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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献】敗血症性ショックにおけるEGDTは予後を改善せず,ProCESS trial

■NEJM誌に相次いで敗血症関連のRCT論文が3報(ProCESS trial,ALBIOS study,SEPSISPAM study)online publishされましたが,一番インパクトがあるのはこの論文かな?と思ってまずはProCESS trialから紹介することにしました.敗血症性ショックEGDTプロトコルを評価するために3つの大規模RCTであるProCESS,ARISE,ProMISeが行われ,そのうちの1つが報告されたことになります.
早期の敗血症性ショックにおけるプロトコルに基づいた治療の無作為化試験(ProCESS trial)
The ProCESS Investigators. A Randomized Trial of Protocol-Based Care for Early Septic Shock. N Engl J Med 2014 March 18 [Early publish online]

Abstract
【背 景】
ERで,血行動態を標的に調整された輸液,循環作動薬,強心薬,輸血による6時間の早期目標指向型治療(EGDT)プロトコルによって治療を受けた重症敗血症および敗血症性ショック患者が,通常治療を受けた患者よりも著明に死亡率が低かったとする単施設研究が10年以上前に報告された.我々は,これらの知見が一般化できるのか,プロトコルの全ての要素が必要なのか,について検討する試験を行った.

【方 法】
米国31施設のERにおいて,我々は敗血症性ショック患者を6時間の蘇生において,EGDTプロトコル群,中心静脈カテーテルは用いずに強心薬と輸血を用いた標準治療プロトコル群,通常治療群の3群のうちの1つに割り付けた.主要評価項目は60日院内死亡率とした.我々は,(EGDT群と標準治療群をあわせた)プロトコルに基づいた治療が通常治療よりも優れているか,EDGTプロトコルが標準治療プロトコルよりも優れているかについても検討した.副次評価項目は長期死亡率と臓器支持療法の必要性とした.

【結 果】
1341例の患者が登録され,439例が無作為にEGDT群に,446例が標準治療プロトコル群に,456例が通常治療群に割付られた.蘇生戦略は,中心静脈圧と酸素のモニタリング,輸液,循環作動薬,強心薬,輸血の使用のそれぞれにおいて有意に異なっていた.60日までに,EGDTプロトコル群で92例が死亡(21.0%),標準治療群で81例が死亡(18.2%),通常治療群で86例が死亡(18.9%)した(プロトコルvs通常治療 RR 1.04; 95%CI 0.82-1.31; p=0.83 / EGDTプロトコル vs 標準治療プロトコル RR 1.15; 95%CI 0.88-1.51; p=0.31).90日死亡率,1年死亡率,臓器支持療法の必要性についても有意差はみられなかった.

【結 論】
3次救急において試行された多施設共同試験において,ERで診断された敗血症性ショック患者へのプロトコルに基づいた蘇生は予後を改善させなかった.
1.ProCESS trialの結果をどうとらえるか?

■ProCESSはProtocolized Care for Early Septic Shockの略であり,その名の通り,敗血症性ショックにおいてプロトコライズされた治療が,中心静脈カテーテルを用いない標準プロトコル群,あるいはプロトコルを用いない通常治療群と比較して有効かどうかを検証しており,EGDTプロトコルが予後を改善しないことが示されたことになり,これはSSCG(Sruviving Sepsis Campaign Guidelines)[1-3]の推奨に疑問を投げかけるものである.ただし,注意すべきは,この研究で用いられたEGDTは,EGDTの有効性を示したRiversら[4]のRCTのプロトコルとほぼ同じである.すなわち,CVP,平均血圧,ScvO2の3つの目標達成であるが,現在の臨床現場においてはこのRiversらのプロトコルをそのまま用いている施設はむしろ少ないのではないかと思われ,各施設でカスタマイズされたEGDTプロトコルを施行していることも予想され,この研究結果を受けて現在の敗血症性ショックの診療スタイルを変える医師はそれほどいないのではないだろうか?(そもそもこの研究での通常治療群が大雑把な記載しなかく,どのような治療をしたのかわかりにくい).

※当院の敗血症性ショック治療のEGDTプロトコルは,Passive Leg Raising test,CVP呼吸変動,平均血圧,尿量,乳酸値を指標としたプロトコルにカスタマイズしている.現在ここにアルブミンや他の蛋白を加味した指標を加えるか検討中である.

