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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

Post-Intensive Care Syndrome(PICS)~Life after ICU~ (1)総論

Post-Intensive Care Syndrome(PICS)~Life after ICU~ (1)総論
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■PICS「ピックス」という言葉を聞いたことがあるだろうか?PICSはPost-Intensive Care Syndromeの略であり,一言で言えば「ICU患者の後遺症」である.「ICU退室後の慢性期の概念なのであれば救急・集中治療医は関係ない」と思われるかもしれない.しかし実際には,ICU在室中も深くかかわってくる,近年登場した重要な概念である.ここにPICSについて概説する.
※本ブログ管理人のPICSに関連したeconomic COIとして,Pfizer株式会社より講演料,丸石製薬,日本静脈経腸栄養学会より原稿料を受け取っている.また,Academic COIとして日本集中治療医学会/日本救急医学会による日本版敗血症診療ガイドライン改訂特別委員会(PICS/ICUAWワーキンググループ),日本集中治療医学会による早期リハビリテーション検討委員会の集中治療における早期リハビリテーション~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~(ICUAWワーキンググループ)に所属している.

1.ICU患者のアウトカムをどうとらえるか?

■以下に2つの症例を提示する.
症例1.80歳女性.ADL自立,認知症なし,糖尿病既往.急性腎盂腎炎による敗血症性ショックでICUに入院,APACHE II score 30点,SOFA score 12点.28日後も生存.

症例2.80歳女性.ADL自立,認知症なし,糖尿病既往.急性腎盂腎炎による敗血症性ショックでICUに入院,APACHE II score 30点,SOFA score 12点.28日後も生存.
この2つの症例は1字1句まったく同じであり,いずれも治療によって28日間生存している.次に各症例の2年後はどうなっているだろうか?
症例1.車椅子生活となり,認知症が進行し,ADL低下による誤嚥性肺炎の入退院を繰り返し,心不全を併発して死亡.

症例2.杖歩行ではあるが外出も可能.認知症はごく軽度で,来週家族と旅行に行く.
この2つの症例は何が違ったのか?年齢,背景,既往,疾患,重症度すべて同じにもかかわらず,2年後にこのような違いがなぜでてくるのであろうか?

■集中治療の進歩により敗血症の予後は大きく改善し,集中治療は次なる目標に舵を切り始めている.近年,ICU患者の死亡率は28日死亡率だけでなく90日死亡率でも評価している報告が多い.これは,28日死亡率はプライマリアウトカムとしては妥当でない可能性が指摘されており[1],退院後もQOLの障害は続き,これが死亡率に影響を与える可能性がある.実際に,初期治療が不十分なケースや臓器不全を残したケースにおいては28日以上生存することも珍しくはなく,90日という期間で見れば28日死亡率より悪化しうることはよく知られている事実である.また,退院後でも後遺症が発端となって状態が悪化して再入院,死亡に至るケースなどもある.このことから,より長期的な患者状態の評価をアウトカムとする流れがでてきている.

2.長期的アウトカムに影響を与えるのは疾患そのものによる侵襲だけか?

■Nesselerら[2]はフランス単施設での敗血症性ショック96例の6ヶ月の長期予後を検討したところ,6ヶ月死亡率は45%であり,生存者は死亡者に比べて,有意に若く,乳酸値とSAPSⅡが低く,腎代替療法やステロイド使用頻度が少なく,入院期間が長い傾向があった.一方で,生存者でも6ヶ月後のQOLは低下していた.

■さらに,近年,敗血症をはじめとする,ICU退室後の生存者の長期的機能予後について非常に多数の観察研究が報告されるようになっている.例えば,ICUからの生存患者は長期的な認知機能や運動機能を悪化させる[3,4],PTSDの発生はレイプ,戦争の次にICU入院が多い[5,6],重症敗血症生存者は非重症敗血症患者と比較して1年間の福祉利用が増加する[7]など,ICU退室後の長期的な機能予後やQOLの低下を示唆する報告は多い.

