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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

SSCG 2012(Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012)(6)

O.敗血症性ARDSにおける人工呼吸(Mechanical Ventilation of Sepsis-induced Acute Respiratory Distress Syndrome)
1.敗血症に起因する急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の患者では6mg/kg理想体重の1回換気量を目標とすることを推奨する(Grade 1A vs 12mL/kg)
 推奨根拠では,「これまでの研究はARDSの定義はAECCによる基準(Am J Respir Crit Care Med 1994; 149: 818-24)に基づいているが,この項目では2011年のESICMで発表されたBerlin定義(JAMA 2012; 307: 25226-33)を用いる」と記載され,ALIの表記はなくし,ARDSに統一されている.

 ARDSにおける1回換気量の研究は,2000年までにARDS-Networkの報告であるARMA study(N Engl J Med 2000; 342: 1301-8)を含め多施設共同RCTが5報あり,このうち3報は1回換気量が予後に影響を与えない結果となった.この結果の相違は1回換気量や肺胞内圧(プラトー圧),PEEP設定が異なることによるものと推察されている(Am J Respir Crit Care Med 2002; 166: 1510).その後行われた2つのメタ解析(Ann Intrn Med 2009; 151: 566-76,PLoS ONE 2011; 6: e14623)では,気道内圧と換気量を制限した方が死亡率が減少することが示唆された.

 このメタ解析の結果は,ARMA studyが他の各報告の10倍前後の症例数(429例)を有するために死亡率低下効果が現れたものと推察される.この報告では,理想体重に対して1回換気量6mg/kg+肺胞内プラトー圧を30cmH2O以下とする群が,1回換気量12mg/kg+肺胞内プラトー圧50cmH2O以下とする群よりも全死亡率を有意に改善していた(31.0% vs 39.8%).この結果から,1回換気量6mg/kgという設定が肺保護換気療法の基本とされるに至る.ただし,注意しなければならないのは,ARMA studyではコントロール群のプラトー圧が不必要に高く設定されているところにある.
2.ARDS患者ではプラトー圧を測定し,受動的肺拡張時での初期プラトー圧上限は30cmH2O以下とすることを推奨する(Grade1B)
 前述のARMA studyにより1回換気量6mg/kg+肺胞内プラトー圧を30cmH2O以下とする管理が推奨されるようになってはいるが,Grade 1Bという推奨度はやや高すぎる印象がある.

 ARDS Networkによる6報のメタ解析(Am J Respir Crit Care Med 2008; 177: 1215-22)では,プラトー圧が1cmH2O上昇すれば死亡リスクが3%有意に上昇することが分かっており,この結果を見れば,吸気プラトー圧は低い方がよいということになる.これはARMA研究においても示されており,プラトー値と死亡率はほぼ直線的な関連が観察されている.

 しかしながら,プラトー圧を低くしすぎると虚脱肺をリクルートすることができず,死亡率が上昇する可能性も示唆されている(Am J Respir Crit Care Med 2002; 166: 1510-4).プラトー圧は肺コンプライアンスとは逆相関する上,PEEPを高くすれば当然ながらプラトー圧も上昇しやすい.このため一律にプラトー圧の至適カットオフ値を提示することは困難であり,1回換気量が低く保たれている状態でのプラトー圧高値が必ずしも有害とは限らない.実際に,人工呼吸器関連肺損傷(VALI)の原因は,高い気道内圧よりも肺胞の過伸展により生じる,いわゆる容量肺損傷volutraumaであり(Intensive Care Med 1992; 18: 139-41),ラットモデルの実験においては,気道内圧が高くても肺容量を制限すればVALIを防ぐことができることが示されている(Am Rev Respir Dis 1988; 137: 1159-64).よって,プラトー圧よりも1回換気量の方が予後に影響を与えられると考えられ,実際にARMA studyの二次解析(Am J Respir Crit Care Med 2005; 172: 1241-5)ではプラトー圧が30cmH2O以下であっても,1回換気量を12mL/kgにした群では死亡率が高くなっていた.

