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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

敗血症とせん妄(1) ~定義と評価,予後との関連~

敗血症とせん妄(1) ~病態と評価,予後との関連~
■非集中治療医がICU管理を行う際,いい加減にされがちなのが①栄養管理,②リハビリテーション,そして③不穏・せん妄管理であると思われる(自施設例).ICUのみならず一般的な医療ケアにおいて,不穏,せん妄に対してはきっちりとした指導を受けたこともなく,苦手意識もあってか,私自身が評価や鎮静薬調整を恥ずかしながら病棟看護師に任せていた研修医時代の過去がある.このような傾向は私以外の医師にも多く見られるようであるが,せん妄が予後に関連することが多くの報告で示されてきている以上,医師もせん妄評価・予防・対処についての知識を有しておく必要があり,「とりあえずアタラックスP®」「とりあえずリスパダール®」という盲目的対応しかできない状態から脱却する必要がある.そもそも,(たとえ抗菌薬を分かっていなくても,不適切でICTから指摘されていても)抗菌薬は自分で頑固に選択するのに,鎮静や栄養は他人任せ,というのはおかしな話.ということでかつて鎮静やせん妄対策をいい加減にしていた私自身への自戒の意味を込めてのまとめ.
Summary
・ICU環境そのものがせん妄要因であり,その発生率は想像している以上に多い可能性が高い.
・せん妄は活動性,非活動性,混合性に分けられ,活動性は2%に満たないため,見逃されやすい.
・国際ガイドラインでは,鎮静評価にRASS,SASが,せん妄評価にCAM-ICU,ICDSCが推奨されている.
・ICUのせん妄はICU在室日数,人工呼吸器装着期間,入院期間を延長させ,コストを増加し,ICU退室後あるいは退院後の認知機能,さらには死亡率にまで悪影響を与える.
・ICUのせん妄はPICS(Post-Intensive Care Syndrome)の要因である.
・敗血症患者では,病態そのものによる敗血症性脳症の症状としてせん妄が生じ,敗血症性脳症自体が予後不良因子である.

1.ICUせん妄とは
■せん妄(delirium)は,DSM-Ⅳ[1]において以下のように定義される.
1.注意を集中,維持,転導する能力の低下を伴った意識の障害.
2.認知の変化(記憶欠損,失見当識,言語の障害など),またはすでに進行し,確定され,または進行中の痴呆ではうまく説明されない知覚障害の出現.
3.短期間(通常,数時間から数日)のうちに出現し,1日のうちで変動する傾向がある.
4.病歴,身体診察,臨床検査所見から,その障害が一般身体疾患の直接的な生理学的結果により引き起こされている.
■ICUせん妄の発生要因はICU環境そのものの影響が大きいということは昔から指摘されていたが,一過性のものであり,患者の予後(QOL,死亡率)には影響しない,70歳以上の高齢者であっても一般病棟でのせん妄発生率は20%に満たない[2]とされていたこともあって,ICUせん妄に関する研究は非常に少なかった.

■Elyらは成人内科ICUに入室した48例(人工呼吸管理を受けた患者は24例)を対象とした前向きコホート研究を行っている[3].この報告では,せん妄はICU入室から平均2.6日(標準偏差1.7日)で発症し,せん妄の平均期間は3.4日間(標準偏差1.9日)であった.入院中のせん妄の発生率は81.3%(39例)であり,60.4%(29例)はICUで発生していた.せん妄の期間は,疾患の重症度,年齢,性別,人種,鎮静薬投与で調整後でもICU在室期間(r=0.65, p=0.0001),入院期間(p=0.006)と有意に関連していた.この結果はそれまでのICUせん妄に関する考え方を大きく変え,21世紀に入ってようやくICUせん妄が本格的に研究され始め,その後多数の報告がでてくるようになる.

■せん妄は患者が徘徊する,暴れる,興奮する等の活動的なイメージを持たれがちであるが,実際にはせん妄には活発型(活動過剰型)せん妄(hyperactive delirium, luod delirium)と不活発型(活動低下型)せん妄(hypoactive delirium, quiet delirium)があり(両者が混在するのは混合型せん妄mixed derilium),実は不活発型の方が圧倒的に多く(不活発型43.5-88.6%,混合型10.8-54.2%,不活発型0.7-1.6%)[4,5],そのためか適切な評価をしなければ多くのせん妄が見逃されてしまう.活発型せん妄は軽度・中等度の意識混濁に加え,錯覚,幻覚,妄想,精神運動興奮,不安などの情動変化を示し,RASS(Richmond Agitation Sedation Scale)で+1~+4の状態を表す.不活発型は意識混濁に加え,精神運動抑制を示し,RASSで0~-3の状態を表す.

2.ICUせん妄の評価
■せん妄評価については米国集中治療医学会からの改訂版ガイドラインである「成人ICU患者の疼痛,不穏,せん妄の管理に関する臨床ガイドライン」[6]に示されており,鎮静評価としてはRASSとSAS(Sedation Agitation Scale)が(エビデンスレベルB:moderate),せん妄評価としてはCAM-ICU(Confusion Assessment Method for the ICU)とICDSC(Intensive care Delirium Screening Checklist)が(エビデンスレベルA:high),最も妥当な評価ツールであることが示されている.特にRASSとCAM-ICUは連動して用いることができる.

