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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

講演会概要(2013年7月27日,集中治療友の会)(1)

2013年7月27日に名古屋キャッスルプラザにおいて旭化成ファーマ主催の集中治療友の会が開催され,主に若手ドクター向けで1時間ほど講演させていただきました.以下はその概要です(3~4回に分けてアップします).なお,現在進行中の研究データも当日は一部お披露目させていただきましたが,ここでは割愛させていただきます.

『敗血症から集中治療を臨む』

1.敗血症と炎症凝固
■敗血症は集中治療領域で扱う疾患において王道ともいえる重症疾患である.この敗血症を重症感染症としてだけでとらえるのではなく,全身性の炎症凝固病態としてとらえることで他の重症疾患と共通の病態生理の理解につながるものと考える.そこで今回,敗血症を通して集中治療の世界を紹介していく.

■「Sepsis is Infection-induced SIRS.(敗血症は感染によって生じたSIRS)」であり,「SIRS is inflammatory cytokine amok.(SIRSは炎症性サイトカインの嵐)」である.よって,敗血症の本態は炎症性サイトカインの嵐ということになる.SIRSとは全身性炎症反応症候群(Systemic Inflammatory Response Syndrome)の略であり,1992年にACCP/SCCMの合同会議で提唱された[1].SIRSの診断基準は,①体温<36.0℃ or >38.0℃,②脈拍>90/min,③呼吸数>20/min or PaCO2<32mmHg,④WBC<4000/mcL or >12000/mcL or Band>10%の4項目のうち,2項目以上を満たせば診断され,これが感染症に起因するものであれば敗血症と診断する.

■よく勘違いされるのが菌血症であり,敗血症と混同される.菌血症は敗血症の必要条件でもなければ十分条件でもない.菌血症の本態は血液中の菌であり,敗血症の本態は炎症性サイトカインをはじめとする各種メディエーターである.一例として,毒性の強い緑膿菌をウサギに直接静脈内に投与して菌血症を起こしても簡単にはショックにならないが,より少ない数の毒性の強い緑膿菌を肺ないに投与するといとも簡単にショック状態に陥ったとする動物実験が報告されている[2]

■サイトカインをはじめとするメディエーターには様々なものがあるが,病原体由来のものと宿主由来のものに分類される.病原体由来のものはPAMPs(pathogen-associated molecular patterns)と呼ばれ[3],LPS(endotoxin),Lipoteichoic acid,Triacyl lipopeptide,Peptideglycan,Lipoprotein,dsRNA,Flagellin,Diacyl lipopeptide,ssRNA,Unmethylated CpG DNA,Uropathogenic E.coliなどがある.一方,宿主由来のメディエーターはAlarminsと呼ばれており[3,4],これは以前までDAMPs(danger-associated molecular patterns)と呼ばれていたものである.AlarminsにはNecrotic tissue, Heat Shockl Proteins,Fibrinogen,Surfactant protein A,HMGB-1,Neutrophil elastase,S100s,IL-1a,Uric acid,Annexins,Fibronectinなどがある.そして,このPAMPsとAlarminsの両方をあわせた総称がDAMPs(damage-associated molecular patterns)と呼ばれる[3,5].なお,各種学会・講演会・研究会や医学雑誌を見ていると,いまだにAlarminsがDAMPsと記されていたり,AlarminsとしてのDAMPsがdamage-associated molecular patternsと誤って記されていたりするため注意が必要である.

■従来は,ある受容体はリガンドとしてある特定の病因物質(敗血症の場合には病原微生物)を認識して細胞内シグナルを誘発し,サイトカインの産生に結びつくと考えられていた.PAMPsやalarminなどのある種の普遍的で共通の立体構造を感知するmulti-ligand receptorの存在が解明された.これはPRRs(pattern-recognition receptors)と呼ばれ[6],この発見は敗血症の病態生理のより正しい解明に大きな進歩をもたらした.すなわち,敗血症病態に関連した受容体はリガンドと1対1対応ではなく,ひとつの受容体で各種のPAMPs,alarminsをリガンドとして捉え,サイトカイン産生につながる細胞内シグナルを活性化する[7,8].PRRsにはToll-like receptor(TLR),RAGE(receptor of advanced glycation endproduct),PAR(Protease Activated Receptor)などがある.
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■敗血症は感染症とSIRSのoverlapした部分と理解されている.そして,その原因となる感染症の病原体として細菌,真菌,ウイルス,寄生虫があり,感染症からPAMPsが,SIRSからAlarminsが関与して敗血症が重症化していく.一方,SIRSは感染症のみで生じるものではなく,外傷,熱傷,急性膵炎,術後,その他さまざまな疾患で生じる.すなわち,あらゆる高度侵襲によってSIRSが生じており,SIRSを制御することが集中治療における共通点ともいえ,このSIRS病態と治療を理解することが重要となる.
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■サイトカインが放出するまでの過程であるが,まずPAMPsがTLR(Toll-Like Receptor)に認識され,そこから細胞内シグナル伝達を経て転写因子NF-κB(Nuclear Factor-κB),AP-1(Active Protein-1)などが活性化され,サイトカインIL-1β,TNF-αが放出される.このサイトカインもまた細胞の受容体に認識され,TAK1を介した同一の細胞内シグナル伝達を経てIL-1β,TNF-αをさらに産生させる.この機序によりサイトカインは増幅されていく.
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■SIRSから臓器不全にいたる過程として,Alart Cell(炎症警笛細胞)という考え方が理解しやすい.これは名古屋大学救急集中治療医学講座の松田直之教授が提唱している概念である[9].各組織に4-5個に1個存在するAlert CellがDAPMsを認識し,サイトカインと活性酸素種(ROS)を放出し,ROSによる刺激を受けた正常細胞はAlert Cellに変化することでAlert Cellが増加する.また,Alert Cellは転写因子AP-1活性化によりapoptosisを起こす.このようにしてAlert Cell化した細胞が次々とapoptosisを起こし,細胞分裂速度を上回り,臓器機能が保てなくなると臓器不全が出現する.

