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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

短時間作用型β1遮断薬ランジオロール(オノアクト®)の内科領域での効能追加承認

■短時間作用型β1アドレナリン受容体選択的遮断薬であるランジオロール(商品名オノアクト®)が11月22日に「心機能低下例における頻脈性不整脈(心房細動・心房粗動)」が効能追加承認され,これまで周術期のみの適応がはずれ,内科領域でも使用可能となった.申請の際の試験は2013年4月にCirculation Journalに掲載された以下に紹介するJ-Land studyである.
心房細動/粗動と左室機能障害を有する患者における頻拍の緊急管理:超短時間作用型β1選択的遮断薬ランジオロールとジゴキシンの比較(J-Land Study)
Nagai R, Kinugawa K, Inoue H, et al; J-Land Investigators. Urgent management of rapid heart rate in patients with atrial fibrillation/flutter and left ventricular dysfunction: comparison of the ultra-short-acting β1-selective blocker landiolol with digoxin (J-Land Study). Circ J 2013; 77: 908-16
PMID:23502991

Abstract
【背 景】
左室機能障害における心房細動(AF)または心房粗動(AFL)の際の頻拍は心機能をしばしば損ないうる.

【目 的】
このJ-Land Studyは,左室機能障害を有する患者でのAF/AFLによる頻脈の迅速な制御において,超短時間作用型β遮断薬であるランジオロールの有効性と安全性を,ジゴキシンと比較したものである.

【方 法】
AF/AFL,心拍数≧120回/分,左室駆出率25-50%の患者200例をランジオロール群(n=93)とジゴキシン群(n=107)に無作為に割り付けた.心拍数制御成功は,ランジオロールまたはジゴキシンの静脈内投与開始から2時間での心拍数<110回/分かつ心拍数の20%以上の減少と定義した.ランジオロールの用量は患者の状態に合わせて1-10μg/kg/minの範囲で調整した.
原文から抜粋追記:ジゴキシンは0.25mgを静注.

【結 果】
ベースラインの平均心拍数は,ランジオロール群が138.2±15.7回/分,ジゴキシン群が138.0±15.0回/分であった.心拍数制御成功は,ランジオロールで治療された患者の48%,ジゴキシンで治療された患者の13.9%で達成された(p<0.0001).重篤な有害事象は各群でそれぞれ2例,3例報告された.

【結 論】
左室機能障害を有するAF/AFL患者において,ランジオロールはジゴキシンよりも頻拍制御により有効であり,この臨床状況において治療的オプションと考えられた.
■ランジオロールは短時間作用型β1遮断薬であるが,本邦以外では使用されていない.海外では同系統の薬剤としてエスモロールが使用されている.基本的には血圧降下作用はエスモロールの方が強く,心拍数低下作用はランジオロールの方が強い.よって,rate controlの観点ではランジオロールの方が安全かつ有効であることが予想されるが,ランジオロール自体が内科領域では初めてのRCTであり,当然ながら直接比較はなされていない.

■本ブログは敗血症をメインに取り扱っているため,敗血症性ショックにおける可能性を論じたいが,なにぶんまだエビデンスがない状況にある.加えて,このJ-Land Studyは全身性炎症反応症候群(SIRS)患者があまり含まれておらず,主たる対象は心疾患患者である.SIRS病態において「心機能低下例における頻脈性不整脈(心房細動・心房粗動)」を合併する患者は非常に多いことが想定されるが,現時点でSIRS患者でのランジオロールの有用性についてはほぼ皆無に等しく,エビデンスが作られるのはこれからである.敗血症性ショックに代表されるSIRS患者において頻脈が循環動態を悪化させている場合に有効な可能性について検討しなければならない.なお,このような状態ではCa拮抗薬やジギタリス製剤も考えられるが,Ca拮抗薬は血圧低下作用が強く,その陰性変力作用ゆえに重症例では心停止をきたすこともある.ジギタリス製剤もSIRS病態では効果が減弱する.

■短時間作用型β1遮断薬が敗血症性ショックにおいて予後を改善させる可能性については先日JAMA誌に報告されたエスモロールのPhase2 RCT[1]が物語っており,本ブログにおいても文献紹介とレビューを行った[2]のでそちらを参照されたい.ただ,そのレビューではややいいことばかり書きすぎな印象も否めないので,以下に他の薬剤もふまえた,「高用量ノルアドレナリンに反応しない敗血症性ショック」での考察の追加を述べるので,あわせて判断していただきたい.

