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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

SSCG 2012(Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012)(2)

D.抗菌薬治療(Antimicrobial Therapy)
1.敗血症性ショック(Grade 1B),敗血症性ショックでない重症敗血症(Grade 1C)と認識してから最初の1時間以内の有効な経静脈的抗菌薬投与を治療目標とすべきである.
 抗菌薬投与の遅れが死亡率増加につながることはこれまでの複数の報告が示す通りである.

 1時間以内という時間の根拠は,Kumarらの報告(Crit Care Med 2006; 34: 1589-96)をはじめとする,抗菌薬開始までの時間と死亡率の間に強い相関を認めたという報告に基づくが,1時間という時間をカットオフとする強力なエビデンスが存在するわけではない.ただし,これを検証するのは倫理的問題を考慮すると困難であることが予想され,1時間以内をスタンダードとする流れは今後も変わらないものと推察される.

 基礎的研究については,ヒト血液およびマウスモデルの検討(Franks Z, et al. Thromb Haemost 2013 Jan. 24)において,MRSA感染に対し早期の抗菌薬投与により凝固炎症反応を有意に抑制した一方,投与が遅れると抑制効果が見られなかったことが報告されており,抗菌薬投与そのものが細菌学的効果のみならず敗血症関連メディエータに関与しうることが示唆されている.
2a.初期経験的抗菌薬治療は,原因と考えられる病原体全て(細菌,真菌,ウイルス)に活性を有し,敗血症の原因と推定される組織内に適切な濃度で移行する1つ以上の薬剤で行うことを推奨する(Grade 1B)
 重症感染症の基本事項である.経験的抗菌薬選択の指標として,患者既往歴,薬剤副作用歴,最近3ヶ月以内の抗菌薬使用歴,基礎疾患,その地域のアンチバイオグラム,以前の定着または感染の原因菌などが挙げられる.院内発症例ではグラム陽性菌が原因として最も多く,次いでグラム陰性菌,雑菌混合感染となっており,カンジダ,TSS(toxic shock syndrome),稀な病原体のカバーについては患者を選んで行う.広域カバーについては特に好中球減少患者で考慮する.

 おそらく,多くのケースではカルバペネム系が主軸になる.その際,必ずカルバペネム系が無効な病原体を把握しておく必要がある.基本的に無効,もしくは無効なことがありうる代表的なものは以下の通りである.
Mycobacterium spp,MRSA,MRCNS,Legionella pneumophilaCorynebacterium jeikeiumClostridium difficileRhodococcus equiStenotrophomonas maltophiliaBarkholderia cepacia,Carbapenem Resistant Pseudomonas aeruginosa,Multiple Drug Resistant Pseudomonas aeruginosa (MDRP),Multiple Drug Resistant Acinetobacter baumanii (MDRAB),Enterococcus spp,New Delhi Metallo-beta-lactamase (NDM-1),True Funges,Virus

 カンジダ血症を考慮する場合は経験的抗菌薬としてFLCZかエキノキャンディンをIDSAは推奨していると記載されている.これに対し,近年改訂された欧州のESCMIDガイドラインではエキノキャンディンが推奨度Aであるのに対し,FLCZは推奨度Cである.これは欧州でFLCZ耐性のカンジダが多いことに起因する.このため本邦の状況には必ずしも当てはまるものではない.本邦では真菌症フォーラムからのACTIONs BUNDLEが発表され,非常に良好な治療成績を残しており,本バンドルにおいてはエキノキャンディンとFLCZのいずれかを経験的治療の第一選択に位置づけている.その際参考となるのは各施設のlocal factorであり,FLCZが効きにくいC. glabrataとエキノキャンディンが効きにくいC. parapsilosisのいずれが頻度が高いかによる.一般的にはICUではC. parapsilosisが多いとされるが,高齢者や血液内科領域ではC. glabrataの方が多い.
2b.抗菌薬のレジメンは,耐性菌増殖を防ぎ,薬剤毒性を減らし,コストを減らすためのde-escalaionが可能であるか,毎日評価を行うべきである(Grade 1B)
 de-escalationは理論上強く推奨されるべき項目とはいえるが,エビデンス自体はいまだにそれほどあるわけではないのが現状であり,エビデンスの質がBというのはやや高い印象がある.培養された菌を初期投与した広域抗菌薬がカバーしているにもかかわらず治療奏功・臨床症状改善がなければempiric治療の再考と感染巣・原因菌再検索が必要であり,この場合は最初に培養された菌に対するde-escalationは行ってはならない.
3.敗血症と診断したが,その後感染の根拠が認められない患者においては,プロカルシトニンや同様のバイオマーカーが低値であることを経験的治療の中止するために使用してもよい(Grade 2C)
 本推奨項目の根拠として2報(Lancet Infect Dis 2007; 7: 210-7,Crit Care Med 2011; 39: 1792-9)が引用されているが,同時に限界と潜在的有害性の懸念が残るとしている.さらに,この抗菌薬中止戦略が耐性菌リスクやClostridium difficileによる抗菌薬関連下痢症のリスクを減じるとしたエビデンスはない.JensenらのProcalcitonin And Survival Study (PASS) Groupによるプロカルシトニンガイド下の抗菌薬アルゴリズムを使用したRCT(Crit Care Med 2011; 39: 2048-58)では,プロカルシトニン群は生存率を改善せず,臓器関連の有害性を示し,入院期間が延長したとしており,必ずしもプロカルシトニンガイドの抗菌薬治療が安全とは限らないことを示している.