 以上を踏まえると,「人工呼吸中の吸気プラトー圧は高くなるほど予後は悪化するが,至適値を設定することは困難である(Grade 2B).」とした日本版ガイドラインの推奨は的を得ており,SSCG 2012のように低1回換気とプラトー圧についての推奨項目を別々に定めるのは妥当ではないと思われる.実際には,「低1回換気を行っているならばプラトー圧が高まることを許容してもよい」とする推奨を加えた方がよいのではないかと考える.
3.呼気終末時の肺胞虚脱(再開放と虚脱を繰り返すことによる損傷;atelectotrauma)を防ぐため,呼気終末陽圧換気(PEEP)を適用することを推奨する(Grade 1B)
 ARDSにおいては,酸素化を改善させ,肺胞虚脱,無気肺,ずり応力の発生を防ぐためPEEPを使用することは理にかなっている(Am J Respir Crit Care Med 2012; 185: 702-8)

 なお,PEEPにより心拍出量が減少し,血圧が低下する副作用があることを理解しておく必要がある(Crit Care Med 2010; 38: 802-7)
4.敗血症による中等症,重症のARDSでは,PEEPは低レベルよりも高レベルにすることに基づいた戦略を提案する(Grade 2C)
 ARDS NetworkによるALVEOLI study(N Engl J Med 2004; 351: 327-36),LOV study(JAMA 2008; 299: 637-45)では,FiO2の必要量に応じてPEEPを変更し高いPEEP値とする群と従来の慣習的なPEEP値を用いたコントロール群を比較したもので,死亡率に有意差はみられなかった.一方,別のRCTであるEXPRESS study(JAMA 2008; 299: 646-55)ではプラトー値を28-30cmH2Oに保つようにPEEP値が設定された.この報告では,死亡率に有意差はみられなかったが,最初の28日間において,呼吸器管理日数と臓器不全日数の中央値が有意に短縮されていた.

 これら3つのRCTのメタ解析(JAMA 2010; 303: 865-73)では,高PEEP群と低PEEP群で院内死亡率に有意差はみられなかった.しかし,P/F比が200以下の中等症・重症ARDSに限ったサブ解析では,院内死亡率は高PEEP群の方が有意に低い結果となった.あくまでもサブ解析であり,その差も有意ではあるが極めてわずかの差で,強い根拠とはならないが,これが本ガイドラインの推奨根拠である.

 PEEP値については肺の損傷レベルが患者個々によって異なるため,その至適値を画一的に決定することはできない.患者個々で最適化をはかる研究はいくつかあり,静的圧容量曲線の下部転換点以上に保つ手法,ストレスインデックスを用いる手法,胸部CTを用いる手法などであるが,現段階でスタンダードといえる方法はない状態にある.
5.ARDSによる重症難治性低酸素血症の敗血症患者ではリクルートメント手技を行ってもよい(Grade 2C)
 重症ARDS患者で難治性の低酸素血症をきたしている際に用いられる,虚脱肺胞を再開通させるリクルートメント手技(RM;recruitment maneuver)には様々な方法がある(JAMA 2010; 304: 2521-7).しかしながら,見解は一致していない状況にあり,日本版ガイドラインでは触れられていない.ARDS Networkは効果が不確実で酸素化改善も一時的に過ぎないとしており(Crit Care Med 2003; 31: 2592-7),Gattinoniら(N Engl J Med 2006; 354: 1775-86)はARDS患者の24%がリクルートメント不能であると報告している.その一方で,92%に有効だったとするBorgesらの報告(Am J Respir Crit Care Med 2006; 174: 268-78)もある.この違いはRMの方法の違いであり,有効でないとした研究は有効とした研究より人工呼吸器装着からRM施行までの期間が長く,RMの施行時間が短い傾向にある.

 BorgesらのRMは,段階的にPEEPを増加させていく方法である.4報RCTのメタ解析(Am J Respir Crit Care Med 2008; 178: 1156-63)では,高レベルのPEEPを用いたRMは重症低酸素血症の患者に限って施行することは直後に一時的に酸素化を有意に改善するため利益となりうるかもしれないが,その効果は長続きするわけではなく,また,PEEPを上昇させることで肺過膨張による人工呼吸器関連肺傷害や一過性の血圧低下,低酸素血症,不整脈をきたしうる.特に循環器系への影響は大きく,短時間の加圧しかできないため,この間に再開通が得られないのであればRMを施行する意味はなく,RMには時間的制限があることを知っておく必要がある.さらに,全ARDS患者にルーティンで施行することを支持するエビデンスは少ないとしている.また,RMを施行する場合は血圧と酸素化のモニタリングが必須であるが,熟練していないスタッフによるRMの施行はトラブルにつながりうる.明らかに気道内圧が低下したことで肺胞内圧が低下して低酸素血症が起こったと考えられる場合や,あらゆる低酸素血症を治療する手立てがない場合以外では,RMを積極的に推奨はできないものと思われる.

