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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【雑感】人工呼吸を装着した重症患者と呼吸器内科

※今回は文献紹介でもエビデンスレビューでもありません.

■いつも楽しみに見ている日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)の内野先生のブログに先日こんな記事があった.
Dr内野のおすすめ文献紹介
無題。 2013年11月02日 | ひとりごと
http://blog.goo.ne.jp/druchino/e/cc85e263bfe4aa6c7bee2c687d0a575d
昨日、ICUに、別の病院の呼吸器内科医から電話がかかってきた。自分が見ている患者さんの人工呼吸器の設定について、教えてほしいと。(以下省略)
内容は記事を見ての通り.一言で言うと,「重症患者の人工呼吸管理は呼吸器内科医ではなく集中治療医が行うべきだ」.私自身も呼吸器内科医だが,別にこの記事で気分を害したわけではない.書いてあることは事実そのものなので.

■先日東京で開催された呼吸器内科医対象のフォーラムで座長の「人工呼吸器を要する場合は集中治療の先生に管理をお願いする」という内容に質疑応答で「集中治療の先生にお願いすると仰ったが,人工呼吸器を扱えなければ呼吸器内科ではない!」とかみついたかなりベテランの呼吸器内科の先生がおられた.これは違うと思う.人工呼吸器さえ扱えればその患者を治療できると考えるのは大間違いで,呼吸のみならず循環,感染,鎮痛鎮静,栄養代謝,神経筋などの全身管理ができることが前提.内野先生もそこをブログで指摘しておられる.

■でははたしてこの全身管理が可能な呼吸器内科医ははたして全国にどれくらいいるのか?さらに言えば本当にICUの花形と言われる人工呼吸器を真に扱える呼吸器内科医ははたしてどれくらいいるのか?おそらくかなり少ないと思われる.かく言う私も,肺癌や慢性疾患はほとんど扱わず,重症肺炎,敗血症性ショック,ARDSを主に診る急性期に特化した(日本では特殊な)呼吸器内科医ではあるが,集中治療医に指導された経験は一度もなく,当然ながら集中治療の資格も有さないし,教科書と文献を読みあさり,学会や研究会で得た知識・エビデンスをもとに治療を行ってはいるが,我流でしかないため,真に全身管理と人工呼吸器管理ができているかと問われると非常にあやしい.

■研修医時代からずっと救急医も集中治療医もいない今の病院に勤務しているが,呼吸器内科医になった3年目の頃は,「ARDSといえば呼吸器内科医の出番」と思ってきた.しかし,他の病院ではそういうわけではないということを知り始め,日本呼吸器学会と日本集中治療医学会に参加すると,「ARDSは集中治療医の出番」というのが現状なのだと思い知らされた.それでも当院には集中治療医がいないため,ARDSは主に呼吸器内科医が診ているし,全身管理もEBMにのっとって行っていて,「呼吸器内科医による人工呼吸患者の管理こそ醍醐味」と胸を張って言いたい部分はある.でも日本の一般的な呼吸器内科はそのような科ではないらしい.というのが,まだ医師になってたいした年数を経ていないながらにも痛感している.

■「肺が悪いのに,全身管理はおろか,人工呼吸器すら扱えない,と呼吸器内科医が他科に言われて悔しくないですか?さびしくないですか?」と他の呼吸器内科医に問うのはおそらく筋違いなんだろう(集中治療医に重症患者をまかせた方が予後がいいであろうことは事実なので).今の日本の呼吸器内科は肺癌と喘息とCOPDと間質性肺炎が主体であることは日本呼吸器学会総会のポスター演題の比率を見れば一目瞭然で,ARDSや肺炎の演題数は驚くほど少ない.高齢者肺炎にいたっては呼吸器内科があっても他の内科で分担して診る病院の方が多いくらいである.しかも,呼吸器内科医以外が肺炎治療にあたっても予後は悪化しないという文献すら存在する[1].肺疾患の急性期領域に呼吸器内科医の出番はもうほとんどないのかもしれない.呼吸器内科という専門性が活かされるのは主に慢性期疾患なのだろう.もっとも呼吸器内科医の数自体が少ないため,急性期にまで人員がさけない事情があると思われる.

■一方の米国では,呼吸器内科医は集中治療領域にも大勢かかわっている.その象徴が米国胸部疾患学会(ATS)であり,その機関誌American Journal Respiratory and Critical Care Medicine(いわゆるブルージャーナル)である.集中治療領域で最もインパクトファクターが高い雑誌はCritical Care MedicineでもIntensive Care MedicineでもCritical Careでもなく,この呼吸器と集中治療の組み合わせのブルージャーナルに他ならない.これは,集中治療領域をどの領域の医師が担ってきたかの歴史の違いである.日本は内科医ではなく麻酔科医と外科医によって担われてきた.このこともあって日本で呼吸器内科医がICUにはりついて治療を行うことは少ない.

■しかし,実際には集中治療医がすべての病院・ICUにいるわけではなく,集中治療医が足りてないという現実もある.日本集中治療医学会は集中治療医を増やして,各病院に配備できるようにしたいとの意向があるようだが,とても実現できるようには思えない,というのが正直な感想である.集中治療医がいるかいないかでICU死亡率,院内死亡率に統計学的有意差があることも2002年にも2013年にも示されており[2,3],「重症患者のあらゆる管理において十分な知識を持った人間しか重症患者管理を行う権利はない」は理想ではある,が現実はそうもいかず,集中治療医が増えるまで患者は待ってはくれない.この差を埋めるには集中治療医がいない病院の方も努力するしかなく,その解決の糸口をなんとかして探るべきだろう.今年の日本呼吸器学会総会学術集会では,集中治療医のいない病院で集学的RST(呼吸サポートチーム)を導入することで患者予後を改善したポスター演題が発表されていた.集中治療の敷居が高いままの膠着状態は解消すべきであり,段階的解決をはかる上でも,非集中治療医ではあるがsemi-intensivistのような医師を各科で養成する必要がある.

