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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

SSCG 2012(Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012)(3)

G.重症敗血症の輸液療法(Fluid Therapy of Severe Sepsis)
1.重症敗血症・敗血症性ショックの蘇生では初期輸液の選択として晶質液(crystalloids)を推奨する(Grade 1B)
 循環動態を回復させる初期輸液においては晶質液がベースとなるが,膠質液をそこに併用するかは長年議論されており,実臨床においては併用している施設も多い.膠質液を用いるメリットは血管内ボリュームの早期改善とその効果の持続性が理論上指摘されている.その一方で,膠質液にはコストの問題点があり,安価な晶質液でも十分量投与すれば膠質液と同等の効果があり,副作用も少ないとされている.ただし,Jacobら(Crit Care 2012; 16: R86)は,心肺機能が健全な成人で純粋な血管内容量不足に対して3倍量の乳酸リンゲル液による置換では血管内容量を正常に維持することはできず,維持するためには5倍量は必要であると報告している.

 過去の報告では2つのメタ解析で晶質液と膠質液では予後に有意差はないと報告されており(Crit Care Med 1999; 27: 200-10,Ann Intern Med 2001; 135: 205-),これにコスト面を踏まえてSSCG 2008では晶質液を第一選択としていた.その後,2011年にSAFE studyのサブ解析(Intensive Care Med 2011; 37: 86-96)が報告され,重症敗血症への輸液負荷時は生理食塩水と比較してアルブミン投与が腎障害やその他臓器障害を起こさず死亡率を減らす可能性が示唆されたが,SSCG 2012でも晶質液を第一選択とする方針は変わっていない.実際,このエビデンスもあくまでもサブ解析であり,新たな大規模RCTが必要である.RCTではないが,Bayerら(Crit Care Med 2012; 40: 2543-51)の前向き検討の報告では,敗血症性ショックにおいて膠質液の使用は必要とする蘇生輸液量がわずかに少ない程度であり,ショックからの回復は合成膠質液でも晶質液でも同様に早く達成できるとしている.

 どの種の輸液製剤が敗血症において優れているかというエビデンスはないが,そもそも研究した大規模スタディが少ない.生理食塩水は最も安価という利点がある一方で,大量急速投与で血中の重炭酸イオン濃度を希釈し,希釈性代謝性アシドーシスを起こしうる.また,高クロール血症も伴うと,重炭酸イオンはさらに減少し,代謝性アシドーシスが持続することがある.

 乳酸加リンゲルは,臨床的に乳酸が蓄積するような敗血症病態であっても,末梢組織の酸素代謝が改善して血中乳酸値が低下することから,ショック時でも頻用されている.その理由として,乳酸イオンそのものが生理的な物質であること,乳酸イオンも重炭酸イオンと同じくアルカリ化剤であること,他のリンゲル液に比して安価(118円)であることが挙げられる.健常人において乳酸加リンゲル1Lを1時間負荷したtrialでは,乳酸値は上昇しなかったと報告されている(Crit Care Med 2012; 25: 1851-4).一方で,乳酸代謝半減期は30分であるが,生体の代謝速度を上回る量が投与された場合は乳酸加リンゲル液投与による高乳酸血症を起こすことであり,特に肝不全や敗血症性ショックでは注意が必要である.また,乳酸加リンゲル大量輸液により,乳酸イオンの過剰負荷によるアルカリ化作用でショック回復後2-3日して高度の代謝性アルカローシスを起こすことがある.乳酸加リンゲルの問題点を解決したのが酢酸加リンゲルである(175円).さらに,細胞外補充液の中で最も生理的である重炭酸加リンゲルがあるが,高価(269円)であるのが難点である.以上の3種の細胞外補充液は,高価なものほどショック病態に向いてはいるが,実際の臨床的有意差は明らかではない.
2.重症敗血症,敗血症性ショックの輸液蘇生においてヒドロキシエチルスターチ(HES)を用いないことを推奨する(Grade 1B)(この推奨はVISEP,CRYSTMAS,6S,CHESTのtrialの結果に基づいている.最近終了したCRYSTALの結果は考慮していない).
 HESには凝固・止血機能障害,アナフィラキシー様反応,腎障害の懸念があり,特に腎障害が有意に増加したとする報告は多い.また,HESを有効とした報告の多くにかかわっていたのがBoldt J氏であるが,2009年に同氏が報告した論文が捏造であったことが発覚している(Anesth Analg 2011; 112: 498-500).HESの有効性を検討したメタ解析やシステマティックレビューで解析対象とされた同氏の報告はHESを肯定するものが多く,今後の調査結果次第でさらにHESの有効性は否定的なものとなる可能性がある.

