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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献】吸入ステロイドを使用するCOPD患者では結核リスクが2倍以上増加する;メタ解析

■ICSと感染症に関するメタ解析がChest誌に報告されたので紹介します.
COPD患者における吸入コルチコステロイドの使用と結核およびインフルエンザのリスク:無作為化比較試験のシステマティックレビューおよびメタ解析
Dong YH, Chang CH, Wu FL, et al. Use of Inhaled Corticosteroids in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease and the Risk of Tuberculosis and Influenza: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Chest 2014 Feb.6
PMID:24504044

Abstract
【背 景】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者において,吸入コルチコステロイド(ICS)の使用は肺炎リスクの増加と関連している.しかし,結核やインフルエンザといった,その他の呼吸器感染症におけるリスクはまだ明らかではない.

【方 法】
2013年7月から開始したMEDLINE,EMBASE,CINAHL,Cochrane Library,ClinicalTrials.govでの包括的文献検索によって,我々は少なくとも6ヶ月間ICSを継続した無作為化比較試験を抽出した.結核およびインフルエンザリスクをICS治療群と非ICS治療群を比較した推定の統合を行うため,Peto,Mantel-Haenszel,Bayesianのアプローチによるメタ解析を行った.

【結 果】
結核で25報(22898例),インフルエンザで26報(23616例)が登録された.ICS治療は,非ICS治療と比較して,結核の高いリスクと有意に関連していた(Peto OR 2.29; 95%CI 1.04-5.03)が,インフルエンザのリスク増加とは有意には関連していなかった(Peto OR 1.24; 95%CI 0.94-1.63).この結果は他の各メタ解析アプローチでも同様であった.さらに,COPD患者をICSで治療すると,1つの結核発生事象の要因におけるNumber Needed-to-Harm(NNH)は,非流行地域に比較して(NNH=1667)流行地域の患者ではより低かった(NNH=909).

【結 論】
我々の研究は,COPD患者において,さらなる検討を行うに値する,ICS使用と関連する結核とインフルエンザのリスクについての安全性の懸念を示すものである.
■私はCOPD患者に対しては,LAMA(長時間作用型抗コリン薬),LABA(長時間作用型β刺激薬)でもコントロール不良なケースか喘息合併のケースでない限り絶対にICS(吸入ステロイド)を処方しない方針にしていいる.理由はICSで感染リスク,血栓リスク,糖尿病悪化リスク等が報告されているためであり,特定の患者でない限りは有害性が有益性を上回る可能性が高いからである.このため,COPD患者に対してアドエアやシムビコートを第一選択とすべきではない.また,COPDを喘息と誤診するとICSが投与されてしまう懸念もあり,ましてやシムビコートの喘息に対する適応があるSMARTによって発作時も吸入などされてしまっては高用量ICS投与になる,初期診断は重要である.咳喘息疑い例でも,胸部X線撮影なしにICSによる診断的治療は行うべきでない.COPDに対する吸入薬の第一選択はあくまでもLAMAかLABAであり,ICSを含むシムビコートやアドエアではない.

■気管支喘息においてはICSが肺炎を増加させるか否かについては議論の余地があるが,COPD患者に対するICSが肺炎リスクとなることはコンセンサスが得られていると思われる.その原因として,COPD患者では気道クリアランスが低下しており,下気道に細菌が定着しやすいことが考えられている[1]

■Drummondら[2]は,COPD患者におけるICSを評価した二重盲検RCT11報14426例のメタ解析を行い,ICSが肺炎リスクを1.34倍有意に増加させると報告している(RR 1.34; 95%CI 1.03-1.75; p=0.03; I(2)=72%).サブグループ解析では,肺炎リスクは高用量のICSで1.46倍(RR 1.46; 95%CI 1.10-1.92; p=0.008; I(2)=78%),ICS使用開始早期で2.12倍(RR 2.12; 95%CI 1.47-3.05; p<0.001; I(2)=0%),ベースラインの呼気量が低いと1.90倍(RR 1.90; 95%CI 1.26-2.85; p=0.002; I(2)=0%),ICSと気管支拡張薬の併用で1.57倍(RR 1.57; 95%CI 1.35-1.82; P<0.001; I(2)=24%)有意に増加していた.

