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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献】DICを合併した敗血症性ショックに対するPMX-DHPとrTMの併用効果

DIC治療薬recombinant thrombomodulin(商品名:リコモジュリン)とエンドトキシン吸着カラムPMX-DHP(商品名:トレミキシン)についての報告を紹介します.なお,abstractに原文からの情報をやや補足しています.
DICを合併した敗血症性ショックに対するPMX-DHPとリコンビナント・トロンボモデュリンの併用効果:歴史的対照研究
Yamato M, Minematsu Y, Fujii J, et al. Effective combination therapy of polymyxin-B direct hemoperfusion and recombinant thrombomodulin for septic shock accompanied by disseminated intravascular coagulation: a historical controlled trial. Ther Apher Dial 2013; 17: 472-6
PMID:24107274

Abstract
【背 景】
播種性血管内凝固(DIC)と多臓器不全は,High Mobility Group Box-1(HMGB-1)に調整された炎症凝固クロストークによってしばしば生じる.敗血症性ショックにおいては,polymyxin-B direct hemoperfusion(PMX-DHP)は内因性カンナビノイドを吸着することで循環動態を改善し,活性化単核球の吸着により間接的にサイトカインを減少して肺酸素化能を改善する.しかし,PMX-DHPは血漿中を循環するHMGB-1への直接作用はない.DICにおいては,DICに有効な薬剤であるrecombinant thrombomodulin(rTM)が,直接的抗HMGB-1活性により抗凝固作用のみならず抗炎症効果をも発揮する.よって,PMX-DHPとrTMの併用は,DICにおいて多臓器不全にいたらしめるサイトカインストームの悪循環を遮断することが期待される.

【目 的】
本研究の目的は,DICが関連した敗血症性ショックでの併用療法の効果を検討することである.

【方 法】
本研究はPMX-DHPを施行された敗血症性DIC患者22例を連続的に登録した.最初の8例はrTM非投与(対照群),14例はrTMを投与された(rTM群).

【結 果】
背景のSequental Organ Failure Assessment(SOFA)スコアや年齢は両群間で有意差がなかった.
原文からの補足:背景因子の有意差検定はWilcoxon検定,Fisher正確検定を用いている.性別,P/F比,感染巣,培養でのグラム陽性・陰性,CHDF使用,ATⅢ製剤使用についても有意差ないが,P/F比はrTM群でやや低い傾向,肺炎はrTM群で多い傾向あり.PMX-DHP施行期間の中央値(四分位範囲)29.5時間(15.1-55.0)vs7.8時間(2.8-20.8).
rTM群の60日生存率は対照群よりも有意に高かった(85.7% vs 37.5%, p=0.015).
原文からの補足:生存率比較はlog-rank検定を用いている.

【結 論】
PMX-DHPとrTMの併用はDICを合併した敗血症性ショックにおいて有効な可能性があり,生存率の改善が期待される.

COI:執筆者に利益相反はない.
■国立行政法人大阪医療センター腎臓内科の倭先生の報告である.この報告については私も昨年講演会で聴講させていただき,自分の研究のヒントを得させていただいている.abstractで背景(緒言)の部分が非常に長い(半分以上!)というのも珍しいが,確かにここまで説明しないとなぜ併用療法を行ったか伝わらないかもしれない.abstractからは症例数22例の非無作為化小規模研究であること,NNT 2.1という成績であるが,対照群の死亡率が高い印象があること,単施設研究であること,APACHEⅡスコアが不明,などがlimitationと思われ,また,原文を見るにPMX-DHPの施行時間が両群間で異なっていることもlimitationに挙げられる.しかしながら,学問的には非常に興味深い併用メカニズムである.