 近年の報告はそのほとんどがHESの有効性を否定し,腎障害リスク上昇を報告している.2012年に報告されたRCTでは,6S Trial Group/Scandinavian Critical Care Trials Groupの報告(N Engl J Med 2012; 367: 124-34)ではHESによる有意な死亡リスク増加と腎障害が報告され,ANZICS trial groupの報告(N Engl J Med 2012; 367: 1901-11)でも腎障害リスク増加が報告されている.これに対し,CRYSTMAS study(Crit Care 2012; 16: R94)はHESの有効性と安全性を示した数少ないRCTの1つではあるが,そのデータを見ると死亡率,急性腎不全発生率に統計学的有意差はないものの,いずれもHES群が絶対差で6%,4.5%高い結果となっている.これらの結果からHESが推奨されないのは当然の流れと言える.

 2013年に入って2つのメタ解析が報告された.Haaseら(BMJ 2013; 346: f839)は,敗血症における6% HES 130/0.38-0.45と晶質液,アルブミンを比較した9報RCT3456例のメタ解析を行い,HESが腎代替療法や輸血の必要性を増加させ,より重篤な有害事象を引き起こすと報告している.Gattasら(Gattas DJ, et al. Intensive Care Med 2013 Feb.14)は,急性疾患の初期輸液蘇生における6% HES 130/0.4-0.42を検討した35報10391例のメタ解析を行い,HESが死亡リスク,腎代替療法を要するリスクをそれぞれ8%,25%増加させると報告している.

 ただし,HESに関するほとんどの報告が6% HES(130/0.4)であり,本邦で使用されているヘスパンダー®,サリンヘス®は海外の報告で使用されたものより低分子の6% HES(70/0.5)であり,報告もなく腎障害の有無などは不明の状態にあり,現時点では本邦では禁忌までとはいかず,慎重投与の状態にある.今後,本邦で使用されている低分子HESの安全性を検討した大規模RCTが必要である.敗血症ではないが,術中出血量1000mL以上の患者846例の後ろ向き解析(Anesth Analg 2012; 115: 1309-14)が東京慈恵医大から報告されており,6% HES(70/0.5)製剤投与は急性腎傷害を増加させず,多変量解析,傾向スコアを用いても急性腎傷害リスク増大は認められなかったとしている.
3.大量の晶質液を必要とする患者では,重症敗血症・敗血症性ショックの初期輸液としてアルブミン製剤を使用してもよい(Grade 2C)
 SAFE studyのサブ解析で重症敗血症において生理食塩水と比較してアルブミン投与が腎障害やその他臓器障害を起こさず死亡率を減らす可能性が示されていることは上で述べた通りである.また,Delaneyらのメタ解析(Crit Care Med 2011; 39: 386-91)では,アルブミン製剤使用は死亡リスクを22%減少させるとしている.ただし,この中で敗血症性ショック患者における大規模多施設RCTにおいては28日死亡率で統計学的有意差はみられず,2Cという低いグレードとなっている.
4.敗血症による組織低灌流と血管内容量減少を有する患者の初期輸液は,晶質液を最低でも30mL/kg以上投与することを推奨する(一部,相当量のアルブミンで代替してもよいかもしれない).患者によってはより急速で,より大量の輸液が必要となるかもしれない(初期蘇生推奨を参照)(Grade 1C)
  2001年にRiversらによって提唱されたEGDTが普及し,敗血症性ショックにおける大量輸液療法がスタンダードとなったものの,輸液過剰は死亡率の上昇と関連する可能性も示唆されており,現在どこまで大量輸液を行うべきなのかが議論となっている.