■このPhase 2は,28日死亡率はエスモロール群49.4%,対照群80.5%(調整後HR 0.39, 95%CI 0.26-0.59, p<0.001)という驚異的治療成績ではあるが,154例のそれほどサンプルサイズが大きくないRCTであり,予後も大幅に改善したとはいえプライマリアウトカムではなく,対照群の死亡率の高さ(80.5%)も気になるところではある.近年の報告では敗血症性ショックの死亡率は約25-45%程度であり,この80.5%をどうとらえるかであるが,対象患者集団が頻脈かつ高用量ノルアドレナリン投与下でも改善が得られないという,敗血症性ショックの中でも特に難治例であることを考慮すると妥当な可能性はあるかもしれない.実際に,Sviriら[3]はICU患者の循環作動薬の必要度と死亡率の関連を調べた観察研究(イスラエル)で,高用量(≧40μg/min)のノルアドレナリンを要した患者のICU死亡率は84.3%(非高用量と比較してOR 5.1; 95%CI 2.02-12.9; p=0.0001),院内死亡率は90%(OR 3.82; 95%CI 1.28-11.37; p=0.016)であった.

■こう見ると,やっぱり対照群の死亡率は妥当で,β遮断薬は有用かのように見えるわけだが,高用量ノルアドレナリンを有する患者でのオプションは他にもあり,バソプレシン,低用量ステロイド,アドレナリン,PMX-DHPなどが考えられる.

■敗血症性ショック患者における頻脈は高用量のノルアドレナリン投与自体も原因となりうる.バソプレシン投与はノルアドレナリン必要量を減じることで頻脈を減少させる可能性があり,また,ノルアドレナリン自体もわずかながらβ刺激作用があるため,ドパミン・ドブタミンほどではないものの炎症増悪作用があることから,バソプレシンへの移行により炎症増悪を抑制し,頻脈を誘発するサイトカインを抑えうる[4].Russellらの行ったVASST study[5]は,800例でノルアドレナリン+バソプレシン併用群とノルアドレナリン単独群を比較したRCTであり,28日死亡率(35.4% vs 39.3%, p=0.26),90日死亡率(43.9% vs 49.6%, p=0.11)は有意差がないものの併用群で低い傾向がみられ,非重症例に限定したサブ解析では併用群で有意な死亡率低下がみられた(26.5% vs 35.7%, p=0.05).このことから,β遮断薬使用の前にバソプレシンを優先すべきかもしれない.ただし,VASST studyでは重症例では死亡率に有意差がついていないこと,cold shockでは使用できないことなどの限界がある.

■PMX-DHPについては,内因性カンナビノイド吸着による昇圧効果[6]は期待できるが,バソプレシンに勝るとするエビデンスはなく,PMX-DHPとバソプレシンを比較した60例後ろ向きマッチングコホート研究[7]では90日死亡率はバソプレシン群が有意に死亡率が低かった(17% vs 47%, p=0.008).また,重症例(大腸穿孔症例において,POSSUM予測死亡率70%以上)では有効でないとする報告[8]や,敗血症から敗血症性ショックへと移行する過程のごく初期にしか奏功しにくい[9]ということもあり,高用量ノルアドレナリンを要する症例での位置づけは低くなる.

■低用量ステロイド療法は賛否両論ではあるが,日本ではバソプレシンよりも好まれているようである.この低用量ステロイド療法については2つのRCTが代表的である.一方はAnnaneらの300例のRCT[10]であり,輸液にも血管収縮薬にも反応しない難治例におけるステロイド投与群とプラセボ群を比較し,ステロイド群で28日死亡率が有意に低かった(55% vs 61%, p=0.03).一方,CORTICUS studyでは同じく輸液にも血管収縮薬にも反応しない難治例500例を対象とし,ステロイド群とプラセボ群を比較したRCT[11]を行ったが,28日死亡率に有意差はみられなかった(34.3% vs 31.5%, p=0.51).この試験では,ステロイド群の方がショック離脱は早いが,感染による新たな敗血症発症リスクが高いという結果であった.Annaneらの報告の方が死亡率が高いことから,ベースラインの重症度に差があり,低用量ステロイドは重症例では奏功しうるが,非重症例では奏功しにくい可能性がある.また,輸液にも血管収縮薬にも反応しない難治例という集団において対照群の死亡率はいずれも31.5%と61%で,エスモロールのPhase2の対照群の死亡率80.5%はやはり高いのか?という疑問が残るが,ステロイドのRCTが頻脈を伴う難治例であったかは不明である(病態を考えると通常ならば頻脈になっているだろうという予想はつくが).

