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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

SSCG 2012(Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012)(4)

I.強心薬療法(Inotropic Therapy)
1.以下の場合,ドブタミンを投与開始または(使用しているなら)昇圧剤に追加して20μg/kg/minまで投与することを推奨する.(a) 心充満圧は上昇しているが低心拍出状態が疑われる心筋機能障害,(b) 適切な血管内容量と適切な平均動脈圧であるにもかかわらず,組織低灌流徴候が持続している場合(Grade 1C)
 1Cで強く推奨されてはいるが,RCTレベルでドブタミンが有効とするエビデンスは依然としてない状態にある.昇圧剤の項目で述べた通り,敗血症におけるβ刺激薬の有害性機序が多数報告されており,ドブタミンの作用により頻脈や血圧低下が生じてしまう可能性もある.このこともあって,日本版敗血症ガイドラインではドパミン,ドブタミンは使用に値せずとしてか推奨項目において名前すら挙げられていない.むしろ近年はesmorolに代表されるβ遮断薬が死亡率を改善させる可能性を示唆する報告が増加しているくらいである.

 Wilkmanら(Wilkman E, et al. Acta Anaesthesiol Scand 2013 Jan.8)は,420例の敗血症性ショック患者の後ろ向き解析を行い,陽性変力薬(90.3%がドブタミン)を受けた患者は90日死亡率が有意に高く(42.5% vs 23.9%, p<0.001),傾向スコア調整後も有意な死亡リスク因子であったと報告している.また,肥大型心筋症,特に左室流出路狭窄がある場合は,投与により僧帽弁のsystoloc anterior mortion(SAM)が発生し,僧帽弁逆流が生じるため禁忌となる.
2.規定された正常を上回る心係数にするための強心薬使用は行わないことを推奨する(Grade 1B)
 2つの前向き臨床試験(N Engl J Med 1995; 333: 102-32,N Engl J Med 1994; 330: 1717-22)が推奨根拠として提示されている.

J.コルチコステロイド(Corticosteroides)
1.適切な輸液蘇生と昇圧剤治療で血行動態安定性(初期蘇生目標を参照)を回復できるのであれば,成人敗血症性ショック患者の治療としてのヒドロコルチゾン静脈内投与は使用すべきではない.血行動態安定化が達成されない場合は,ヒドロコルチゾンのみを200mg/dayの用量で投与してもよい(Grade 2C)
 合成グルココルチコイドは一部の細胞には確かに抗炎症作用を導くものの,敗血症病態においては効力を示しにくい.この理由として,合成グルココルチコイドは,グルココルチコイド受容体を発現させる細胞にのみ作用が限定されること,細胞選択性がないこと,敗血症進行の過程でグルココルチコイド受容体は発現量を減少させること,などが挙げられる.ステロイド投与量を増加したとしても,グルココルチコイド受容体が存在しない以上,炎症が生じている臓器細胞(Alert Cell)の炎症性サイトカインを抑制することはできず,結果的にはグルココルチコイド受容体の発現する白血球系細胞にアポトーシスを誘導し,感染症を増悪させてしまう.しかしながら敗血症においては副腎機能低下が進行し,ショック形成に関与していることを留意する必要があり,ステロイドカバーの役割を担う可能性は残されている.

 敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法は有効とする報告と無効とする報告の両方が複数報告されている.2004年のメタ解析(BMJ 2004; 329: 480-84)では,ステロイドによって28日死亡率,ICU死亡率,入院死亡率が有意に減少し,消化管出血,高血糖,続発性感染などの合併症の増加を認めず,ステロイド使用によりショックの離脱率が高く,昇圧薬の使用期間が短くなることが報告され,これを根拠としてSSCG 2004では低用量ステロイド長期間投与が推奨された.

 一方で,2008年に報告された二重盲検多施設共同RCTであるCORTICUS study(N Engl J Med 2008; 358: 111-24)は症例数が500例と大規模であり,28日死亡率はステロイド投与によって変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc解析では,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.この報告を受けて,SSCG 2008では少量ステロイド療法の推奨度がやや後退することとなる.しかしながら,CORTICUS studyには,ベースの患者の重症度が低い,ステロイド投与開始までの時間が長い(=すでに敗血症が軽快している可能性),有意差を出すためにサンプルサイズを800人に設定していたが,期間内に症例を集めることができず500人で終了している,などの問題点が挙げられている.