 根拠に示されているもの以外の報告としては,重症敗血症・敗血症性ショック(Am J Respir Crit Care Med 2008; 177: 498-505),細菌感染症疑いのICU患者(Lancet 2010; 375: 463-74)を対象としたRCTにおいてプロカルシトニンが安全に抗菌薬投与期間短縮に寄与したと報告している.また,Shuetzらの14報RCTのシステマティックレビュー(Arch Intern Med 2011; 171: 1322-31)では,緊急度の高い患者やICU患者での抗菌薬投与期間の短縮にプロカルシトニンが寄与したとの結果となった.

 ただし,プロカルシトニンといえども万能ではなく,局所炎症やグラム陽性菌感染症では偽陰性となることもある.カットオフ値によるが,過去の報告ではプロカルシトニンは感度73-92%,特異度70-81%とそれほど高くはない.その他,神経内分泌腫瘍,膵炎,外傷,熱傷,手術などでも上昇することは知っておく必要がある(Crit Care Med 2008; 36: 941-52)
4a.各患者の疾患とローカルパターンに基づいた最も可能性の高い病原体に活性を有する抗菌薬で経験的治療はなされるべきである.重症敗血症を伴う好中球減少患者(Grade 2B)Acinetobacter属やPseudomonas属といった難治性多剤耐性菌による感染症(Grade 2B)においては,抗菌薬を併用した経験的治療を行ってもよい.呼吸不全や敗血症性ショックを伴う重症感染症患者では,緑膿菌菌血症では,広域スペクトラムのβラクタム系抗菌薬にアミノグリコシド系またはフルオロキノロン系を併用してもよい(Grade 2B).同様に,肺炎球菌菌血症による敗血症性ショック患者ではβラクタム系にマクロライドを併用してもよい(Grade 2B)
 高度の抗菌薬耐性菌が一般的な地域では,カルバペネム系,コリスチン,リファンピン,その他抗菌薬を取り入れたレジメンが必要かもしれない.最近のRCTの報告では,耐性菌群のリスクが低い集団においては,経験的治療にカルバペネム系にフルオロキノロンを加えても予後を改善しないことが報告されている(JAMA 2012; 307: 2390-9)

 MRSAや高度耐性グラム陽性菌においては抗MRSA薬とその他薬剤の併用が行われることが多いが,抗MRSA薬や上記推奨項目で取り上げられているRFPなどでは注意が必要である.TEICは十分な初期ローディングを行わなければ効果が得られるまでのタイムラグが生じる上,タンパク結合率が非常に高いため,低アルブミン血症では十分な血液濃度が得られないことが多い.また,菌血症状態においては静菌性抗菌薬は治療失敗につながる可能性もあり,特にLZD,TGC,RFPを菌血症に対して使うべきではない.菌血症状態では,LZDがVCMに劣ること,初期からのRFP投与で治療失敗が生じること,TGCは菌血症などの重症例ではよい成績が出ていないことから,これらの薬剤はABKやDAPで菌血症を解除してからの投与が望ましいと思われる.また,DAPは肺サーファクタントにより失活されてしまうため肺炎には使用できない(ただし敗血症性肺塞栓や膿胸では有効).

