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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

敗血症と栄養管理(2) 投与カロリー,静脈栄養併用

敗血症と栄養管理(2) 投与カロリー,静脈栄養併用
Summary
・高度侵襲にさらされる重症患者では内因性エネルギーが発生する.
・安静時エネルギー消費量(REE)を正確に算出する方法は現時点では存在せず,内因性エネルギーも算出することは不可能なため,至適カロリー投与量(外因性エネルギー)を算出することはできない.
・REEよりカロリー量が多いoverfeedingはglucose toxicity(ミトコンドリア内部の過度の酸化ストレス,炎症反応の増幅),nutritional stress(REE増加,CO2産生増加,骨格筋タンパク分解増加,水分貯留・浮腫増悪)といった有害性があり,現在は推奨されておらず,REEより少ないカロリー量を許容するpermissive underfeedingがゴールデンスタンダードとなっている.
・underfeedingによる早期経腸栄養を行う際は早期からの静脈栄養の併用は予後を改善せず,むしろoverfeedingとなる可能性があり,骨格筋を改善せず,むしろ筋力低下を招き,さらに過剰な糖質とアミノ酸負荷が水・ナトリウムの貯留をきたしうる.
・BMI<17の低栄養患者においては早期からの静脈栄養が有効である可能性もあり,このような患者群において静脈栄養を控えることは妥当ではないかもしれない.

3.投与カロリーの基本原則 ~permissive underfeeding~

■高度侵襲病態においてはエネルギー必要量が増加するため高カロリー栄養が必要とする考えが約40年前に流行しており,3000kcal/日が推奨されていた.低カロリー栄養が提唱されたのは1980年代だが,一部の専門家の意見として取り上げられるに過ぎず,高カロリー栄養の流れが変わることはなかったようである.その後,重症患者への経腸栄養の有用性の報告が出始め,1990年代後半になって高カロリー栄養が実は有害であることが判明しだすに至る.

■侵襲下では,侵襲の大きさに応じてストレスホルモンとサイトカインが放出され,骨格筋タンパクの異化によるアミノ酸からの糖新生と脂肪組織からの脂肪酸放出による内因性エネルギーが供給されることが知られている[24].よって,この内因性エネルギーと医療介入により投与される栄養(外因性エネルギー)の総和が総供給エネルギー量となる.この総供給エネルギー量が安静時エネルギー消費量(REE)と一致するならば適正なエネルギー投与量であり(adequate feeding),REEより多ければ過剰エネルギー投与(overfeeding),少なければエネルギー不足(underfeeding)となる.
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■しかしながら,REEそのものを正確に算出する方法が現在存在しない[25].本邦で行われているREE推定はHarris-Benedict式で算出された基礎代謝量に活動係数とストレス係数を乗じて算出しているが,この方法にはエビデンスがなく[26],不正確であると指摘されている[27].また,内因性エネルギー量を算出する方法も存在しない.よって,重症患者個々に応じた外因性エネルギー投与量を定めるテーラーメイド的栄養投与は困難であることになり,adequate feedingは現実的には不可能で,overfeedingかunderfeedingのいずれかになる.20-40年前に主流であった高カロリー栄養投与はoverfeedingに属するものである.

■Barlettらは多臓器不全リスクのある外科ICU患者57例の観察研究を行い,間接カロリーメトリーで算出したREEをもとに累積エネルギーバランスの解析を行った[28].この研究では累積エネルギーバランスが0~マイナス10000kcalの患者の死亡率は11/28(39%)であったのに対し,マイナス10000kcalを超えてマイナスバランスだった患者の死亡率は12/14(86%)であった.この他にも,エネルギーバランスがマイナスで合併症やICU在室日数延長を示す観察研究は複数存在する.しかしながら,これらの結果はあくまでも相関を示したもので,因果関係の証明ではない.

■飢餓状態を考えると,絶食後約1日でグリコーゲンがすべてグルコースとなり全身で使い果たされる.グリコーゲンを使い果たして血糖値が低下すると,肝臓中で脂肪酸の分解経路であるβ酸化回路が活性化され,肝の脂肪がβ酸化を経てケトン体に変化し,全身でグルコース代替エネルギー源として利用される.飢餓状態が更に進むと,体脂肪や皮下脂肪など肝臓以外の脂肪が血流に乗って肝臓へと運ばれてβ酸化を経てケトン体に変わり,同様にエネルギー源となる.これによりヒトは理論上は水分の補給さえあれば絶食状態で2-3ヶ月程度生存が可能とされる.すなわち外因性エネルギーなしでもヒトが日単位で死に至ることはまずないのである.これはあくまでも飢餓状態の理論であり,侵襲下にある重症患者に直接あてはまるわけではないが,すべてのundefeedingが即危険というわけではない.

