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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】スタチンはICUせん妄を予防する

エビデンスレベルは高くないですが,集中治療領域でのスタチンについてブルージャーナルに面白い報告があったので紹介します.
重症疾患におけるスタチンの使用とせん妄リスク
Page VJ, Davis D, Zhao XB, et al. Statin Use and Risk of Delirium in the Critically Ill. Am J Respir Crit Care Med 2014 Jan 13
PMID:24417431

Abstract
【背 景】
集中治療室(ICU)の患者におけるせん妄はよく知られており,予後不良予測因子であり,神経炎症が機序と考えられている.スタチンの抗炎症作用はせん妄を減じるかもしれない.

【目 的】
スタチン療法を受ける重症疾患患者がスタチン療法を受けない患者よりもせん妄リスクが減少するかについて検討する.

【方 法】
2011年8月から2012年2月まで英国の内科外科混合ICUに入室した連続したICU患者データの前向きコホート解析を行った.ICUに入室中のせん妄のない日数を各患者ごとにCAM-ICUを用いて評価した.せん妄のない日数,毎日のスタチン投与とC反応性蛋白(CRP)を記録した.

【結 果】
2011年8月から2012年2月まで,スタチン投与を受けた患者151例を含む417例の連続的ICU患者が観察された.ランダムエフェクト多変量ロジスティック回帰を用いると,前日夕のスタチン投与はその後のせん妄無発症(OR 2.28; 95%CI 1.01-5.13; p<0.05)と低いCRP(β=-0.52; p<0.01)に関連していた.スタチンとせん妄無発症をCRPで調整すると,エフェクトサイズは有意ではなくなった(OR 1.56; 95%CI 0.64-3.79; p=0.32).

【結 論】
重症患者において,スタチン療法継続は毎日の低いせん妄リスクと関連していた.本研究を受けて,現在進行中の臨床試験でスタチンが重症疾患におけるせん妄の潜在的治療になるかについて検討している.
■集中治療領域においてスタチンの抗炎症作用[1]が注目されており,また,炎症とせん妄の関連については近年多数の報告がでている[2]ことから,スタチンの抗炎症作用がせん妄を減じるという仮説が三段論法で成り立つわけで,この仮説を検証したのが今回のコホート研究であり,共同著者にはICUせん妄の第一人者でもあるEly先生が名を連ねている.せん妄を抑制するならば,長期予後において差がでるかもしれない.

■CRPとせん妄については,ZhangらがICU患者223例の前向き観察研究を行っている[3].単変量解析ではせん妄発症患者の方が非発症患者よりCRPが有意に高かった(12.05 vs 5.75 mg/dL; P=0.0001).背景因子で調整した多変量ロジスティック回帰においても,CRPはせん妄と有意に関連していた(OR 1.07; 95%CI 1.01-1.15).24時間以内のCRP>8.1mg/dLはせん妄リスクを有意に増加させた(OR 4.47; 95%CI 1.28-15.60).

■ステロイドも抗炎症作用を有するが,ステロイドの場合は中枢神経系に対する直接作用を有し,レム睡眠を短縮させてしまい,むしろせん妄の要因となってしまう.他の抗炎症作用が期待されているマクロライド系抗菌薬,リコンビナント・トロンボモデュリン,β遮断薬については現時点ではせん妄リスクに与える影響についてのエビデンスがない.

■敗血症へのスタチンを検討したRCTで,死亡率を改善したとする報告はまだなく[4],人工呼吸器関連肺炎でのRCTではスタチン群で死亡率の悪化傾向が見られたため試験が中止されている[5].その一方で,コホート研究においては,スタチンを以前から内服している患者では死亡率が低いことが複数報告されている[4].おそらくスタチンを内服していない患者が感染症罹患と同時にスタチンを開始すると,脂質代謝系で悪影響がでる可能性があるのかもしれない.血管内皮細胞ではエネルギー源の70%を脂質に依存しており[6],重症病態下においてミトコンドリア機能不全による糖質代謝系の障害が起こりうることも考慮すると,脂質系への新規のスタチン介入は血管内皮細胞にとって決していいことばかりではないということも理論上考えられる.よって,脂質低下作用をもたないスタチン製剤の創薬が必要なのかもしれない(もしくはまもなく本邦にも登場するα-リノレン酸を主体とした脂質製剤をスタチンに併用するのがbetter?).

[1] Kouroumichakis I, Papanas N, Proikaki S, et al. Statins in prevention and treatment of severe sepsis and septic shock. Eur J Intern Med 2011; 22: 125-33
[2] DrMagicianEARL. 敗血症とせん妄(1) ~定義と評価,予後との関連~. EARLの医学ノート 2013 Nov.12 http://drmagician.exblog.jp/21312727/
[3] Zhang Z, Pan L, Deng H, et al. Prediction of delirium in critically ill patients with elevated C-reactive protein. J Crit Care 2014; 29: 88-92
[4] DrMagicianEARL. 【文献+レビュー】スタチンは敗血症の予後を改善するか? EARLの医学ノート 2014 Jan.15 http://drmagician.exblog.jp/21555736/
[5] Papazian L, Roch A, Charles PE, et al; STATIN-VAP Study Group. Effect of statin therapy on mortality in patients with ventilator-associated pneumonia: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 310: 1692-700
[6] Dagher Z, Ruderman N, Tornheim K, et al. Acute regulation of fatty acid oxidation and amp-activated protein kinase in human umbilical vein endothelial cells. Circ Res 2001; 88: 1276-82
by DrMagicianEARL | 2014-01-27 17:23 | 文献

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