 一方,2004年のメタ解析が2009年にup-dateされ,少量ステロイド長期投与による死亡率の軽減は,CORTICUS studyを加えても維持されていた(Clin Microbiol Infect 2009; 12: 308-18).また,ステロイド非投与群での死亡率からみた敗血症の重症度とステロイドの効果についても言及し,低用量ステロイドは死亡率が高いと予測される患者(重症患者)では有効となり,死亡率が低いと予測される患者(軽症患者)では害となりうることを示した.これらから,患者の重症度に応じてステロイドを使い分ける必要がある可能性が示唆され,重症度を想定していないSSCG 2004を遵守した場合は,死亡率に有意差はでていない(Intensive Care Med 2010; 36: 222-31)

 根拠には引用されていないが,2012年にCasserlyら(Intensive Care Med 2012; 38: 1946-54)が,2005-2010年の218施設敗血症患者27836名の解析を行っており,低用量ステロイド投与患者の病院死亡リスクは1.18倍,ショック後8時間以内に早期投与された例では1.23倍有意に増加していたと報告している.
2.成人の敗血症性ショック患者にヒドロコルチゾンを投与すべきかどうかを判断するためにACTH負荷試験は行うべきではない(Grade 2B)
 CORTICUS studyも2009年のメタ解析も,ACTH反応性有無にかかわらず効果は変わっていない.

 外傷や全身性炎症の急性期管理に用いられる薬物の中には,副腎機能を低下させる可能性のある薬物がある.ベンゾジアゼピン系鎮静薬やオピオイドはACTHの放出を抑制し,副腎皮質からのコルチゾル分泌を抑制する可能性がある.また,抗真菌薬であるケトコナゾールやフルコナゾール,シクロスポリン,フェニトインなどはコルチゾル分解を促進させる.また,コルチゾル担体であるコルチコステロイド結合グロブリンは好中球エラスターゼの基質であり,好中球エラスターゼによりコルチコステロイド結合グロブリンが切断されるため,フリー体のコルチゾルの遊離が高まる.このため,局所炎症では好中球の浸潤によりコーチゾルレベルが高まり,細胞保護が合理的に行われているが,侵襲的手術や敗血症のように好中球エラスターゼレベルが血中で上昇する病態では,炎症部位へのコーチゾル運搬が障害される.敗血症性ショックや多発外傷ではアルブミンのみならずコルチコステロイド結合グロブリンが低下し,コルチゾルの血漿消失半減期が短縮することも知られている.

 ACTH刺激試験において計測されるコルチゾルは総コルチゾルであり,フリーコルチゾルではない.血中のコルチゾルは通常90%が蛋白結合型の不活性型であり,活性を持つのは残りの10%のフリーコルチゾルである.ところが,敗血症などの重症疾患ではフリーコルチゾルの割合が50%にまで増加する.しかし,特にアルブミン低下が著明な(<2.5 g/dL)重症患者では,フリーコルチゾルが正常または増加しているにもかかわらず,総コルチゾルは低く測定されてしまう.以上から,総コルチゾール測定では副腎機能低下を判定することは不正確であり,フリーコルチゾルの測定結果もすぐに得られない上に重症患者での基準値が明確でないという問題点から,ACTH刺激試験を行う意義は乏しい.
3.昇圧剤が既に不要である場合は,ステロイド療法を漸減させてもよい(Grade 2D)
 一定期間の治療プロトコルを使用したRCTは3報,ショック改善後の減量についてのRCTは2報あり,これらのうち4報では数日間でステロイド漸減を行っている.また,RCT1報を含む2報の研究ではステロイドを中断している.1つのクロスオーバー試験においてステロイドの突然の中断による血行動態的・免疫学的なリバウンドを示している.また,1つの研究で敗血症性ショック患者に対する低用量ヒドロコルチゾン使用期間は3日間と7日間で予後に有意差がなかったと報告している.これらの根拠から,突然の中断は好ましくないため漸減療法がbetterであるが,投与期間に関しては明確な基準がない.
4.ショックでない敗血症治療においてはコルチコステロイドを投与しないことを推奨する(Grade 1D)
 本項目に関しては明確な根拠となる文献はないが,非ショック病態の敗血症において投与するメリットを示す報告はなく,現時点で副作用を上回る利益を得る可能性は低いと思われ,現時点では必要性は乏しく,投与しないのが妥当と思われる.