■一方のoverfeedingは20年前までの主流であったのは前述の通りである.そのような中,2001年のvan den BergheらによるLeuven studyⅠ[29]で有用性が示された,血糖値を80-110 mg/dLにコントロールする強化インスリン療法(intensive insulin therapy;IIT)が登場した.このIITはその後のメタ解析[30],VISEP trial[31],Glucontrol study[32],NICE-SUGAR study[33]でむしろ強化インスリン療法の有害性が示されて姿を消すことになったが,overfeedingと高血糖の有害性を明らかにするきっかけとなり,重症患者の栄養療法はoverfeedingを避ける方針に舵を切ることとなった.

■寺島らは,侵襲下でのoverfeedingを過去文献の検証をもとにglucose toxicity(ミトコンドリア内部の過度の酸化ストレス,炎症反応の増幅),nutritional stress(REE増加,CO2産生増加,骨格筋タンパク分解増加,水分貯留・浮腫増悪)に大別して代謝性有害事象を分類することを提唱しており,静脈経腸栄養誌に詳述されている[34]の.また,寺島らはラットモデル研究[35,36]を行い,過剰なグルコース投与による二次的高血糖は全身炎症反応を短時間で過剰に増幅し,体内インスリン総量(内因性インスリン+医療介入によるインスリン療法)が増加し,そのインスリンが骨格筋タンパク分解抑制・ロイシンアミノ基転移反応抑制を誘導する結果,BCAA・アラニン(糖新生の主要な基質)・条件付き必須アミノ酸(グルタミン・アルギニン)の供給減少といった生理的なアミノ酸供給システムの障害が発現し,GLUT4経由で骨格筋に大量のグルコースが取り込まれてしまい,骨格筋細胞における酸化ストレス増強から筋タンパクの病的分解が発生することを示した.これらはグルコース過剰投与の結果であり,overfeedingがこれらの危険性を有することのひとつの証明といえる.

■Arabiらは,人工呼吸器を必要とした重症患者240例において,投与タンパク量は差がでないようにして,必要カロリーの60-70%を投与する低容量群と90-100%の通常容量群を比較したRCT[37]を行い(実際にはIITと通常血糖コントロールも比較した2×2機能試験),28日全死亡率には有意差はないが(18.3% vs 23.3%; RR 0.79; 95%CI 0.48-1.29; p=0.34),院内死亡率は(30.0% vs 42.5%; RR 0.71; 95%CI 0.50-0.99; p=0.04)で有意に低容量群が低かった.

■Riceらは急性呼吸不全で人工呼吸器を装着した患者200例における経腸栄養を,最初の6日間を10mL/hrで行うtrophic群と全エネルギー量を投与するfull-energy群を比較したRCT[38]を行い,経腸栄養期間(5.5日 vs 5.1日; p=0.51),人工呼吸器装着日数(中央値23.0日 vs 23.0日; p=0.90),ICU非在室日数(中央値21.0日 vs 21.0日; p=0.64),院内死亡率(22.4% vs 19.6%; p=0.62)に有意差はなく,下痢(19% vs 24%; p=0.08)や胃内残量増加(2% vs 8%; p<0.001)がfull-energy群で有意に増加したと報告している.

■さらにRiceらは,ARDS患者1000例の治療開始後6日間の栄養管理で,400kcal/日と1300kcal/日で予後を比較した米国44施設共同RCTであるEDEN trial[39]を行い,1300kcal/日群で有意に嘔吐(2.2%vs1.7%,p=0.05),胃内残量増加(4.9%vs2.2%,p<0.001),便秘(3.1%vs2.1%,p=0.003)が増加していたと報告している.また人工呼吸器離脱期間,感染症合併率,60日死亡率は有意差はなかった.このEDEN trialの1年後の予後を評価したNeedhamらの報告[40]では,身体機能,生存率,認知機能,QOL等あらゆるアウトカムに有意差はなかったとしている.