■Singhら[3]も無作為化比較試験18報16996例のメタ解析を行い,ICSが肺炎リスクを1.60倍有意に増加させ(RR 1.60; 95%CI 1.33-1.92; p<0.001; I(2)=16%),深刻な肺炎リスクを1.70倍増加させる(RR 1.71; 95%CI 1.46-1.99; p<0.001; I(2)=0%)と報告している.肺炎関連死亡リスクに関しても増加傾向がみられたが,統計学的有意差はなかった(RR 1.27; 95%CI 0.80-2.03 ; p=0.31; I(2)=0%).また,ICSはプラセボ群と比較すると,深刻な肺炎リスクが1.81倍有意に増加していた(RR 1.81; 95%CI 1.44-2.29; p<0.001).さらに,ICSとLABAの併用はLABA単独と比較して深刻な肺炎リスクが1.68倍有意に増加した(RR 1.68; 95%CI 1.20-2.34; p=0.002).さらにSinghらはこのメタ解析を24報23096例まで増やしてup-dateし[4],ICSで肺炎リスクが1.57倍(RR 1.57; 95%CI 1.41-1.75; p<0.0001)増加すると報告している.

■その他感染症として,14報の二重盲検RCT,11794例のコクランレビューによるメタ解析[5]では,COPD患者に対するICSでカンジダ感染症リスクが3.75倍,上気道感染リスクが1.32倍有意に増加すると報告されている.また,COPDではなく気管支喘息の研究であるが,気管支喘息小児192例でICS使用群と非使用群を比較したところ,咽頭への肺炎球菌の定着率は使用群で有意に高く(27.1% vs 8.3%),ICSは肺炎球菌定着リスクが3.75倍有意に増加した(RR 3.75; 95%CI 1.72-8.18; p=0.001)と報告されている[6]

■これらのICSによる感染症増加はステロイドの気道における免疫低下のみならず,ステロイドが体内に吸収されることによる,全身性ステロイド投与と同様の免疫力低下が生じている可能性がある.実際に,van Bovenら[7]のコホート研究では,ICSで静脈血栓症リスクは2.21倍(95%CI 1.72-2.86)有意に増加することが報告されており,この数値は全身ステロイド投与とほぼ同等である.5.5年間フォローアップされた388584例のコホート研究(糖尿病患者は30167例)[8]でも,ICSは糖尿病発症リスクを1.34倍(95%CI 1.29-1.39)に増加させると報告されている.ICSに関する16報RCT,17513例のメタ解析[9]でも,骨折リスクが1.27倍(Peto OR 1.27; 95% CI 1.01 to 1.58; p=0.04; I(2)=0%)増加することが報告されている.Kellyら[10]は,小児喘息患者943例をブデゾニド400mcg/日群,ネドクロミル16mg/日群,プラセボ群にランダムに割り付け,4-6年間投与したRCTを行い,ブデゾニド群で1.2cm有意に平均成人身長が低かったと報告している.Cossetteら[11]は,ICS単独またはICS+LABAを使用している妊婦7376例コホート研究を行い,低出生体重児(LBW),早産(PB),胎児発育遅延(SGA)の発生リスクを増加させなかったが,平均ICS用量が増えると,統計学的に有意ではないがこれらのリスクが増加する傾向がみられたと報告している.

■これらの結果から考えても,ICS使用によってそれなりの量が気道から体内に吸収され,全身性ステロイドと同様の作用を発現している可能性はおおいに考えられ,全身免疫系への影響の懸念もでてくるわけである.ここにCOPD患者の気道クリアランス低下という非特異的かつ物理的免疫機能低下という特徴があわされば,結核がICSを使用するCOPD患者で増加することは納得がいくところではある.

