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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献+レビュー】敗血症性ショックでのバソプレシンとステロイドの併用効果(RCT)

■バソプレシンとステロイドのシナジー効果について検討したRCTが,pilot studyではありますが報告されましたので紹介します.
敗血症性ショックにおけるバソプレシンとコルチコステロイドの相互作用:予備無作為化比較試験
Gordon AC, Mason AJ, Perkins GD, et al. The Interaction of Vasopressin and Corticosteroids in Septic Shock: A Pilot Randomized Controlled Trial. Crit Care Med 2014 Feb 19
PMID:24557425

Abstract
【目 的】
バソプレシンとコルチコステロイドはいずれも敗血症性ショックの補助的治療として広く用いられている.後ろ向き解析では,この2剤の併用により,循環バソプレシン濃度を高め,予後を改善する,といった相互作用の可能性が示唆された.本研究の目的は,敗血症性ショックにおいてバソプレシンとコルチコステロイドの相互作用を検討することである.

【方 法】
本研究のデザインは前向きオープンラベル無作為化比較予備試験である.研究の場はロンドンの大学病院における4つのICUとした.敗血症性ショックの成人患者61例が対象となり,初期バソプレシン静注を0.06U/minまで滴定し,その後ヒドロコルチゾン(50mgを6時間毎)またはプラセボを静注した.血漿バソプレシン濃度はヒドロコルチゾン/プラセボ投与後6-12時間と24-36時間で計測した.31例の患者がバソプレシン+ヒドロコルチゾン群に,30例の患者がバソプレシン+プラセボ群に割り付けられた.

【結 果】
ヒドロコルチゾン群はプラセボ群と比較して,バソプレシン治療期間がより短く(ヒドロコルチゾン群で3.1日短縮 95%CI 1.1-1.5),バソプレシン総投与量がより少なかった(RR 0.47; 95%CI 0.32-0.71).血漿バソプレシン濃度はプラセボ群と比較して高くはなかった(6-12時間時点で64 pmol/L差 95%CI -32 to 160 pmol/L).早期のバソプレシン使用は,既知の薬剤投与の報告に関連している可能性がある重篤な有害事象は1例のみで,良好な忍容性であった.死亡率(両群とも28日死亡率23%),臓器不全評価は両群間で差がなかった.

【結 論】
ヒドロコルチゾンは,敗血症性ショックの治療においてバソプレシンと併用することでバソプレシン必要量を軽減し,投与期間や用量を減少させたが,血漿バソプレシン濃度を変化させなかった.コルチコステロイド併用有無による初期循環作動療法としてのバソプレシンの臨床効果の評価についてはさらなる検討が必要である.
1.敗血症性ショックとバソプレシン
■敗血症性ショックにおいてバソプレシンはその強力な血管収縮作用のため,ノルアドレナリンに次ぐ位置づけとなってきている(cold shockでは不可).warm shockの中にはノルアドレナリンに反応しないケースがあり,乳酸蓄積によりATP依存性Kチャネルが開放し,Ca2+が細胞内に流入できず,NOによる血管拡張の働きのみが残ることがあり,この状態はカテコラミン不応性である.このような病態においてはバソプレシンが有効とされている.バソプレシンは血管平滑筋を収縮させ,カテコラミンに対する反応性を改善し,血圧上昇に働く.本来は血圧が下がるとバソプレシンの血液中濃度は上昇する.敗血症罹患初期は血中バソプレシン濃度は一過性に上昇し,その後徐々に低下することが知られている[1].一般病棟ではこの低下の時期に敗血症が診断される場合も多い.

■ノルアドレナリンとバソプレシンを比較したVASST study[2]では,28日死亡率に有意差がでなかったが,サブセット解析で低用量ステロイド療法を施行しなければならないような難治性warm shockにおいては,バソプレシンはノルアドレナリンより28日死亡率を有意に低下させたと報告している[3].実際,カテコラミン抵抗性の患者にノルアドレナリン単独とNA+バソプレシン併用を施行・比較検討したところ,併用した方が頻脈は減少し,平均動脈圧や心拍出量が増加,腸管血流が維持できたと報告している[4].また,敗血症性ショックにおいて,バソプレシンはノルアドレナリンを使用するよりもサイトカインレベルを減少させるとするRCT[5]も報告されており,カテコラミンによる炎症悪化や不整脈といった有害事象を回避しうる可能性が示唆されてきている.

※ただし,日本の救急集中治療の先生方はあまりバソプレシンを好まれないようである.私はノルアドレナリンが0.2γ以上を要する時点でバソプレシンの併用を検討する.