■RASSはSesslerらが発表した鎮静スケールで,患者をざっと見ただけで判断するようなスケールではなく,いくつかのステップを経て判定する.この適切な判定法を行えば,異なる人間が評価しても再現性も高いスケールである.[7]
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■せん妄の評価ツールであるCAM-ICU[8]はこのRASSを用いた鎮静(意識)評価とせん妄評価の2ステップからなる.看護師へのCAM-ICUについてのアンケートでは非常に有用であるとして受け入れがよいが,その一方でCAM-ICUを用いても医師は評価してくれないという不満も持たれている[9]
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3.せん妄と予後の関連
■2001年のElyらの報告[3]に始まったICU患者のせん妄の研究はその後複数の観察研究によって,ICUのせん妄がICU在室日数,人工呼吸器装着期間,入院期間,コストにとどまらず,ICU退室後あるいは退院後の認知機能,さらには死亡率にまで影響を与えることが示されている[10]

■死亡率悪化を示した最初の報告は2004年のElyらの前向き観察研究の報告[11]であり,人工呼吸器管理中の患者224例をCAM-ICUを用いてせん妄判定を行い,予後を評価している.この報告では,せん妄患者で6ヶ月死亡リスクが有意に上昇することが示された(調整後HR 3.2, 95%CI 1.4-7.7).

■2010年のGottesmanらの冠動脈バイパス術後患者5034例の後ろ向き観察研究(せん妄定義は不明確)においても同様の結果(調整後HR 1.65, 95%CI 1.38-1.97)であった[12].また,この報告では,脳卒中の既往がある場合や,65歳未満である場合の方が死亡リスクが高いことも報告されている. Ouimetらは24時間以上ICUに入室した患者820例をICDSDを用いてせん妄評価した前向き観察研究を行い,ICU死亡率,院内死亡率がせん妄患者で高いことを報告している[13].Abelhaらは,術後ICU患者562例の前向き観察研究を行い,術後ICUせん妄は6ヶ月死亡リスクを2.562倍,院内死亡リスクを2.673倍増加させたと報告している[14]

■2009年にPisaniらは60歳以上の内科ICU患者304例を対象とした前向き観察研究を行い,せん妄期間と1年後の生存率に有意な負の関連性を認めたと報告している[15]

■ICU患者がICU退室,さらには入院後も長期にわたって身体機能,精神機能等を障害され,長期死亡率まで悪化することが知られており,かかる病態はPICS(Post-Intensive Care Syndrome)として認識されるようになった[16,17].このPICSの原因にはせん妄も含まれる.

4.敗血症と敗血症性脳症,せん妄
■敗血症はICU患者の疾患の1つであり,ICU環境や治療介入に伴うせん妄が生じるが,敗血症そのものでも敗血症性脳症としてせん妄を発症しうる.

■救急外来に搬送された敗血症患者に意識障害があるとき,他の要因がなければ,我々はこの意識障害を敗血症性脳症(septic encephalopathy)と判断するが,この敗血症性脳症はどのような状態であろうか.敗血症性脳症は,感染に起因したSIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome全身性炎症反応症候群)の結果生じたびまん性脳障害と考えられ,近年は敗血症関連脳症(sepsis-associated encephalopathy)と呼ばれる[18].また,国際疾病分類で,脳症がせん妄に取って代わったため,敗血症関連せん妄とも呼ばれる[19]

■敗血症性脳症は以下の機序が考えられている.
(1) 炎症性メディエータによる血管内皮細胞の活性化によって引き起こされた血液脳関門(BBB;blood-brain barrier)の崩壊[20]から各種メディエータや神経毒性因子,好中球,マクロファージの脳内侵入をきたすことによる脳内の炎症惹起[18]
(2) サイトカイン,活性酸素種,一酸化窒素による脳ミトコンドリア機能障害[21]とそこからのcaspaseカスケード活性化によるapoptosis[18]
(3) 蛋白異化亢進による分子鎖アミノ酸(BCAA)消費から芳香族アミノ酸(AAA)の相対的増加をきたし,Fisher比(BCAA/AAA)が低下[22,23].このためBCAAと競合的に脳内に取り込まれるAAAの脳内濃度が上昇し,神経伝達物質の生成や代謝に影響を与える.
(4) 脳血管の自動制御機能の障害[24,25]と脳血管内皮細胞の活性化による凝固異常から脳微小循環障害をきたす.
■敗血症性脳症は他の臓器障害よりも早期に起こりやすく,頻度は重症敗血症患者の9-71%とされている[19].この臨床症状としてせん妄が一般的である.前述の通り,ICU患者のせん妄は機能障害と関連しているが,当然ながら敗血症においても例外ではなく,認知・運動機能予後は悪化し,退院後も約半数が歩行に問題を感じているとされる[26,27].また,敗血症性脳症の死亡率は,脳症のない敗血症患者と比較すると約2倍高い[28],敗血症性脳症でGlasgow Coma Scale(GCS)3-8では死亡率は63%に上昇する[29],などが報告されている.

■敗血症性脳症の診断は原則除外診断となる.すなわち,中枢神経疾患,代謝性脳症(臓器障害,ん内分泌異常,低酸素,低血圧,水・電解質異常,酸塩基平衡障害),外因性障害(薬物,体温異常),精神疾患を除外する必要があるが,現実的には臨床の場でこれらを鑑別することは困難である.特徴としては,敗血症が改善しても遷延する脳障害があるが,ICU環境そのものがせん妄の要因となっていることから,敗血症によるものかを判断しにくい.実臨床で敗血症性脳症を診断できる検査も確立はされていない.

■ただし,炎症マーカーがせん妄の予測に関連することが知られており,低いMMP-9(matrix metalloproteinase-9),低いプロテインC,高い可溶性TNF受容体-1[30],高いCRP[31],高いプロカルシトニン[31,32],IL-8[33],トリプトファン,チロシン[34],フェニルアラニン[35]などがせん妄に関連するものとして報告されている.

→敗血症とせん妄(2) ~せん妄の予防と治療~(近日UP予定)

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by DrMagicianEARL | 2013-11-12 18:56 | 敗血症 | Comments(0)

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