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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

SSCG 2012(Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012)(7)

P.敗血症における鎮静,鎮痛,神経筋遮断(Sedation, Analgesia, and Neuromascular Blockade in Sepsis)
1.人工呼吸器を装着した敗血症患者では,特定のエンドポイントを目標として,最小限に抑えた持続的または間歇的な鎮静を行うことを推奨する(Grade 1B)
 鎮静に関しては,SSCG 2012とほぼ同時期に発表されたICU成人患者における疼痛,不穏,譫妄の管理ガイドライン(Crit Care Med 2013; 41: 278-80)(2002年の重症成人における鎮静・鎮痛ガイドラインの改訂版)の推奨内容がそこまで盛り込まれているわけではなく,こちらも参照しておく必要がある.特に譫妄予防のABCDEバンドル(Awaking and breathing, Choice of sedative and anlgesi, Delirium monitoring, Early mobilization)もふまえておく必要があるだろう.

 人工呼吸器を装着した重症患者において鎮静薬使用を制限することは,人工呼吸器装着期間,ICU滞在日数,入院日数の短縮に寄与すことがBrookら(Crit Care Med 1999; 27: 2609-15)の報告をはじめとしていくつも示されており,鎮静目標を定めた鎮静のプロトコル化によって,標準治療よりもアウトカムがより改善することも示されている.Stromら(Lancet 2010; 375: 475-80)のRCTでは,モルヒネのボーラス投与を用いた介入群において人工呼吸器装着期間,ICU滞在日数,入院期間が有意に短縮した一方で,介入群で譫妄も多かったとしている.

 鎮静薬の持続投与と間歇投与を比較したKollefら(Chest 1998; 114: 541-8)の報告では,間歇投与群の方が各種治療介入期間が短縮したとしている.また,Kressら(N Engl J Med 2000; 342: 1471-7)の報告では,鎮静薬の持続投与患者において1日1回の鎮静中断(daily sedation interruption;DSI)を行うことで各種治療介入期間の短縮を認めた.DSIは覚醒確認によって投与量が過量であるかの評価が可能となる.このように,鎮静薬の中断等により患者の日内リズムをつけ,鎮静薬の体内蓄積の見極めるという目的で毎日鎮静薬・鎮痛薬の中断時間を設けることが推奨されている.Girardら(Lancet 2008; 371: 126-34)は,このプロトコルに自発呼吸試験を組み合わせることで,各種治療介入期間短縮のみならず1年死亡率も有意に減少したと報告している.

 しかし,2012年に報告された8報のRCTのシステマティックレビュー(日集中医誌 2012; 19: 165-75)において,鎮静プロトコルや鎮静中断は従来の鎮静管理に比べ,人工呼吸期間やICU滞在日数を短縮させるが死亡率は減少させず,合併症が多いことが示されている.さらに,2012年のMethaらの16施設共同430例RCT(JAMA 2012; 308: 1985-92)では,鎮静プロトコル群と,プロトコルにDSIを加えた介入群を比較しており,両群間で人工呼吸期間,ICU滞在日数,入院期間に有意差がなく,DSIは看護師の仕事量,オピオイドやベンゾジアゼピンの使用量が増加したと報告している.

 2013年にはSvenningsenら(Svenningsen H, et al. Acta Anaesthesiol Scand 2013 Jan.7)らが3施設ICUでの前向きコホート研究を行い,RASSが2レベルを越えて変動すると譫妄発症リスクは5.19倍に増加,ミダゾラムの持続注入は譫妄発生リスクを62%減少させており.鎮静薬の変動はICU患者の譫妄発症の一因かもしれないと結論づけている.また,ShehabiらのSPICE study(Shehabi Y, et al. Intensive Care Med 2013 Jan.24)では,マレーシア11施設ICUの259例の多変量解析を行っており,早期からの深い鎮静(RASS≦-3)は抜管までの期間を延長し,院内死亡リスク11%増加,180日死亡リスクを9%増加したとしている.

 このように,1日1回の鎮静中断(DSI)のメリット・デメリットについてはまだ議論のさなかにある.期間を限定的に行うべきなのか,患者を選択して行うべきなのか,他にどのようなアウトカムに影響を及ぼすのか,今後の臨床研究が待たれる.