■PMX-DHP,HMGB-1については本ブログでも特集として扱っているので参照されたい[1,2].本ブログでのPMX-DHPに対する見解のまとめは以下の通りである.
・EUPHAS studyを含め,現時点でPMX-DHPが敗血症の死亡率を改善するとするRCTレベルのエビデンスはなく,血圧上昇効果についてもエビデンスは明確ではない.
・腹部手術を要する敗血症患者においては有用な可能性があるかもしれない.
・活性化好中球吸着が予後を改善しうる根拠は不明確である.
・PMX-DHPがHMGB-1を吸着するか否かは両方の結果が報告されており,現時点では定まっていない.
・現在,フランスのABDO-MIX,米国・カナダのEUPHRATESSがPMX-DHPを評価するRCTとして施行されている.
■PMX-DHPとrTMの併用による直接作用のメリットとしては,PMX-DHPが活性化単核球を抑制し,内因性カンナビノイドを吸着するのに対し,rTMは抗DIC作用に加え,HMGB-1に対する直接的抑制作用がある.これらが相補的に作用し,臓器不全スパイラルを抑止しうるというのがこの報告の考察
である.

■abstractでは「PMX-DHPはHMGB-1に対する直接的作用はない」としている.実際に,Kobayashiらは,PMX-DHPをを敗血症性ショックに施行すると,生存群では翌日にHMGB-1がほとんど検出されなくなったが,死亡群ではむしろ上昇していたと報告しており[3,4],PMX-DHPだけではHMGB-1制御は不十分であるとしている.また,原文では触れられていないが,倭先生自身がPMX-DHPカラム前後でのHMGB-1濃度を測定し,HMGB-1の直接吸着作用がないことを報告している.その一方で,Abeらは,PMX-DHPを施行した20例の解析を行い[5],HMGB-1がカラム前後で濃度が低下していたとも報告している.この点についてはまだ決着がついていないという印象を私は持っている.

■PMX-DHPの施行時間はrTM群が対照群より有意に長く,これが生存率に影響している可能性もある.PMX-DHPの標準的施行時間は2時間であるが,これより長くするとP/F比が改善するとの報告があり[6],実際にrTM群では肺炎患者が多く(rTM群6例,対照群1例),P/F比も高いことから,この違いが影響した可能性はあるかもしれない.しかし考察では,生存群と死亡群とに分けると,PMX-DHPの施行時間に有意差はなかったとのことである.このため,PMX-DHPの施行時間の長さがrTM群と対照群の予後の違いに影響したとは考えにくいと締めくくっている.

■ところで,rTMの抗凝固作用は確立されているとして,抗炎症効果はどこまで期待できるのであろうか?rTMの抗炎症作用については現在4経路が判明しており,①プロテインCを活性化することによる抗炎症効果[7-10],②HMGB-1を直接制御することによる抗炎症効果[11-13],③エンドトキシン吸着作用による抗炎症効果[14],④ヒストンの直接吸着による抗炎症作用[15],がある.しかし,どの経路がどの程度抗炎症作用に寄与しているかは不明である.プロテインCを活性化する経路では,活性化プロテインCとトロンビンの結合体がprotease activated receptor-1に結合する必要があるが,これは細胞表面上で発現しているthrombomodulinとprotease activated receptor-1が近接していなければ効果が発揮しにくく,生体内に投与されて血中を流れるrTMがどこまで関与できるのかは不明確である.エンドトキシンに関してはグラム陰性菌に限られており,エンドトキシンに対する治療が敗血症の予後を改善するかについてはquestionableである[16].敗血症とHMGB-1の関与についても重症敗血症では重要だが敗血症性ショックでは重要でないとの報告もある[17].ヒストンに対するrTMの直接作用もまだ判明したばかりであり,エビデンスは乏しい.

■以上から,私見であるが,rTMの抗炎症作用は抗凝固作用ほどの信頼性がないのではないかと思われ,rTMと相補的な抗炎症作用を有する治療介入が炎症凝固クロストークを遮断すると考えられる.その相補的治療介入として何が最も好ましいか?PMX-DHPなのか,ステロイドなのか,スタチンなのか,あるいはマクロライドなのか?それとも新たな薬剤なのか?今後の基礎・臨床研究に期待すべきfuture directionと考える.