■以上より,overfeedingを回避し,underfeedingを許容する,いわゆるpermissive underfeedingの戦略が現在のスタンダードとなっており,経腸栄養であれば10-25mL/hrの流量で開始し,3日目に目標カロリーの60%を目指して増量していき,7日目で100%を目標とする投与法が一般的になっている.これらを行っていくうえで,目標カロリー量の設定,胃内残量測定等を含めた様々なプロトコルが検討されている(今回は省略するが,CCPGのプロトコルが参考になる).

4.経腸栄養に静脈栄養の併用は妥当か? ~EPaNICとSwiss SPNに見る論争~

■重症患者における経腸栄養(EN)に静脈栄養(PN)を加えるかについては米国静脈経腸栄養学会/米国集中治療医学会(ASPEN/SCCM)と欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)とで意見が分かれており,論争となっている.ガイドラインでのPNの適応については以下のようになっている.
米国ASPEN/SCCMガイドライン[10]
・入院時にタンパク栄養障害がみられる場合,ENが不可能であればPNをできる限り早期に開始する(Grade C).
・タンパク栄養障害がみられないときは,早期のENに適応がないもしくは不可能であっても7日間はPNを投与しない(Grade C).
・ICU入室後7日たってもENが不可能な場合はPNを開始する(Grade E).
・7-10日後に経腸栄養のみで必要エネルギー量(目標量の100%)を満たすことができない場合に経静脈栄養による補充を考慮する(Grade E).
・経腸栄養によって目標栄養量の60%以上に達するまで経静脈栄養を終了すべきではない(Grade E).

欧州ESPENガイドライン[41]
・ENが禁忌の場合,もしくは症例がEN投与に耐えられない場合,また3日以内に標準栄養が期待できない全患者で24-48時間以内にPNを開始する(Grade C).
・重篤な低栄養の患者には25-30 kcal/kg/dayまでENを増量すべきで,目標に達しない場合はPNを開始する(Grade C).
・ENが可能な患者やおおよそ目標エネルギーを摂取できている患者にはPNの追加を避ける(Grade A).
・EN開始2日後に目標栄養量以下である全患者にPNでの補充を考慮すべき(Grade C).
■大きな違いは,ESPENでは3日以内に目標エネルギー摂取が期待できない全患者において48時間以内の早期経静脈栄養を推奨しているのに対し,ASPEN/SCCMは最初の7日までは静脈栄養は推奨されないとしている点である.

■侵襲下での内因性エネルギー供給を考慮すれば,overfeedingよりunderfeedingの方が安全であることは既にコンセンサスがあったことを考えればASPEN/SCCMの方が理にかなっている.また,ESPENは,PNでアウトカムが悪いのは血糖のコントロールができていなかったせいだと主張していた.この2大ガイドラインの論争に一定の結論をだしたのが2011年に報告されたEPaNIC trial[42]である.

■EPaNIC trialは7施設による前向きRCTであり,ICUの重症疾患患者4640名を対象に行われた.早期PNと後期(8日以降)PNの比較で,事実上,ESPENガイドラインとASPEN/SCCMガイドラインの比較に他ならない.これによると,死亡率に有意差こそなかったが,平均ICU滞在日数(4日 vs 3日; p=0.02),感染症発生率(26.2% vs 22.8%; p=0.008),腎代替療法施行日数(10日 vs 7日; p=0.008),2日以上の人工呼吸器使用率(40.2% vs 36.3%; p=0.006),医療コストにおいて後期静脈栄養群(ASPEN/SCCM)が有意に優れており,「ENが可能であれば,早期PNによる補助で投与エネルギーゴールを目指す管理は一利もなく推奨されない」と結論づけ,ESPENの推奨を否定,ASPEN/SCCMの推奨を支持するものであった.

■なお,この研究を行ったのはなんとESPENのメンバーであり,その中心となったのはIITの有効性を報告したvan den Bergheである.実はこのEPaNIC trialはIITが否定された後に報告されているが,血糖管理はIITを用いている.van den Bergheらは血糖コントロールをIITで十分に行いながら早期PNを開始すればよいアウトカムになるのではないかと考えてこの研究を行ったのではないかと推察されている(実際には後期PN群で有意に低血糖が多かった).