■一方,重症病態では凝固系も重要である.凝固障害からDIC(播種性血管内凝固症候群)に至る過程でよく説明されるのが,組織因子(TF:Tissue Factor)から始まりThrombin産生に至る凝固カスケード反応である.しかし,凝固カスケード反応からThrombinを介した反応だけでDICが生じるかについては疑問がもたれていた.そこで,発見されたのがhistone,HMGB-1(Human Mobility Group Box-1),NETs(Neutrophil Extracellular Trapping system)である.

■敗血症においては,病原体の侵入に対し,まず血小板が炎症増強作用を発揮し[10],血小板自身が細菌処理機能を有することが分かっている[11].血小板上のTLR-4でPAMPs(Pathogen-Associated Molecular Patterns)を認識した血小板は好中球に結合し[12],活性化血小板がP-selectinを放出して,好中球に貪食促進のみならず,核内から放出されるクロマチンやヒストンと細胞質成分を融合(decondensation)させて構成されるNETs(neutrophil extracellular trapping system)[13]と呼ばれる網の放出を促進し,このNETsが細菌をトラップする[14,15].NETs産生の結果,好中球は死に至るが,この細胞死の過程はnecrosisでもapoptosisでもない,NETosisという新たな細胞死の過程として注目されている[16,17].また,NETsに含まれるhistoneは血小板を凝集させる作用があり,NETsを足場として血小板血栓が形成される[18].さらにはNETsに含まれる好中球エラスターゼやカプテシンGは組織因子経路インヒビター(TFPI;tissue factor pathway inhibitor)を分解することによって血液凝固反応を促進し,さらなる血栓の成長を促す[19].これにより病原微生物の捕捉,血栓での局所封鎖により,病原微生物の全身播種を防ぐ.白血球と血小板の活性化においては上記の通り相互作用が存在する.そして同様の相互作用は白血球-血管内皮細胞,血小板-血管内皮細胞の間にも存在する.また,血液凝固反応の亢進はこれらの間に介在する要因として重要であり,これらのことから生体内凝固反応を“cell-based process of hemostasis”として捉えることの重要性が提唱されている[20]

■凝固は生体にとって有害と思われがちであるが,上記機序を見ても分かる通り実際には重要な生体防御機構である.すなわち,敗血症による微小血栓形成は,細菌播種を防ぐための局所封鎖だけが目的でなく,好中球NETsなどで侵入した細菌を積極的に処理することを目的ともしており[17],また,局所にて高濃度になったhistoneやHMGB-1などのメディエータが全身に播種することも血栓による局所封鎖で防ぎうる.すなわち,凝固は感染に対する生体防御の一環であり,この防御機構が過剰になった病態が敗血症性DICである.

■以上をまとめると,細菌感染が生じ,その菌量が増加すると炎症反応(inflammatory cytokine),凝固反応(coagulation)が立ち上がる.ここまでは生体に保護的に働くが,これが進行すると,炎症過剰(inflammatory cytokine amok)と凝固障害(coagulopathy)に進展し,この2つの障害が相互連関(cross-talk)することで増幅してSIRSとDICに至るものが敗血症であり,さらに虚血進行,細胞のautophagy/apoptosis/necrosisが生じ,臓器不全に至る.この敗血症病態においての治療目標は生体に有害な状態から保護的な状態に戻すことである.高度侵襲で生じる全身性病態は恒常性(homeostasis)の破綻であり,恒常性を保てる状態に戻すことをゴールとすべきである.Suffrediniらは,炎症を消し去るのではなく,正常の炎症反応によって病原体が除去されていく過程を重要視するべきであるとするfuture directionを述べている[21]

■上記の敗血症における炎症と凝固の相互連関(cross-talk)が近年注目されている.炎症と凝固は重症化する車の両輪とされ[22],ここに重要な役割を果たすのがProtease-Activated Receptor(PAR)である.現在PARはPAR-1,2,3,4の4種類が発見されており[23-27],特にPAR-1は炎症凝固cross-talkの重要なkey receptorである[28].また,ThrombinはPAR-1,3,4のリガンドであり,Thrombinの制御が炎症凝固cross-talkのブロックに重要な役割をはたしうる.なお,antithrombin IIIやrecombinant thrombomodulineは,このThrombinに結合して効果を発揮するDIC治療薬である.

[1] ACCP/SCCM : Definitons for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med 1992; 20: 864-74
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→2.敗血症の治療
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by DrMagicianEARL | 2013-07-30 19:16 | 敗血症 | Comments(0)

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