[1] DrMagicianEARL. 敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(2) ~PMX-DHPは敗血症の予後を改善しうるか?~. EARLの医学ノート 2013 Sep.4 http://drmagician.exblog.jp/20996440/
[2] DrMagicianEARL. 敗血症性DICの病態(2)~HMGB1とhistone,NETs~. EARLの医学ノート 2012 Sep.2 http://drmagician.exblog.jp/17005857/
[3] Kobayashi M. Effects of direct hemoperfusion with polymyxin B immobilized fiber (PMX-DHP) on septic multiple organ failure. J Abdomin Emerg Med 2007; 27: 45-9
[4] Kobayashi M. Effects of PMX-DHP treatment for patients with septic acute lung injury/acute respiratory distress syndrome. ICU &CCU 2009; 33: 119-25
[5] Abe S, Hayashi H, Seo Y, et al. Reduction in serum high mobility group box-1 level by polymyxin B-immobilized fiber column in patients with idiopathic pulmonary fibrosis with acute exacerbation. Blood Purif 2011; 32: 310-6
[6] Mitaka C, Tsuchida N, Kawada K, et al. A longer duration of polymyxin B-immobilized fiber column hemoperfusion improves pulmonary oxygenation in patients with septic shock. Shock 2009; 32: 478-83
[7] Macias WL, Yan SB, Williams MD, et al. New insights into the protein C pathway: potential implications for the biological activities of drotrecogin alfa (activated). Crit Care 2005; 9(Suppl. 4): S38-45
[8] Toltl LJ, Beaudin S, Liaw PC; Canadian Critical Care Translational Biology Group. Activated protein C up-regulates IL-10 and inhibits tissue factor in blood monocytes. J Immnol 2008; 181: 2165-73
[9] Xu J, Zhang X, Pelayo R, et al. Extracellular histones are major mediators of death in sepsis. Nat Med 2009; 15: 1318-21
[10] Danese S, Vetrano S, Zhang L, et al. he protein C pathway in tissue inflammation and injury: pathogenic role and therapeutic implications. Blood 2010; 115: 1121-30
[11] Abeyama K, Stern DM, Ito Y, et al. The N-terminal domain of thrombomodulin sequesters high-mobility group-B1 protein, a novel antiinflammatory mechanism. J Clin Invest 2005; 105: 1267-74
[12] Ito T, Kawahara K, Okamoto K, et al. Proteolytic cleavage of high mobility group box 1 protein by thrombin-thrombomodulin complexes. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2008; 28: 1825-30
[13] Hagiwara S, Iwasaka H, Goto K, et al. Recombinant thrombomodulin prevents heatstroke by inhibition of high-mobility group box 1 protein in sera of rats. Shock 2010; 34: 402-6
[14] Shi CS, Shi GY, Hsiao HM, et al. Lectin-like domain of thrombomodulin binds to its specific ligand Lewis Y antigen and neutralizes lipopolysaccharide-induced inflammatory response. Blood 2008; 112: 3661-70
[15] Nakahara M, Ito T, Kawahara K, et al. Recombinant Thrombomodulin Protects Mice against Histone-Induced Lethal Thromboembolism. PLoS One 2013; 8: e75961
[16] DrMagicianEARL. 敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(1) ~エンドトキシン計測は重要か?~ EARLの医学ノート 2013 Sep.2 http://drmagician.exblog.jp/16153340/
[17] Yang H, Ochani M, Li J, et al. Reversing established sepsis with antagonists of endogenous high-mobility group box 1. Proc Natl Acad Sci U S A 2004; 101: 296-301
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by DrMagicianEARL | 2013-11-01 19:37 | 敗血症 | Comments(0)

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