 マクロライド併用については,近年,特に市中肺炎において,βラクタム系とマクロライド系の併用がフルオロキノロン単剤治療より有意に予後を改善したとする報告が多数あり,新作用もあいまってマクロライド神話ができつつあるが,2012年に報告されたメタ解析(Clin Infect Dis 2012; 55: 371-80)においては,RCTやガイドラインによる治療を受けた患者に絞って解析を行うと死亡率に有意差はみられなかった.本邦ではマクロライド注射製剤として主にアジスロマイシンが使用されることになるが,他のマクロライド系より安全とされていたアジスロマイシンにおいても心血管死リスクが増大する可能性がある(N Engl J Med 2012; 366: 1881-90)ことは注意が必要である.
4b.重症敗血症患者に経験的に抗菌薬併用療法を行う場合,3-5日間よりも長く行うべきではない.感受性が判明すれば直ちに最も適切な単剤治療にde-escalationされるべきである(Grade 2B).例外として,特に緑膿菌敗血症や心内膜炎においてはアミノグリコシド系単剤治療は一般的に避けるべきであり,このような場合の抗菌薬併用療法は許容される.
 傾向マッチ解析,メタ解析,多変量解析,観察研究など多くの報告が高い死亡リスクを有する敗血症患者において併用療法の予後改善効果を示している(2008年以降ではCrit Care Med 2010; 38: 1651-64,Crit Care Med 2010; 38: 1742-8,Antimicrob Agents Chemother 2010; 54: 1742-8,Antimicrob Agents Chemother 2009; 53: 1386-94が引用).その一方で耐性菌群のリスクが低い集団においては,経験的治療にカルバペネム系にフルオロキノロンを加えても予後を改善しないことがRCTで報告されている(JAMA 2012; 307: 2390-9).また,高い死亡リスクを有する敗血症患者において単剤療法よりも併用療法を指示するRCTは存在しない.
5.臨床的に抗菌薬の治療期間は典型例では7-10日間でよい.ただし,治療反応性が遅い,ドレナージ不能の感染巣,黄色ブドウ球菌菌血症,真菌感染症やウイルス感染症,好中球減少症を含む免疫障害のある患者ではより長期間の治療が必要となるかもしれない(Grade 2C)
 7-10日は一般的な感染症の目安であり,実際には臨床効果,患者の状態を見ての主治医の判断により,継続,de-escalation/escalation,中止が決まる.血液培養陽性患者であれば陰性確認が望ましい.ただし,上記項目に挙げられているような病態や,骨髄炎,関節炎等では長期の治療が必要となりうる.黄色ブドウ球菌菌血症では感染性心内膜炎のリスクもあり,最低2週間の治療は必要である.また,カンジダ菌血症であれば,血液培養陰性化確認から2週間の投与は必要であることでコンセンサスが得られている.
6.重症敗血症,敗血症性ショックの原因がウイルスであれば,できるだけ速やかに抗ウイルス薬を開始する(Grade 2C)
 推奨根拠ではインフルエンザとサイトメガロウイルス,その他ヘルペスウイルスが挙げられている.とりわけ,インフルエンザではH1N1pdm2009の文献が引用され,ノイラミニダーゼ阻害薬での治療することが明記されている.これは,H1N1pdm2009の世界的パンデミックにおいて,初期から早期の病院受診とノイラミニダーゼ阻害薬投与を積極的に行うことで日本が最も死亡率が低かったことも関連しているかもしれない.

 また,一般的にはノイラミニダーゼ阻害薬は発症から48時間以内でなければ効果は得られにくいとされているが,ICUに入室したインフルエンザ患者1859名の後ろ向き解析では,発症後48時間を越えていても,5日以内であればノイラミニダーゼ阻害薬投与群が非投与群よりも有意に予後を改善していたと報告している(Clin Infect Dis 2012; 55: 1198-204)
7.高度炎症の状態にある患者で感染症が原因でないと判断した場合は抗菌薬を使用しないことを推奨する(Ungraded)
 感染症が否定的であるならば,耐性菌や抗菌薬関連有害事象のリスクを最小限とするため,抗菌薬治療は直ちに中止すべきである.ただし,抗菌薬は必ずしも早期に中止する必要はなく,見落としがないかを見極めて判断する必要がある.