2.敗血症性ショックとステロイド
■コルチコステロイドは,敗血症病態においては抗炎症目的ではなく副腎機能を考慮したステロイドカバーとして用いられている.これは,敗血症においては副腎機能低下が進行し,ショック形成に関与していることを留意する必要があるからである[6,7]

■ステロイドカバー目的で少量ステロイド長期間投与の有効性が報告されている.hydrocortisone 50mg×4/day+fludrocortisone 50mcg×1/dayを5日間投与するか否かで比較したRCT[6]では,ステロイド投与の有無による全体での有意差はないものの,ACTH刺激試験への反応によってステロイドの効果が異なること,つまりACTH非反応群(副腎不全群,229例)では,ステロイドによって28日死亡率が63%から58%に有意に減少したことを報告した.2004年のmeta-analysisでは,ステロイドによって28日死亡率,ICU死亡率,入院死亡率が有意に減少し,消化管出血,高血糖,続発性感染などの合併症の増加を認めず,ステロイド使用によりショックの離脱率が高く,昇圧薬の使用期間が短くなることが報告された[8]

■一方,2008年に症例数500例でhydrocortisone 50mg×4/dayの5日間投与の有無で比較した多施設RCTであるCORTICUS studyが報告され[9],全体でもサブ解析(ACTH非反応群のみでの解析,ACTH反応群のみでの解析)でもステロイド投与によって28日死亡率は変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc解析でも,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.この報告を受けて,SSCG 2008では少量ステロイド療法の推奨度が下がっている.しかし,CORTICUS studyには①ベースの患者の重症度が低い,②ステロイド投与開始までの時間が長い(=すでに敗血症が軽快している可能性),③有意差を出すためにサンプルサイズを800人に設定していたが,期間内に症例を集めることができず500人で終了している,などの問題点が挙げられている.

■2009年に報告されたメタ解析[10]では,少量ステロイド長期投与による死亡率の軽減効果は,CORTICUS studyを加えても維持されていた.また,ステロイド非投与群での死亡率からみた敗血症の重症度とステロイドの効果についても言及し,低用量ステロイドは死亡率が高いと予測される患者(重症患者)では有効となり,死亡率が低いと予測される患者(軽症患者)では害となりうることを示した.さらに,ACTH刺激試験の反応性に関わらず,ステロイドの効果は同様で,ステロイドによってショックから有意により多く回復することを報告した.すなわち,患者の重症度に応じてステロイドを使い分ける必要があり,重症度を想定していないSSCG 2004を遵守した場合は,死亡率に有意差はでていない[11]

■一番最新のメタ解析がWangらによって2014年に報告された[12].8報RCT,1063例が対象となり,低用量ステロイド療法は7日後(OR 2.078; 95%CI 1.58-2.73; p<0.0001; I(2)=26.9%),28日後(OR 1.495; 95%CI 1.12-1.99; p=0.006; I(2)=0.0%)のショック状態を改善するが,28日死亡率は改善しない(OR 0.891; 95%CI 0.69-1.15)と報告している.

3.敗血症性ショックにおいてバソプレシンとステロイドの併用による相乗効果はあるのか?
■Torgersenらはバソプレシンによる治療を受けた重症の敗血症性ショック患者157例の後ろ向きコホート研究[13]を行い,多変量解析においてヒドロコルチゾン併用患者においてICU死亡リスク(OR 0.51; 95%CI 0.24-1.08; p=0.08),28日死亡リスク(HR 0.69; 95%CI 0.43-1.08; p=0.11)が統計学的に有意ではないが低い傾向がみられた. 回帰モデルで予測される28日生存率はヒドロコルチゾン併用群が非併用群より有意に高かった(p=0.001).傾向スコアマッチング解析(40ペア)では,ICU死亡率(45% vs 65%; OR 0.69; 95%CI 0.38-1.26; p=0.23),28日死亡率(35.5% vs 55%; OR 0.59; 95%CI 0.27-1.29; p=0.18)は有意差がないものの低い傾向がみられた.

■Jochbergerら[14]は,前向き研究のpost-hoc解析(敗血症性ショック患者55例を登録)において,ヒドロコルチゾン投与有無で血漿バソプレシン濃度に有意差はみられず(4.2 (2.2-6.2) vs 4.3 (2.7-6.1) pmol/L; p=0.43),ロジスティック回帰解析でも,有意差はなかった(p=0.38).ヒドロコルチゾン治療と血漿バソプレシン濃度の線型回帰解析でも相関はみられなかった(p=0.39).

■今回のGordonらのRCTの結果は上記2研究と矛盾しない.バソプレシンとステロイドの併用は,現時点ではバソプレシン投与量・投与期間を減じることはできるが,バソプレシンの濃度を上昇させず,短期死亡率も改善しない.