■これに対し,早期PNが有効であるとする報告が2011年の欧州集中治療学会で報告された.この報告はHeideggerらの研究(Swiss SPN study)[43]であり,早期EN開始3日目で目標カロリーを達成できなかった305例において,PNを併用する群(SPN群)とEN単独群(EN群)を比較したRCTである.結果は,9日目から28日目までの感染症発生率はSPN群が有意に感染症発生率が少なかった(27% vs 38%; 95%CI 0.65; 95%CI 0.43-0.97; p=0.0338)と報告されている.しかし,主要評価項目が登録されているものと文献で発表されているものが違う,初期では感染症の発生率がSPN群の方が高いなど問題点が指摘されている[44].また,EN群のカロリー量が少なすぎる可能性もあった.

■この2つの結果は,米国ASPENと欧州ESPENのガイドラインの真っ向からの対立の様相となっており,また,投稿誌も米国のNew England Journal of Medicine,欧州のLancetであった.そして,2013年の欧州静脈経腸栄養学会のセッションにおいて,Swiss SPN studyのHeideggerとEPaNIC studyのvan den Burgheが激論をかわす直接対決に至った.HeideggerらはEPaNIC studyを猛批判し,EPaNIC studyはN数が多いだけで見掛け倒しの研究だと揶揄している.これに対し,van den BurgheらはEPaNIC trialについてさらなる解析を進めており,なぜ早期PN群が劣る結果であったかを検討している.

※勘違いされていることが多いが,New England Journal of Medicineは英国ではなく,米国のマサチューセッツ医科内科学会が発行している医学雑誌である.New Englandとはコネチカット州,ニューハンプシャー州,バーモント州,マサチューセッツ州,メイン州,ロードアイランド州を含む地域名であり,米国で最も古い地域であり,1616年にイギリスで入植者が募集されたのが地域名の由来となっている.

■van den BurgheらはENかPNかといった投与経路は問題ではなくoverfeedingが問題であったととらえている.さらに,van den Burgheは2013年のCritical Care誌でのレビュー[45]において,このoverfeedingがautophagyの抑制を引き起こし,免疫低下を起こすことに言及しており,これが感染症増加の原因のひとつと考えているようである.実際に,まだ未論文化データであるが,早期PN群の中でも投与カロリー量<33.3%のサブグループが最良のアウトカムであったことが分かっている.

■さらに,post-hoc解析では,重症度は早期PNの有害性とは関連がなく,投与カロリーは少ないほど予後が良く,糖よりもアミノ酸/蛋白の投与量の方が予後と関連したとしている[46]

■また,早期PN群では腎代替療法期間は延長したが,腎代替療法の使用頻度には有意差はなかった.これについてもpost-hoc解析を行い,急性腎傷害の発生頻度や期間,クレアチニンの推移に差はなく,尿素が有意に早期PN群で高かった.このため,アミノ酸が多量に投与され,尿素が上昇し,腎代替療法を終了するのが遅くなったとしている[47].実際に,血中アミノ酸蓄積は尿素を増加させ,腎糸球体の溶質負荷を増大させ,ナトリウムと水の排泄が低下することが知られている[48]

■また,早期PN群でも骨格筋減少は食い止められず,むしろ骨格筋の中に脂肪が形成され,骨格筋の質が悪くなることも分かった[49].筋力低下(CUAW;ICU-acquired weakness )の評価[50]では,後期PN群が早期PN群より筋力低下が有意に少なく(34% vs 43%; absolute difference -9%; 95% CI -16 to -1; p=0.030),筋力低下からの回復も後期PN群の方が有意に早く,autophagyは早期PN群で抑制されていた.

■以上から,underfeedingによる早期経腸栄養を行う際は早期からの静脈栄養の併用は予後を改善せず,むしろoverfeedingとなる可能性があり,骨格筋を改善せず,むしろ筋力低下を招き,さらに過剰な糖質とアミノ酸負荷が水・ナトリウムの貯留をきたしうる.ただし,いつまで静脈栄養を控えた方がいいのかについてはいまだ明らかではないため,現状としては早期経腸栄養を7日目まで行い,静脈栄養を併用するならば8日目以降とするのが最も無難といえるかもしれない.ただし,EPaNIC trialはBMI<17の低栄養患者が除外されていることに注意が必要で,このような患者において静脈栄養が有効であるとするメタ解析[12]もあることから,このような患者群において静脈栄養を控えることは妥当ではないかもしれない.

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by DrMagicianEARL | 2014-02-03 00:00 | 敗血症 | Comments(0)

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