■当院では集中治療医がいない穴をできる限り埋めるべく,集中治療に特化した集学的回診・介入を行うチームである「集中治療サポートチーム(Intensive Care Support Team)」をまもなく導入する.栄養,抗菌薬についてはそれぞれに院内のNSTとICTがあるが,いずれも1-2週間に1回という頻度であり,急性期の重症患者のカバーとしては不十分であり,RSTは存在すらしていない(私が当院に入職する前はあったそうだが自然消滅した).第41回日本救急医学会総会学術集会では,栄養セッションにおいて,院内NSTとは独立した,毎日評価を行うICU-NSTの必要性が提示され,実際に複数の施設でICU-NST導入によるアウトカム改善が報告された.このようなケースはICU-NSTに限った話ではなく,ICT,RSTも同様に言えることだと思われる.そこで,NST,ICT,RSTを含む,ICU管理全般のサポートを行う集学的チームとしてのこのICSTを提案した.

■ICST導入の目的は,ICU患者全般に共通する管理項目についての評価・介入(主治医への提案)を行い,ICU管理に不慣れな主治医の治療をサポートし,ICUでの治療・ケアの質を改善することにある.期待されるアウトカムとしては,死亡率改善,薬剤有害事象減少,二次感染症減少,ICU入室期間短縮,入院期間短縮,コスト減少,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)減少などであり,また,介入による主治医の集中治療に関する知識の向上・意識変容や,チームに参加するコメディカルスタッフのモチベーションアップなどの副次的メリットも得られる可能性がある.チーム構成は医師(内科系1名,外科系1名),ICU看護師,管理栄養士,理学療法士,薬剤師,臨床検査技師,臨床工学技師となっている.

■ICSTの問題点として,チームに集中治療医がいない,すなわち集中治療のトレーニングを受けて資格を有する者がいないため,チームから主治医への介入にどれだけの妥当性が保証されるかである.この問題点ゆえにICSTの活動が院内の他の医師に理解が得られない可能性も高く,実際に院内敗血症診療プロトコルを作成導入したときにそのような現象は経験済みである(最終的にプロトコル遵守群と非遵守群での死亡率を比較したデータを院内で発表することでプロトコル遵守の周知徹底が会議で発令され,導入から2年間を経てようやく理解が得られた).この解消のためにはICSTの質そのものを上げる努力では不十分で,現状をデータとして院内に提示・共有し,ICSTの活動によって改善したアウトカムをはっきりと示す必要がある.集中治療医がいない病院ならではの苦悩があり,それを発信し,共有して解決策を考えていくこともまた必要だろう.

■日本の医療システムは医師の絶対数,科ごとの医師数の偏りなどの複雑な問題もあり,おそらく10年,20年という年月を経てもそう簡単には変わらないことはこれまでの医療を見ても容易に予想できる.ならば,集中治療医,呼吸器内科医,という専門の縛りを超えた,このシステム内で今できる限り可能な方策を見つけていく方が現実的かつ即効性がある.システムがなかなか変わらないと悲観するよりも,今可能なことを見つけて段階的に解決していく方が夢があるでのはないでしょうか?

[1] Komiya K, Kadota JI. C-reactive protein as a prognostic factor in elderly patients with aspiration pneumonia. Eur J Intern Med 2013 Jul 8
[2] Pronovost PJ, Angus DC, Dorman T, et al. Physician staffing patterns and clinical outcomes in critically ill patients: a systematic review. JAMA 2002; 288: 2151-62
[3] Wilcox ME, Chong CA, Niven DJ, et al. Do intensivist staffing patterns influence hospital mortality following ICU admission? A systematic review and meta-analyses. Crit Care Med 2013; 41: 2253-74
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by DrMagicianEARL | 2013-11-05 18:50 | Comments(2)
Commented by GBST at 2013-11-21 21:58 x
いつも勉強させて頂いています。
まさに、この中に記載いただいた、集中治療医のいない病院で集学的RST(呼吸サポートチーム)を導入することで患者予後を改善したポスター演題を発表したものです。

発表した際の座長も含めた質問があまりにあっさりとしており、同時に「勉強になりました」みたいなコメントが多く、集中治療、人工呼吸管理を勉強する機会って呼吸器内科をやっている中であまりないんだなぁと改めて感じた次第です。
こうやって取り上げて頂き、本当にうれしく思っています。

今、私は呼吸器内科を離れ、救急・集中治療で人工呼吸器に取り組んでいます。また、呼吸器内科に戻り、先生と同じように春から集中治療サポートチームを立ち上げるつもりです。

嬉しくて書き込みをしてしまいました。すみません。
Commented by DrMagicianEARL at 2013-11-25 20:39
GBST先生

コメントありがとうございます。まさかあのポスター演題を発表された先生にブログを御高覧いただいていたとは驚きでした。抄録でチェックはしていたのですが,当日はほぼ同じ時間に私もポスター演題を発表していたため先生の御発表が聞けずじまいでした。

呼吸器内科と救急集中治療を掛け持ちしている医師ってまだまだ少ない中で同じような先生がおられると非常に心強いです。先生の新たなチームでのエビデンスを心待ちにしております。

by DrMagicianEARL