E.感染巣コントロール(Source Control)
1.緊急で感染巣コントロールが必要な解剖学的に特異な感染巣(例えば壊死性軟部組織感染症,腹膜炎,胆管炎,腸管壊死)を検索し,その診断と除外をできる限り速やかに行い,可能ならば診断から12時間以内に感染巣コントロールを行うことを推奨する(Grade 1C)
 抗菌薬治療には限界があり,膿瘍ドレナージ,感染壊死組織のデブリドマン,感染した人工デバイス除去といった感染巣コントロールは敗血症管理においては基本原則である.そのためにもできる限り感染巣検索を行い,コントロールの必要性有無を早期に判断し,しかるべき専門科にコンサルテーションを行う必要がある.推奨項目では12時間以内となっているが,より早くにEarly Infectious Sorce Controlを行うべきであろう.
2.感染性膵壊死が感染巣であると判明した場合は,組織壊死の範囲が判明するまで待機してから外科的介入を行ってよい(Grade 2B)
 重症急性膵炎における感染性膵壊死では待機的なデブリドマンが行われる.これは,Marshallら(Crit Care Med 2004; 32: S513-26)によると.時間が経過することで壊死部位と正常部位の識別が容易になるためである.実際,2-3週間待ってからデブリドマンを行った方が治療成績がよいことがMierらのRCT(Am J Surg 1997; 173: 71-5)と2報の症例集積研究(J Gastrointest Surg 2002; 6: 481-7,Ann Surg 2001; 234: 572-9)で示されている.
3.重症敗血症患者で感染巣コントロールが必要である場合は,最も侵襲が少ない処置で効果的な介入(例えば膿瘍に対しては外科的ドレナージよりも経皮的ドレナージを選択する)を行うべきである(Ungraded)
 外科的介入を行う場合,当然ながら出血,正常組織傷害を始めとする合併症リスクを伴う.できる限り侵襲を少なくし効果的に感染巣コントロールを行う必要がある.
4.血管内カテーテルが重症敗血症,敗血症性ショックの感染巣であるならば,他の血管ルートを確保した後,直ちに感染カテーテルを抜去べきである(Ungraded)
 Ungradedとなっているが,重症敗血症,敗血症性ショックまで状態が悪化しているならば,感染した血管内カテーテルを決して残してはならず,これを支持する報告は多い.とりわけ,黄色ブドウ球菌,カンジダ,グラム陰性菌による感染であれば致命的になりうる.一方で,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)が原因の場合は比較的予後がよいため,(やむを得ず)カテーテルを残したままの治療も許容されうるが,抜去可能であれば原則として抜去すべきである(Lancet Infect Dis 2007; 7: 645-57).実際,CNSでもカテーテルを残したままの再発率は20%ある(Infect Control Hosp Epidemiol 1992; 13: 215-21)

 どうしてもカテーテルを残して治療を継続する場合は,バイオフィルム移行性のよい薬剤を選択すべきかもしれない.具体的には,抗菌薬ではDAP,RFP,MINO,CLDM,TGCなど,抗真菌薬ではエキノキャンディン系かL-AMBを選択する.

F.感染防止(Infection Prevention)
1.選択的口腔除菌(SOD)と選択的消化管除菌(SDD)は人工呼吸器関連肺炎(VAP)を減らす方法として導入・調査されるべきである.この予防策は,当該方法が有効と考えられる医療施設や地域で行ってもよい(Grade 2B)
 SOD,SDDは推奨項目として掲載するかおおいに議論となった項目であり,SSCG 2008では記述はあるも推奨度は付されていなかった.今回は2Bというグレードがついている.ただし,本予防策は地域性の考慮も必要である他,コリスチンなど本邦では使用できない抗菌薬レジメンのエビデンスとなっていることが多く,本邦においては適応とはならないと推察される.
2.ICUの重症敗血症患者の人工呼吸器関連肺炎(VAP)のリスクを減少させるため,口腔咽頭除菌目的でグルコン酸クロルヘキシジンの口腔内塗布を行ってもよい(Grade 2B)
 口腔ケアにおけるクロルヘキシジンの有効性は現在揺らいできている状況にある.2013年に報告されたAlhazzaniらによるメタ解析(Crit Care Med. 2013; 41: 646-55)でも,クロルヘキシジンの使用は歯磨きの効果を有意に低下させていたという結果がでている.口腔ケアで雑菌とともにクロルヘキシジンが咽喉頭に垂れ込み,逆にVAPの原因となってしまう可能性も指摘されており,ジェルタイプの製剤の方が垂れ込みがなく優れていることが示され始めている.
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by DrMagicianEARL | 2013-01-31 17:00 | 敗血症 | Comments(0)

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