 RMを施行する手段として気道圧開放換気(APRV),高頻度振動換気(HFOV),2相性PEEP(BIPAP)などがある.これらのモードは通常の人工呼吸管理やRMができない症例において理論上有効であるとされている.しかし,APRV,BIPAPは敗血症性ショックを伴うARDSにおいては,循環動態に影響を与えることが重大なデメリットとなる.また,APRV,BIPAPは臨床効果を検討した大規模研究がないため,敗血症性ARDSでは推奨する根拠は乏しい.

 HFOVについては,8報RCT,419例のメタ解析(BMJ 2010; 340: c2327)では,HFOVは死亡リスクを23%低下させ,治療失敗リスクも33%低下させるとしている.しかしながら,対照群は1回換気量が高く設定されており,これまでARDS患者の死亡率を下げることが証明された人工呼吸管理法が遵守されていないという問題点を抱えていた.2013年にOSCILLATE study(Ferguson ND, et al. N Engl J Med 2013 Jan.22),OSCAR study(Young D, et al. N Engl J Med 2013 Jan.22)という2つの大規模RCTが相次いで報告された.OSCILLATE studyは,中間解析でHFOV群の死亡率が有意に高まったため,早期中止されている.OSCAR試験では30日死亡率に有意差を認めなかった.以上より低1回換気療法と比較した成人におけるHFOVの予後改善効果は現時点では否定的であり,むしろ有害である可能性も示唆されていることから,HFOVも推奨されない.
6.経験の豊富な施設であれば,PaO2/FiO2比≦100mmHgの敗血症性ARDS患者において腹臥位療法を行ってもよい(Grade 2B)
 複数の小規模研究とGuerinらの791例大規模研究(JAMA 2004; 292: 2379-87)やGattinoniらの304例大規模研究(N Engl J Med 2001; 345: 568-73)において腹臥位療法による酸素化改善効果が報告されているが,予後改善効果は認められていない.これは,Abrougらによる6報RCTのメタ解析(Intensive Care Med 2008; 34: 1002-11)においても同様であった.

 しかし,これまでの研究においてはサブ解析でP/F比≦100の重症例において生存率を改善させる可能性が示唆されていた.その後,Sudらによる10報RCTのメタ解析(Intensive Care Med 2010; 36: 585-99)において,腹臥位療法が重症例においては死亡リスクを16%有意に減少させる一方,中等症では死亡率改善効果は見られなかった.この結果から,SSCG 2012においても2Bで重症例に推奨されるに至る.現在,重症ARDS患者に限定したRCTであるProseva study(NCT00527813)が進行中である.

 ただし,腹臥位療法には褥瘡,気管チューブの詰まり,ドレーンが抜ける,循環動態に影響を与えるなどの合併症が増えることや,スタッフの仕事量も増えることもあり,経験の豊富な施設での施行が望ましい.これらの問題点を解決するひとつの案として前傾臥位療法が提唱されているが(人工呼吸 2009; 26: 210-7),エビデンスはまだ乏しい.
7.人工呼吸管理中の敗血症患者では,誤嚥のリスクを減らし人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症を防ぐため頭部を30-45度挙上することを推奨する(Grade 1B)
 30-45度の頭高位は,米国医療の質改善研究所(IHI;Institute for Healthcare Improvement)が推奨するベンチレータバンドルの項目のひとつであり,その推奨根拠とSSCG 2012の推奨根拠は同じである.