 Smithら(Crit Care 2012; 16: R76)は前向きコホート研究において成人敗血症性ショックにおける体液量の高値と低値の比較で,初期輸液量は死亡率に関連せず,3日間以上のショック患者においては晶質液,膠質液,血液製剤を含む高用量輸液が90日死亡率の減少に関連していた(高用量40% vs 低用量62%,p=0.03)と報告している.一方,小児ではFEAST trial(N Engl J Med 2011; 364: 2483-95)で敗血症性ショックにおける急速輸液の有害性が示されている.EGDTに関してはHiltonらが初期大量輸液に対する批判をまとめたレビューをだしているが(Crit Care 2012; 16: 302),現時点では結論を出すのは時期尚早であり,敗血症におけるEGDTの有効性を検討している3つの研究(米国のPROCESS,オーストラリア/ニュージーランドのARISE,英国のPROMISE)が進行中であり,この結果で決着がつくものと思われる.
5.初期輸液を動的指標(脈圧や1回心拍出量変化)や静的指標(動脈圧,心拍数)に基づいて血行動態の改善が得られるまで継続する輸液チャレンジテクニックを適応することを推奨する(Ungraded)
 輸液過剰とならないよう,適切な輸液量を推定する様々な方法が多数報告されているが,いずれも小規模RCTで確認されたものばかりであり,大規模で確認されたものはほとんどない.ただ,主流は静的パラメータから動的パラメータにうつりつつあるようであり,その代表例が呼吸変動であり,10年以上有効性の報告が出続けている.本ガイドラインではシステマティックレビューとしてMarikらの報告(Crit Care Med 2009; 37: 2642-7)を推奨根拠に挙げており,この報告では輸液反応性の診断における血圧変化,1回心拍出量変化のオッズ比はそれぞれ59.86(95%CI 23.88-150.05),27.34(95%CI 3.46-55.53)と非常に高い数値となっている.

H.昇圧薬(Vasopressors)
1.昇圧療法は,平均動脈圧(MAP)65mmHgを初期の目標にすることを推奨する(Grade 1C)
 血圧には,収縮期血圧SBP,拡張期血圧DBP,平均血圧MAPの3つの数字があり,重症管理患者におけるそれぞれの臨床的な意義として,SBPは左室後負荷と動脈性出血リスクに関与,DBPは冠血流の決定因子,
MAPは心臓以外の臓器灌流の決定因子となる.血圧が低いことが問題になるのは臓器血流量が減少するからであり,それを決定するのは冠血流を除いてはMAPである.よって,集中治療においてはMAPが最も重視されるべき項目である(Crit Care 2005; 9: 601-6)

 敗血症においてはノルエピネフリンによってMAPを少なくとも65mmHgに維持することで組織灌流を維持できたとする報告(Crit Care Med 2000; 28: 2729-32)がある.また,MAPが60mmHgと28日死亡率の関連が強く,SBPと死亡率の関連閾値は見出せなかったと報告されている(Intensive Care Med 2009; 35: 1225-33)
2.昇圧剤の第一選択としてノルエピネフリン(ノルアドレナリン)を推奨する(Grade 1B)
 輸液でも血圧を維持できず臓器血流量不足が懸念される状況では昇圧剤が必要となってくる.SSCG 2008ではwarm shockにおけるカテコラミン第一選択薬をドパミン(DOA),ノルアドレナリン(NA)のいずれでもよいとしていた.しかしながら,敗血症性ショック初期は末梢血管拡張を特徴としたwarm shockであり,血管トーヌスを戻す目的でのα1受容体刺激が原則とすべきであり,NAを用いることが病態生理学的に理にかなっている.

 DOAでα1受容体刺激を期待するためには10γを越える高用量が必要となり,β受容体という不必要な受容体刺激をしてしまうことを留意しておく必要がある.敗血症性ショックではβ1受容体のdown regulationが生じたり,β1シグナルが阻害されるため,DOAでは陽性変力作用が期待できないばかりか,β2受容体刺激により血管拡張や頻脈が生じ,むしろ昇圧を妨げてしまう.また,細菌にもβ受容体は存在し,DOA,DOB5γ以上の投与で菌増殖やバイオフィルム形成を促進してしまう.加えて,β受容体刺激は,転写因子NF-κBを活性化させ,炎症性サイトカインや血管拡張性物質の産生を高めてしまう.また,マクロファージはβ受容体刺激により泡沫化傾向が高まり,一時的に炎症活性が高まった後に機能不全となることも確認されている.また,β受容体刺激でリンパ球のアポトーシスが進行したり,好中球の遊走能が阻害されることも報告されている.

