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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

敗血症とプロカルシトニン(2)~プロカルシトニンガイド下抗菌薬治療~

3.プロカルシトニンガイド下抗菌薬治療
■前述のPCT(プロカルシトニン)の性質を利用し,PCTの値を評価して抗菌薬の治療開始のみならず終了まで決定するプロトコルの研究がなされるようになった.このようなPCTの使用法を行う上では,PCTの推移の性質も知っておく必要がある.

■Jensenら[1]はICU患者472例を対象とした多施設共同前向き観察研究を行い,1日のPCT値上昇≧1.0ng/mL,PCT最大値≧5.0ng/mLが90日全死亡に関連した予後予測因子であるとしており,その後JensenらはPASS trial[2]を行い,前日と比較してPCT値高値が遷延しているalart PCT(初回と2日目のPCTが≧1.0ng/mLで,前日と比較して減少が10%以内)の回数が多いことが予後不良因子となることも報告している.

■Karlssonら[3]は,ICUに入室した重症敗血症および敗血症性ショックの成人患者155例のPCT値を解析し,72時間でPCT値が50%以上減少した患者群の方が,減少が50%未満の患者群より有意に死亡率が低かったとしている.Charlesら[4]の敗血症によるICU患者180例の観察研究では,最初のPCT濃度は予後に影響を与えなかったが,3日後のPCT値は非生存者で有意に高かったと報告している.Azevedoら[5]は敗血症患者28例の前向き観察研究を行い,PCT初期濃度は生存群と死亡群で有意差はみられなかったが,24時間後PCTクリアランスは生存群が有意に高く,高いPCT濃度持続は死亡率増加に関連していると報告している.

■PCTの値には大きなばらつきがあり,敗血症においては1.0ng/mLを下回るケースもあれば100ng/mLを超えるものもあり,様々な治療因子もかかわってくるため,これらを一律にカットオフを定めて抗菌薬投与終了基準とすることは妥当ではないかもしれず,絶対値よりも変動を見た方が理にかなっているといえ,これは上記5報告が示す通りでもある.もう一つ注意すべきはもともとそれほどPCTが高くない場合の評価で,変動幅で評価するには測定誤差の因子が大きくなりやすい懸念があり,ある一定以上のPCT濃度がベースでなければ使用する意義は乏しいと推察される.

■PCTガイド下での抗菌薬治療について評価したメタ解析を以下にまとめた[6-14]
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■これらのメタ解析の結果を見るに,PCTガイドによる抗菌薬治療は,死亡率に影響を与えずに抗菌薬投与期間を2-3日間短縮する効果がある,ということが概観として分かる.PCTガイドのプロトコルは研究によって大きく異なる.以下では,敗血症でのPCTガイドによる抗菌薬投与終了のプロトコルについて,代表的なRCT等を紹介する.

■Bouadmaらは,PCT値が0.5ng/mL未満またはピーク値の80%を超える減少があれば抗菌薬を中止するとするプロトコルを用いて,フランス8施設のICU患者630例でのオープンラベル並行群間比較試験PRORATA trial[15]を行い,死亡率に影響を与えることなく,抗菌薬投与期間を2.7日有意に短縮させた.同様のプロトコルを用いて,Stolzらは人工呼吸器関連肺炎患者を対象として,米国とスイスの7施設101例のオープンラベルRCTであるProVAP trial[16]を行い,抗菌薬投与日数を3.5日有意に短縮させた.

■Hochreiterらは,外科系ICUにおいて細菌感染症が疑われたSIRS患者に対して,全身状態の改善とPCT<1ng/mLまたは初回値の25-35%まで低下したら投与中止とするプロトコルを用いて,単施設で110例でのRCT[17]を行い,抗菌薬治療期間を有意に短縮した(5.9±1.7日vs7.9±0.5日,p<0.001)と報告している.これと同様のプロトコルを用いて,Schoederらは,外科系ICUの重症敗血症患者を対象として単施設で27例でのRCT[18]を行い,拘禁薬治療期間を有意に短縮した(6.6±1.1日vs8.3±0.7日,p<0.001)と報告している.

■Nobreらは,重症敗血症,敗血症性ショックの患者を対象として,①PCTの初期値が>1ng/mLであれば,PCT<0.25ng/mLまで低下または90%以上低下していれば,Day 5以降という条件付きで抗菌薬投与を終了する,②PCTの初期値が<1ng/mLであれば,<0.1ng/mLまで低下していれば,Day 3以降という条件付きで抗菌薬投与を終了する,というプロトコルを用いてスイスの単施設で79例のオープンラベルRCT[19]を行った.PCT群は対照群と比較して治療期間中央値が3.5日短縮していた(ITT n=79,p=0.15).per-protocol解析では,PCT群が抗菌薬投与期間が4日間有意に短縮し,(per-protocol n=68, p=0.003)抗菌薬投与量も有意に減少した(p=0.0002).死亡率,再発率は両群間に有意差はみられなかった.また,PCT群は対照群よりICU滞在日数が2日間有意に短縮した(p=0.03).この報告での抗菌薬終了のKaplan-Meier曲線を見るに,重症敗血症,敗血症性ショックでも抗菌薬投与期間が5日間ですむ症例が非常に多いことがよく分かる.

