁な詰まりや漏れが原因であった.制御対策として,流しとトイレを洗浄が容易で水はねしにくいモデルへ交換すること,詰まりや不適切な保管を減らすための職員教育,清掃手順の見直し,あふれを減少させるためのシャワーの流量低下などを実施した.これらの対策によりMDRP症例数が大幅に減少した.

パンデミック時の陰圧室の代わりに換気扇を使用した患者隔離
Yuen PL, Yam R, Yung R, Choy KL. Fast-track ventilation strategy to cater for pandemic patient isolation surges. J Hosp Infect 2012; 81: 246-50
PMID:22738612
ポイント:2003年SARS流行時調査で,急増した隔離を要する感染症患者を収容する隔離施設が不足した場合は,陰圧気流を創出するための簡易な窓用換気扇の設置などを既存の一般病棟に迅速かつ広範に設置することで感染伝播を防ぎえる可能性が示唆された.

外部固定装置への消毒薬別の効果
Stinner DJ, Beltran MJ, Masini BD, et al. Bacteria on external fixators: which prep is best? J Trauma Acute Care Surg 2012; 72: 760-4
PMID:22491567
ポイント:手術時に使用する外部固定装置への消毒効果について4%クロルヘキシジン,10%ポビドンヨードを検出菌で比較した40例RCT.両群間に有意差なし.スプレー式に変えても有意差はみられなかった.
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by DrMagicianEARL | 2013-01-28 13:01 | 感染対策 | Comments(0)

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