■もっともステロイドが特に有効となるであろう患者群をtargetにできていないことも問題である.副腎機能不全を臨床現場で確実にその場で診断する方法は現時点ではない.過去の研究ではACTH刺激試験を用いて判断しているが,このACTH刺激試験において計測されるコルチゾルは総コルチゾルであり,フリーコルチゾルではない.通常は血中のコルチゾルは通常90%が蛋白結合型の不活性型で,活性を持つのは残りの10%のフリーコルチゾルである.敗血症病態においてはフリーコルチゾルの割合は50%程度まで増加するが,アルブミン低下が著明となると(<2.5 g/dL),フリーコルチゾルが正常または増加しているにもかかわらず,総コルチゾルは低く測定されてしまう.また,フリーコルチゾルの測定結果もすぐに得られない上に重症患者での基準値が明確でないという問題点から,ACTH刺激試験で副腎機能不全を診断することは不適切である.

※私自身は電解質バランスや血糖値,昇圧剤への抵抗性などをみて判断している.

■また,ステロイド投与に伴う副作用も考慮しておかなければならない.注意すべきは,短期死亡率しか評価されていないことで,ステロイドによる長期予後への影響は不明である.現時点ではステロイドがICUAWをはじめとする機能予後悪化のリスクとなることも指摘されてきており,現時点で併用療法に特別な有益性を見出すことはできないと思われる.現状として,あくまでもステロイドカバーによる血圧上昇が上乗せされる程度のメリットしかない.

■なお,Personettらの後ろ向きコホート研究[15]では,末梢血管疾患,急性腎傷害,ICUでの新規発症の心房細動が,バソプレシンを7日間以上必要となるリスクに関連し,7日間以上投与した患者は死亡率が増加していたことから,これらの患者層でのステロイド併用の有効性評価は検討されてもいいかもしれない.

■なお,敗血症性ショックに対するステロイドについては,ANZICSが大規模RCTであるADRENAL studyを開始する.登録予定患者数は敗血症のRCT史上最大の3800例であり,低用量ステロイド療法の有用性有無はこの研究で決着がつくと思われる.

[1] Barrett LK, Singer M, Clapp LH. Vasopressin: mechanisms of action on the vasculature in health and in septic shock. Crit Care Med 2007; 35: 33-40
[2] Russell JA, Walley KR, Singer J, et al; VASST Investigators. Vasopressin versus norepinephrine infusion in patients with septic shock. N Engl J Med 2008; 358: 877-87
[3] Russell JA, Walley KR, Gordon AC, et al; Dieter Ayers for the Vasopressin and Septic Shock Trial Investigators. Interaction of vasopressin infusion, corticosteroid treatment, and mortality of septic shock. Crit Care Med 2009; 37: 811-8
[4] Dünser MW, Mayr AJ, Ulmer H, et al. Arginine vasopressin in advanced vasodilatory shock: a prospective, randomized, controlled study. Circulation 2003; 107: 2313-9
[5] Russell JA, Fjell C, Hsu JL, et al. Vasopressin compared with norepinephrine augments the decline of plasma cytokine levels in septic shock. Am J Respir Crit Care Med 2013; 188: 356-64
[6] Annane D, Sébille V, Charpentier C, et al. Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA 2002; 288: 862-71
[7] Rushing GD, Britt RC, Collins JN, et al. Adrenal insufficiency in hemorrhagic shock.
Am Surg 2006; 72: 552-4
[8] Annane D, Bellissant E, Bollaert PE, et al. Corticosteroids for severe sepsis and septic shock: a systematic review and meta-analysis. BMJ 2004; 329: 480
[9] Sprung CL, Annane D, Keh D, et al; CORTICUS Study Group. Hydrocortisone therapy for patients with septic shock. N Engl J Med 2008; 358: 111-24
[10] Minneci PC, Deans KJ, Eichacker PQ, et al. The effects of steroids during sepsis depend on dose and severity of illness: an updated meta-analysis. Clin Microbiol Infect 2009; 12: 308-18
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[12] Wang C, Sun J, Zheng J, et al. Low-dose hydrocortisone therapy attenuates septic shock in adult patients but does not reduce 28-day mortality: a meta-analysis of randomized controlled trials. Anesth Analg 2014; 118: 346-57
[13] Torgersen C, Luckner G, Schröder DC, et al. Concomitant arginine-vasopressin and hydrocortisone therapy in severe septic shock: association with mortality. Intensive Care Med 2011; 37: 1432-7
[14] Jochberger S, Dünser MW. luences of hydrocortisone therapy on arginine vasopressin plasma levels in septic shock. Wien Klin Wochenschr 2011; 123: 245-7
[15] Personett HA, Stollings JL, Cha SS, et al. Predictors of prolonged vasopressin infusion for the treatment of septic shock. J Crit Care 2012; 27: 318.e7-12
by drmagicianearl | 2014-02-25 19:00 | 敗血症

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