 これらの機序は以前から指摘されており,臨床においては,2012年には敗血症性ショックにおけるNAとDOAを比較したメタ解析が2報でており(Crit Care Med 2012; 40: 725-30,J Intensive Care Med 2012; 27: 172-8),いずれにおいてもDOAはNAに比して死亡リスクが高い結果となっており,SSCG 2012ではノルアドレナリンが第一選択となった.
3.適切な血圧を維持するため追加薬剤が必要な場合は,(ノルエピネフリンに追加,または潜在的代替薬として)エピネフリン(アドレナリン)を用いてもよい(Grade 2B)
 敗血症性ショックにおいてノルアドレナリンとアドレナリンを比較した研究はCATS study(Lancet 2007; 370: 676-84),CAT study(Intensive Care Med 2008; 34: 2226-34)があり,いずれも死亡率等に有意差はみられなかったが,CAT studyのサブ解析では,敗血症性ショック患者においてアドレナリン投与群で有意に頻脈や乳酸アシドーシスが多かったと報告されている.このことから,ノルアドレナリンを用いても,高度心機能低下によりショックから離脱できない場合に限り低用量のアドレナリンを考慮してもよいかもしれない.
4.平均動脈圧(MAP)を上昇させる,またはノルエピネフリンを減量する目的で,ノルエピネフリンにバソプレシン(0.03U/min)を追加してもよい(Ungraded)
 warm shockの中にはノルアドレナリン(NA)に反応しないケースがある.乳酸蓄積によりATP依存性Kチャネルが開放し,Caが細胞内に流入できず,NOによる血管拡張の働きのみが残ることがあり,この状態はカテコラミン不応性である.このような病態においてはバソプレシンが有効とされている.バソプレシンは血管平滑筋を収縮させ,カテコラミンに対する反応性を改善し,血圧上昇に働く.本来は血圧が下がるとバソプレシンの血液中濃度は上昇する.

 実際に,敗血症罹患初期は血中バソプレシン濃度は一過性に上昇し,その後徐々に低下することが知られている(Crit Care Med 2007; 35: 33-40).一般病棟ではこの低下の時期に敗血症が診断される場合も多い.NAとバソプレシンを比較したVASST study(N Engl J Med 2006; 354: 2564-75)では,28日死亡率に有意差がでなかったが,サブ解析で低用量ステロイド療法を施行しなければならないような難治性warm shockにおいては,バソプレシンはNAより28日死亡率を有意に低下させたと報告している(Crit Care Med 2009; 37: 811-8).実際,カテコラミン抵抗性の患者にNA単独とNA+バソプレシン併用を施行・比較検討したところ,併用した方が頻脈は減少し,平均動脈圧や心拍出量が増加,腸管血流が維持できたと報告している(Circulation 2003; 107: 2313-9).また,バソプレシンには尿量とクレアチニンクリアランスを増加させることが報告されている(Anesthesiology 2002; 96: 576-82).以上より,NAでも改善が得られないwarm shockに対してバソプレシン少量投与追加を検討してもよいかもしれない.
5.敗血症による血圧低下に対して初期に選択される昇圧剤としては低用量バソプレシンは推奨されず,0.03-0.04 U/min以上のバソプレシンは(他の昇圧剤で適切な平均動脈圧が得られない場合の)代替療法として温存すべきである(Ungraded)
 根拠としてDunserらの報告(Crit Care Med 2003; 31: 1394-8)が引用されており,高用量バソプレシンは心臓,消化管,内臓の虚血と関連し,昇圧薬による治療が奏功しないケースのために温存されるべきであるとされる.ノルアドレナリンとバソプレシンを比較した7報では,バソプレシンのルーティンでの使用は支持されておらず,代替療法の位置づけにある.しかし,ノルアドレナリンによる上室性不整脈リスクは7.25倍(95%CI 2.30-22.90)であることから,ノルアドレナリン減量目的での併用も考慮してもよいかもしれない.
6.極めて限られた患者(頻脈性不整脈や絶対的/相対的徐脈のリスクが低い患者など)においてのみ,ノルエピネフリンの代替薬としてのドパミンを使用してもよい(Grade 2C)
 上述の通り,ノルアドレナリンが第一選択となり,ドパミンの推奨度は下げられた.Levyらのメタ解析(Crit Care Med 2012; 40: 725-30)においては,ドパミンはノルアドレナリンに比して死亡リスク増大に加え,不整脈リスク増大も示されていることから,特に不整脈リスクの低い患者への限定記載を記したものと思われる.
7.フェニレフリンは敗血症性ショックにおいて以下の場合以外には推奨されない.(a) ノルエピネフリンによる重症不整脈がある場合,(b) 心拍出量が高いにもかかわらず血圧が低い状態が遷延している場合,(c) 強心薬/昇圧薬と低用量バソプレシンを併用しても平均動脈圧(MAP)が目標値を達成できない場合の代替療法(Grade 1C)
8.腎保護目的での低用量ドパミンは使用しないことを推奨する(Grade 1A)
 低用量ドパミンは腎保護作用のあるカテコラミンというドパミン神話が言われ,昔は汎用されてきた経緯があった.しかし,その有効性を示す研究の多くはケースシリーズであり,EBMが確立してきた1990年代に入って1991年のSzerlipの報告から始まり,多くのドパミンの腎保護作用に関するRCTが行われているが,有効であるとのエビデンスは存在しない.敗血症における低用量ドパミンの結果をまとめたレビュー(Clin Exp Pharmacol Physiol Suppl 1999; 26: 23-8)では,腎保護目的にルーティンでドパミンを使用すべきでないとしている.