■これらの長期的アウトカムの悪化について,「ICUに入室する患者は疾患そのものが重症なのだから,後遺症で長期的機能予後が悪化することは仕方がない.」とこれまで考えられてきたが,はたしてそうであろうか?ひとつの研究を紹介する.Givensら[8]は,米国の22の介護施設で認知症が進行した肺炎患者225例の前向き観察研究(CASCADE study)を行っており,登録された患者のうち,DNH希望(Do-not-hospitalized order;入院しない意思表示)が50.7%を占めていた.当然ながら,肺炎であることから抗菌薬を投与することで死亡リスクは80%減少し,DNHの意思表示は死亡リスクを2.21倍に有意に増加させた.一方,この研究はQOLも評価しており,人生最期のQOLを評価したEnd-of-Lifeスコアは抗菌薬投与や入院により著しく低下していたのである.このような身体機能が衰えだしたfrailtyの状態にある高齢患者は医療介入による影響が非常に大きい.すなわち,入院,医療行為もまた侵襲である.ICU患者においては医療介入による侵襲は非常に大きく,疾患そのものによる侵襲以外にも我々医療従事者が患者に与える侵襲の大きさを認識しなければならない.ICUとはいわば「Invasive Care Unit」とも言える.

■このように,集中治療の進歩によりICU生存退室患者は増えたが,同時に機能予後が悪い患者も増えてしまったのである.はたして,集中治療の最終ゴールは救命でよいのであろうか?

3.PICSという概念の提唱

■ここまで述べた通り,急性期は救命できても,長期的には死亡率上昇やQOLが低下しているという事実が無視できない状況であることが明らかにされてきた中で,2010年の米国集中治療医学会(SCCM;Society of Critical Care Medicine)の合同カンファレンスにおいて,ICU退室後の長期アウトカムを改善する指針が提示された[9].その中で,PICS(Post-Intensive Care Syndrome;直訳するならば集中治療後症候群)という概念が初めて提唱された.PICSの概念図を以下に示す.
※「集中治療後症候群」は2017年3月時点ではまだ正式な日本語名称としては認定されていませんので,使用する際はご注意ください.
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■PICSはICUで集中治療を受けた生存患者のみならず家族をも巻き込んでしまうこと,呼吸障害や神経筋障害などの身体的障害や認知機能障害のみならず精神的障害も生じうることを重要視している.救命のために不可避な治療行為の侵襲性は想像している以上に患者の長期予後に大きな影響を与えており,救命という短期予後改善の引き換えに医原性の長期予後悪化を伴うというジレンマが生じている.
※なお,用語の定義として,PICSはPost-ICU syndromeと言われる場合もあるが,PICSはICU在室中から生じうるため,この表現は適切ではない.

■ICU患者のPICSを踏まえた転帰の図を示す[10]
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■これまで,ICUで治療を受けたICU患者は救命か治療限界かの2択と考えられてきた.しかし,治療成績が向上し,多くのICU患者が救命されるようになってきた中で,ICU退室後に一般病棟に移ってそのまま軽快退院し,社会復帰するとは限らない患者,すなわちPICSに陥った患者も増加してきた.PICS患者には著しい機能低下により余生をどう過ごすかの判断が迫られる患者も存在し,慢性期のEnd-of-Lifeケアの対象となることがある.その一方で,リハビリテーションなどを積極的に行い,PICSから社会復帰を目指すこともできる.これまで救命のみを目指してきた救急・ICUの治療から脱却し,その先にある社会復帰を目指す上でPICSという概念は非常に重要である.

■現在,救急・集中治療分野において,PICSはEnd-of-Lifeと双璧をなす新たな課題となっているが,まだまだ質の高いエビデンスは少ない.Gaudryら[11]は2013年に報告された重症患者の112のRCTをスクリーニングしたところ,ハードアウトカム(死亡率,退院後のQOLと機能予後)を主要評価項目で報告していたのは27報(24%)であり,そのうち死亡率をアウトカムとしていたのが21報であり,機能予後とQOLはそれぞれ4報,2報しかなかった.598の副次評価項目でも,ハードアウトカムは133個(22%)にとどまり,死亡率が92個に対してQOLは20個,機能予後は21個であった.全体で見ても,ICU退室後のQOLや機能予後を評価していたRCTは11報(10%)に満たなかったとしている.