 また,敗血症,人工呼吸器装着,無動,鎮静,筋弛緩薬の使用はICUAW(ICU acquired weakness)のリスクであることを認識しておく必要がある.ICUAWは特異的治療法がなく,神経学的予後のみならず死亡率増加とも関連しているとされており,リハビリテーションで予防する他ない.
2.神経筋遮断薬(NMBAs)は中断後も神経筋遮断が遷延するリスクがあり,ARDSのない敗血症患者においては可能な限り使用を避けることを推奨する.神経筋遮断薬は,必要時間歇投与または持続投与のいずれの場合においても,遮断効果の評価のために四連刺激(train-of-four;TOF)モニタリングを使用すべきである(Grade 1C)
 NMBAsはICUにおいては同調性を向上させる目的で人工呼吸器患者において最もよく使用される.NMBAsは代謝,排泄によって体内から除去され,アセチルコリン受容体占拠率が低下することによって作用が消失するが,肝機能,腎機能が障害を受けている状態では中断後も作用が遷延しやすい.加えて,パンクロニウム,ベクロニウムに関しては,筋弛緩作用を有する代謝産物が生成されるため,長時間投与では活性代謝物質による作用が遷延する可能性がある.以上からICUではロクロニウムが有利かもしれない.

 神経筋遮断のモニタリングとして,尺骨神経を刺激して母指内転筋の反応をみる四連刺激(train-of-four;TOF)が推奨されている.Rudisら(Crit Care Med 1997; 25: 575-83)は,持続的にNMBAsを投与している人工呼吸器装着患者において,TOFを用いることでNMBAsのの使用量が減少し,神経筋機能の回復と自発呼吸の出現が早いことを示しており,各種ガイドラインにおいてもTOFは推奨されている.
3.敗血症性ARDSでP/F比が150mmHg未満の患者の早期においては,神経筋遮断薬(NMBAs)を48時間以内の短期間で使用してもよい(Grade 2C)
 ARDSに対するNMBAsの効果を見たRCTは,Gainnierら(Crfit Care Med 2004; 32: 113-9),Forelら(Crit Care Med 2006; 34: 2749-57),そしてACURASYS studyであるPapazianら(N Engl J Med 2010; 363: 2749-57)の報告,計3報があり,Gainnierらの報告ではP/F比など呼吸状態の改善が,Forelらの報告では抗炎症効果が,そしてPapazianらの報告では死亡率が32%有意に低下したことが報告された.この3報のメタ解析(Ann Intensive Care 2012; 2: 33)では,NMBAsはICU死亡リスクを29%有意に減少させ,28日死亡リスクも31%有意に減少させていた.圧損傷はNMBAs群が55%少なく,ICUAWの発生は両群間で有意差はみられなかった(RR 1.13, 95%CI 0.76-1.67).これらのことから,ARDSにおいてはNMBAsの48時間投与は有用かつ安全と思われるが,盲検が不完全,すべて同じグループによるかRCTであること,ACURASYS studyのN数が圧倒的に多いがTOFは施行されていないなどのlimitationは存在する.

 ただし,このNMBAsの有用性を示したRCT3報で使用されているのはシスアトラクリウムであり,日本では使用できない.日本で使用可能なNMBAsはすべてアミノステロイド系であり,ICUAWとの関連性が指摘されている.このため,日本において必ずしも安全かつ有効にARDSに使用できるかは不明である.

 ARDSでは自発呼吸の重要性が主張されることもあるが,NMBAsの使用により自発呼吸をなくした肺の絶対安静においての死亡率改善効果が示されたことは,APRVの議論においても考慮されうるべきことかもしれない.

Q.血糖コントロール(Glucose Control)
1.重症敗血症のICU患者においては,2回連続で血糖が180mg/dLを超えればすみやかにインスリンの投与を行うプロトコル化した血糖管理を行うことを推奨する.このプロトコル化されたアプローチでは血糖値の上限目標は110mg/dL以下よりも180mg/dL以下とすべきである(Grade 1A)
 2001年に単施設無作為化比較試験であるLeuven studyⅠ(N Engl J Med 2001; 345: 1359-67)が行われ,血糖値を80-110mg/dLに管理するIIT(強化インスリン療法)は従来の血糖管理(180-200mg/dL)と比較して有意にICU死亡率を3.4%低下させた.2006年に行われたLeuven studyⅡ(N Engl J Med 2006; 354: 449-61)でが,IITによるICU死亡率低下効果は2.6%であり統計学的に有意差はなかった.これらのメタ解析(Diabetes 2006; 55: 3151-9)では,IITは死亡率・有病率(急性腎不全,ニューロパチー)を減少させるが,低血糖発生率が有意に上昇し,110-150mg/dLを目標とするならば,死亡率が軽減し,低血糖発生率は増加しないが有病率は減少しないと報告された.この結果をもとにSSCG 2008では,敗血症患者で推奨される目標血糖値を150mg/dL以下としている.しかしながら,Leuven studiesには統計法,研究法,IITそのものに問題点を抱えていた.このため,他の研究で血糖降下療法の効果の是非を再確認する必要があった.