 一方で,肺炎におけるステロイド投与が議論されており,本ガイドラインの根拠においてもステロイドが有効であるとした2つの報告(Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 242-8,Lancet 2011; 377: 2023-30)を引用している.6報437例のコクランのメタ解析(Cochrane Database Syst Rev 2011; 3: CD007720)では死亡リスク減少効果は認められなかったが,症状改善までの期間を短縮したとしている.ただしそのエビデンスの強さは十分ではないと付け加えている.現在肺炎に対するステロイドの効果を検証する大規模studyであるESCAP(e) studyが行われている.
5.低用量ヒドロコルチゾンを投与する際は,反復ボーラス投与よりも持続投与を行うべきである(Grade 2D)
 いくつかのRCTにおいて敗血症性ショック患者に対する低用量ヒドロコルチゾン投与は,副作用として有意に高血糖・高ナトリウム血症をきたすことが知られる(JAMA 2002; 288: 862-71).また,小規模研究ではあるが,反復ボーラス投与が持続投与よりも高血糖をきたしやすいことも報告されている(Intensive Care Med 2007; 33: 730-3)

K.血液製剤投与(Blood Product Administration)
1.組織低灌流が改善し,心筋虚血や重度の低酸素,急性出血,虚血性心疾患などの考慮すべき懸念がなければ,成人ではヘモグロビン7.0g/dL未満の場合において7.0-9.0g/dLを目標に赤血球輸血を行うことを推奨する(Grade 1B)
 重症敗血症患者において最適なHb濃度は分かっていない.TRICC trial(N Engl J Med 1999; 340: 409-17)では目標値Hb 10-12g/dLの輸血非制限群と比較して目標値7-9g/dLの輸血制限群は死亡率が低い傾向にあったが,統計学的に有意な差ではなかったと報告されており,また,重症感染症や敗血症性ショックの患者に限定したサブ解析でも30日死亡率に有意差はなかった.

 しかし,CRITT trialのその他のサブ解析について本ガイドライン根拠では触れられていない.TRICC trialにおいて,APACHEⅡスコア≦20の軽症患者,55歳未満の患者層,院内死亡率のそれぞれでサブ解析を行うと,輸血制限群の方が有意に死亡率が低い結果となった.その後,Vincentらの大規模観察研究ABC study(JAMA 2002; 288: 1499-507)が行われ,輸血が死亡率を高めると結論付けている.一方,VincentらはSOAP studyの輸血に関するデータベースの解析を行い(Anesthesiology 2008; 108: 31-9),傾向スコア解析で輸血と死亡率に関連性がないとしている.Marikらのシステマティックレビュー(Crit Care Med 2008; 36: 2667-74)では,輸血は死亡に関連する独立因子(OR 1.7, 95%CI 1.4-1.9)であり,院内感染を含む感染性合併症やARDS,多臓器不全の危険因子となることも示している.

 Leal-Novalら(Intensive Care Med 2012 Nov.27)は,非出血性の中等度貧血(Hb 7.0-9.5)がある重症患者428例の後ろ向きペアマッチングコホート研究を行い,赤血球輸血群が非輸血群より死亡率,ICU再入室率,院内感染率,急性腎傷害が有意に高いことを示している.輸血投与開始基準としてのHb値は高値がいいか低値がいいかを検討した19報RCT6000例のメタ解析(JAMA 2013; 309: 83-4)では,低値群の方が30日死亡率が15%低い結果となっている.これらのことから,日常診療では感じにくいが,輸血投与にはリスクが伴うことを周知しておく必要がある.

 一方,敗血症に限定した研究では,韓国22施設ICUの1450例の傾向スコアマッチング解析を行ったParkら(Crit Care Med 2012; 40: 3140-5)の報告があり,低リスクの重症敗血症/敗血症性ショック患者に対する輸血により7日死亡率,28日死亡率,院内死亡率のすべてが約50%低下していた.今後は敗血症における前向き研究が望まれるが,現時点では輸血リスクを考慮し,上記推奨項目通りの施行がbetterであると思われる.
2.重症敗血症による貧血の特異的治療としてのエリスロポエチンは使用しないことを推奨する(Grade 1B)
 重症患者の貧血の原因のひとつにエリスロポエチン(EPO)産生低下があり,ICUで輸血を減らすためにもEPO製剤投与が推奨されるが(Crit Care Med 2009; 37: 3124-57),敗血症ではEPOは推奨されていない.