■一方で,最も新しいRCTではPCTガイド下抗菌薬治療プロトコルに否定的な結果がでている.Layiosらは,ICU患者を対象として,全例でPCTを計測するが,PCT値を用いて抗菌薬治療を行う群と,PCT値をブラインド化して抗菌薬治療を行う群を比較した509例のベルギー単施設共同RCT[20]を行った.この報告では,治療日数割合に有意差はないが,PCT群の方がより長い傾向がみられた.また,この研究では,感染症診断の正確さについても検討しており,感染症がないと確定した症例の中でPCT値が1ng/mL未満であるのは33.8%に過ぎず,感染症が確定した症例でPCT値が0.25ng/mL未満であるのが14.9%も存在し,ICU医師と感染症専門医との間で診断能の格差を埋めるのにPCTは有用ではないとしている.

■PCTガイドによる抗菌薬の変更を検討した研究もある.Jensenらは,ICU滞在48時間以上の患者1200例において,毎日PCT値を測定して,前日と比較してPCT値高値が遷延しているalart PCT(初回と2日目のPCTが≧1.0ng/mLで,前日と比較して減少が10%以内)を認めた場合に抗菌薬のスペクトルをより広域に変更する(escalation)プロトコルを検証した9施設共同オープンラベルRCTであるPASS trial[2]を行った.この研究はPCTガイドによる抗菌薬治療が予後を改善するという仮説の検証研究であったが,結果は死亡率に有意差なく(31.5%vs32.0%),人工呼吸の割合やICU滞在日数はPCT群でより延長する結果となった.さらに,PCT群で腎機能の有意な悪化が示されている.この研究では,PCTの感染に対する感度が59.3%と低値であったこと,TAZ/PIPCやCPFXの投与が増加したことによる副作用などが問題点として指摘されており,この研究で用いられたPCTガイド下抗菌薬投与プロトコルは推奨されない.

■敗血症患者をtargetにしたPCTガイド下抗菌薬治療プロトコルとしては,対象,N数や質,プロトコルの安全性の観点からNobreらの報告[19]が最も妥当ではないかと推察される.問題は,PCTを毎日計測することは本邦の実臨床では現実的ではないということであろう.都道府県にもよるが,3回以上の計測は通らない可能性がある.そこで,1つの目安として,初日と5日目の2ポイントのPCTを計測し,Nobreらのアルゴリズムに適応させれば,かなりの症例で5日目で抗菌薬投与を終了できると思われる.一方,終了基準を満たさず,6日目以降も必要となる症例においては,新たにアルゴリズムを追加する必要があるだろう.

■Surviving Sepsis Campaign Guideline 2012[21]では,「敗血症と診断したが,その後感染の根拠が認められない患者においては,プロカルシトニンや同様のバイオマーカーが低値であることを経験的治療の中止するために使用してもよい(Grade 2C)」という推奨となっている.この根拠として2つのメタ解析[12,22]が挙げられているが,同時に限界と潜在的有害性の懸念が残るとしている.さらに,この抗菌薬中止戦略が耐性菌リスクやClostridium difficileによる抗菌薬関連下痢症のリスクを減じるとしたエビデンスはない.日本版敗血症診療ガイドラインに[23]おいても「抗菌薬中止にはプロカルシトニンを考慮してもよい(2A).」という推奨となっている.

※PCTの絶対値のみをみるのではなく,推移を追うことで治療介入を少なくできるのであれば,これは他の薬剤でも同様のことが言えるのではないかと私は考えている.そのひとつとして,播種性血管内凝固(DIC)の治療期間がある(治療有無そのものに議論があるところではあるが別の話になるためここではおいておく).多くの施設ではDIC治療終了の目安を急性期DIC診断基準スコア3点以下としている.当院では,原疾患治療がなされていることを前提として,複数の指標を設定し,これらの指標すべてが改善傾向を示した時点でDIC治療を終了するとする終了基準を設けて重症敗血症・敗血症性ショック例に導入した結果,急性期DIC診断基準スコア3点以下で投与を終了するよりも1.6日有意に投与期間を短縮しており,投与期間は4日間以内でよい症例がほとんどであった(第17回大阪DIC研究会一般演題,2013年6月).初期治療を適格に行って全身炎症を制御してSIRSやCARSを抑えることができていれば患者自身の生理的制御範囲となり,治療介入は不要となる可能性がある.近年の敗血症治療の考え方からすれば,治療により敗血症病態から患者の恒常性維持可能な状態に制御することが理想であり,その状態になれば余計な侵襲を回避してPost-Intensive Care Syndrome(PICS)のリスクやコストを減じることができるかもしれない.

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by DrMagicianEARL | 2013-07-11 21:08 | 敗血症 | Comments(0)

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