 2000年に多施設無作為二重盲検比較試験であるANZICS trial(Lancet 2000; 356: 2139-43)が発表され,SIRS患者におけるAKIでは低用量ドパミン群とプラセボ群では同等の効果しか示さず,有意な腎保護作用・利尿作用はないと結論づけられている.その後に発表されたレビューでも低用量ドパミンの腎保護作用はなく,その副作用を考慮に入れると,腎保護目的に使用すべきではないとしている.
9.昇圧薬を必要とするすべての患者において,可能であれば動脈カテーテルを速やかに挿入することを推奨する(Ungraded)
 本ガイドラインの根拠では,敗血症性ショックでのカフを用いた非観血的血圧測定(NIBP)は不正確になりやすいと述べており,実際,NIBP測定器は本来は高血圧の検知を目的にしているよう精度が設計されており,それゆえに特に低血圧時には正確性に欠けると指摘する論文がいくつか存在する.またショック動態における動脈カテーテルでのモニタリングは,頻回の採血が必要な状態では有用であることに加え,血圧のみならず連続的な血圧変化がとらえられ,呼吸性変動などの波形変化から得られる情報も非常に有用である.

 しかしながら,根拠で触れられていないが,動脈カテーテル測定圧の過信も禁物である.なぜなら敗血症性ショック病態では動脈カテーテルの計測圧も正確でなくなりうるからである.心臓近くの血圧波形は末梢からの反射の影響はないが,末梢の動脈圧は末梢からの反射の影響を大きく受ける.基本的に心臓からの圧に末梢からの反射波が少し遅れて加わるため波形の幅は広くなる.逆に反射の影響が少ないと細い波形になりやすい.末梢血管が拡張していると反射の影響が少なくなり,静脈圧に近くなり,末梢動脈での血圧上昇は抑えられる.敗血症性ショックなどで末梢血管抵抗が極端に低い場合は動脈カテーテルでの圧がむしろ異常に低くなることがあるため,動脈カテーテル測定圧を根拠とした昇圧薬や輸液は過剰投与のリスクが生じるため注意が必要である.また,平均動脈圧<65mmHgの患者群に対してNIBPと動脈カテーテル圧を比較した報告では,NIBPが十分な代用となる可能性も報告れている(Anesth Analg 2009; 109: 494-501)

 このように,動脈カテーテル圧は共振だけでなく末梢血管抵抗にも左右されるが,NIBPは末梢血管抵抗の影響をほとんど受けず,上腕よりも心臓側の圧をよく反映しているので,NIBPは末梢血管抵抗の変化や圧測定回路による圧変化に左右される撓骨動脈カテーテル圧よりも信頼度は高くなる可能性もある.一方で,中心部の大動脈圧をより正確に反映するのは鼠径動脈であり,血圧の正確さで見れば撓骨動脈よりも鼠径から動脈カテーテルを挿入する方がよい.ただし,感染リスク上昇を加味する必要がある.内頸と大腿での静脈カテーテルでの感染率に有意差がないという報告が最近多いが,動脈カテーテルでそのままあてはまるわけではない.実際に中心静脈カテーテルでの感染確率は一定であるのに対し,動脈カテーテルの感染確率は留置日数に比例するとの報告もある(Crit Care Med 2010; 38: 1030-5).動脈カテーテルの適応やその活用方法はこれらを勘案した上で行うべきであろう. 
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by DrMagicianEARL | 2013-02-04 16:55 | 敗血症 | Comments(0)

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