 2008年に敗血症患者を対象としたIITの効果を検証した最初のRCTであるVISEP trial(N Engl J Med 2008; 358: 125-139)では,IIT群による28日死亡率の低下は1.3%と軽微で,統計学的有意差はなかった.また,90日死亡率の検討では,IITは有意でないが4.3%死亡率を増加させた.さらに,IITは赤血球輸血率を有意に9.4%増加させ,透析必要率を有意でないが5%増加させた.低血糖(40mg/dL以下)の発生率は,コントロール群の4.1%と比較して,IIT群では17.0%と有意に増加した.また,低血糖の発生は敗血症患者の90日死亡の増加に関わると報告された.

 2009年に報告されたNICE-SUGAR trial(N Engl J Med 2009; 360: 1283-97)はICU患者を対象にIITに有効性を検討した最大のRCTで,IITの90日死亡に対する効果を通常血糖管理群(目標血糖値144-180mg/dL)と比較した研究であり,IITの検討に関して最も信頼に足るRCTであると評価を得ている.これによると,IITは28日死亡を有意でないが1.5%上昇させ,90日死亡を2.6%有意に上昇させた(IIT vs 従来型:27.5% vs 24.9%).血液培養陽性率は両群間で有意差はなかった.重症敗血症患者を対象としたサブ解析でも,IITは90日死亡を有意でないが2.5%上昇させており,敗血症患者に対するIITの有害性が報告された.なお,本試験はIIT群で高度低血糖がみられたために早期に中止されている.その後,二次解析が2012年に2件報告されている.1報は,IITは中等度・高度低血糖をもたらし,死亡リスク増加と関連しており,特に敗血症のような血液分布異常性ショックによる死亡で最も強い関連があると報告した(N Engl J Med 2012; 367: 1108-18).もう1報は,ICUに入室した敗血症患者で,軽度低血糖は病院死亡,1年死亡,ICU獲得合併症発生のリスクと有意に関連していると報告した(Crit Care 2012; 16: R189)

 さらに,2010年に,ステロイド投与を要する敗血症患者においてIIT群と通常血糖管理群(150mg/dL以下)を比較したRCTであるCOIITSS trial(JAMA 2010; 303: 341-8)が報告され,IITが院内死亡率を有意ではないが3.0%上昇させた(45.9% vs 42.9%).

 メタ解析は2報(CMAJ 2009; 180: 821-7,Crit Care 2010; 14: 324)あり,いずれにおいてもIITの死亡率低下効果は示されなかった.以上から,NICE-SUGAR trialが最も強いエビデンスとして提示され,血糖コントロールは180mg/dL以下に設定された(下限は設けられていない).
2.血糖値とインスリン投与量が安定するまでは1-2時間毎に血糖値をモニタリングし,その後は4時間毎に測定することを推奨する(Grade 1C)
 本プロトコルはLeuven studyで使用され,その後の他のRCTにおいても行われている.なお,経口摂取や経腸栄養間歇投与が可能になった段階ではこのようなプロトコルを用いたtight glycemic controlは不要である.
3.毛細血管血を用いたベッドサイド簡易血糖測定は,動脈血や血漿の糖を正確には反映しないことがあり,解釈に注意が必要である(Ungraded)
 日本版敗血症診療ガイドラインにも記載されている内容である.グルコースの生体内活性はその血漿濃度に依存するため,血漿糖濃度に依存する.よって,重要なのは血漿糖濃度であり,中央検査室で測定された血糖値=血漿糖濃度がゴールデンスタンダードである(Diabet Med 1991; 8: 129-34,Clin Chem 2005; 51: 1573-6)

 赤血球中の水分濃度は血漿中の水分濃度より低いため,糖濃度は全血の方が血漿より低くなる(Clin Chem Lab Med 2006; 44: 1486-90).多くの簡易血糖測定値は全血の糖濃度を測定し,正常ヘマトクリット値(約40%)であると仮定し,血漿糖濃度を算出して表示する(Diabetes Care 2007; 3: 403-9,Arch Pathol Lab Med 2000; 124: 257-66).このため,ヘマトクリット低値が予想されるICUの敗血症患者では血糖値が高めに表示されてしまい,低血糖を見逃されるリスクもある(Crit Care Med 2008; 36: 3062-6).また,グルコースオキシダーゼを使用した簡易血糖測定の場合も血中酸素濃度が高くても低くても誤差が生じる(Diabetes Technol Ther 2000; 2: 349-62,Diabet Med 1994; 11: 506-9)

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→SSCG 2012(8)は近日アップ予定

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by drmagicianearl | 2013-03-06 17:52 | 敗血症 | Comments(0)

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