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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(2) ~PMX-DHPは敗血症の予後を改善しうるか?~

2011年10月25日作成
2013年9月4日改訂


2.エンドトキシン吸着カラムPMX-DHPは敗血症の予後を改善しうるか?
Summary
・エンドトキシン吸着カラム(PMX-DHP)は日本発の血液吸着療法であり,敗血症に適応がある.
・EUPHAS studyを含め,現時点でPMX-DHPが敗血症の死亡率を改善するとするRCTレベルのエビデンスはなく,血圧上昇効果についてもエビデンスは明確ではない.
・腹部手術を要する敗血症患者においては有用な可能性があるかもしれない.
・活性化好中球吸着が予後を改善しうる根拠は不明確である.
・PMX-DHPがHMGB-1を吸着するか否かは両方の結果が報告されており,現時点では定まっていない.
・現在,フランスのABDO-MIX,米国・カナダのEUPHRATESSがPMX-DHPを評価するRCTとして施行されている.
■近年,重症敗血症治療において日本発のエンドトキシン吸着カラムPMX-DHP(polymyxin B-immobilized fiber column-direct hemoperfusion)が注目され,グラム陰性菌感染症において頻用されるようになってきている.抗菌薬であるポリミキシンBはエンドトキシンと結合する性質をもっており,PMXを吸着体として直接血液灌流(direct hemoperfusion:DHP)させることによりエンドトキシンを吸着させるものである.本邦では1994年に保険適応となり,臨床応用されて世界に発信されている治療法である.

■PMX-DHPが保険適応となった根拠は小玉らの臨床治験結果[16]が根拠となっている.この研究では,重症敗血症42例に対し計61回のPMX-DHPが施行され,血中エンドトキシン濃度の有意な低下,収縮期血圧の有意な上昇がみられた.しかしながら,症例数の少なさ,pre-post testであることから,根拠としては乏しい.

■その後,本邦において数多くの報告がなされてきたが,その多くが症例集積研究であり,対照群をもたないものであった.これは,保険適応されたために逆に倫理的な面から保険適応疾患に対してPMX-DHPを施行しないという選択肢の根拠が得られないからである.このため,PMX-DHPの効果に対する検証は海外での研究に頼るしかなかった.

■2005年にVincentら[17]はpilot-controlled studyにて,グラム陰性桿菌が原因と考えられる腹腔内感染症が原因の重症敗血症患者36例を無作為に2時間のPMX-DHP群と標準治療群に割り付けて比較したところ,両群間のエンドトキシン値やIL-6レベルの推移や死亡率に有意差は認めなかった.

■また,Cruzらは2007年にPMX-DHPに対する28報の英語論文によるシステマティックレビューを行い[18],その結果,PMX-DHPの施行で平均血圧の上昇(19mmHg),ドパミン使用量の低下,P/F比の改善および転帰の改善効果(死亡率53%低下)が示されている.ただし,このシステマティックレビューはほとんどが本邦での研究であり,また,本邦から報告された8編のRCTのうち7編は同一研究者のもので,同一年に2編のRCTが報告されたことが3回もあり,症例のクロスオーバーやdouble publicationの可能性が否定できないなど問題点がある.2013年にZhouらは,敗血症における血液浄化の16報のメタ解析を報告し[19],これにおいてもPMX-DHPの死亡リスク減少効果が示唆されたが,同様の問題点をかかえている.よって,バイアスを極力除外した大規模なRCTが必要である.

■PMX-DHPを評価した唯一の大規模RCTはEUPHAS(Early Use of Polymixin B Hemoperfusion in Abdominal Septic Shock) studyである[20].イタリアの10施設で行われた前向き多施設RCTであり,腹腔内感染由来の重症敗血症,敗血症性ショックの64例を対象とし,緊急手術後6時間以内にPMX-DHP施行群と標準治療群に無作為に割付し,割付から24時間以内にPMX-DHPを2時間施行し,さらに24時間以内に2回目のPMX-DHPを施行している.このstudyでは臨床的予後の改善に有効であると結論づけている.

■しかしながら,本研究にはさまざまな問題点が指摘されている.1つは64例の時点で死亡率が有意にPMX-DHP群で低いとの判断で試験が早期終了となっている点である[21].有用性をもって早期終了した臨床試験の効果は誇張されていることがあり,早期終了した試験は効果のない治療で30%の相対リスクの低下を示し,真に20%の相対リスク低下効果のある治療では40%以上の低下を示すとされている[22].ましてや有意差がでたのは生存期間に関する比例ハザード分析結果によるものであり,あまり前例がない.