 EPO投与についての多施設二重盲検RCTは3つ(Crit Care Med 1999; 27: 2346-50,JAMA 2002;288: 2827-35,N Engl J Med 2007; 357: 965-76)あり,2つは死亡率に有意差なし,1つはEPO群が有意に死亡率を低下させたが,EPO群において血栓性合併症発症リスクが有意に高くなることも判明し,EPO使用は安全性という点で懸念されることとなった.これらの結果やEPO試験のメタ解析(CMAJ 2007; 177: 725-34)から,腎不全による赤血球産生能低下に対してはEPO投与を考慮してもよいかもしれないが,重症敗血症に合併する貧血の特異的治療法としてはEPOを使用すべきではない.
3.出血や侵襲的な処置の予定がなければ、凝固異常補正を目的とした新鮮凍結血漿(FFP)の投与は行うべきでない(Grade 2D)
 ここはDICの積極的治療を行う日本とDICの概念に乏しい海外とで意見の分かれるところかもしれない.FFPの投与は軽度の凝固異常(PT INR 1.10-1.85)のある非出血性患者においては99%の患者でプロトロンビン時間が補正されなかったことが報告されている(Transfusion 2006; 46: 1279-85)こと,非出血性の重度凝固異常のある患者でのFFPによる補正に関する研究がなされていないことが本項目の根拠である.これに対して本邦では敗血症患者でも重症例でのDICにおいては経験的にFFPの投与を行っている施設は多い.その目的として,凝固因子補充や,ADAMTS13の輸注が挙げられるが,敗血症性DICにおいてFFPが臨床アウトカムを改善した報告はなく,日本版敗血症診療ガイドラインのDICの項目においても,「著明な出血傾向のある症例で,APTTが正常の倍以上,あるいはPT-INRが2倍以上に延長している場合に適応となる」と明記されている.

 FFPで注意しなければならない有害事象に,輸血の死亡原因となる輸血関連急性肺傷害(TRALI)もあり,血漿中の抗白血球抗体などの液性成分が発症に関与する機序も明らかとなっている.近年の前向き研究(Crit Care Med 2007; 176: 886-91)では全輸血患者のうち8%が輸血後6時間以内にTRALIを発症し,特に敗血症患者で発症率が高かったと報告されている.
4.重症敗血症,敗血症性ショックの治療においてアンチトロンビン製剤は投与すべきではない(Grade 1B)
 これもDICの概念が乏しい海外ならではの推奨項目であり,その根拠は,DIC有無関係なしにアンチトロンビン製剤(AT)を敗血症患者に投与した2314例の多施設共同二重盲検RCTであるKyberSept study(JAMA 2001; 286: 1869-78)に基づく.この報告ではAT投与群と非投与群とで28日全死亡率に有意差がなかった.サブ解析では,ATへのヘパリン併用が出血リスク増大に関連おり,ヘパリン非併用群では死亡率が改善していた(J Thromb Haemost 2006; 4: 90-7).また,DICを合併していた重症敗血症例ではATが90日後の予後を改善させていた(Crit Care Med 2006; 34: 285-92)

 以上から,ATには敗血症性DICでの有効性が残されているものの,そのエビデンスはあくまでもサブ解析に過ぎず,前向きRCTが必要である.また,KyberSept studyのAT用量は30000単位を4日間かけて投与しており,本邦の1500単位3日間投与という基本レジメンが予後を改善するのか,あるいはATを何%まで回復すれば予後が改善するのか,ということに関してはエビデンスがない状況にある.
5.重症敗血症の患者においては,明らかな出血がない患者では血小板10000/mm^3未満の場合に血小板輸血を行い,明らかな出血のリスクがある患者では血小板20000/mm^3未満で血小板輸血を行ってもよい.活動性出血のある患者,外科的処置や侵襲的処置を行う患者では血小板数が50000/mm^3以上あることが望ましい(Grade 2D)
 凝固障害をきたしやすい敗血症においては血小板輸血は慎重に考える必要があり,高いレベルの血小板数を目標としてはならない.敗血症性DICの場合は,リコンビナント・トロンボモデュリン製剤やアンチトロンビン製剤が投与されていない状況で血小板輸血を行うと臓器障害が悪化する可能性がある.また,難治性の敗血症性DIC病態においてはvon Willbrand Factor切断酵素であるADAMTS13が枯渇している可能性があり,血栓性血小板減少症(TTP)に類似した状態になっている可能性があり,血小板輸血は極めて慎重に行うべきである(Thromb Res 2010; 125: 6-11).また,ヘパリン起因性血小板減少症では血小板輸血は禁忌である.
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by DrMagicianEARL | 2013-02-05 16:55 | 敗血症

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