■また,Riversらの研究の時と今回のProCESSでは支持療法が異なる.とりわけ,敗血症の早期認知,早期の抗菌薬治療開始,NICE-SUGAR studyで示された中等度レベルでの血糖管理,低1回換気戦略といった部分で予後が当時よりさらに改善しており,死亡率が20%前後というのは歴代の敗血症性ショック患者を対象とした大規模RCTの中でも最もよい治療成績である(平均APACHEⅡスコアは20.7).これは研究前の予想死亡率,APACHEⅡスコアからの予測死亡率よりも低い.

■この研究でEGDTプロトコルと比較された標準プロトコルは,中心静脈カテーテルを用いない.すなわち,CVPとScvO2を計測せずに管理を行うプロトコルであり,収縮期血圧(100mmHgでカットオフ)とショック指数(0.8でカットオフ)を指標に輸液負荷,循環作動薬を投与している.また,EGDTプロトコル群も標準プロトコル群も尿量モニタリングはプロトコルに入っていない.

■最初の6時間での輸液量はEGDT群2.8L,標準プロトコル群3.3L,通常プロトコル群2.3Lであった(p<0.001).1時間ごとの輸液量のグラフを見ると,最初の2時間は標準治療プロトコル群>EGDT群=通常治療群であったのに対し,3時間目以降は標準治療プロトコル群=EGDTプロトコル群>通常治療群であった.

■循環作動薬,輸血,ドブタミンの使用率はいずれも3群間で有意差があり,EGDTプロトコル群>標準プロトコル群>通常治療群であった.

■平均血圧≧65mmHg達成率はEGDTプロトコル群,標準治療プロトコル群が通常治療群よりも有意に高かったが(p=0.02),平均心拍数は有意差がなかった(p=0.32).

■今後詳細な二次解析が行われる可能性はあるが,輸液量の違い,平均血圧の違い,薬剤・輸血の使用量の違いでの長期予後については,1年死亡率と臓器支持療法必要性というアウトカムでは有意差はなかった.

2.EGDTとRiversの報告,ProCESS trialが教えてくれたこと

■EGDT(Early Goal-directed therapy;早期目標指向型治療)はSSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)で提唱されている治療概念であり,抗菌薬治療とは独立した,敗血症性ショック治療の中心となる治療法である.これまで急性期循環管理にEGDTを導入したのは,1988年のShoemakerらの報告[5]にさかのぼり,その後の報告[6-9]によっても酸素消費量を改善するには必要な輸液をまず行うことで至適な循環血流量の維持が必要であることが示されていた.

■2001年にRiversらが報告したEGDTプロトコルは,救急初療の段階で敗血症性ショックと評価された対照群133症例,EGDT群130症例を前向き検討したものであり,カテコラミン投与に優先して十分な輸液を行い,中心静脈酸素飽和度を改善させることで,末梢の虚血に伴う代謝性アシドーシスと乳酸産生を救急初療の段階で有意に軽減し,院内死亡率を46.5%から30.5%に減じている.この輸液を中心としてプログラムされたRivers EらのEGDTでは,ショック初期6時間におけるScvO2≧70%が患者の94.9%で達成されており,EGDTを施行しない対照群では60.2%の達成率に過ぎない.また,7-72時間後の人工呼吸器装着率を16.8%から2.6%に減じている.

■画期的と言われたRiversらの研究は,その後CVPやScvO2の有用性が疑問視されても[10]なおSSCGにおいて蘇生プロトコルに最重要な治療戦略として組み込まれて続けている.この10年以上も前の古いプロトコルが推奨され続けてきた背景には,EGDTそのものの有効性を,非EGDTと比較して評価したRCTが実はRiversらの報告以降1報もなかったという事情もある(個々の指標を評価したRCTはある).そしてようやく行われた大規模多施設共同RCTがこのProCESS trialであり,さらには現在進行中のARISE,ProMISeである[11].この3つのRCTはデータを統合して解析可能であることも報告されており[12],最終的に3つの結果すべてが出揃えば精密なメタ解析がなされるものと思われる.