■また,EUPHAS studyを掲載したJAMA誌にはこの論文に対して3 編のletter to the editorが掲載されている[23-25].まずVincentはcontrol群とPMX-DHP群が各々34例と30例を集積してあるこの治験でそもそも救命率に統計学的に有意の差はないとしている.Amaralらも同様に統計学的手法に懸念を表明している.確かに本研究では死亡関係のアウトカムでは,院内死亡率(41% vs 67%, p値記載ないが計算上は0.049),比例ハザード分析による生存期間は有意に改善しているが,これらは一次・二次評価項目のいずれにも含まれていない.二次評価項目に28日死亡率が含まれているが,32% vs 53%(p=0.13)であり,有意差はない.よって,この報告をもって予後改善が示されたとは言えないであろう.またKidaらは両群間における起炎菌の分布に関しても懸念を示している.

■これらの中で特にVincentの意見はこの死亡率改善の有効性を真っ向からから否定するものであり,Vincent自身がPMX-DHPの重症敗血症に対する有効性に関してpilot studyを行い,positiveな結果を出しているだけにその指摘の重みは大きい.

■また,腹部由来敗血症で対照群における救命率が50%以下というのは,治療法の如何に拘わらず考えられない低さである.EUPHAS studyのPMX-DHP群の救命率はPMX-DHPを用いないでも達成できるごくありふれた救命率であり,有意の差が出たのはただ単に対照群の救命率が異常に低かったからであると推察される.また,EUPHAS studyの対象は,重症敗血症/敗血症性ショックの中でも感染巣を比較的コントロールしやすく,それ故救命率も良好な腹部敗血症であり,その結果を敗血症全体に安易に一般化はできない.

■イタリアではPMX-DHPがグラム陰性菌敗血症で発症する急性腎不全に対する抑制効果があることをRCTで示した[26].その結果,PMX-DHP施行患者はapoptosis誘導因子を低下させることで腎上皮細胞のapoptosisを低下させるとともに,糸球体透過性にかかわる蛋白であるcaspase-3,8,9の発現を回復させることで糸球体透過性を回復させることがin vitroの評価で示されている.この結果から,PMX-DHPは腎損傷の早期予防に効果を発揮する可能性がある.

■PMX-DHPで血圧が上がると臨床経験でよく言われているが本当であろうか?PMX-DHPによって血圧が上昇する機序としては,エンドトキシンが関与しないグラム陽性菌感染症でも血圧が上昇する報告があることから,エンドトキシン吸着ではなく,血管拡張作用をもつ内因性大麻と呼ばれる内因性カンナビノイド(単球/マクロファージから産生されるanandamide(ANA)と血小板から産生される2-arachidonyl glycerol(2-AG))を吸着する[27]ことによる効果が主体ではないかと考えられている.

■先のEUPHAS study[20]では一次評価項目はPMX-DHP施行前から施行72時間の平均血圧(MAP)および血管作動薬必要量の変化であり,確かに有意な改善は示されている.しかしこれは,PMX-DHP群が施行前後で有意な改善を示したというデータにとどまり,対照群では変化がなかったということだけでPMX-DHP群で血行動態が改善したと結論づけているに過ぎず,Amaral[24]が指摘する通り,治療前後の比較をもって有効性を結論づけることはできない.実際にAmaralらはPMX-DHP群と対照群のデータの直接比較を行うと,症例数が少ないことによる検出力不足はあるものの,有意差はなかったとしている.

■また,PMX-DHPは活性化好中球,MMP-9(matrix metalloproteinase-9)を吸着することも知られている[28].一般的に白血球活性化は敗血症の増悪因子と考えられているが[29],問題はその吸着が予後を改善しうるか否かである.Madoiwaら[30]は,好中球エラスターゼによりフィブリンが切断され,分子表面上に露呈する部位をE-XDPとして好中球エラスターゼ濃度のサロゲートマーカーとして計測したところ,E-XDPが正常より高いと予後は悪化するが,正常より低い場合ではさらに予後が悪化していた.また,好中球エラスターゼ阻害薬であるシベレスタットが180日死亡率をむしろ悪化させたとするSTRIVE study[31]の結果を見ても,活性化好中球への介入は必ずしも良好なアウトカムをもたらすわけではないことが考えられる.