 Drakulovicらによる86例のランドマークスタディ(Lancet 1999; 354: 1851-8)では,VAP発生率は45度頭高位群8% vs 仰臥位群34%であり,頭高位がVAP予防に有用であると報告している.その一方で,van Nieuwenhovenら(Crit Care Med 2006; 34: 396-402)は,人工呼吸中の患者を,頭部45度挙上群と10度挙上群で比較したRCTを行ったところ,VAP発生率に有意差はみられなかった(11% vs 7%).ただし,この研究では,実際には45度を保つことが困難なため,平均28度の挙上レベルしか保たれていなかった.これらから,エビデンスは必ずしも強いわけではないが,30-45度の頭位挙上が推奨されている.
8.敗血症性ARDSでは,非侵襲的マスク換気(NIV=NPPV)の使用による有益性が考慮される場合,およびリスクよりも上回る場合にはNIVを使用してもよい(Grade 2B)
 NPPVによって急性呼吸不全の予後を改善したとする2報のRCT(N Engl J Med 1998; 339: 429-35,Am J Respir Crit Care Med 2003; 168: 1438-44)が提示されている.しかしながら,NIVを使用するには意識状態が保たれていること,循環動態が安定していること,比較的低いレベルのPEEPやプレッシャーサポートで管理できることが条件となっており,その適応範囲は限られる.また,Agarwalら(Respir Med 2006; 100: 2235-8)はメタ解析を行い,ARDSに対するNIVは気管挿管率は低下せず,ICU生存率も改善しないと報告している.本ガイドラインには引用されていない最新の知見として,インフルエンザH1N1pdm2009によるARDS患者に対するNIV早期適用の検討(Minerva Anesthesiologica 2012; 78: 1333-40)では,入院時にSAPSⅡscore>29,P/F<127,NIV開始1時間後P/F<149は挿管・死亡リスク増加と関連していると報告している.軽症ARDS症例に対するNIVと通常マスクを比較検討したZhanら(Crit Care Med 2012; 40: 455-60)による10施設共同40例RCTがあり,挿管を必要とした患者はNPPV群で有意に少なく,軽症ARDS患者に対するNIVは安全に施行できるとしている.以上から,呼吸状態ではP/F比200-300の軽症例のみへの適応が妥当と思われる.

 ただし,NIVには挿管例と比較してVAP発生率が有意に低いことが多数報告されており,Hessらの急性呼吸不全に関連するシステマティックレビュー(Respir Care 2005; 50: 924-9)も示している通りである.
9.人工呼吸管理中の重症敗血症にはウィーニングプロトコルを適用し,以下の基準を満たしたときに人工呼吸を離脱できるかどうか定期的に自発呼吸試験(SBT)で評価を行うことを推奨する.
a) 覚醒できる
b) 血行動態的に安定している(昇圧剤を使用していない)
c) 新たな潜在的重症合併症がない
d) 換気量やPEEPの必要度が低い
e) マスクや鼻カヌラによる酸素投与でも安全なレベルまでFiO2必要度が低い
もし自発呼吸試験が成功すれば抜管を考慮すべきである(Grade 1A)
 SBTは低レベルのプレッシャーサポート,CPAP(≒5cmH2O),Tピースの使用などを含む.適切に患者を選択し,毎日SBTを行えば人工呼吸器装着期間が短縮されることが報告されている(N Engl J Med 1996; 335: 1865-9,N Engl J Med 2000; 342: 1471-7).この呼吸テストは覚醒テストと共に施行されるべきである(Lancet 2008; 371: 126-34)

 本ガイドラインの根拠にプロトコル化は触れられていない.SBTをプロトコル化して運用することには賛否両論がある.すなわち,プロトコルを用いて看護師,呼吸療法士が主導でweaningを行う方法と医師主導のweaningを行う方法のいずれがよいか,であるが,プロトコル化の方が有用であるという報告が増えているのは事実であり,集中治療医が不在のopen ICUではプロトコル化が推奨されるかもしれない.1993-2009年に行われた11報のRCTのシステマティックレビュー(BMJ 2011; 342: c7237)では,プロトコルを用いて離脱した方が人工呼吸器装着期間を25%,離脱期間を78%,ICU滞在期間を10%短縮したと報告されている.

 問題はSBTの開始基準であるが,2001年のACCP/AARC/ACCMガイドライン(Chest 2001; 120: S375-95),2005年の集中治療国際会議でのコンセンサス(Eur Respir J 2007; 29: 1033-56),ARDS Networkによる推奨などがある.これらの有用性を直接比較検討したstudyはないが,各文献で示されたSBT失敗率,再挿管率に大きな差はない.離脱可能の予測因子に精度が十分に高いものはないが,rapid shallow breathing index(RSBI)と気道閉塞圧(P0.1)が比較的信頼性が高いとされる(Chest 2001; 120: S400-24)
10.敗血症性ARDS患者に肺動脈カテーテルをルーティンでは使用しないことを推奨する(Grade 1A)
 肺動脈カテーテル(PAC)は画期的モニタリングとして登場し,敗血症においても使用されるようになったが,1995年のGattinoniら(N Engl J Med 1995; 333: 1025-32)の報告で予後改善効果が否定されたのを皮切りにPACが無効とする報告が相次いだ.Cooperらの36報のメタ解析(Crit Care Clin 1996; 276: 889-97)では,19報で有効,17報で無効,レベルの高い第希望多施設共同RCTは上記Gattinoniらの無効とする報告のみであった.