※バソプレシンで四肢疎血の出現を経験し,痛い目にあったので使用しなくなり,低用量ステロイドを使用している施設がそれなりにあるようである.私自身はノルアドレナリンの次のオプションとしてはステロイドよりもバソプレシン派で(ただし,高度炎症病態であるにもかかわらず血糖値は100未満の場合は副腎機能不全も考慮して,ステロイドを優先して選択することがある),バソプレシンを使用するときは,輸液をやや過剰気味に入れてからバソプレシンで締め上げるイメージで使用している.末梢ボリュームをある程度確保して使う必要はあるのではないかと思われる.

■アドレナリンに関してはSSCG 2012[12]で第2選択に挙げられてはいるものの,β遮断薬が適応となるような頻脈での血行動態破綻例に対してはさらに頻脈を助長し,火に油をそそぐようなものかもしれない.アドレナリンとβ遮断薬を併用すると有用な可能性はあるが,現時点ではエビデンスがなく推測にとどまる.

■以上から,「高用量ノルアドレナリンでも反応しない,頻脈性のAF/AFLを伴う血圧低下例」においては,まずはバソプレシン併用(cold shockなら使用不可),効果不十分ならさらに低用量ステロイドを追加すべきで,それでも奏功しない場合にアドレナリン持続投与を行いながらランジオロールを併用するという最終手段的使用方法が考えられる.ただし,頻脈が心拍出量を保つ代償機構としての結果なのか頻脈で血行動態が破綻しているかの鑑別が事前に必要である.ランジオロール自体が半減期が非常に短いため,頻脈を抑制すると同時に血圧が下がった場合はすぐに切れば状態もすみやかに戻ると推察されるが,安全かつ有効に使用するためにも心臓超音波検査,PiCCOなどでのモニタリングによる評価が不可欠であろう.一方,頻脈が血行動態破綻の原因と判明した状態でランジオロールを使用するならば,バソプレシンまたは低用量ステロイドとの比較試験が今後必要であり,使用する施設ではぜひそのようなデータの評価を発表してほしいところである.

[1] Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al. Effect of heart rate control with esmolol on hemodynamic and clinical outcomes in patients with septic shock: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 310: 1683-91
[2] DrMagicianEARL. 【文献+レビュー】敗血症性ショックに対するβ遮断薬は有用か?無作為化比較試験 2013 Oct.15 http://drmagician.exblog.jp/21195780/
[3] Sviri S, Hashoul J, Stav I, et al. Does high-dose vasopressor therapy in medical intensive care patients indicate what we already suspect? J Crit Care 2013 Oct 17
[4] Russell JA, Fjell C, Hsu JL, et al. Vasopressin compared with norepinephrine augments the decline of plasma cytokine levels in septic shock. Am J Respir Crit Care Med 2013; 188: 356-64
[5] Russell JA, Walley KR, Singer J, et al; VASST Investigators. Vasopressin versus norepinephrine infusion in patients with septic shock. N Engl J Med 2008; 358: 877-87
[6] 今泉均,升田好樹,黒田浩光,他.Ⅳ急性血液浄化法の適応疾患.急性血液浄化法徹底ガイド.東京,総合医学社 2006: 130-7
[7] Sawa N, Ubara Y, Sumida K, et al. Direct hemoperfusion with a polymyxin B column versus vasopressin for gram negative septic shock: a matched cohort study of the effect on survival. Clin Nephrol 2013; 79: 463-70
[8] 秋吉高志,中塚昭男,徳永正則,他.大腸穿孔症例およびエンドトキシン吸着療法施行症例のPOSSUM scoreを用いた予後予測の検討.日臨外会誌 2005; 11: 2645-50
[9] 松田兼一,平澤博之,織田成人,他.Endotoxin除去療法.日外会誌 2002; 103: 880-6
[10] Annane D, Sébille V, Charpentier C, et al. Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA 2002; 288: 862-71
[11] Sprung CL, Annane D, Keh D, et al; CORTICUS Study Group. Hydrocortisone therapy for patients with septic shock. N Engl J Med 2008; 358: 111-24
[12] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; and the Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock: 2012. Critical Care Medicine 2013; 41: 580-637
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by DrMagicianEARL | 2013-11-26 02:10 | 敗血症 | Comments(0)

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