■Kimら[12]は,COPD患者616例の後ろ向きコホート研究で,結核発生リスクは,胸部X線写真上での陳旧性肺結核陰影のない患者で9.079倍(95%CI 1.012-81.431; p=0.049),陳旧性肺結核陰影がある患者で24.946倍(95%CI 3.090-201.365; p=0.003)有意に増加すると報告している.より大規模なN数での853439例症例対照研究[13]でも,喘息・COPD患者においてICSは結核リスクを1.20倍(95%CI 1.08-1.34)有意に増加(用量依存的)させると報告している.Leeら[14]は台湾国民健康保険データベース70782例の解析を行い,高齢,男性,糖尿病,終末期腎疾患,肝硬変とともに,COPDは結核発生の有意な独立危険因子であった(HR 2.468; 95%CI 2.205-2.762).

[1] Ernst P, Gonzalez AV, Brassard P, et al. Inhaled corticosteroid use in chronic obstructive pulmonary disease and the risk of hospitalization for pneumonia. Am J Respir Crit Care Med 2007; 176: 162-6
[2] Drummond MB, Dasenbrook EC, Pitz MW, et al. Inhaled corticosteroids in patients with stable chronic obstructive pulmonary disease: a systematic review and meta-analysis. JAMA 2008; 300: 2407-16
[3] Singh S, Amin AV, Loke YK. Long-term use of inhaled corticosteroids and the risk of pneumonia in chronic obstructive pulmonary disease: a meta-analysis. Arch Intern Med 2009; 169: 219-29
[4] Singh S, Loke YK. Risk of pneumonia associated with long-term use of inhaled corticosteroids in chronic obstructive pulmonary disease: a critical review and update. Curr Opin Pulm Med 2010; 16: 118-22
[5] Nannini LJ, Lasserson TJ, Poole P. Combined corticosteroid and long-acting beta(2)-agonist in one inhaler versus long-acting beta(2)-agonists for chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev 2012; 9: CD006829
[6] Zhang L, Prietsch SO, Mendes AP, et al. Inhaled corticosteroids increase the risk of oropharyngeal colonization by Streptococcus pneumoniae in children with asthma. Respirology 2013; 18: 272-7
[7] van Boven JF, de Jong-van den Berg LT, Vegter S. Inhaled corticosteroids and the occurrence of oral candidiasis: a prescription sequence symmetry analysis. Drug Saf 2013; 36: 231-6
[8] Suissa S, Kezouh A, Ernst P. Inhaled corticosteroids and the risks of diabetes onset and progression. Am J Med 2010; 123: 1001-6
[9] Loke YK, Cavallazzi R, Singh S. Risk of fractures with inhaled corticosteroids in COPD: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials and observational studies. Thorax 2011; 66: 699-708
[10] Kelly HW, Sternberg AL, Lescher R, et al; CAMP Research Group. Effect of inhaled glucocorticoids in childhood on adult height. N Engl J Med 2012; 367: 904-12
[11] Cossette B, Forget A, Beauchesne MF, et al. Impact of maternal use of asthma-controller therapy on perinatal outcomes. Thorax 2013; 68: 724-30]
[12] Kim JH, Park JS, Kim KH, et al. Inhaled corticosteroid is associated with an increased risk of TB in patients with COPD. Chest 2013; 143: 1018-24
[13] Lee CH, Kim K, Hyun MK, et al. Use of inhaled corticosteroids and the risk of tuberculosis. Thorax 2013; 68: 1105-13
[14] Lee CH, Lee MC, Shu CC, et al. Risk factors for pulmonary tuberculosis in patients with chronic obstructive airway disease in Taiwan: a nationwide cohort study. BMC Infect Dis 2013; 13: 194
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by DrMagicianEARL | 2014-02-09 15:22 | 文献 | Comments(0)

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