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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献】癌細胞を良性細胞や幹細胞へ転換することに成功/STAP細胞について(追記)

2014年1月31日掲載
2014年3月10日追記・改訂
この記事は鳥取大学の研究について紹介したものですが,ちょうどSTAP細胞論文がNature誌からpublishされたニュースがでた頃と重なったため,Abstractの下にちょっとだけ言及しました.しかし,この1ヶ月ちょっとで事態がいろいろと変わり,STAP細胞論文そのものに疑いがもたれている状況にあるため,今回追記改訂しました.


■iPS細胞理論(というより体細胞の再プログラミング(初期化)による多能性獲得の理論)の応用で,癌細胞を正常細胞に戻すという,一般的抗癌剤や分子標的治療薬ではなしえなかった,これまでにない癌根絶治療のパラダイムシフトともいえる夢の治療法が見えてきたのかもしれません.しかも,この研究は日本(鳥取大学)からの報告です.
Hsa-miR-520dは幹性誘導により肝癌細胞を正常な肝組織に誘導する
Tsuno S, Wang X, Shomori K, et al. Hsa-miR-520d induces hepatoma cells to form normal liver tissues via a stemness-mediated process. Sci Rep 2014; 4: 3852
PMID:24458129

Abstract
【目的・方法】
ヒトncRNA遺伝子RGM249は癌細胞の分化度の範囲を制御し,293FT細胞をhiPSCsに転換する.この過程にある因子を特定するため,我々はin vitroで293FT細胞およびHLF細胞におけるレンチウイルスから誘導したmiR-520d発現の効果を検討した.続いて,我々は異種移植モデルにおいて腫瘍の形態を評価した.

【結 果】
移植されたHLF細胞は24時間以内にOct4およびNanogが陽性となり,p53のアップレギュレーションとヒトテロメレース逆転写酵素遺伝子(hTERT)のダウンレギュレーションを示し,ほとんどは移動能を失っていた.レンチウイルス感染後,細胞はマウス腹腔内に注入され,1ヶ月後の注入部位において,成熟(良性)奇形腫(6%),腫瘍なし(87%),成熟肝組織内の分化(7%)がみられた.

【結 論】
我々は単一のマイクロRNA(miRNA)の発現によってin vivoで癌細胞の悪性度を消失させることを初めて示した.このmiRNAは293FT細胞と肝臓癌細胞をhiPSC様細胞に転換させることに成功した.miR-520dによる悪性度の制御は,p53のアップレギュレーションを維持しつつ癌細胞を正常幹細胞に転換する.
■ここで登場している293FT細胞は京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞に使用した細胞である.この293FT細胞や未分化癌を幹細胞に変化させると,癌抑制遺伝子であるp53を高発現している.それまではmiR-302 familyやmiR-369,200cなど多数種のマイクロRNA併用による幹細胞への初期化が検討されているが,単一マイクロRNAでこのような結果が得られたことはこれまでなかった.この研究では未分化癌細胞にmiR-520dを導入すると,わずか12時間で細胞が変化し,癌細胞とはまったく異なる細胞に転換している.この検討は高分化の癌細胞でも検討されており,1ヶ月の期間を要して同様の変化がみられている.よって,悪性度が高い低分化の癌細胞ほど容易に良性化に転換しやすい特徴があることが分かる.このmiR-520dは極めて小さい分子であり,癌細胞への感受性が高い.

■本研究ではレンチウイルス(遺伝子導入ツールとしてよく用いられる)を使用しており,このウイルスを用いずに可能な技術なのかは考慮しておく必要があるかもしれない(レンチウイルスには癌化リスクもある).また,miR-520Rがどのように作用しているのかの機序の解明がまだ不明確なようである(8000以上の遺伝子を標的にしているようで,解明は困難を極めるかもしれない).

----- STAP細胞に関する内容ここから.文字がグレーの部分は1月31日の記事-----
■先日報道され話題になっているSTAP細胞(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency cell;刺激惹起性多能性獲得)[1,2]についても少しとりあげておく.STAP細胞は理研発生・再生科学総合研究センター細胞リプログラミング研究ユニットの小保方晴子研究ユニットリーダーを中心とする研究ユニットと,同研究センターの若山照彦元チームリーダー,および米国ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授らの共同研究グループによる成果である.