■また,2012年に発表された日本版重症敗血症診療ガイドラインもSSCG 2012やSSCG 2016にもPICSに関しては一切触れられていない.しかし,2017年に発表された日本版敗血症診療ガイドライン2016[12]においては,PICSは新たに大項目として追加されており,世界で初めてPICSをガイドラインで取り上げている(現時点では概説と早期リハビリテーション推奨に留まる).また,ガイドラインではないが,Global Sepsis Alliance(GSA;世界敗血症同盟)はWorld Sepsis Dayを通じて既に2014年からPICSを強調しており,GSA日本支部である日本集中治療医学会GSA委員会でもホームページを通じてPICSに関する情報を提供している[13]

4.PICSの原因となる医療介入と予防・治療

■長期アウトカムに影響を与える因子は数多くの報告があり,またそれらの因子に影響を与える因子も様々であるため,PICSの原因は非常に多岐にわたる.つきつめていけば,ほとんどすべての医療介入はPICSの原因となりうるのである.これらの医療介入側の原因を大きく3つに分けるならば,①検査・治療・ケア因子,②環境因子,③精神因子が挙げられる.詳細は各論で述べるが,大まかな内容を以下に示す.

■①検査・治療・ケア因子としては,各種薬剤の副作用,過剰輸液,血液浄化療法,挿管人工呼吸,各種カテーテル,各種血液製剤,体位変換,気道吸引,各種侵襲的検査などであり,ほぼすべてが何らかの侵襲を伴う.これらの対策で考えられるものとして,根拠の乏しい治療の回避,低侵襲治療,ABCDEバンドルを活用した人工呼吸器・ICU早期離脱,PADガイドラインを活用したせん妄予防,リハビリテーション,各種ルーチンの見直しなどが考えられる.

■②環境因子としては,アラーム音,光,閉塞空間,ICU環境菌による二次感染リスクなどがある.これらの対策としてICU環境整備,耳栓,音楽,アイマスク,接触感染予防の徹底などがある.

■③精神因子としては,不眠,ICU滞在による精神ストレス,自身の病状や社会的・経済的背景等に対する不安などがある.これらの対策として,患者や家族のメンタルケア,日記をつける,面会時間を見直す,などがある.

5.PICSの課題,エビデンスの注意点

■PICSへの適切な予防介入を行う以上はPICSそのもののリスク因子を知る必要があるが,様々な課題が山積している.

(1) 研究デザインのバイアス
■特定の医療介入が長期アウトカム悪化の原因となりうることを示唆する研究は多数存在するが,これらには注意が必要である.PICS関連を主要評価項目として検討したRCTは実はほとんど存在せず,観察コホート研究かRCT二次解析研究(多数の脱落例が生じる可能性あり)しかない.すなわち,質の低い研究結果にもとづいていることになる.これらの研究デザインでは種々の交絡因子の排除が困難であるがためにRCTと結果に乖離が生じうる[14]

■さらに,これらの研究では多変量解析を用いた研究が多いが,事後で組み込む変数を決定しているために恣意的バイアスがかかることになる.また,統計学的処理の限界により,重症患者に優先的に行われる医療介入が長期予後を悪化させるという偏った結果を招いてしまう懸念もある.

■近年,Propensity Score matching解析[15]により観察研究の質を高める手法もとられているが,解釈に注意を要する[16].この手法は,患者の背景因子をもとに,特定の治療介入が行われる確率(割り付け確率)を多重ロジスティック解析を用いて算出したスコア(Propensity Score:傾向スコア)を用いた解析であり,このスコアの近い患者同士(≒介入を受けるか否かがランダム)をマッチングしてペアを作ることで介入群と非介入群の背景をそろえることができる.ただし,できる限り多くの共変量を組み込まなければならないこと,マッチングの結果多くの症例が削ぎ落とされてしまうため母集団を反映するかどうかの妥当性が乏しくなりやすいこと(集中治療領域ではほとんどの研究が1/3~1/10まで削ぎ落とされている),マッチング後の患者背景がどちらかの群に偏ってしまうため観察研究のメリットであるリアルワールドの患者層と乖離が生じること,RCTに比してeffect sizeに乖離が生じる[17-20]ことなどの問題点がある.

(2) 先入観によるバイアス
■我々医療従事者は先入観によるバイアスが常にかかってくることがある.例えば「おそらく標準レベルよりもさらに強化された早期リハビリテーションはいいものだろう」もRCTで検証すると予後が悪化したという報告が近年でてきている[21,22].本邦ではRCTを行うことは難しいが,かといって観察研究のみで検証をすませてしまうと,このような逆効果などを見逃してしまう可能性がある.