 2000年に入ってからも無効とする報告は続き,ARDS NetworkによるPACとCVCを比較した1000例のRCT検討(N Engl J Med 2006; 354: 2564-75)ではARDSに対する水分制限には有用であったが,死亡率に有意差はなかったと報告している.一方,2つの大規模コホート研究(Crit Care Med 2004; 32: 911-5,Crit Care Med 2006; 34: 1597-601)では重症例においてPAC使用が生存率改善に寄与したと報告している.13報のRCTのメタ解析(JAMA 2005; 294: 1664-70)では重症例に対するPACは死亡率を増加させないが明らかな利益ももたらさないと結論づけられている.また,PAC挿入による侵襲性も考慮する必要がある(JAMA 2003; 290: 2713-20)

 敗血症性ARDSに対してPACを挿入することによるメリットはCVCと変わらず,コストのことを考慮するとルーティンでは用いるべきではない.ただし,PACが有用と推察される患者を適切に選択した場合においてはPACを挿入することも考慮してよい(JAMA 2005; 294: 1664-7,Cochrane Database Syst Rev 2006; CD003408).例えば,重度の低心機能状態や大動脈弁狭窄症などを重症敗血症に合併した症例においてはPACは推奨されうるかもしれない.これは,低心機能状態や重症ASにおいては輸液許容領域が狭く,コントロールが困難であるからである.
11.組織低灌流の根拠がない敗血症性ARDS患者に対する保存的輸液戦略(輸液をおさえる)を推奨する(Grade 1C)
 ARDS滲出期は肺毛細血管内の静水圧が上昇することでさらに悪化する可能性があるため,適切な輸液管理が必要となる.実際,肺血管外水分量と肺血管透過性亢進は死亡に関連すると報告されている(Crit Care Med 2013; 41: 472-80).ARDS NetworkによるFACTT(N Engl J Med 2006; 354: 2564-75)では,輸液を絞った群(7日目in/outバランス -136±491mL)は通常輸液群(7日目in/outバランス 6992±502mL)と比較して60日死亡率に有意差はなかったが,酸素化が有意に改善し,人工呼吸器を必要とする日数が有意に短縮した.ただし,この研究では,輸液管理をICU入室後平均43時間,ARDS診断後24時間経過してから開始され,開始後も血行動態が不安定な場合は積極的に輸液を行っている.

 よって,ARDSでは必ずしも全例で輸液を絞るというわけではなく,ショック等の血行動態不安定例では血管内容量が減少し,心拍出量低下,組織低灌流が生じているため,輸液負荷による充填で臓器不全進行を抑える必要がある.その後,ショック離脱,組織低灌流が解除された場合は輸液を絞るという戦略が必要となってくる.血行動態が落ち着いているARDSの場合,FACTTではCBP<4mmHg,PAWP<8mmHgを目標として輸液管理を行うことでアウトカムが改善している.
12.気管支痙攣のような特異的な適応がなければ,敗血症性ARDSではβ2刺激薬を治療として使用しないことを推奨する(Grade 1B)
 β2刺激薬が肺胞での肺水腫再吸収を促進する作用があることが研究で知られていた.そこで,ARDS NetworkがARDS患者に対するβ2刺激薬(アルブテロール)の有効性を検討した多施設共同プラセボ対照RCT(Am J Respir Crit Care Med 2011; 184: 561-8)を行い,人工呼吸器離脱期間,退院前死亡率などの予後に有意差は認めず,ICU滞在日数はむしろβ2刺激薬吸入群の方が長かったとしている.さらにその後報告されたBALTI-2(Lancet 2012; 379: 229-35)では,ARDSに対するサルブタモールの7日間点滴投与で死亡率が増加したと報告されており,これらの結果からARDSに対してはβ2刺激薬は推奨されない方針となった.
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by DrMagicianEARL | 2013-02-11 14:25 | 敗血症 | Comments(0)

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