■本ブログで繰り返し述べている通り,いかなるエビデンスもといえどもその妥当性はTPO(Time Place Occasion)の影響を免れない.質の高いシステマティックレビューによるエビデンスでも賞味期限1年以内が15%,2年以内が23%,賞味期限の平均期間はわずか5.5年(95%CI 4.6-7.6)しかなく[13],今回,RiversらのEGDTプロトコルが再検証されたのは当然の流れであろう.

■しかし,このProCESS trialの結果はRiversらの功績を否定するものではない.事実,EGDTによって死亡率が低下したとするコホート研究の報告は数多く,死亡率を75%から30%まで改善させた当院[14]でも例外ではない.敗血症治療の基礎が定まっていなかった時代,あるいは敗血症治療の知識・経験が乏しい施設においてはEGDTが救命に大きく寄与してきたことは事実である.さらに,EGDTの普及を通して敗血症の循環動態を,治療概念を多くの医師に認知させることによりさらなる救命率の向上と研究を発展させた功績は大きい.Riversらが研究を行った時代は7割の医師が敗血症の定義を認知しておらず,また正しい知識を持ち合わせていないために8割の医師が敗血症を誤診するという事態が発生していたのである[15].こういった時代背景の違いもアウトカムの違いに影響がでたものと思われる.

■現在,EGDTはRiversらのプロトコルの骨格を保ちつつ,さまざまな指標や治療が加えられてカスタマイズされ,さらに治療成績を向上させつつあるが,敗血症治療成績がまだ芳しくない不慣れな施設においては,まずはガイドラインに沿ったEGDTの推奨によって治療水準を標準レベルまで上げるべきである.少なくとも今回のProCESS trialはEGDTが通常治療と比較して死亡率を改善させなかったというものであり,EGDTが予後を悪化させたわけではない.対照群とされた通常治療群の治療の質は経験豊富な三次救急施設の救急集中治療医によって担保されており,そうでないならばEGDTプロトコルに従っておく方がbetterであろう.

■現在敗血症初期蘇生においては大量輸液推奨から過剰輸液回避推奨に切り替わりつつある.ProCESS trialにおいて通常治療群の輸液量がプロトコル群よりも少ないことはより少ない輸液量で管理可能性があることの証左であろう.輸液量をどこまで減量しうるかについては,現在本邦でEV1000を用いたRCTの結果が待たれる.

■救急・集中治療医でない医師の中には「侵襲的処置はしてほしくないけどなんとか助けてくれ」という家族の希望のもと一般病棟で敗血症性ショックの治療を行ったことのある医師も少なくないと思われる.私自身,十数例ほど一般病棟で中心静脈カテーテルも動脈カテーテルも挿入せずに高齢者の敗血症性ショックの初期蘇生治療を行ったことがあるが,ICUでの積極的治療に比して治療成績はやや落ちるものの救命できないことはない.Hanzelkaら[16]は癌患者の敗血症性ショックにおいて,EGDTを非侵襲的要素のみで組んだ治療アルゴリズムを導入し,導入前後で比較を行ったところ,28日死亡率は20%vs38%で,導入後に有意に改善したと報告している.このように,癌患者で非侵襲的治療に限定した難しいケースであっても,SSCGにできる限り準じた治療を行うことで非担癌患者と同等レベルの治療成績をだせることが示されてきている.今回のProCESS trialの標準プロトコルは中心静脈カテーテルや動脈カテーテルなしでも管理できる指標であり,EGDTと変わらない治療成績を示していることから,うまく管理すれば一般病棟でも良好な敗血症性ショック治療成績をだせる可能性がある.この知見は近年日本にも上陸した癌救急(Oncologic Emergency)[17-19]領域においても重要であると思われる.

■同時に,中心静脈カテーテルを挿入しない治療は,治療侵襲度を下げ,カテーテル関連血流感染症や血栓リスクを回避しうる.長期予後の知見が増えるようになり,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)[20,21]の概念も提唱されている近年,できる限り低侵襲で最大の治療効果をあげることが求められており,死亡率に差がなかった今回の研究結果から,中心静脈カテーテル挿入をできる限り回避する治療も検討してもよいかもしれない.

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by DrMagicianEARL | 2014-03-21 19:32 | 敗血症 | Comments(0)

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