(3) PICSをとりまく国・地域ごとの違い
■長期機能予後の評価に伴う多数の交絡因子の存在による信頼性の限界も存在する.そこには社会的要素もおおいに関与してくる可能性もあり,国や地域,患者の背景(医療福祉,宗教,文化,経済,社会,政治法律)にも左右されうる.このため,日本独自の長期予後の検討も必要である.しかしながら,長期予後の評価は追跡調査が必要なため非常に難しく,特にコホートシステムが乏しい本邦ではさらに困難となることが予想される.

■それを補助する手段としてDPC診療データの解析が目安になりうるが,DPC診療データは検査値などが含まれず,病名がアップコーディングされているケースもあるため,評価が難しい側面を有する.これらのことから長期予後の現状を把握するのは困難といえる.最良の評価方法はRCTということになるが,長期的に追跡しながらQOLを評価するアンケート調査を行うのは非常に難しい.現実的には大規模かつ質の高い前向きコホート研究に頼らざるを得ないと推察される.

(4) 治療ゴール設定
■PICSとなった患者が全員改善できるわけではない.医療の限界は必ず存在するため,そのような限界につきあたった患者においてはEnd-of-Lifeケアへの転換も必要である.いわゆる終末期とも言える状況の患者に栄養やリハビリテーションの積極的介入を行うことは合理的ではない.ICU患者においては,PICS予防・ケアによるQuality of LifeとEnd-of-LifeケアによるQuality of Deathを患者ごとに考える必要性がある.

(5) 代替アウトカムの解釈
■近年のPICSに関する報告や学会発表で多く見られるアウトカムは早期離床,せん妄,人工呼吸器装着期間,ICU在室日数,6分間歩行距離,ICUAWなどである.これらは確かにPICSを反映するのではないかと考えられているものではあるが,あくまでもPICSの短期代替アウトカムに過ぎない.PICSの真のアウトカムはPICS(退院後の各種機能予後)であり,そのような指標はある程度存在する.短期代替アウトカムはあくまでもICU介入しか反映せず,ICU退室後の切れ目ないケアがなければその効果は消える可能性もある.また,ICU退室後から退院後6ヶ月後,1年後といった長期機能予後評価には多数の交絡因子が関与しうるため,現時点では短期代替指標は確実にPICSを反映しうるものではないことに注意が必要である.

(6) その他
■その他の問題点として,PICSの実態を知るには日本はサーベランスシステムが脆弱であること,ICUでのリハビリテーションへの無理解(いまだにICUリハがレセプトで切られる地域が存在する),超高齢化社会における介入限界の問題,医療予算(診療報酬改訂)やソース(PT/OT/ST/施設)の確保が困難などがあげられる.

6.PICSの今後の展望

■今後行っていくこととして,まずPICSの実態を知るためのサーベランスシステムの構築である.そして,それらのデータからリスク因子等を抽出し,診断基準となるentry criteriaを設定しなければならない.その上でPICSへの予防・治療介入の厳密な研究を走らせる必要がある.

■現時点ではまだまだ定まっていないことだらけであるが,まずはPICSの周知が最優先であると米国集中治療医学会も考えているようである.同学会では様々な学会・団体を交え,2012年に2回目のステークホルダーカンファレンスを行った[23].そこでは,PICSの周知を進めること,ICU退室後も切れ目ないサポート体制を構築すること,そしてPICSの研究のための研究機関提携と資金確保の重要性が強調された.以下に今後行われるべきPICSの研究の分類を示す(2回目のカンファレンスより日本語に改変).
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■長期予後評価においてはQALYs[24]という概念がある.これはとりわけ薬剤経済学(Pharmacoeconomics)において重要視されている.QALYs(Quality Adjusted Life Years;質調整生存年)とは,生存年数とQOLを統合した指標である.すなわち,横軸に生存年数,縦軸にQOLを設定したときのKaplan-Meier曲線下面積がQALYsに相当する.現時点では目安となるような具体的数値目標設定は困難な状況にあるが,概念として知っておくとよいものである.

■今やPICSはEnd-of-Lifeと双璧をなす集中治療領域の新たな課題となっており,入院前から退院後までより幅広い視点での重症疾患のマネージメントが要求される時代に舵が切られている.PICSの患者は今後さらに増加することが予想されるが,PICSの予防を行うことが当たり前の時代が来ることを期待する.

→Post-Intensive Care Syndrome(PICS)~Life after ICU~ (2)各論:身体障害(4月上旬頃UP予定)

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by DrMagicianEARL | 2017-03-15 20:05 | 敗血症 | Comments(0)

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