■iPS細胞は遺伝子を導入することで初期化し,多能性をそなえた幹細胞であり,簡便に作製できるが,ES細胞ほどの能力を有さない.STAP細胞は遺伝子導入が不要で,刺激を与えるのみで作製が可能で,iPS細胞よりも作製効率が向上しているようである.さらに,STAP細胞は,試験管の中では細胞分裂増殖が生じない(iPS細胞やES細胞は試験管内増殖が可能).しかし,ACTH培養下,あるいはFGF4培養下ではSTAP細胞は細胞分裂による増殖が可能であった.興味深いことに,ACTH培養下では体の細胞を造る能力はあるが胎盤や羊膜を造る能力はなく,逆にFGF4培養下では体の細胞は造れず,胎盤や羊膜を造れる能力を有していた.胎盤や羊膜の細胞への変化はiPS細胞やES細胞では不可能であり,それゆえ今回のSTAP細胞は全能性の可能性があるとされている.

■このSTAP細胞研究のlimitationとしては,生後1週間のマウスを用いている点であり,実際には,大人のマウスでは成功率が極端に低くなってしまうとのことで(加齢による細胞劣化が原因とのこと),ここをクリアすることが1つの大きな検討課題となると思われる.また,試験管内では増殖できないゆえに大量調整ができないことも課題となっている.

■理研とSTAP細胞の共同研究を行ったハーバード大学研究チームは,脊髄損傷で下半身が不自由になったサルをSTAP細胞による治療実験を進めている.STAP細胞を作製し,これをサルの背中に移植したところ,サルが足や尻尾を動かせるようになっている(論文化予定とのこと).


以下追記

■このSTAP細胞論文について,Guo Jianliらの論文からの文章の剽窃や,Robert Blellochらの論文からの文章剽窃が指摘されているが,それ以上に,画像において疑義がでていることから捏造の疑いがもたれている.まず,この研究では生後1週マウスの脾臓由来のTリンパ球を用いており,TCR再構成をもって初期化を証明するものであったが,それを示すDNA電気泳動写真のレーン3の部分に切り貼りを行った形跡があり,GLバンドないことが指摘された.その後の理研のプロトコル発表ではTCR再構成がなくともSTAP細胞と呼んでよいという定義に変わっており,初期化ではなく単に元からあった幹細胞を選択(スクリーニング)しただけの可能性がある(そうであれば生後1週マウスでなければ成功しにくいことも納得がいくため,limitationが致命傷となりうる).これによりそもそもの初期化あってこその大発見という意義が失われてしまう.

■さらに3月9日に小保方博士の博士論文に使われた画像がSTAP細胞論文の画像と酷似していることが発見され,流用の疑いがもたれている.具体的には,博士論文の骨髄sphere由来のテラトーマ/Mesoderm免疫染色画像とSTAP細胞由来のテラトーマ/Mesoderm免疫染色画像が同一写真ではないかと指摘されている.この部分はSTAP細胞の多能性を示す重要な部分となるが,この2つの論文の研究はまったく関係がないものであり,もし画像流用であれば多能性すら示せておらず,捏造が確定ということになる.なお,理研で作ったSTAP細胞をハーバード大学に送ってテラトーマの写真を撮影したことになっており,テラトーマの写真についてはハーバード大学のバカンティ教授も把握しているはずである.この件についてバカンティ教授からの説明を求めることも必要であろう.

■なお,小保方博士の過去の論文においても多数の実験画像において不適切なデータ処理・加工・流用が疑われている状況にあるほか,脊髄損傷のサルをSTAP細胞移植で治療したと発表したバカンティ教授のグループの小島宏司氏の論文における不適切な画像流用が2件発覚しており,事態は予想以上に深刻な可能性がでてきている.

■現在,Nature誌のSTAP細胞論文はオープンとなり,理研およびハーバード大学が調査中であるが,第3者の詳細調査が必要であろう.なお,小保方博士とその共同執筆者からは現時点で説明はない.

[1] Obokata H, Wakayama T, Sasai Y, et al. Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency. Nature 2014; 505: 641-7
[2] Obokata H,1Sasai Y, Niwa H, et al. Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency. Nature 2014; 505: 676-80
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by DrMagicianEARL | 2014-03-10 16:13 | 文献 | Comments(0)

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