■Kiguchiらは,EAAのマックスキャリブレーターの最大化学発光度(CImax:maximal chemiluminescent intensity)が敗血症患者の死亡を予測する有用なマーカーであると報告している[32].確かに,死亡予測としてのCI maxの精度は確かに高い(AUROC 0.902)が,気になるのは白血球数である.CI maxほどではないがかなり精度がよい(AUROC 0.802).これは,背景因子比較で生存群と非生存群で白血球数に大きく開きがあり(標準偏差域すら重なっていない),非生存群ではむしろ好中球減少傾向があったことを考えれば納得がいく.問題はCI maxへの白血球数の影響である.CI maxは検体内の白血球全体の活性化能を見ている.すなわち,「1個あたりの白血球の活性化能×白血球数」を見ていることになり,白血球数の影響は理論上は無視できず,白血球数が少ないことによるlimitationは本報告の考察でも触れられている(非生存者17例中10例は白血球数が4000未満).

■以上から,PMX-DHPが活性化好中球を吸着することで予後を改善しうるかについてはquestionableであると言わざるを得ない.

■PMX-DHPがHMGB-1(Human Mobility Group Box-1)を吸着しうるかについてはまだ結論が出ていない.PMX-DHP施行後にHMGB-1が低下するとする報告は散見されるが,直接吸着,二次性低下,原疾患治療の結果,のいずれであるかについては不明である.Abeらは,PMX-DHPを施行した20例の解析を行い[33],HMGB-1がカラム前後で濃度が低下していたと報告している.しかし,倭らは,カラム前後で濃度は変化せず,HMGB-1を吸着しないとしている[34].晩期メディエーターであるHMGB-1をもし吸着できないのであれば,PMX-DHPを晩期に施行しても予後が改善しないとする結果を説明しうる一因である可能性もある.

■重症例においては効果が得られにくいとする報告もある.秋吉らは,大腸穿孔症例において,POSSUM(Physiological and Operative Severity Score for the enUmeration of Mortality and morbidity)予測死亡率50-70%以上の症例にPMX-DHPは有効だが,予測死亡率70%以上の症例には有効でないとしている[35].松田らも,PMX-DHPは敗血症から敗血症性ショックへと移行するごく過程の極初期,かつ一部の症例のみに効果を発揮するとしている[36].Sawaらは,敗血症性ショック患者の後ろ向き研究において,PMX-DHP群30例とバソプレシン群30例をマッチングさせた解析を行っており[37],90日生存率はバソプレシン群が有意に高かった(83% vs 53%, p=0.008)としている.PMX-DHP群に限定したサブ解析では,消化管手術を受けた患者が受けなかった患者より生存率が有意に高かった(76.9% vs 52.9%, p=0.01).

■PMX-DHPはその手法から,高度侵襲を伴う医療介入行為の1つでもある.PICS(Post-Intensive Care Syndrome)[38]に与える影響はいまだもって不明であるが,長期的予後を悪化させる可能性は否定できず,予後改善エビデンスが不十分な状態での安易な適応はすべきではない.

■以上より,PMX-DHPは,特に腹部手術を要した敗血症患者に対して,何らかの効果は示唆されるものの,生存率を改善するにまでは至っていない.日本オリジナルである,PMX-DHPがSSCGの再改訂版において推奨されることが待望されてはいるものの,エビデンスは現時点ではあまりにも不十分である.PAMPsの概念,PICSをふまえると,その推奨度は決して高いものではないかもしれない.しかし,腹部手術を要した,グラム陰性菌による敗血症が強く疑われるならば早期からの使用は考慮してもよいかもしれない.

■現在観察研究であるEUPHAS 2 projectがイタリアで進行中[39]であり,また,2つの大規模RCTが進行中(フランスでABDO-MIX[40],アメリカがEUPHRATES trial[41])であり,その結果を待つことになる.ABDO-MIXは腹部手術を要する腹膜炎を合併した敗血症性ショック患者を対象とし,標準治療+PMX-DHP群と標準治療群を比較したフランス18施設共同RCTであり,一次評価項目は28日死亡率である.現在試験は終了し,解析が開始されており,早ければ2013年内には結果が公表されるとのことである.EUPHRATES trialは,エンドトキシン血症(EA値≧0.6)を伴う敗血症性ショック患者を対象とし,標準治療+PMX-DHP群と標準治療群を比較した米国・カナダ42施設共同二重盲検RCTであるが,EA値を高めに設定したためか症例数がなかなか集められない状況にある.

※人づてのうわさではあるが,どうやらABDO-MIXはポジティブな結果が出そうとのことである.

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[41] http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01046669

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by DrMagicianEARL | 2013-09-04 00:00 | 敗血症 | Comments(0)

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